最新ニュース
[岡山・JA岡山西移動編集局] 豪雨被災から1年5カ月 営農再開へ一歩 果樹産地の総社市
2018年7月の西日本豪雨でブドウ園などの農地や農業用施設に甚大な被害を受けた果樹産地・JA岡山西管内の岡山県総社市福谷地区。6日で1年5カ月となる中、営農再開の動きが始まった。県と市の連携で氾濫した高梁川の堤防を整備し、浸水被害を受けた約3ヘクタールの園地をかさ上げする。100年続く農業に向け、地域の話し合いが進み、近く工事が始まる。JAは営農や融資相談で復興を後押しする。異常気象のリスクが高まる中、災害に強い地域農業のモデルとして注目が集まる。(鈴木薫子)
次代に継に向け 堤防整備、園地かさ上げ
同地区は県内有数のブドウの早期加温栽培産地。しかし、園地には、ビニールが剥がれ、骨組みがあらわのハウスや、川から流れてきた大きな岩が目立つ。堤防の決壊で農地の浸水や施設が倒壊。今も園地は豪雨被害発生時のままだ。
県は同地区で約2キロにわたる高梁川の堤防整備に乗り出した。道路から1、2メートル上げる計画で下流側から用地取得を進めている。同地区の他、高梁川に隣接する4地区で計約5キロの堤防を整備。近く工事に着手し、22年度内の完了を目指す。
園地整備は同市が担当する。堤防から下の園地を3、4メートルかさ上げし、堤防と同じ高さにする方針。整備範囲は上流約600メートルで園地は約3ヘクタール。河川などの残土で埋め立て、栽培用に上層60センチはきれいな土で埋め立てを計画する。復旧には、JA担当者も営農再開に向け密に情報交換をする。
ブドウや桃の生産者22人でつくる福谷果樹組合は、被災した18年産売上高は前年産比2割減の6500万円。19年産は上向いたが、被災前水準には達していない。
ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」などを栽培する同組合の温室ブドウ部会の仮谷昌典部会長は、経営面積の半分の10アールでハウス3棟が倒壊。被害を免れたハウスとの距離は30メートル。半分の土地で収益を高めようと栽培に励む。54歳の仮谷部会長は「80代まで農業を続けたい。今が踏ん張り時。復旧に時間がかかるのは覚悟の上で、次世代のために災害に強い農業を復活させたい」と強調する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
規制会議 スマート普及が重点
政府の規制改革推進会議は2日、当面審議する重点事項を決めた。農業分野は、スマート農業の普及に向けた環境整備などを盛り込んだ。これまで規制改革を求めてきた事項で、今後も進捗(しんちょく)状況を重点フォローする事項も決定。農協改革は、信用事業の健全な持続性確保へ代理店方式の活用推進を挙げ、農林中央金庫や信連、全共連の株式会社化は記述から外れた。……
これユズ!? 広島の個性派 初出荷
人の顔ほどのジャンボサイズかんきつ「獅子柚子(ししゆず)」の出荷が始まった。JA広島ゆたか上島選果場管内で栽培される特産で、ブンタンの一種とされる大型の香酸かんきつ。
直径20センチを超える黄金色の果実は、表面がボコボコと波打っており、獅子を連想させる迫力ある外観から別名「鬼柚(おにゆ)」とも呼ばれ、魔よけや縁起物として珍重される。
広島市中央卸売市場ではこのほど初入荷。広島市のスーパーやデパートでは冬至に向けたディスプレー商材として売場に飾る他、温泉施設や外食業界、観光施設からの引き合いもある。
広印広島青果の小山隆之副部長は「存在感抜群の外観に加え、季節感やストーリー性があり注目を集めている。地元の個性派商品として紹介したい」と話す。
日本農業新聞の購読はこちら>>
豚肉在庫が最多水準 9月時点3割増に 輸入多く国産苦戦
豚肉の在庫量(輸入含む)が過去5年の最多水準に積み上がり、国産相場の不安材料になっている。中国でまん延するアフリカ豚コレラ(ASF)の影響で国際相場に不透明感が増していることや、大型貿易協定で関税が下がったことで、食肉メーカーや商社が輸入品の調達を強めているためだ。国産は加工向けの下位等級を中心に需要を奪われ、苦戦を強いられている。
農畜産業振興機構のまとめによると、9月時点の推定期末在庫量は、前年同期比3割増の21万8205トン(国産品が同13%増の2万351トン、輸入品は同32%増の19万7854トン)。近年の在庫量は約17万トン前後で推移しており、過去5年で最多水準だ。
豚肉の国際相場は、世界最大の豚肉消費国である中国でのアフリカ豚コレラの拡大で、引き合いが強まった欧州産を中心に高値基調が続いている。大手食肉メーカーは「これからもう一段上げる可能性があり、高騰する前に調達を強めている」と明かす。
