規制強化と農産物輸出 国内市場の見直しを 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 グローバル種子・農薬企業に対する除草剤の裁判で、企業の内部文書が明らかにされ①早い段階から、その薬剤の発がん性の可能性を企業が認識していたこと②研究者にそれを打ち消すような研究を依頼していたこと③規制機関内部と密接に連携して安全だとの結論を誘導しようとしていたこと──などが判明した。

 この除草剤については、国際がん研究機関を除けば、欧州食品安全機構、米国環境保護庁といった多くの規制機関が、発がん性は認められない、としている。しかし、裁判からも分かるように、規制機関に対する消費者の信頼は揺らいでいて、特に欧州連合(EU)では市民運動が高まり、それに対応して消費者の懸念があれば農薬などの規制を強化する傾向が強まっている。

 タイなど、EU向け輸出に力を入れている国々は、EUの動向に呼応して規制強化を進めており、それが世界的に広がってきている。これがアクセルを踏もうとしている日本農産物の輸出拡大の大きな壁になりつつある。

 遺伝子操作への表示問題もある。日本ではゲノム編集の表示義務がないので、遺伝子操作の有無が追跡できないため、国内の有機認証にも支障を来すし、ゲノム編集の表示義務を課しているEUなどへの輸出ができなくなる可能性がある。

 世界的な有機農産物市場の拡大も急速だ。有機栽培はコロナ禍での免疫力強化の観点からも一層注目され、欧州委員会は、この5月に「欧州グリーンディール」として2030年までの10年間に「農薬の50%削減」、「化学肥料の20%削減」と「有機栽培面積の25%への拡大」などを明記した。

 わが国でも「有機で輸出振興を」という取り組みも一つの方向性だ。しかし、世界の潮流から日本の消費者、生産者、政府が学ぶべきは、まず、世界水準に水をあけられたままの国内市場だ。除草が楽にできる有機農法などの技術を開発・確立し、一生懸命に普及に努めている人々がいる。国の支援が流れを加速できる。学校給食を有機にという取り組みも多くの人々の尽力で全国に芽が広がりつつある。公共支援の拡充が起爆剤になる。

 そして、EU政府を動かし、世界潮流をつくったのは消費者だ。最終決定権は消費者にあることを日本の消費者もいま一度自覚したい。世界潮流から消費者も学び、政府に何を働き掛け、生産者とどう連携して支え合うか、行動を強めてほしい。それに応えた公共支援が相まって、安全・安心な日本の食市場が成熟すれば、その延長線上に輸出の機会も広がる。輸出だけ有機・減農薬の発想でなく、世界の食市場の実態を知ることから足元を見直すことが不可欠な道筋である。
 

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