都市から起こす農業革命 体験が価値を変える 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 災害を避けられない時代、危機管理や防災意識の高まりか、食や農業に関心を持つ人が増えています。自分の健康は自分で守るという考えは、まさに自立や自給的暮らしにつながります。筆者もこの春から世田谷の体験農園を始め、夏野菜の収穫をカラスと分け合っています。

 農園主の早川修平さん(85)は昭和29(1954)年、高校を卒業後66年間、畑を耕してきました。農地が次々と宅地化される中、遺産相続のたびに相続税で農地を手放さなくてはならず、80アールあった土地は20アールになりました。今では住宅地にポツンと残る農園ですが、研究熱心な早川さんの野菜は味が良いと近所に評判です。しかし、さすがに高齢となったことから今回、畑の一部を体験農園にし、運営をJA世田谷目黒に任せることにしたのです。

 JA世田谷目黒といえば、東京23区最大の人口94万人の世田谷区にある都市農協として、宅地並み課税の時代から農家の資産を守り、農地を残す相続問題に尽くしてきた歴史があります。120戸、40ヘクタール弱の管内でこの25年、相談に乗ってきた相続税の平均は4・8億円。経済成長で高級住宅地になりゆく中、組合員の資産である農地を残すことこそ自農協の存在意義だとして、相続のサポートをしてきました。

 そうした資産サポート事業は今、全国的な課題である所有者不明の土地の防止策になるとして、地域農協からノウハウを求められ、山形や島根など7農協と協定を結び、職員研修を受け入れています。

 さらに時代とともに農地の在り方が変わる中、今年度から3カ所で始めたのが、体験農園事業です。10平方メートルの年間利用料は5万5000円。募集開始と同時に25区画が満員になりました。近所の住民は毎日畑の前を通りながら、実は買うだけでなく自分の手で作ってみたいと思っていたのです。

 住宅地にある農業とは、いわば人が関わりやすい農業です。今望まれる関係人口創出の玄関口でもあります。農産「物」だけを売るより、「体験」を商品化すれば、農業に理解ある市民を増やすことができます。農体験が心に及ぼす影響は、収穫の喜びだけではありません。感動から感謝やリスペクトが生まれ、産地や農村への関心にもつながります。集中より分散が求められる今、人口の多い都市から農を開放し、シェアし、農業の価値を変える革命を起こせないでしょうか。

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