在庫過多の輸入品に押され、国産品にも影響が出ている。「国産、輸入ともに、裾物の在庫が多く、国産は加工筋などで需要を奪われている」(大手メーカー)という。環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)で輸入品の関税が下がったことも、国産品の価格面での競争力に影を落とす。
国内生産量(と畜頭数)は、今年度上半期の累計が約788万頭で前年同期比ほぼ横ばい。しかし消費は鈍く、在庫が積み上がる状況だ。
全国指標となる東京食肉市場の29日の豚枝肉価格は1キロ459円(上物平均)で前年並み。一方、格付けで最も低い「等外」は300円台半ばで6月以降、前年を下回る取引が目立つ。
「10月以降、出荷量が例年以上に多くなっている」(市場関係者)など、この先は不安材料が多い。豚コレラ(CSF)ワクチンを接種した豚の流通も始まった。現状、目立った混乱は見られないが、取引動向には注視が必要だ。
大手食肉メーカーは「安価な輸入品に押され国産が苦戦する状況は長期的に続くだろう」と見通す。
日本農業新聞の購読はこちら>>
低病原性鳥インフル アジアで発生続く 農水省、農家に警戒呼び掛け
愛媛県で野鳥のふんから今シーズン初めて、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H7N7亜型)が確認された。韓国では既に、野鳥のふんからから同ウイルスの確認が相次ぐ。他のアジアの国では高病原性鳥インフルエンザも継続的に発生しており、警戒を強める必要がある。
韓国で10月以降、飼養鶏では低病原性鳥インフルエンザは発生していない。だが、野鳥のふんから同ウイルスが確認されたケースは15件に上る。11月中旬には日本に近い韓国南東部の慶尚南道でも確認された。ウイルスの型が不明の1件を除く14件が、日本とは異なるH5亜型。
他のアジア各国では、高病原性鳥インフルエンザの発生が続く。台湾では少なくとも17年以降は毎月、飼養鶏で発生。今年11月にはH5N5亜型とH5N2亜型が1件ずつ見つかった。インドネシア、ベトナム、ネパールでも継続的に発生している。
今季初の低病原性鳥インフルエンザウイルスの確認を受け、農水省は農家に警戒を呼び掛けている。農場では、野鳥などの野生動物が鶏舎に侵入しないよう、防鳥ネットなどの確認が必須。農場に入る車や人、モノの消毒の徹底も求められる。鳥インフルエンザは低病原性でも、飼養鶏で発生した場合には農場の全羽殺処分が必要となる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
在来カブ継承を 滋賀で初のサミット
全国各地のカブ産地が一堂に会し、カブの魅力を発信する「全国在来かぶらサミット2019」が1日、大津市の龍谷大学で開かれた。後援する滋賀県によると、カブに特化した全国規模の会合は初めて。講演会で保存食として発展したカブの歴史が紹介された他、在来品種の継承を求める意見が出た。
主催は「三大かぶら王国」と称される県内の産地関係者や同大学でつくる実行委員会。同県のJAグリーン近江も加わった。産地関係者や消費者約150人が参加した。
サミットでは、山形大学の江頭宏昌教授が「日本各地の在来カブとその利用の文化」と題して基調講演。種まきから2カ月と短期間で収穫でき、「全国的に保存食として重要な位置付けにあった」と説明。在来カブは全国に約100種あり、各地で保存加工技術が発展したと紹介した。信州大学の松島憲一准教授は、在来カブと郷土料理について講演。地域ごとに在来カブを使った独自の郷土料理が発展したと指摘し、「在来カブは地域の宝。(品種を)保全・伝承してほしい」と訴えた。
会場では、全国13府県の28種の在来カブが並び、パネル展示や漬物の試食販売が行われた。
日本農業新聞の購読はこちら>>
厳しさ増す1次産業と流通 連携で難局乗り切れ ナチュラルアート代表 鈴木誠
今年も、残すところ1カ月。1次産業とその関連する流通業者などを含め、今年は年初から厳しい年と予想していたが、その予想を超える厳しさとなった。度重なる自然災害に加え、環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が相次いで発効し、農産物の輸入枠が拡大。さらに消費税増税などによる消費低迷と1次産業や地方経済の構造疲労による衰退。これらを踏まえると来年は、さらに厳しい年と覚悟しなければならない。
今後、自然災害の頻発は、避けては通れない。災害が少なかった地域も、例外ではない。事前対策は全て行うことが求められる。栽培品目やビジネスモデルを変えるといった思い切った対策が必要となる。保険の見直しも必須だ。
