農業という生き方 底知れぬ“力”感じて 医師・作家 鎌田實

鎌田實氏

 被災地の復興支援を続けている。国内だけでなく、チェルノブイリ原子力発電所事故による汚染地帯やイラクの難民キャンプにも通っている。

 2、3月は岩手県陸前高田市、福島県南相馬市、飯舘村などを訪ねた。水害が2年半前にあった茨城県常総市も訪問した。

 シンガー・ソングライターのさだまさしさんが立ち上げた公益財団法人風に立つライオン基金の活動で、水害を受けた福岡県朝倉市にも、さださんと行った。

 さださんとは東京の有楽町で、東北応援のトーク&コンサートでもご一緒した。

 絶望の地で感動をもらうことがある。熊本地震で大きな被害を受けた益城町にも、何度も通った。
 

被災地で出会い


 仮設団地で、81歳の男性と出会った。「今も現役?」と尋ねると、「もちろん」とすぐに答えが返ってきた。そして、続けてこう言う。

 「ちょっと前までは、オトコのほうも現役だった」(笑)「いやいや、そんなこと聞いとらん」と僕。2人で大笑いとなった。

 男性は地震の後、負けずにすぐに田植えをした。僕が訪ねた日も、朝から田んぼの草抜きをし、ついでに仮設住宅の入り口の雑草も刈ってきたと言う。

 「えらいなあ」「えらくもなんもなか。誰かがやらにゃあならんこと。他にやれるもんがおらんけん、俺がやっとるだけばい」

 農村は自分ファーストでないのがいい。

 「じいちゃんのとこの稲はどうだ?」「美しかあ」。きれいな言葉だなと思った。

 僕だったら、絶望のなかでこれほど美しい言葉を使えるだろうか。

 農業というのは、農作物を育てかかわり合うことで、生きる力や命の源をもらっているのではないかと思う。丹精込めた美しい田んぼで作ったうまい米が、この男性にとって何よりの自慢だ。

 家は地震でつぶれてしまった。それから1カ月、車の中で寝泊りを続けた。そんな苦労話も笑いながらする。81歳でもう一度、家も建てたいとも言う。実に明るくパワフルだ。
 

81歳、なお現役


 この半年後、ボランティアで講演をするため、再び益城町へ行った。

 「お、来たか」「来たぞ」。親友みたいに抱き合った。驚いた。本当に家を建てていた。

 「壊れたものがあったら、直せる人間は作り直さなにゃいかん。俺が死んだら血筋の誰かが住めばいい話だ」

 人生って難しく考えなくていいんだと教わった。震災前にやっていたことをやり続け、壊れたものは作り直す。頼まれたわけでもないのに仮設住宅の草刈りまでする。

 自然という人知を超えたものに包まれ、土にまみれて米や野菜を作る。

 そんな農業という生き方に人間の底知れぬパワーを感じた。

<プロフィル> かまた・みのる

 1948年東京生まれ。長野県・諏訪中央病院名誉院長。内科医として地域医療に尽力。東北の被災者支援、チェルノブイリやイラク難民キャンプへの医療支援にも取り組む。著書は『だまされない』など多数。
 

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