棚田を守る「関係人口」 オーナー制―全国から多世代集う 石川県輪島市「白米千枚田」

棚田を前に、オーナーが草刈りをする時間を話し合う堂前さん(中)と行政やJAの職員(石川県輪島市で)

 持続可能な地域づくりに向けて国土交通省の「住み続けられる国土専門委員会」が5月にまとめた報告書で、多様な人をつなげるため「人」「場」「仕組み」の3要素が必要だと提起した。石川県輪島市の「白米千枚田」は、地元農家だけでなく、周辺住民、行政やJA、大学生や都市住民らの「関係人口」が協働で棚田の稲作を続けている。同省が持続可能な地域づくりの参考になるとしている、同千枚田の取り組みを見た。
 

“持続可能な地域”モデルに 国交省報告書


 小さな田んぼ1004枚が急傾斜地に連なる「白米千枚田」。世界農業遺産に認定される能登の象徴的な存在だ。棚田を前に、地元の集落では唯一の耕作者となった農家の田中喜義さん(76)が「地元だけでは守り続けるのは無理だった。世界の遺産という大きな看板、水田の景色が保たれている背景には、多様な人の関わりがある」と説明する。

 集落は現在11戸。かつては全ての田を地元農家だけで栽培したが、50年前から行政からの補助金があっても荒廃が目立つようになった。このため、1996年には現在のJAおおぞらが一部を耕作支援。2006年には集落の近隣に住む堂前助之新さん(75)が、中学校の同級生ら3人に声を掛けて「愛耕会」を設立した。愛耕会が管理や耕作指導を担えるようになったことから、市の担当者らと話し合い、07年には都会から草刈りや田植えなどを応援するオーナー制度を導入した。

 同市がオーナー会員の呼び掛けや告知など事務作業を担当。オーナーは田起こしや草刈り、田植えや稲刈りなど年7回、棚田に集い、愛耕会は日々の管理を担う。1004枚のうち、オーナー443枚、JA121枚、公益財団法人137枚、田中さんら個人245枚を担当し、耕作を維持する。ボランティアとして県内外の複数の学校も草刈りなどを定期的に手伝う。

 堂前さんは「棚田は幼い時から身近にあった財産。米作りができる誇りと幸せを感じる。都会の人や大学生との交流もうれしい」と話す。活動の参画を地区住民に地道に呼び掛け、愛耕会は4人から30人に増えた。会員でなくても関わる住民は多く、棚田は交流が減ってきた地域住民の多世代が集う拠点になっているという。

 行政や仕掛ける住民組織ら「人」と、棚田という「場」、行政や現場の役割分担、草刈りや田植えなどをする「仕組み」は、時間をかけて築き上げた。行政が支援を継続し、地元住民、愛耕会、JA、市内の小・中学校、大学生やオーナーらが手探りで無理ない範囲を考え、役割分担や関わり方を改善していった。棚田で作業に励むJA営農推進課の地蔵堂健一さん(33)は「農業の目的は所得向上だけではないなと改めて思う。“超”がつくほどの急傾斜地にある田んぼを、みんなで関わって存続させている価値を学んでいる」と明かす。

 同市の熱心な広報や口コミにより、オーナーは当初57組だったが、今年は191組にまで増加。同市観光課は「愛耕会の後継者不足が課題。多様な人と知恵を絞っていく」と話す。

 集落の道の駅で、棚田のおにぎりや加工品などを販売するなど収益もある。授業に組み込み、学生と通い続ける石川県立大学の福岡信之教授は「それぞれの組織単独ではなく、長期的にゆるやかに関わり維持できている」とみる。JAの日裏利久専務は「自己改革の中で、JAにとって本当に大切な役割が棚田への関わりにある。地域の人や組織、関係する外部の人と深く連携する場でもある」と説明する。

 国交省の有識者で組織する「住み続けられる国土専門委員会」は3年間の取りまとめで、支援する「人」、気軽に集まれる「場」、継続的な「仕組み」が、地元住民と関係人口や外部組織など、人と人がつながる上で重要だとした。同市の地元農家や周辺住民、JAを中心に、大学生や全国のオーナーら「関係人口」と共に棚田を維持する取り組みは、そのモデルの一つという。

 同省では、空き家や廃校に起業家や地域おこし協力隊、若者らが集う仕組みのある岩手県遠野市、地域住民が主体に旧小学校や集会所を拠点に近隣集落と連携し、生活や農業、福祉などを進める高知県の「集落活動センター」などもモデルとして紹介。同省は「多様な人が集まり地域づくりをする現場の仕組みを横展開していきたい」と説明する。
 

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