輸出拡大で対応
今年は、実質的に農産物の輸入解禁元年となった。スポット輸入ではなく、継続的にルーティンに組み込まれる輸入農作物が拡大した。今後も、輸入品がより大きな脅威になる。ただ、海外から攻め込まれるばかりでなく、日本側もグローバル産業に転換し、迎え撃つ必要がある。輸出拡大に向け、異業種や海外との連携がこれまで以上に大切だ。
外食産業や量販店を見れば、食品関連の個人消費低迷は明らかで、来年もこの基調は続く。東京オリンピックによるインバウンド(訪日外国人)需要など、一時的な特需はあっても、総じて消費構造は弱い。高齢化・少子化・個食化で、食品が売れない時代になっている。
そこで農家や漁業者は、過去の延長ではなく、競争優位性のある新たな未来型経営への転換が求められる。その他大勢の一人として、個性のない昔ながらの経営は限界だ。加工や冷凍などの高付加価値化もより重要になる。
流通業者は、来年6月施行の歴史的な卸売市場法改正を契機に、本格的な自由競争に突入する。この期に及んで、まだ過去に依存する企業は淘汰(とうた)されていく。そもそも既存プレーヤーが多過ぎる流通業界では、合従連衡は待ったなし。単独で生き残れる企業は、ほぼ皆無だ。バスに乗り遅れる前に、直ちにアクションを起こすことが必要だ。
未来への投資を
今後は、危害分析重要管理点(HACCP)対応など未来への投資もより重要になる。そのために、ファイナンス能力も強化する必要がある。業界特化型ファンドや、業界では実績が少ない上場も、選択肢になる。目先の生産や売買に明け暮れ、未来への投資ができなければ、企業や産業は衰退する。
働き方改革も大きな負担となり、構造改革のトリガーになった。これを機に、IT化・人工知能(AI)化を進め、より少数精鋭で対応できる筋肉質な組織構築が求められる。
ベンチマークは、同業者ではなく、他産業や海外勢。そして、このような難局を乗り越えるためには、何よりも勉強し、人材を育成することだ。新たな歴史を切り開くのは、いつの世も教育であり人だ。
やるべきことは山積だが、何をすべきかは明らか。行動あるのみだ。現状維持は一見安全に思えるが、それが最大のリスクとなる。ただ、行動する意思はあっても、個々ではとてもハードルが高い。だから、合従連衡であり連携プレーだ。これまでの「独善的で属人的な」といった時代は終わった。これからは、協調性とバランス感覚を持ち、皆で力を合わせ、産業の構造改革と発展を導かなければならない。
すずき・まこと 1966年青森市生まれ。慶応義塾大学卒。東洋信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)を経て慶大大学院でМBA取得。2003年に(株)ナチュラルアートを設立。著書に『脱サラ農業で年商110億円! 元銀行マンの挑戦』など。
日本農業新聞の購読はこちら>>
[あんぐる] 天空の特等席 田んぼに泊まろう 棚田キャンプ(長野県上田市)
農閑期の棚田を期日限定のキャンプ場とするユニークな取り組み「棚田キャンプ」が、長野県上田市の「稲倉の棚田」で開かれている。5回目となる11月9、10日の開催には約150人が集まり、秋の絶景を満喫した。
この棚田は北アルプスを望む標高640~900メートルの急斜面にあり、約780枚、合わせて30ヘクタールほどの水田が連なる。
「棚田キャンプ」は春と秋の稲作に影響しない時期に開かれる。今回は約20枚の棚田に設けた、一つ60平方メートルの区画それぞれに、アウトドア愛好家がテントを張った。
ハイライトは夜だ。日が沈むと、明かりがついた約60張りのテントが暗い棚田に浮かび、遠くに市街の明かりが輝いた。
参加は4度目で、自分で田植えや稲刈りをする「棚田米オーナー」でもある東京都荒川区の会社員、石井由紀さん(48)は「冷えて風も強いが景色がきれい。都内からのアクセスも良い」と魅力を話した。
参加者に配られた新米のコシヒカリ「稲倉の棚田米」。「おいしい」と評判だ
江戸時代に開かれたと伝わる「稲倉の棚田」は大きな農機を使えず、一時は耕作放棄が目立った。だが1999年の「日本の棚田百選」入りを契機に、地元有志が荒れた水田の再生を始めた。
2003年には、住民やJA信州うえだ、市などが棚田保全を目指した組織を発足。15年からは「稲倉の棚田保全委員会」の名称でオーナー制度などに取り組んでいる。
「棚田キャンプ」は、各地の棚田保全を支援するNPO法人棚田ネットワークの玉崎修平さん(44)の案を、同委員会メンバーらの任意団体「棚田フューチャーズ」が形にした。18年春に始めるとアウトドア情報誌で紹介されるなど注目を集め、毎回満員になっている。参加後に棚田米オーナーになる人も多い。
