[コロナ以後を考える] 農畜産物販売 国産回帰 うねりつかめ
2021年01月06日
農畜産物の販売は今年も新型コロナウイルスの影響と向き合うことになる。消費行動や販売環境の変化を的確に捉えた対応が必要だ。国民が必要とするものをその国で生産する「国消国産」の取り組みを、農業・食料関連産業を挙げて本格化させる「元年」としたい。
日本農業新聞がスーパーや卸など140の流通業者に聞いた2021年トレンド調査で、販売キーワードの1位は「新型コロナ対応」だった。コロナ関連で「ネット取引・宅配」「安全・安心」なども上位に入った。
感染を避ける消費行動が今後も予想される。外出や宴会の自粛から外食など業務筋が苦戦する一方、「巣ごもり」は続き、スーパーや宅配など家庭消費のニーズは旺盛なままだ。加工を含め業務筋はもともと原料に安さを求め輸入原料を多く使う。対して生鮮品を扱うスーパーは鮮度や安全・安心を求め、国産を選ぶ傾向にある。家庭消費の増加は国産の追い風となる。
景気の先行きは依然厳しく、節約志向は根強い。総務省の家計調査(2人以上世帯)を見ても、食品の支出は、外食の落ち込みが本格化した3月以降、前年割れが目立つ。高級食材は苦戦を強いられたが、牛肉は価格低迷で消費機会が広がり、価格回復後も定着しつつある。
共働きや単身世帯の増加で、簡便性へのニーズは底堅い。有望視されるのが、ネット取引や宅配だろう。従来も共働きや単身世帯の増加で買い物の便利さが重視されていたが、新型コロナの感染拡大で人との接触機会を減らす手段として利用が急拡大した。新規参入も相次ぎ、農畜産物の販売手法としてさらに存在感を増すだろう。また宅配やテークアウト(持ち帰り)など外食の事業多角化も進んだ。
感染力が強い新型コロナウイルスの変異種が海外で確認され、英国では葉物野菜など輸入が滞り一部のスーパーで青果物の不足が発生し混乱が出ている。こうした世界情勢の不安定さから食品の調達先が国内に向かっている。コロナ禍で消費者の安全・安心への意識は一層高まり、国産の強みを発揮できる。
輸入原料の使用が多かった冷凍食品では、こだわりの国産食材を使い、レストランのおいしさを再現した商品などを各社が強化。自宅で贅沢(ぜいたく)感のある料理を手軽に食べたい「プチ贅沢」ニーズを取り込み、市場は成長する気配だ。
消費動向の潮目の変化を捉えた生産販売体制が必要だ。トップセールスや対面式の催しなど従来型の販売促進は難しい。デジタル対応を進めながら、生産と消費の距離を近づけたい。節約志向があっても、商品の価値や生産の背景を評価し、適切な対価を支払う消費層はある。生産者を支援する「応援消費」も活発だ。国産回帰の機運は確実に高まっている。一過性で終わらせず、生産、加工、流通・宅配、小売り、外食などが連携し、太く長いものにしたい。
日本農業新聞がスーパーや卸など140の流通業者に聞いた2021年トレンド調査で、販売キーワードの1位は「新型コロナ対応」だった。コロナ関連で「ネット取引・宅配」「安全・安心」なども上位に入った。
感染を避ける消費行動が今後も予想される。外出や宴会の自粛から外食など業務筋が苦戦する一方、「巣ごもり」は続き、スーパーや宅配など家庭消費のニーズは旺盛なままだ。加工を含め業務筋はもともと原料に安さを求め輸入原料を多く使う。対して生鮮品を扱うスーパーは鮮度や安全・安心を求め、国産を選ぶ傾向にある。家庭消費の増加は国産の追い風となる。
景気の先行きは依然厳しく、節約志向は根強い。総務省の家計調査(2人以上世帯)を見ても、食品の支出は、外食の落ち込みが本格化した3月以降、前年割れが目立つ。高級食材は苦戦を強いられたが、牛肉は価格低迷で消費機会が広がり、価格回復後も定着しつつある。
共働きや単身世帯の増加で、簡便性へのニーズは底堅い。有望視されるのが、ネット取引や宅配だろう。従来も共働きや単身世帯の増加で買い物の便利さが重視されていたが、新型コロナの感染拡大で人との接触機会を減らす手段として利用が急拡大した。新規参入も相次ぎ、農畜産物の販売手法としてさらに存在感を増すだろう。また宅配やテークアウト(持ち帰り)など外食の事業多角化も進んだ。
感染力が強い新型コロナウイルスの変異種が海外で確認され、英国では葉物野菜など輸入が滞り一部のスーパーで青果物の不足が発生し混乱が出ている。こうした世界情勢の不安定さから食品の調達先が国内に向かっている。コロナ禍で消費者の安全・安心への意識は一層高まり、国産の強みを発揮できる。
輸入原料の使用が多かった冷凍食品では、こだわりの国産食材を使い、レストランのおいしさを再現した商品などを各社が強化。自宅で贅沢(ぜいたく)感のある料理を手軽に食べたい「プチ贅沢」ニーズを取り込み、市場は成長する気配だ。
消費動向の潮目の変化を捉えた生産販売体制が必要だ。トップセールスや対面式の催しなど従来型の販売促進は難しい。デジタル対応を進めながら、生産と消費の距離を近づけたい。節約志向があっても、商品の価値や生産の背景を評価し、適切な対価を支払う消費層はある。生産者を支援する「応援消費」も活発だ。国産回帰の機運は確実に高まっている。一過性で終わらせず、生産、加工、流通・宅配、小売り、外食などが連携し、太く長いものにしたい。
