ふと口をつく歌がある

 ふと口をつく歌がある。今日で没後50年を迎える西條八十がそうである▼童謡、軍事歌謡、流行歌と連なる山脈の何と威容なことか。詩人にして歌づくりの職人は、大衆の哀歓をすくい取ってきた。評伝『西條八十』(中公叢書)を著した社会学者の筒井清忠さんは、大正、昭和を生きた日本人は、階層、年齢、性別を問わず彼の歌を口ずさみながら生きてきたという。「近現代日本人の抒情性はまぎれもなくこの人によって形作られた」と▼評伝は八十が作詞した軍歌にも紙幅を割く。代表作の「若鷲(わかわし)の歌」、原詩を手掛けた「同期の桜」は今も歌い継がれる。特攻隊員が彼の歌を聞いて出陣する姿を目の当たりにした。彼らと一体となって祖国の難局に立ち向かうため「書かずには居られなかった」と述懐。時代が書かせたとはいえ、軍歌で若者を戦場に送り出したことを悔い続けた。戦後は戦争犯罪人として裁かれることも覚悟したという▼その罪の意識からか、戦後の復興期を歌で後押しした。「青い山脈」にどれほどの人が、明日への希望をもらったことか。作詞家阿久悠は「これが民主主義に違いない」、作家の久世光彦は「私たちは一つの歌で、突然立ち上がったのだった」と書いた▼戦後75年。私たちは「唄を忘れたカナリア」になっていないか。
 

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