食を支えるのは誰か 農漁業者育成 本気で 民俗研究家 結城登美雄

結城登美雄氏

 東日本大震災発生から7年が過ぎた。私はこの7年間、定期的に岩手、宮城、福島の被災地沿岸の集落や漁港を訪ね歩き、復興に向けて模索する地元の人々の姿を記録に収めてきた。
 

被災地を訪ねて


 かつてない巨大津波に襲われ、命も家族も住まいも漁船も破壊され、失い、「もう二度と海は見たくない」と海沿い暮らしを拒絶していた漁師たちも、訪ねるたびに変化し、ある者は漁船を修理して、ある者は漁具や養殖イカダを造り、迷いながらも再び海で生きていく道を模索していた。

 だが、訪ねるたびに圧倒的迫力で迫ってくる現地の光景は、巨大防潮堤工事やかさ上げ土盛工事、高台移転地造成工事、そしておびただしい数のダンプと重機の行き交いばかりで、さながら「土木復興」劇場を見せ付けられる思いがする。

 そうした風景をかき分けてリアスの浜に向かえば、ようやく海辺で働く人々に出会える。その一例を挙げるなら、2年前の岩手県久慈市小袖漁港。風の強さが気になる波立つ浜に、沖に仕掛けたカゴ網を引き上げて漁船が戻ってきた。

 待っていたのは83歳になる老女。「うちの旦那、85歳になっても元気で海仕事やってるよ。津波で漁船を流され、もう駄目だと落ち込んでいたけど、2年前に中古船をまた買って、毎日のように海仕事だよ。海は厳しいだけでなく、人を元気にする力があるね」と笑っていた。
 

荒れ地耕す老農


 もう一つ。大津波に襲われ塩水まみれになった宮城県山元町の海辺の田んぼ。そのがれきを片付け「稲はそんなに弱い植物じゃない。塩水なんかに負けない」と、被災から2カ月後には田植えをし、秋の稲刈りにこぎ着けたたくましい老農がいた。老人は言う。

 「売る米作りだけが農業ではない。まずは自分と家族の食べる米と野菜を育てる。それが原点だ」と荒れ地を耕し、多彩な野菜を育て、その実りの成果を仮設住宅の隣人、知人にも届けていた。その優しさとたくましさに圧倒された。そして被災地を訪ねるたびに、私たちの食を支えているのは高齢の生産者であるということを実感させられる。

 農水省のデータによれば、2017年現在の日本の農業就業人口は181万人。国民総人口のわずか1・5%にすぎない。しかもその78%は60歳以上の高齢者である。漁業就業人口も16万人と少ないが、その半分は60歳以上である。いつまでこんな状態が続くのか。そして次世代日本人の食を支えていくのは誰なのか。ちなみに現在49歳以下の若き農業者は20万人である。その数は80歳以上の超高齢農業者よりもはるかに少ない。

 国産食料を支える次世代農漁業者の育成に本気で取り組まなければ、日本はとんでもない国になってしまうのではないか。

<プロフィル> ゆうき・とみお

 1945年山形県生まれ。山形大学卒業後、広告デザイン業界に入る。東北の農山村を訪ね歩いて、住民が主体になった地域づくり手法「地元学」を提唱。2004年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

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