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[震災10年 復興の先へ] 東北3県JA 統一活動 未来への思いを共有
震災の記憶を風化させない──。岩手、宮城、福島の各県JA中央会が、東日本大震災から10年の節目に合わせJAグループ統一活動を展開する。JAグループ役職員、生産者、消費者らが復興の歩みを振り返り、残された課題、その解決のために必要な支援、未来への思いを共有する。
岩手 トークリレーを配信
JAいわてグループは復興への取り組みや、一人一人の思いをトークでつなぐ「震災復興トークリレーション」を、10日午前9時から動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信する。JA岩手県五連の小野寺敬作会長と県内7JAの組合員が復興の現状と取り組み、今後の復興ビジョンなどテーマに沿って、話し手と聞き手による対談形式で意見交換した内容を収録した。県内テレビ局のアナウンサー、県にゆかりのある著名人も応援メッセージで登場する。
宮城 マルシェとパネル展
JAグループ宮城とJA宮城中央会は8日、「復興マルシェ」をJR仙台駅前の仙台アエル1・2階アトリウム特設会場で開く。県内9JAとJA全農みやぎ畜産部、パールライス宮城、農協観光が計16のブースを出展する。米をはじめ新鮮な野菜や果実、花き、JA独自の加工品などを販売する。
時間は午前11時から午後4時半。震災復興パネル展示も行う。この日、JAビル宮城で開く追悼行事を終えたJA組合長も会場を訪れ、JAのキャラクターと販売を応援してマルシェを盛り上げる。
福島 会場とネットで大会
JAグループ福島は13日、郡山市の「ユラックス熱海」で東日本大震災復興祈念大会を開催する。県内の農林水産業者と生協組合員ら約700人が参加する予定だ。会場参加できない組合員・役職員らのため、インターネットで同時配信する。地域や農業・漁業・林業の復興・再生の状況を動画で紹介。被災地の生産者、台風19号被災者、新規就農者、女性農業者、農業高校生の各代表が決意表明する。大会決議も採択する。
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2021年03月05日

エゴマに高抗酸化力 そば粉、玄米、黒大豆も 富山県食品研34品目を調査
富山県農林水産総合技術センター食品研究所は「県内産農産物の抗酸化力評価」をまとめ、3日の研究発表会で説明した。調査した県産34品目の中で「生のエゴマの葉」が最も高い数値が出た。実際には調理して食べることを想定し、品目ごとに加熱や保存した場合の抗酸化力の変化も示しており、県産の販売促進や消費者の利用拡大に役立てる。
体を酸化させる活性酸素は、さまざまな病気の発症に関係しているとされる。「抗酸化力」が人体にもたらす効果は研究途上だが、活性酸素の害を防ぐ役割が期待されている。健康志向の高まりを受けて食品研究所は、2012~19年度にわたり、県内の農産物や加工品34品目の抗酸化力を、ORAC法と呼ばれる測定方法で分析した。
ORACは「活性酸素吸収能力」と訳される指標。ポリフェノールやビタミンCなど水溶性抗酸化物質が関係する数値と、ビタミンEなど脂溶性抗酸化物質が関係する数値をそれぞれ測定して合算し、抗酸化力を評価した。34品目のうち、生のエゴマの葉は119と格段に高い数値が測定された。エゴマはシソ科の一年草で、富山市が特産として力を入れている。えごま油も53と高い。
他に高い値が出たのは、そば粉(品種は「信濃1号」)の90、玄米(「富山赤78号」)81、乾燥した黒大豆(「丹波黒」)77、ユズ果皮70、バタバタ茶葉69、生のブルーベリー57など。米みそは4社で調べたところ45~51と比較的高かった。
詳細は食品研究所のホームページで公開し、加熱や保存による抗酸化力の変化も紹介している。発表会場でも関心は高く、「食べるときの分量を考慮するのも大事ではないか」などと質問や意見が相次いだ。
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2021年03月04日

和田秀樹さん(精神科医) 一番おいしい方法を探求
私の好きな食べ物は、エビとカニ。新型コロナ禍のため、今はよく弁当を買うんですけど、エビフライとかカニクリームコロッケが入ったものを選んでしまいます。最近はエビカツが好きになりました。
格別だったエビ
エビ好きに関しては、母親の兄のおかげです。伯父は特攻隊に行くはずで死を覚悟しましたが、結局、行かなかったそうです。戦後、精神的に不安定な時期もありましたが立ち直り、魚の卸売市場の親方に気に入られて、私が子どもの頃は店を任されていました。
伯父はよく私の母親に「持ってけ」といって、氷付けになっているエビを1箱くれたんですよ。クルマエビくらいの大きさでした。
当時は流通や冷凍技術の関係で、どんな魚を食べても生臭かったんです。でも伯父からもらったエビは臭みがなくおいしかった。
エビが本当に高い時代でしたからね。友達がうらやましがるのを横目に食べたんです。豊かさの象徴のように感じられました。
カニについては、父が京都府の丹後出身で、冬場に父の実家に帰ると大量のカニを食べました。
カニというと福井と鳥取が有名ですが、今、東京で最も高額で取引されているのは、生きたまま空輸される間人(たいざ)のカニ。丹後半島で捕れるものです。私は知らずに、雌とはいえ最高のブランドカニを食べていたわけです。
30代のはじめ、米国のカンザスに留学していました。向こうでもエビやカニはスーパーにあるので不自由はなかったんですが、唯一困ったのがカニクリームコロッケ。ずっと飢えていました。
学会出席のため、ニューヨークに行った時。日本の商社や銀行、日本食レストランが並んでいる一角に、居酒屋を見つけたんです、入ってみたら、メニューの中にカニクリームコロッケがあって。すごくおいしくいただきました。
食べ物については、もう一つ思い出があります。やはり米国でのことです。私は基本的に日本食派ですが、世界三大珍味の一つ、白トリュフは大好きなんです。
これをパスタや肉の上に削りかけると値段がグンと上がるわけですが、それほどの価値があるのか疑問に感じていました。
白トリュフの謎
15年くらい前、白トリュフの謎が解けたんです。精神分析の師匠を訪ねて米国に行った時、サンタモニカの高級イタリアンレストランに入ったんですよ。そこは冬場に、世界一高い白トリュフを出すというんです。
白トリュフのカルパッチョがあり、ものすごく高い値段でしたが観光気分で頼んでみました。
これは生まれてこの方、食べた料理で、一番おいしかったです。
何が違うかというと、肉の上から掛けるんではなく、肉を白トリュフの漬けにしたんです。白トリュフを絡めたオイルに、生肉を漬けた料理だったんですね。
一口食べて発見しました。「これは世界一高いかつお節だ」と。かつお節も、上から掛けるよりも、だしにして食材に味を染み込ませる方がうまいじゃないですか。それと同じことを白トリュフでやっていたわけです。
それで感じたのが、食材には一番おいしい食べ方があるということ。カニクリームコロッケにしても白トリュフ漬けにしても、最高においしく食べるための工夫なんです。こうした工夫のおかげでよりおいしく食べられれば、食材を作った方への感謝の気持ちも一段と強くなると思っています。(聞き手=菊地武顕)
わだ・ひでき 1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒後、同付属病院精神神経科、老人科、神経内科で研修。現在は国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長などを務める。心理学や受験指導に関する書籍を多数執筆。近著は『感情的にならない心の整理術』(プレジデントムック)。
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2021年02月27日
コロナ下の対応 鍵握る信頼関係 普及指導員に全国調査 日本農業普及学会
新型コロナウイルスの拡大で、普及指導員が活動に影響を「大いに感じた」「感じた」が9割に上ることが4日、日本農業普及学会の調査で明らかになった。同日の春季大会で報告した。同学会は「電話やメールなどでも一定の対応ができる。農業者と信頼関係を築き、普及活動を進めることが課題だ」と指摘した。……
2021年03月05日

日本型アニマルウェルフェア開発へ 集まれ“応援団” 鶏肉販売始める 信州大農学部
信州大学農学部(長野県南箕輪村)は3日、アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼育管理)の飼育施設で育てた鶏肉の販売を始めた。研究の一環で飼育した肉用鶏を販売することで、消費者へのアニマルウェルフェアの認知度向上につなげる考えだ。
同大によると、アニマルウェルフェアの畜産物を大学の農学部が販売するのは全国初。販売するのはモモ肉、ムネ肉、手羽元の3部位で、いずれも冷凍している。
同学部では2020年7月に、アニマルウェルフェアに対応した研究用鶏舎を完成させた。鶏は1平方メートル当たりの飼育数を日本の一般的な飼育数の15、16羽より少ない11羽で飼育し、飼育密度を下げた。この他にも、鶏舎内で終日照明を点灯させずに、1日2時間連続で照明を消すなどしてストレスを軽減させ、快適な環境をつくった。
今回販売する鶏肉は、昨年12月下旬にひなから育て、2月上旬に山梨県笛吹市の加工業者に出荷した310羽分。
研究に取り組む竹田謙一准教授は「販売を通じて、消費者がアニマルウェルフェアの考え方を知り、応援団になってもらいたい」と説明する。
キャンパス内の直売所で発売。モモ肉1袋(2キロ)2000円、ムネ肉1袋(同)1500円、手羽元1袋(同)1300円。
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2021年03月04日
論説の新着記事
オンライン研修 集合型と使い分けよう
新型コロナウイルス禍で変化したものの一つに、オンライン動画の職場利用がある。中でも注目されているのが、従業員の研修や情報共有への活用だ。効果や利便性の高さから新型コロナ終息後も普及が進むと考えられる。JAでも一部で利用が始まったが、もっと広げたい。
オンライン会議にようやく慣れたというJA職員も少なくないだろう。しかし、世の中はもっと先を進んでいる。オンラインの利用は農産物のトップセールス、商談会、交流会、セミナー、産地紹介・視察など多岐にわたり、実際のイベントを再現する試みが行われている。
中でも代替という位置付けではなく、情報通信技術(ICT)を駆使した新たな選択肢として企業などが導入を進めるのが、従業員の研修やナレッジ(知識)共有でのオンライン動画の利用である。理念教育よりも専門知識やノウハウの習得といった実務型研修に適している。
例えば、岐阜県のJAぎふは昨年10月から職員教育に動画配信を導入した。ホームページの職員専用ページにアクセスして視聴できる。金融、共済、税金などの専門知識や事業推進の留意事項などを説明する動画を各部署が制作する。神奈川県のJA横浜は育児休暇中の女性職員の職場復帰を応援する集合研修をこれまで子ども同伴で行ってきたが、コロナ禍を受けてオンライン形式に切り替えた。同県のJAさがみは事業推進大会の代わりに動画配信で事業計画やコンプライアンス(法令順守)を周知した。
オンライン研修はリアルタイムで行うものの他に、例えばユーチューブチャンネルを利用して、何回でも映像を再生できるタイプのものもある。この仕組みを使えば、「いつでも」「どこからでも」「何度でも」視聴できる。JAぎふはこのタイプだが、分かりづらいところは何度でも確認できるので、習熟効果は高いとみる。
メリットはそれだけではない。広域JAや1県1JAでは研修会場までが遠くて移動に時間がかかる、業務に忙しくて一日通しの研修に出るのは無理といった悩みも改善できる。研修への参加に消極的な職員に受講を促すことにも役立つ。
もちろん集合研修には、講師と対面することで刺激を受けやすいことや、参加する職員同士の交流、相互啓発といった良さがあり、必要性を否定するものではない。どちらか一方の選択ではなく、研修目的に合わせて使い分けていくのがよい。
職員の情報共有に動画を使う手法も新しいやり方だ。例えば企業では、新商品や新規サービスなどの従業員説明を補完するツールとして利用される。一定の期間を設けて自分の都合に合わせて映像学習ができる。受講者の確認や感想アンケート、習熟度テストのサービスもある。
JAグループ内での先行的な取り組みを積極的に情報共有し、横展開したいものである。
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2021年03月06日
コロナと食料安保 感染症リスクに備えよ
国際的な穀物需給に異変が生じている。中国の「爆買い」などで価格が上昇。新型コロナウイルス禍で生産・供給体制が不安定化していることも食料争奪に拍車を掛ける。人口増、気候変動に加え、感染症リスクに備え、わが国の食料安全保障政策を抜本的に強化すべきだ。
コロナ禍は、医療体制だけでなく食や農の分野にも深刻な影を落とし始めている。
新型コロナワクチンの世界的な争奪が過熱。先進国中心の供給で国連主導の公平な分配が機能せず、世界保健機関(WHO)は「ワクチン・ナショナリズム」に警鐘を鳴らす。
貧富の差が「命の格差」につながるように、食料もまた同様の危機に直面している。国連食糧農業機関(FAO)は、世界的な食料供給システムが新型コロナの脅威にさらされていると危機感を強める。新型コロナの流行前でさえ約6億9000万人もいた飢餓人口が、コロナ禍によってさらに1億3000万人も増えかねないと警告する。
事実、コロナ禍の中、一部の国は輸出規制に走り、感染拡大で生産・物流が滞る事態も起きた。グローバルなフードサプライチェーン(供給網)のもろさを突きつけた。生産基盤が弱体化し、海外への食料依存度の高い日本も無縁ではない。
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表も医療危機の次に食料危機が訪れるのではと危惧する。日本農業新聞の「論点」(3月1日付)で同氏はコロナがあぶり出した日本の医療の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘し、同じことが食と農の分野でも起こりかねないと警告。国際穀物価格は年明け以降、一段と騰勢を強める。供給・在庫は潤沢にあるにもかかわらず異例の高騰を続ける背景には、中国の「爆買い」があるという。その中国は、コロナ禍や米中貿易摩擦を念頭に食料安全保障の強化を今年の最重要課題に掲げる。
ただでさえ、気候変動や人口増、生産基盤の劣化などの危機に直面している時、コロナ禍と食料ナショナリズムが結び付けば、国際的な食料リスクは一段と高まるだろう。
食料安全保障の要諦は、国内農業生産の強化を第一に、輸入、備蓄を組み合わせ、不測の事態でも国民が必要とする食料を安定的に届けることに尽きる。
農水省は1月、緊急事態食料安全保障指針の一部を改正し、新型コロナなど感染症リスクへの対応強化を盛り込んだ。また政府は、こうした新たな事態を踏まえ、6月までに食料安全保障施策の強化策を策定することにしており、同省は有識者による議論を始めた。
そこで大事なのは、危うい食と農の現状を包み隠さず情報提供し、各界各層を巻き込んだ国民的な議論の場を設けることだ。食料安全保障への関心が高まっている今こそ、1人1人が「自分ごと」として、農業と食卓、日本と世界の関係の在り方を考える好機にしたい。
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2021年03月05日
米の転作深掘り 飼料柱に官民で強化を
2021年産主食用米はこのままでは過剰作付けになりかねない。相対取引価格(消費税・包装代を除く)が、60キロ平均1万1000円程度となった14年産水準に下落することも懸念されている。農家の経営安定には飼料用などへの転換が求められる。生産の目安の深掘りが必要で、行政の指導力発揮が不可欠だ。
主食用米に過剰感があり、需給均衡には、20年産が作況100だった場合と比べ21年産は生産量で36万トン、作付面積で6・7万ヘクタール、割合でともに5%の減産が必要と農水省は見通す。過去最大規模の転作拡大となる。
しかし、JA全中のまとめでは、各県の生産の目安を合計すると減産は約20万トンにとどまる。また、同省がまとめた作付け意向では28都道府県が前年並みの傾向で、一層の転作推進が必須だ。県によっては目安の削減や、目安よりも生産を減らす深掘りも必要だといえる。
一方、20年産の相対取引価格(同)は19年産を毎月下回り、下げ幅も拡大。1月は60キロ1万3600円強で6%安だった。前回の米価下落が始まった13年産よりも低い価格で推移している。前回は13、14年産の2年間で同約4600円と大幅に下がった。繰り返さないためには、種もみや作付けの準備が始まる中で、非主食用米への転換が現実的であろう。用途別の需給状況を見ると飼料用が柱になる。
主食用米の過剰作付けは農家の経営に二重の損失を与える。生産過剰になれば米価が下落、それに見合うほど需要が増えなければ所得が減る。助成金を含め、作付け転換していれば得られたであろう所得もない。
作付け転換は個別農家の経営判断の問題というだけはない。地域の水田農業全体から得られる所得を増やすには、団地化によるコスト削減など産地ぐるみでの計画的対応が必要だ。課題は、JA以外に出荷する農家や集荷業者への推進である。JAグループの集荷率は4割程度だからだ。2月26日の自民党農業基本政策検討委員会では、行政に対応を求める意見が出た。
野上浩太郎農相は同日の記者会見で「都道府県がイニシアチブを発揮して、産地や農家・生産法人など全ての関係者が一丸となって、(6月末が期限の)営農計画の検討を進めてほしい」と訴えた。「産地の後押しをしていく」との決意も表明した。地方組織を含め同省にも、地方行政と共に、集荷業者・団体や大規模農業法人などへの一層強力な働き掛けを求める。
また転作拡大面積に対し国が県と同額(上限10アール5000円)を助成する支援策に、15県(2月22日現在)が取り組む方針だ。他県も活用してほしい。議会の影響力にも期待したい。
農家の所得減少は地域経済も冷やしかねない。主食用米と、助成金を合わせた転作作物の手取りの見通しなど経営判断に役立つ情報も提供しながら、作付け転換への農家の理解を得る官民挙げた取り組みが重要だ。
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2021年03月04日
コロナと田園回帰 共生できる環境整備を
新型コロナウイルス禍で田園回帰への関心が高まっている。政府や自治体などは農山村への人の流れを加速させようと懸命だ。しかし、人口を増やすことだけが目的だと一過性に終わりかねない。移住者と住民が互いに共生できる地域づくりが欠かせない。
都市は「3密」になりやすく、新型コロナの感染リスクが高い。このため人口密度の低い農山村の価値が見直され、東京一極集中に是正の兆しもみられる。人口移動に関する総務省の統計では、東京都から出て行く転出者は2020年が40万人を超え、前年より4・7%増えた。比較可能な14年以降で最多だ。一方、東京都への転入者は43万人で同7・3%減った。
この流れを「ビックウエーブ」と歓迎する声もあるが、疑問だ。北海道のある自治体の移住担当者は「都市からの一時避難として移住する人を増やしても、地域にとって意味がないのではないか」と冷静に捉える。
テレワークが普及し、都市に住んでいた時と同じ仕事をしながら住居だけを変える「引っ越し感覚」の移住では、地域とあまり関わらないままになる可能性がある。農的な暮らしがしたいなど、希望を持って移住してくる人の受け入れ態勢をどうつくるかが重要である。
参考になるのが、酪農ヘルパーの労働環境改善に向けた北海道での取り組みだ。酪農家の休暇や冠婚葬祭時などに欠かせず、道外からの移住者らが担い手になっている。多くの酪農家には従来、作業員や労働力としての捉え方が強かったという。
一方、インターンシップの受け入れができなかったことなどで酪農ヘルパーの希望者が減少。北海道酪農ヘルパー事業推進協議会(事務局=JA北海道中央会)は、道全域の組合で、就業規則の整備率100%を目指し運動を始めた。地域によっては、酪農ヘルパーをしながら他の仕事もする「半酪農ヘルパー半X」も活躍している。
道東の酪農家は「労働環境を改善し、酪農ヘルパーが生き生きと地域で暮らすことで、他の人もこの地域に関心を持ち、地域全体に良い影響をもたらす」と期待する。
北海道では、酪農ヘルパーだけでなく、新規就農者に加え、学生や地域おこし協力隊、他に仕事を持っている人、1日契約など週末だけ農業でアルバイトをする主婦ら、多様な人が農業への関心を高めている。農家や産地も専業農家の確保・育成だけでなく、そうした人たちを大切にし、受け入れようとの意識に変わってきている。
しかし農業の労働環境の整備・改善や、ライフスタイルや価値観が多様な人たちの受け皿づくりは一朝一夕にはできない。農家や産地、地域の取り組みが必要だ。一方で「引っ越し感覚」で移住して来た人に、地域社会の一員としての意識と関わりを持ってもらう取り組みも求められる。
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2021年03月03日
営農アイデア大賞 農家の知恵共有しよう
優れた技術を生み出した農家を表彰する日本農業新聞の「営農技術アイデア大賞2020」の受賞者が決まった。審査では、生産現場の課題を自ら解消しようと努力した農家の知恵を高く評価した。幅広く共有し、それぞれの営農に取り入れたり、創意工夫のヒントにしたりして経営改善につなげよう。
アイデア大賞は9回目になる。昨年1年間に本紙に掲載した記事を基に、農家が考案した技術を専門家らが審査した。アイデアの独創性とともに、省力性、低コスト化、商品性の向上、取り組みやすさなど経営への貢献度合いを検討した。
大賞には育苗箱運搬器具「はこらく」を開発した黒壁聡さんを選んだ。北海道新篠津村で水稲などを栽培する。自作の金属の枠で、重ねた育苗箱を両脇から挟み、取っ手を握ると3、4枚まとめて運ぶことができる。
審査で高く評価されたのは、米作りで機械化できていない作業の労力を軽減したことだ。大規模化が進む水稲栽培では、わずかな作業でも積み重なると重労働になる。育苗箱への種まきは機械でできるが、入れた土が水を含んで重くなった箱を何千枚も運ぶのはつらい。
ちょっとした現場のストレスを解消しようとする農家ならではの視点も魅力に挙がった。「はこらく」を使えば手が汚れず素手で作業できるため、育苗箱を重ねる際に手袋が挟まることや、手袋を着脱する手間がなくなった。2万円以下の手頃な価格で販売している。
優秀賞の3点には、近年の農業の課題に対応する技術が選ばれた。鹿児島県出水市の松永幸昭さんは、水稲の苗を食害するスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)を捕まえる簡易わなを考案。紙パックに米ぬかと酒かすを入れて水田に入れ、6時間で100匹以上捕まえた。生息域が拡大する中、期待の技術だ。
北海道本別町の楠茂政則さんは、ビニールハウスを振動させて雪を自動で下ろすシステムを構築。高齢化で危険が高まる雪下ろしの作業軽減につながる。
新潟県燕市の農業法人・アグリシップは、梨花粉を混ぜた液体をドローン(小型無人飛行機)で散布し、人工授粉を省力化した。10アールを1分程度でできる。慣行の手作業では4人で1日かかる仕事で、人手不足に対応するのが狙いだ。
アイデア大賞は次回で10回目。21年の記事で紹介する技術が対象となる。できるだけ多く集めたい。情報提供もお願いしたい。これまで受賞した技術のその後の成果や展開、広がりを伝えることも計画している。
自らの創意工夫で技術の改善に取り組む農家同士がつながることも大切である。人手不足など、今回受賞した技術が解決を目指した課題は、日本の農業に共通している。アイデアを交換したり知恵を出し合ったりすることで、技術の底上げや、新たな発想による画期的な技術の誕生が期待される。
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2021年03月02日
国産消費拡大運動 価値伝え応援団拡大を
農水省は来年度から、国産農産物の消費拡大を目指し新たな国民運動を始める。国産応援団の裾野を広げるため、農業・農村の価値と魅力を官民挙げて発信する。新型コロナウイルス禍で農業者は苦境にある。国産を選ぶことが食料安全保障の確立に貢献するとの理解を、速やかに浸透させるべきだ。
政府が昨年改定した食料・農業・農村基本計画は、食と農への理解を深める国民運動を、食料自給率の向上、輸出5兆円目標の達成と並ぶ主要な柱に位置付けている。
国内農業は生産基盤が弱体化する一方で食料需要が地球規模で増え、食料の安定供給へのリスクが高まっている。同省は、こうした現状を国民全体で広く共有し、消費者が国産を積極的に選ぶ機運を高めたい考えだ。2021年度政府予算案には、農家の奮闘する姿や農業の魅力をインターネット交流サイト(SNS)で発信したり、世代を問わず消費者との距離を縮める交流イベントを開催したりする事業を盛り込んでいる。
国民運動は、顕彰制度などを通じて地域内の農産品を掘り起こし、消費を呼び掛けるこれまでの取り組みから転換、農産物に込めた思いや創意工夫への理解を促し、食や環境、地域に貢献する農業の意義を実感してもらうことが主眼にある。
加えて、現場に障害者や高齢者雇用を受け入れる「農福連携」も含め、農業の多面的機能への理解も広げる。野上浩太郎農相も国会で「国内農業の重要性・持続性を確保するため、国民の各層がしっかり認識を共有していくことが重要だ」と述べ、実践に強い意欲を示した。
しかし新型コロナの感染拡大で、基本計画で想定した消費拡大のシナリオと現実が懸け離れた。東京五輪・パラリンピックをはじめとしたイベントやインバウンド(訪日外国人)を当て込んだ市場は消滅した。2度の緊急事態宣言による外出自粛、外食業者の時短営業も重なって業務用需要が減少。集客を伴う交流イベントも開けないなど、食と農の接点を増やす多くの機会が失われた。「巣ごもり」での家庭用需要の拡大とは裏腹に、安定供給が求められる外食向けなどの業務用産地は窮地に立たされている。
政府は輸出を加速させるため産地や品目の選定を進めているが、足元の国内需給がおぼつかない状況では、基本計画の実践は片翼飛行になりかねない。
コロナ禍が収束しなければ、交流を伴う国民運動関連の事業の実効性をどう確保するかが課題になる。一方、海外では、食料の輸出規制や食肉工場の操業停止、物流の混乱などが生じ、食料安保への国民の関心が高まった。国内では、買い急ぐ必要がないほど国産の安定的な供給が続き、国内農業の重要性が改めて認識された。需要が減った農産物を買い支える「応援消費」も活発だ。こうした動きを生かした取り組みが求められる。
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2021年03月01日
臨時の主治医 保健所支援策の参考に
新型コロナウイルスの流行が続く中、JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の医師が全国唯一の取り組みで奮闘している。感染して自宅などで療養している子どもを保健所に代わって電話で診察。患者の不安を取り除くとともに多忙な保健所職員を支えるのが狙いだ。全国の医療関係者も参考にしてほしい。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、新型コロナの患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し、労働時間が過労死ラインを超える保健所職員が目立つ。
こうした中、電話診察に当たっているのは小児科診療部長の田中敏博医師(53)。同病院が協力する静岡市保健所は、コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康を観察。1人につき確認事項が10項目以上ある。対応している保健師は数人で、一人一人に丁寧に向き合うのは難しいという。
きっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症で、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。日本小児科学会の考えに準じた。自宅療養だと主治医と相談しにくくなる。子どもの不安を払拭(ふっしょく)するために田中医師は「電話などで対応できる臨時の主治医が必要だ」と提案し、自ら診察を買って出た。
昨年10月、診察を本格的に開始。2月17日までに、濃厚接触者を含む15歳以下の55人と、保護者ら52人を診察した。診察時間は朝夕の1日2回。直接対面で初診した後、療養する自宅などに連絡し、体温、心拍数、病状などを確認し、悩みなども聞く。田中医師は「全国に広まればうれしい」と話す。
同病院は「病院としてこの動きを応援したい」(桑原吉英事務長)考え。JA全厚連も「田中医師の取り組みは保健所を支援するとともに、地域と厚生連病院の関係を深めることにつながっている」とし、注目する。
同保健所や田中医師には、県外の自治体などから問い合わせがある。また同市の開業医らでつくる静岡市静岡医師会がこの取り組みに賛同。臨時で主治医を引き受ける方向で市と協議している。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が協力すれば保健所の全国的な業務軽減につながるとの指摘もある。
ただ、この取り組みは、院内の医療スタッフや事務職員の協力が前提だ。新型コロナの流行で医療現場も逼迫している。自宅などで療養する患者に安心感を与えながら、保健所の業務をどう軽減するか。地域の実情にあった対応が求められよう。
保健所の業務の逼迫は、行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが一因。保健所数は現在469カ所で、ピーク時の約半分に減った。「減らし過ぎた人員を増やすなどして、保健所の感染症への対応力を高めなければならない」(尾島教授)と言える。
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2021年02月28日
特殊詐欺とJA 職員の見破る力 磨こう
「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害防止の一翼を担うのが金融機関だ。JAは組合員・利用者との関係の強さを生かし貢献している。しかし、金融窓口を通さないなど新しい手口が次々に現れ、より巧妙化している。JAには、詐欺を見破る職員の力を一層高めることが求められる。
警察庁のまとめでは、2020年の特殊詐欺の全国の認知件数は1万3526件で前年より20%減、被害額は277・8億円で同12%減だった。ただし同庁によると、高齢者を中心に被害が高い水準で発生。また、1件当たりの被害額は214・8万円で同9%増と高額になっており、依然深刻な状況だ。
