九州北部豪雨3年 農地の工事完了3割 何も変わっとらん 行政失態 復旧の足かせ 福岡県朝倉市

小江さんの柿園地に続く林道。大木や岩が転がったまま風化している(福岡県朝倉市で)

 九州北部豪雨から5日で3年。被災した福岡県朝倉市では、現在も3割しか農業関連の復旧工事が終わっていない。防災工事が優先で、農地が後回しになっている。特に山あいの樹園地は農道の復旧すら手付かずで、生き残った木の管理すらできないのが実情だ。工事を待ち続ける農家に話を聞いた。(金子祥也)
 

募るは不信ばかり


 3年たって復旧状況はどうか。農家に質問をぶつけようとしたら、「何も、変わっとらん」。重ねるように農家が発した声にかき消された。

 北部豪雨で地形が変わってしまった朝倉市杷木志波地区。柿栽培を営む小江達夫さん(60)の自宅の居間は、雑貨や市から届いた被災関係書類が散乱している。豪雨で床下浸水した時に慌てて荷物を引き入れて以来、片付ける余裕もないという。

 3・5ヘクタールあった柿園地は、2ヘクタールが豪雨で被災。園地に続く農道は激流でできた谷あいに寸断されて近づくことさえ難しい。樹園地に続く別の林道は、流れ着いた大木や岩がごろごろしている。被災したのが3年前とは思えない、生々しい痕跡だ。「何も、変わっとらん」。道に横たわる大木を見ながら、もう一度、小江さんが口にした言葉が重く響く。自宅も農地も、時間が止まってしまっていた。

 朝倉市の農地復旧は遅れている。国の災害復旧事業を受けている農地・農業用施設768件中、工事の発注が済んでいるのは485件で61%。工事が終わったのは259件で34%にとどまる。県農村森林整備課によると、河川や砂防など防災に関する工事が優先で、農地の工事は後回しになっているという。同課は「それでも非常に遅いとは思っていない。農家には理解してほしい」と淡々と説明する。

 だが、「理解」に必要な信頼関係は揺らいでいる。同市は書類の提出漏れで780件もの農地が国の災害復旧事業の対象外になる深刻なミスを引き起こした。不備に気が付いてからも、農家への説明を先送りにし、被災から1年がたつまで農家への釈明もしなかった。

 申請から漏れた農地の過半が復旧を断念。現在、259件が市の独自補助による復旧を希望しているが、工事費用は概算で6億1070万円と巨額だ。市の財政で賄える規模ではないので、国や県の補助事業で利用できるものがないか模索している。資金の都合が手探りなので、国の事業よりも工事は遅れる。現在の発注率はわずか12%。残りの工事はいつになるかも見通せない。

 復旧のペースを早める制度を悪用し現金を受け取って工事費用を水増しした汚職も6月に発覚。市職員に逮捕者も出た。

 「これで信用しろと言われても困る」。ある農家は怒りを隠せない様子で吐き捨てた。
 

早く、早く 元通りに


 同市で被災した農地は柿や梨など、樹園地の割合が多い。農地が直っても植えた木が実を付けるまでに何年もかかる。被災現場近くで生き残っている木も、樹勢が弱まったり、病気が入って枯れたり、手入れできない期間が積み重なって確実に傷んできている。時間がたつほど、営農再開への道は険しくなっていく。

 それでも復旧を諦めていない農家は、今も残った樹園地で懸命に営農を続けている。小江さんも5人の農家から1ヘクタールの園地を引き継いで、栽培面積を増やしながら復旧の時を待っている。やはり人の園地だと勝手が違い戸惑うこともある。早く自分の園地が元に戻ってほしい。

 「百姓が普通に農業をできる。それだけを、早く、早く……」。地域の農家の声を代弁し、小江さんは願う。

おすすめ記事

地域の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは