合言葉は「SDGs」 日本発“蚕業革命”

大和代表の染色工場でシルクを染めるスタッフ。「オンリーワン」の製品作りを目指す(山形県鶴岡市で)

 農家戸数の減少に歯止めがかからない養蚕業界だが、自然由来の資源を無駄なく使う仕組みが国連の持続可能な開発目標(SDGs)につながるとして、再び脚光を浴びている。新たに基幹産業の一つに据える町や、新規参入する若者が現れている他、世界に向けた新商品の開発、新型コロナウイルスの対策に生かす研究も進む。小さな体からは想像もつかない“蚕業革命”が起きつつある。(高内杏奈)
 

太い糸を有効利用 新たな風合い創造 山形県鶴岡市


 国内最大規模の蚕室群がある山形県鶴岡市は、明治時代に造られた松ケ岡開墾場を拠点に「シルクタウンプロジェクト」を進める。蚕室を改装し、資料館や絹商品のショップを展開するなど観光と組み合わせることで、養蚕を継承していく。

 養蚕、製糸、染色など絹織物が完成するまでの工程を地域内でできる国内唯一の場所であるなどとして、7月に「SDGs未来都市」に選定された。持続可能な町づくりを世界に発信するため、内閣府が選定する制度だ。

 同市は明治時代からの養蚕地だったが、2015年には市内最後の養蚕農家が亡くなった。その後は、農家や地域住民らで構成する鶴岡市福栄養蚕振興会が、廃校を活用して養蚕に取り組む。SDGsで小規模農家の重要性が注目されたことで、若者の参加も増えている。

 「先祖代々続く養蚕文化をここで終わらせてはいけない」と強調するのは、新商品の開発で若者の心をつかむ鶴岡シルクの大和匡輔代表だ。社員は4人で、オンライン販売を中心に年間4000万円を売り上げる。

 生産量が多い中国とブラジルに対抗し「日本にしかないもの」にこだわり、蚕が繭の作り始めに出す「きびそ」に注目した。太くて固いため一般的には廃棄されるが、綿など他の素材と組み合わせ、丈夫で美しい色合いの商品を作る。

 絹商品は着物や和装が多いが、同社の店にはカラフルでデザイン性がある洋服やストールが並ぶ。淡い色合いのシルクマスクは若い女性に人気で、インターネットで販売すると、わずか3秒で1000枚が売り切れた。

 米国の展示会やイタリア・ミラノ万博への参加など、海外の関心も高い。大和代表は「資源を無駄にしない、自然由来で製造時も環境に優しい養蚕は、SDGsが掲げる“つくる責任、つかう責任”につながる。『日本が取り組むSDGs』という観点でも注目されている」と分析する。
 

機能性めざし参入 岩手県北上市


 岩手県に伝わる三大昔話の一つ「おしらさま」は、馬に恋をした娘の悲劇。娘の恋は実を結ばず天に昇り、蚕の神様になるという。

 

ハウスで蚕を飼う松岡さん(手前)。機能性を持たせた商品を作るのが目標だ(岩手県北上市で)
 そんな地に引かれ、2019年に東京から移住した同県北上市の地域おこし協力隊員、松岡冴さん(27)。5000頭の蚕を飼う傍ら、得意の染色を生かした商品作りに励む。「大量生産大量消費ではなく、唯一無二で愛着のある物に囲まれて生きたい」。養蚕はそんな生き方に合うという。

 大学時代、教授から蚕の飼育を勧められた。小さく弱い生き物が繭を作り、絹になり着物になる。その不思議さに「可能性は無限大だ」と魅了された。気付けば自宅の8畳部屋の3分の2が飼育スペースになっていた。

 今は協力隊の仕事として取り組むが、今後は規模を広げ、任期終了後も養蚕農家として生計を立てる考えだ。「消費者の価値観は『良いものを長く使う』に変わっているように思う。蚕を使った機能性のある商品を作り、養蚕の魅力を広めていきたい」と意欲を見せる。
 

国産拡大へ機運高まる


 他産地でも新しい取り組みが始まっている。熊本県では標高600メートルの耕作放棄地を整備した「天空桑園」で、雇用を創出している。石川県内の高校では、職業選択の一つにしてもらおうと、授業に養蚕活動を取り入れる。

 全国の養蚕農家戸数(2019年度)は259戸で、減少傾向にある。農水省は19年、シルクの需要拡大や生産体制の強化を目指す新蚕業プロジェクトの方針を固め、全国シルクビジネス協議会を立ち上げた。

 今年は大日本蚕糸会や農研機構、メーカーがウェブ会議を通して生糸の実需者と農家をマッチングする体制を整備。研究が進む遺伝子組み換え(GM)蚕の生産や、新商品開発について議論している。
 

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