エッセンシャルワーカー 労働条件低さ直視を 立教大学教授 首藤若菜

首藤若菜氏

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、多くの人が在宅勤務に移行した中、例外的に職場で働き続けた人たちがいた。医療現場をはじめ、生活必需品を販売するスーパーの従業員、農業、介護、保育、清掃、警備、物流、交通機関などに携わる人々である。いずれも社会を維持させるために必要な労働に従事する人々であり、「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる。パンデミック(世界的大流行)は、私たちの社会が、これらの労働にいかに支えられているのかを鮮明に映し出した。
 

深刻な人手不足


 コロナ・ショック前、これらの労働者に共通していたことは何か。深刻な人手不足である。人手不足の要因には、相対的な労働条件の低さがあった。これらの職種は、専門的な知識や資格、熟練が必要で、身体的・精神的負荷が高い。農業もそうだ。熟練が必要で、誰もがすぐにできるようになるわけではない。

 にもかかわらず、これらの労働には、スキルや負荷に見合った所得や労働条件が保障されてこなかった。これらの業種は、全産業平均に比べて賃金や所得水準が低く、いったん就職しても離職する者が多く、若者の参入が進まず、有資格者でさえ当該職種に就きたがらないなどが共通して指摘されてきた。
 

処遇の改善なく


 つまり、私たちは、社会を維持していくために必要な労働、暮らしや生活のために不可欠な労働に、十分な処遇を保障せずにきた。その結果、社会の基盤は揺らいでいた。少子化対策にも、「女性活躍」にも待機児童の減少が不可欠であるのに、保育園を造っても保育士が足りず開所できないという問題が起きた。高齢化が進行し、介護を理由に離職する人が増加していても、介護職の人員が足りず、介護施設を閉鎖せざるを得ないニュースが流れた。ネット通販が拡大し、便利な生活を享受できるようになったものの、ドライバー不足により、物流が滞る事態が起きた。食の安全が問題となり、食料の安全保障が議論され、食料自給率を引き上げないといけないと繰り返し言われ続けながらも、農業従事者は減少し高齢化してきた。

 もちろん、そうした事態に何も手を打ってこなかったわけではない。外国人労働力による穴埋めだ。昨年には、新しい在留資格「特定技能」が創設され、人手不足が深刻な農業、介護など14業種が対象となったことは記憶に新しい。だが、外国人労働力によっていかに補充できるかだけが模索され、人手不足を生み出す要因は放置されてきた。コロナ・ショックで外国人実習生が来日できなくなり、現場は混乱している。

 厳しい労働環境の中で、社会を支えている人たちに、私たちはどう向き合うのか。目をそらしてきた問題に気付き、考えるきっかけになれば、困難に立ち向かった意味が出てくる。

 しゅとう・わかな 1973年東京都生まれ。労使関係論、女性労働論専攻。日本女子大学大学院人間生活学研究科単位取得退学。博士(学術)。近著『物流危機は終わらない』(岩波新書、18年)、『グローバル化のなかの労使関係』(ミネルヴァ書房、17年)など。
 

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