[結んで開いて 第2部][ここで暮らす](2) 古里のにぎわい再び 子育てを集落で 長野県飯田市

住民はほぼ毎月の交流行事で園児を見守る(長野県飯田市で)

 子育てを、集落のみんなで。面積の87%が森林という長野県飯田市千代地区にある二つの保育園は、全600戸の住民出資で運営する。少子化で撤退した市から引き継いだ。子育てがしやすければ若い世帯が増え、集落はずっと存続する──。地域全員で支える揺り籠。30人台まで減っていた子どもの人数は、40人を超えた。

 「子どもの頃の思い出があり、親しい人が居る。そこが帰りたい古里になるんじゃないかな」。千代保育園と、4キロ離れた千栄分園を運営する社会福祉法人「千代しゃくなげの会」理事長の小澤正昭さん(73)。地域に子どもの笑い声を絶やさない。それが、集落を守る道だと信じる。

 地域の全員が、子どもにとっての“先生”だ。田植えや稲刈り、みそ造り。農家から「そろそろ栗を拾いに来ませんか」と保育園に声が掛かる。田んぼや山、自然が教室となり、農の恵みや伝統を感じる機会を重視する。

 9月、「日本の棚田百選」に選ばれている「よこね田んぼ」の一画で、園児約30人が稲刈り鎌を手にした。慣れない手つきだが、真剣なまなざし。刈り取った稲を住民に手渡した。自慢げだ。「早くご飯にして食べたいな」。上部波瑠君(6)を、なじみの顔触れが優しく見守る。稲を受け取った林収一さん(54)。「相手が自分の子どもじゃなくても、危ないときはきちんと叱る。信頼関係があるからできること」と、集落の絆を実感する。

 月に1度は園児と集落の人が触れ合う行事がある。米作りでは、あぜ塗りや脱穀も一緒にする。

 「千代から宝を失っても良いのか」

 2004年、市は子どもの減少を理由に、二つの保育園を統合するか、民営化して存続させるかを提示した。集落の人口は現在約1700人。高齢化率は4割を超える。市内の事業者は「中山間地での運営は難しい」と二の足を踏んだ。

 市の中心部までは15キロ。家の近くの保育園なら、何かあっても誰かが支えてくれる。1年以上にわたり、市と住民との間で議論が続いた。

 住民が出した結論。地域の宝である子どもを地域で育てる──。全員で保育園を自主運営することにした。600戸から各1万円以上、1000万円を集めた。負担感を減らすため、高齢者世帯などは分割で支払う仕組みも設けた。05年、社会福祉法人「千代しゃくなげの会」を設立。運営を引き継いだ。

 園長の澤田裕子さん(56)は、利用者視点の運営に気を配る。保育園は3歳から6歳までだったが、住民運営後は0歳から受け入れる。開園は午前7時から午後7時まで。保育園としては異例の長時間だ。町なかでの仕事の往復にも、十分間に合う。公営では実現が難しかった、共働き世帯の保育ニーズに対応できている。

 6歳の娘を通わせている上原紀代江さん(48)は、夫の仕事の都合もあって、17年に東京から移住した。決め手の一つが、この保育園の体制だったという。「本当に、みんなが自分の子どもだと思って接してくれているような感じ。地域の人と自然が子どもを育ててくれるから、安心して移住できた」。受け入れてくれた地域の温もりを感じる。

 05年には両園合わせて38人まで減っていた園児は、18年、47人が通う。

 「13年前に保育園がなくなっていれば、このにぎわいはなかった」と理事長の小澤さん。子どもの遊ぶ姿に「こんな当たり前の景色を、ずっと残したいと、みんながそう思っているから」。住民全員が保育園につながる価値をかみしめる。

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