次回は来年春の予定。同委員会の事務局を務める石井史郎さん(57)は「これからも活用を含めた棚田の新しい在り方を探りたい」と話す。(釜江紗英)
「あんぐる」の写真(全5枚)は日本農業新聞の紙面とデータベースでご覧になれます
日本農業新聞の購読はこちら>>
地方版総合戦略 5年後へ真剣に丁寧に 住民主体本音で議論 北海道鹿追町
今後5年間の地域の目指す将来像を描く地方版総合戦略の策定が各地で進む。地方創生の交付金を得るためだけでなく、地域ならではの“未来予想図”を作ろうとワークショップなどの手法を取り入れる自治体が目立つ。地域の課題解決や目標に向け議論を深め、住民主体の策定に向けた模索が始まっている。
農商工や福祉 多世代が参加
11月半ば、人口5300人の北海道鹿追町。「公共交通機関が減った。畜産農家と連携しバイオガスでバスを走らせられないか」「移住者や地域に興味を持つ人を温かく迎えられる町にしたい」。農家や会社員、高校生や高齢者、役場職員、JA鹿追町役職員ら80人が思い思いの意見を出す。各テーブルで付箋に自分の考えを書き、町の課題や将来像をポスターに記した。
千歳市から移住した斉藤亜利紗さん(26)は「JAや商工会の人と初めて話し、親しくなれた。町の未来は自分たちの問題。毎年ワークショップを開いてほしい」と話す。
同町が夏から開くワークショップには毎回、JA役職員が10人程度と農家も参加する。JAの櫻井文彦常務は「農業の課題を農家以外の人と共有したいと思い参加した。多世代と意見を交わせて楽しい」。80ヘクタールで畑作経営する植田葉子さん(55)は「農業と家事に追われ、真剣に街づくりを考えたことはなかった。意見を出し合って作った計画ができると思う」と話す。
同町では、5年前の同戦略を町の産官学の代表を集めた審議会で決めた。今回は審議会とは別に、公募などで集まった住民がワークショップを開き、福祉や経済などテーマごとに話し合い戦略に反映させる。同町企画財政課は「新たな戦略策定は住民主体で身近なものにしたい」と話す。年度内に、戦略と町の総合計画を策定する方針だ。
外部委託の反省踏まえ
地域の将来設計を描く地方版総合戦略。地方自治総合研究所が2018年に公表した調査では、回答した1342市町村のうち77%がコンサルタントなど外部に策定を委託していた。この反省から、プロセスを重視し住民主体の戦略にする動きが生まれている。アンケートや集落点検など手法はさまざま。策定時期は基本的に今年度だが、話し合う期間を確保するため、策定を来年度に延長する自治体も複数ある。
香川県東かがわ市は11月上旬、気軽で自由に対話ができる「ワールドカフェ」を試みた。今後も対話型の話し合いを行い、戦略づくりの参考にする。同市は「言いっ放しでなく、住民の意見を戦略に反映する仕組みを模索している」とする。
鳥取県琴浦町は「ことうら未来カフェ」で、将来の町の姿を住民同士が話し合う。長崎県五島市は、市民と高校生に交通や農業、病院などの課題などを聞くアンケートを実施。同市は「雇用の場の確保や担い手不足対策を求める意見が多く骨子案に反映する」とする。
形式的でなく 地方自治総合研究所の今井照主任研究員の話
5年前も、建前はさまざまな業界の人を集めて策定するように言われたが、実際は期間も短く、形式的な策定が主だった。地方創生は、人口増という数字達成を目的にしてはいけない。地方再生に向けて地域にとって何が必要なのかを話し合い、住民目線で主体的な形にする必要がある。
<ことば> 地方版総合戦略
「まち」「ひと」「しごと」を柱に、目標を掲げて策定する自治体の将来計画。15年度から始まり、今後5年の政策目標や施策の基本方向を盛り込む。現在、各自治体が第1期(15~19年度)の検証と併せ、次期5年間を見据えた同戦略の策定を進めている。国のまち・ひと・しごと総合戦略は年内に決定する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
日米協定 攻防ヤマ場 試算、再協議なお不透明 参院委で与党3日採決狙う
国会は今週、日米貿易協定の採決を巡りヤマ場を迎える。9日の会期末が迫る中、与党は3日に参院外交防衛委員会で可決、4日の本会議で承認する日程を描く。野党側は採決日程に応じておらず、攻防が続く見通し。「桜を見る会」の情報開示を巡る与野党の対立は続いており、国会が不安定化することもあり得る。より精緻な農林水産業への影響試算や再協議の可能性など、論点は多く残っているが、議論が深まるかは不透明だ。
衆院での協定審議時間は11時間。質問者不在のまま時間を消化する「空回し」も含まれる。要求資料を提出しない政府・与党に野党が反発し退席したものの、与党が審議を続行したためだ。
一方、参院の審議時間は外交防衛委員会での審議や連合審査会、参考人質疑を含め、現時点で9時間。協定の内容以外の質問も多く、農産品の議論も深まっていない。審議は3日も続ける。
米国を含む環太平洋連携協定(TPP)は、2016年に衆参に特別委員会を設けて計130時間以上審議した。米国離脱後のTPP11は、50時間弱だった。
野党は衆参の審議を通じ、関税撤廃期限が決まっていない自動車・同部品を除いた経済効果の分析、TPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効を前提とした農林水産品の影響試算を出すよう要求。米国が検討する自動車への追加関税回避を明文化したものがないため日米首脳会談の議事録なども求めたが、政府・与党は一貫して応じていない。農産品では再協議の可能性について野党が攻勢を強めたが、政府は「日本側の義務は規定されていない」(茂木敏充外相)などの答弁に終始。踏み込んだ発言はなく、やりとりは平行線をたどっている。
日米協定に関連法案はなく、国内手続きの完了に必要なのは協定の承認だけ。憲法の衆院優越規定による協定の自然承認には30日の日数が必要だが、会期は残っていない。政府・与党は会期を延長しない方針で、参院の議決が必要になる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
パラオ 食の自立 支援を期待 元農水政策統括官・柄澤大使に聞く
農水省で政策統括官などを務めた柄澤彰・駐パラオ大使が本紙インタビューに応じ、パラオの農業振興には流通の整備などが鍵を握るとして、日本からの民間協力・支援を呼び掛けた。同国は食料を輸入に依存し、食料安全保障は現実の問題だと指摘。基幹産業の観光と連携させ、産業としての農業の力を強める道筋を示した。
──大使としての使命をどう感じているか。
パラオは世界一といっていい親日国。実は日本とは200カイリ(水域)で接している。安全保障上も非常に重要な位置を占め、日本が安定を支えていかなければならない。私の最大のミッションだ。
産業はあまり成熟しておらず、観光が支えだ。2020年は日本からの直行便が飛ぶようになると聞いており、日本への期待は大きい。
──パラオの農業の現状と課題は。
島国なので魚は豊富だが、流通が未整備なので十分手に入らない。農業も同様。生産はタロイモやパパイヤ、バナナなど種類が限られ、スーパーに並ぶ野菜のほとんどは米国からの輸入だ。食べるものは、まず自分たちで作ってほしい。
そのためには野菜の品種を増やし、地場流通させること。さらに加工して付加価値の高いものにして輸出することだ。美しい自然の中で取れた農産物はブランドになり得る。産業として自立できるようにしたい。
レメンゲサウ大統領をはじめ、日本への期待は大きい。農水省には近く官民合同の派遣団を送ってもらい、現地を見てもらう。日本の企業・団体からパラオの水産・農業のために投資したいという人が出てくれば、両国の利益になる。
──食事情は。
米を食べる人が多い。輸入米だ。肉もよく食べるが、それも輸入。日本からも豆腐や納豆などいろいろな商品が入ってくるが、台風で船便が止まったりすると、スーパーの棚が本当に空になる。日本以上に、パラオでは食料安全保障が実感として危ういと感じる。
パラオの人口は1万8000人程度だが、観光客数は年間10万人以上いる。観光客を増やしマーケットを広げていけば、そこを狙って国内生産を増やそうという動きが進むと思う。
観光面で自然を大切にしていることもあって、環境意識は非常に高い。日本の農業関係者にも、自然を楽しむというパラオの良いところをぜひ見てもらいたい。(聞き手・岡田健治)
日本農業新聞の購読はこちら>>
忘・新年会も食ロス減 「おいしく食べきって」農水省がキャンペーン
忘新年会が増える年末年始、宴会での食品ロスを減らそう──。農水省は1日から2020年1月末まで、消費者庁、環境省などと連携し、外食時の「おいしい食べきり」キャンペーンを展開する。
農水省は2年前から忘新年会が増えるこの時期にキャンペーンを実施。乾杯後30分と終了前10分は席を立たずに食事を楽しみ、食べ残しを減らす「3010運動」の普及に取り組んでいる。
今回は同運動普及に向け、外食事業者に啓発資材を提供。客への声掛けや持ち帰りパックの用意、小盛りや小分けメニューによる料理量の調整などを呼び掛ける。同運動に賛同する全国の自治体のうち29道府県、98市区町でも独自キャンペーンを実施する予定だ。
食品ロスの年間発生量は約643万トン(16年度推計)。このうち外食産業から出る分は全体の2割(133万トン)に上る。特に宴会の場では食品ロスが多く発生する傾向にある。
日本農業新聞の購読はこちら>>
特産エダマメビールに加工 秋田・大館市 観光地域づくり法人発案
秋田県大館市特産のエダマメを副原料に使ったクラフトビール「秋田枝豆ビール」が登場した。地元の日本版観光地域づくり法人(DMO)秋田犬ツーリズムが発案し、同市産のエダマメを原料に供給。委託醸造を経て、酒類販売業のルーチェ(東京都大田区)が地元スーパーや首都圏のデパートなどで11月から販売している。同法人は同市産エダマメの知名度のアップと消費拡大を狙う。
同法人は市内の農家が朝に収穫したエダマメを仕入れ、ペースト状に加工し「田沢湖ビール」(秋田県仙北市)に供給し、ビールに醸造してもらう。後味にエダマメの風味が残るのが特徴だ。ラベルには、秋田犬がエダマメを食べているイラストを採用した。
同法人の大須賀信事務局長は「大館のエダマメは知名度がまだ低く、取引価格が伸び悩んでいる。ビールを通してブランド力を高めたい」と期待する。イベントで先行発売した際には、用意した500杯が完売するなど関心を集めた。
1瓶(330ミリリットル)700円(税別)。大館駅前の観光施設「秋田犬の里」や市内のスーパーで販売している他、東京・新宿のデパートでも扱う。今年度は5700本を販売する予定。飲食店向けに、たる詰めでの出荷も検討している。
秋田県では近年、転作作物としてエダマメの生産が盛ん。8~10月には、東京都中央卸売市場で1位の取扱量を誇る。
日本農業新聞の購読はこちら>>
[未来人材] 33歳。茶の店継承し生産も。闘茶会全国3位に 信用磨き若年層狙う 前野裕蔵さん 大津市
大津市で69年続く前野園茶舗を経営する前野裕蔵さん(33)は、「近江の茶を世間に広めたい」という思いを形にしようと、茶と向き合う。まず目指すのは、茶を鑑定でき信用される存在になること。甲賀市の農事組合法人スタッフとして働く生産者として、今年の茶審査技術大会(闘茶会)では全国3位に入った。一層の技術向上に意欲を燃やしている。
祖父母が営んでいた店を継承したのは24歳。土木作業、工場勤務、専門学校を経て就職し、地元百貨店で服を売っていた。祖父が高齢になる中で、愛着ある店の存廃の話が転機だった。「やめておけ。茶は厳しい」と、父や親戚の茶農家は大反対だった。
継いだ当初、茶業青年団に刺激を受けて、県外で近江の茶を扱う店へ飛び込みで営業した。「自分は後先考えないところがある。自分らしい営業ができればいい」。そう思い、その店で扱っていたものと同じ品を用意し、値を少し下げて納めた。
取引は数回で打ち切られた。長年の取引先との関係もあっただろうが「技術(信用)がない。何も分かってないと思われた」と人づてに聞いた。茶を学び、再び取引をすることが目標になった。「(鑑定技術で)納得できる結果を残したら挑戦しよう」と誓った。
「滋賀の茶はうまいよ。通好みの味だね」。茶を見て実際に飲み、品種を当てて点数を競う闘茶会で聞いた、静岡の人の言葉が印象的だった。長崎の生産者からも「問屋の見る目がないから茶業界が傾いている」と言われ、はっとした。
2018年からは、生産から販売まで一貫して行う法人で働きながら、茶について学んでいる。店の経営と一人二役。「近江の茶を広めるには、自分がどれだけ動けるのだろうか」と考える。
前野さんは若い頃、大阪や名古屋のクラブに遠征して遊んだ。「青春だった頃とは違うが、憧れは今もある」という。
若者が集うクラブで試したいことがある。「茶を使って、健全に格好よく楽しめること。企画を店に持ち込み、あっと言わせたい」。茶と若者を近づける。具体策を明かすにはまだ早いが、構想は固まっている。(加藤峻司)
日本農業新聞の購読はこちら>>
業務用ブロッコリー 全農が産地化 大手コンビニと10県で契約取引 国産を安定供給
JA全農が産地開発を進める加工・業務用ブロッコリーの本格的な生産・販売が今年度から始まった。産地は10県14・4ヘクタールに拡大。11月からコンビニ最大手のセブン―イレブンの北海道を除く全国域で国産サラダとして販売している。契約取引のため農家は安定収益が見込める他、調製が省力化できるなどの利点がある。輸入品のシェア奪還に向け、全農は今後も取り組みを広げる考えだ。
全農が29日、明らかにした。全農営業開発部が進める産地化で、大手コンビニとの本格的な取引は初という。
東北から九州の10県の農家が生産、11月~来年2月を中心に約230トンを供給する見込み。ブロッコリーは専用品種で直径16~18センチ、重さ500~700グラム。通常の約2倍の重さで、加工時の歩留まりが良い。出荷時は中心の花蕾(からい)だけでよく、市場出荷のような調製の手間が不要だ。
注文に応じて生産者が調製し、JAの集出荷場から送る。セブン―イレブンの調理工場は、東北から九州まで8カ所の原料集配拠点がある。最寄りのJAから市場向けのトラックに同乗させて搬入する仕組みだ。
18年度に全農の提案でセブン―イレブンに国産を試験してもらい、食味や歩留まりの良さを確認。11月から新商品「国産ブロッコリーとキャベツのごま和(あ)えサラダ」(235円)に使われ、2月初めまで販売される予定だ。
全農によると、取引は固定価格のため経営が見通せ、法人や大規模農家による生産が多い。食品表示法の改正で、2022年4月に加工食品の原料の原産地表示が義務付けられるため、全農は追い風になるとみている。営業開発部は「商品化を機に取引拡大につなげる。輸入品の強い夏場にも少しずつ国産を浸透させたい」と強調する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
1等米比率72・9% 夏の高温、台風響く 10月31日時点
農水省は29日、2019年産米の農産物検査結果(10月31日時点)を公表した。水稲うるち玄米の1等比率は72・9%。前年産の最終値に比べ、7・4ポイント下落し、猛暑で1等比率が低下した10年産に次ぐ低さとなった。夏場の高温から、新潟県や宮城県などで白未熟粒が発生した。……
基本計画見直し 自給率設定に異論 食生活変化反映を 「低下」批判回避か 自民検討委
来年3月に改定予定の食料・農業・農村基本計画を検討する自民党農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長)が29日開いた会合で、基本計画に掲げる食料自給率目標の在り方が論点になった。カロリーベースに偏重した目標設定に異論が相次いだ。国民の食生活の変化を踏まえてより適切な目標設定を追求する狙いだが、自給率低下の批判をかわしたい思惑も見え隠れする。
食料・農業・農村基本法では、国民への食料供給は「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、輸入と備蓄を適切に組み合わせ」を求める半面、「多様化する国民の需要に即して行われなければならない」とも定める。
一方、カロリーベース自給率は目標の45%に対し、直近の2018年度では37%と過去最低に落ち込んだ。基本計画では新たな自給率目標を設定することになる。
会合では、米の消費が減り続けていることなどを背景に「食生活の変化が大きく、いくら農業に金をつぎ込んでも自給率を上げるのは相当難しい」(鈴木憲和氏)など目標設定の在り方を問う声が相次いだ。
自給率低下が選挙の対立候補に攻撃材料にされるとして「自民党は頑張っていると別の視点で闘える材料が欲しい」(宮澤博行氏)との声が出た。「メディアに取り上げられ数字が先行する」(福山守氏)との懸念から国民への情報伝達を工夫すべきだとする意見もあった。
同委員会顧問の宮腰光寛・前沖縄北方相は「カロリーベースに特化した議論が行われてきたが、基本法が目指す精神はそればかりではない」と強調した。「新たな基本計画は、食生活の変化を見通し、国民、農業者に説明できるものにする必要がある」と、目標の在り方を見直す考えを示した。
需要の大きい麦や大豆は生産が伸び悩み、「米の消費減をカバーしきれていない」(農水省)ことが自給率低下に拍車を掛ける。
小野寺委員長は「国民のニーズに合わせて何をどのぐらい作ることが必要で、そのためにどれだけ農地を維持し、農家がどれだけ必要かという形で議論すべきだ」との考えを示した。
日本農業新聞の購読はこちら>>
農高初 花き国際認証取得へ 世界と未来視野 県立栃木農高
模擬会社で経営を学ぶ 環境配慮した生産実践
県立栃木農業高校の模擬会社「フローラTOCHINOU」が、来年1月にも国内の農業高校として初めて、花き栽培の国際認証MPS―ABC(花き産業総合認証環境部門)を取得する見通しだ。既に仮認証を取得し、11月に行われた現地審査の結果を待つ。環境への配慮で、花きに国際的な付加価値をつけることで、将来的な海外輸出も視野に入れる。
模擬会社は2016年に、草花の栽培や経営をより専門的・実践的に学ぶために設立した。農業科の生徒ら7人が参加し生産部、販売部、企画部、経理部、広報部の5部門からなる。シクラメンやサイネリアの鉢花を中心に8品目を栽培し、アジサイやトルコギキョウも生産する予定だ。