金融機関ではさまざまな対策を取っており、JAも同様だ。地元警察と連携した注意の呼び掛けでは、地域住民らの関心を高めるために、ちらしなどと一緒に特産品を渡したり、青年組織や女性組織と協力してマスクなどの小物を配ったりするなど工夫を凝らした取り組みも盛んだ。また金融担当職員の研修を行い、それを生かして実際に被害を防ぎ、警察から感謝状を贈られた職員も多い。
しかし詐欺の手口はその時の社会情勢などを反映して、変化している。同庁によると、昨年は「新型コロナウイルス感染症関連の給付金がある」と偽り、通帳などを受け取るなどコロナ関連の特殊詐欺が55件発生。うち2件は未遂に終わったが、53件で約1億円の被害が出た。
金融窓口を通さない手法や、職員が気付きにくい金額をだまし取ろうとする事例もあった。
島根県のJAしまねでは、子会社が運営するコンビニの店長が架空請求詐欺を防いだ。来店した高齢者が、身に覚えのない請求があり20万円分のプリペイドカードを買って支払うよう言われたと話したことで詐欺の疑いが浮上。警察に通報した。機器の操作に戸惑っていたため声を掛けたことがきっかけだった。
三重県のJAみえきたでは、12万円を出金しようした高齢者が窓口での雑談中に支払い請求のはがきが届いたことを話題にしたことから、職員が詐欺を疑い被害を防いだ。本人確認が必要な金額ではなく、別の通信販売の支払いを抱えていたため、本人は詐欺と気付かなかった。
いずれも、JAが職員らに研修を受けさせるなどして、日頃から対策を取っていたことが奏功した。JAでは、詐欺防止の研修は日常的になっている。しかし金融窓口以外を利用したり、支払わせる金額を少なくしたりするなど、詐欺グループは新たな手口を使ってくる。詐欺を防いだ事例では、来店者の困った様子や普段と違った行動、ちょっとした会話などから詐欺を疑っており、組合員・利用者と職員の日頃からの関係や、研修を基にした気付きが大きい。
JAの職員らは、特殊詐欺を防ぐ「最後のとりで」である。技能を磨き、地域の安全・安心に一層貢献してほしい。
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2021年02月27日
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
米検査見通し 生消・流通の理解不可欠
政府は米の農産物検査規格の見直しを進めている。年間の検査数量は500万トンで、生産量の7割に上る。生産・流通の重要なインフラで、ルール変更の影響は大きい。農家の所得向上と需要拡大に役立つよう、生産者や流通業者、消費者らの十分な理解を得ることが不可欠だ。そのために、検討や周知に必要な時間を確保すべきである。
米は外観での品質評価が難しい上、広域流通するため検査制度がある。全国統一の規格で専門の検査員が「産地・品種・産年」を確認、精米時の歩留まりを判断し1等、2等などと格付けする。農業者は品質改善の目標にし、卸など買い手は購入の判断材料として活用する。
見直しは政府の規制改革推進会議が提起したのが発端で、昨年1月に着手。政府は7月に閣議決定した規制改革実施計画に重点事項の一つとして盛り込んだ。具体的には、農業者の所得向上を目的に、検査等級区分と名称の見直しや、検査コストの低減、機械的計測への早期変更を打ち出した。また、検査米で認めている小売りでの「産地・品種・産年」の3点表示や一部補助金の交付を未検査米にも認める方向を示した。
見直しの具体案を巡っては農水省の検討会が昨秋、論議を始めた。検査等級区分などの見直しでは、従来の目視検査とは別に機械鑑定を導入する方向だ。
検討会では、食味に関するデータなど品質の機械計測には利点があるとする一方、機械の導入費が発生、生産者負担の増加や小売価格への転嫁などを懸念する声も上がる。機械に習熟した人材の確保や、機械と目視の検査が併存し生産・流通に混乱が生じないかといったことを不安視する意見もある。
海外市場の開拓や高付加価値化を目的に新たな日本農林規格(JAS)も検討。需要拡大への期待とともに生産コストが増えないよう求める意見が強い。
全体的に急いでいるように見える。同実施計画で示した、2021年度上期に結論を出し速やかに措置するとの期限が重しになっているのではないか。
先行した米の3点表示の規制緩和は、7月の同実施計画を受けて1月には内閣府の消費者委員会食品表示部会が未検査米でも可能とする食品表示基準の改正案を了承し、7月には施行する速さだ。同部会やパブリックコメントでは、準備・周知のために移行期間の設定を求める意見があったが、見送られた。懸念が残ることから同委員会は菅義偉首相に対する改正案答申の付帯意見で、表示監視の強化と農産物検査と改正内容の普及・啓発、周知を念押しした。
「改革」の名の下に性急かつ安易な見直しを行えば、1700の検査機関、1万9000人の検査員、80万戸の米販売農家、1億人を超す消費者に大きな影響を与える。拙速は避けるべきだ。目的に照らし最善策を慎重に検討し、見直す場合は十分な説明と周知期間が必要だ。
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2021年02月25日