生徒らは、15年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)について学ぶ中で、欧州の園芸技術や環境への意識の高さを痛感。オランダを発祥とし花き生産の環境負担を低減する国際認証である、MPS取得を目指すことにした。
MPSは農薬や肥料、エネルギーをできるだけ削減し、環境と安全に配慮した花き栽培を行う。認証取得に向けては、同校の農場での栽培記録を審査機関に報告し、18年10月には国内の農業高校で初めて仮認証を受けた。
さらに19年11月中旬には、審査員が学校を訪れ、農場を現地調査。農薬や肥料、エネルギー、水の使用状況や廃棄物の分別状況など五つの環境負担要素について審査した。今後、これまで約1年間の栽培記録と現地での審査を基にポイントを算出。来年1月に、ポイントに応じた認証を受ける予定だ。
農業科3年生の佐々木一哉さん(17)は「花き栽培などの農業は、見た目の美しさだけでなく、常に循環型・持続可能であり、環境に配慮した産業でなければならないと学んだ。この取り組みを多くの消費者に発信していきたい」と話す。
「MPS―ABC」は農業大学校が取得した例はあるが、高校では初となる。同校生徒の取り組みについて、本多淳一MPS審査員は「世界的潮流である環境負荷が少ない生産への意識を高める上で、認証の教育的な意義は大きい」と強調。「取得はゴールではなくスタート。蓄積した情報を基に、翌年以降のさらなる改善に挑戦してほしい」と期待する。
同校は8月、ユネスコ憲章に示された理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校「ユネスコスクール」への加盟が決定。気候変動への対応や持続可能な生産と消費など、国際社会が達成を目指すSDGsの17の目標に積極的に取り組んでいる。
<メモ>
MPS(花き産業総合認証)は、花き業界の世界標準的な認証制度。2018年現在、45カ国以上、約3200団体が認証を取得している。認証の対象は、花きの生産者、流通業者。日本では07年からMPSジャパンが認証の取り扱いを始め、現在78の個人・団体が参加している。
日本農業新聞の購読はこちら>>
世界都市農業サミット開幕 体験農園の魅力実感 5カ国が参加 東京都練馬区
東京都練馬区が主催する世界都市農業サミットが29日、同区で始まり、参加する5カ国(米国、英国、カナダ、韓国、インドネシア)の都市の行政関係者や専門家ら15人が区内の農業体験農園や観光農園、直売所を視察した。サミットは12月1日まで。
参加都市はニューヨーク、ロンドン、トロント、ソウル、ジャカルタ。都市農業の魅力と可能性を学び合い、発展の場にしようと区が初めて開いた。
参加者は区内でキャベツやネギを栽培する高橋正悦さん(68)の畑を訪問。高橋さんは「近隣の人とは直売所で新鮮な野菜を買ってもらい、良好な関係だ」と話した。
加藤義松さん(65)が運営する体験農園「緑と農の体験塾」も訪れた。加藤さんは「野菜の栽培方法を示すことで、初心者でもプロ並みの野菜が作れる」と説明した。
視察した韓国・ソウル特別市の都市農業課長は「体験農園の活性化について知見を深めたい」と述べた。インドネシア企業の植物防疫研究所長も「日本の都市で市民主体の農業が営めているのは興味深い」と、農園をカメラで撮影していた。
区の毛塚久都市農業課長は「都市の中に農地が必要という方向性は各国共通だと思う。サミットを機に世界の都市農業の発展につながれば」と期待する。
30日と12月1日に国際会議を開き、「サミット宣言」をまとめる予定だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
輪島功一さん(元プロボクシング世界王者) 王座で味わった最高の肉
私は樺太で生まれたんですけど、ソ連が来たから両親は兄と私を連れて北海道に逃げたんですよ。3歳の時のことです。
開拓一家で育ち
北海道では厳しい暮らしが待っていました。おやじはクマザサをバリバリッと切って、馬を使って荒れ地を開拓しました。山の方なので米は取れず、ジャガイモと小麦を育てていました。本当に貧しく、私は落ちているものは何でも拾って食べました。ドングリをゆでるとおいしかったなあ。
小学校6年生の時、久遠村(現・せたな町)で漁師をしているおやじの兄のところに養子に出されました。「もっといい生活ができる」と思い、うれしかったですね。
実際に行ってみて分かったんですが、伯父は労働力が欲しかったんです。山に木を切りに行かされました。中学生なのに大人と同じだけの荷物を背負わされて歩きました。私が、がに股になったのは、その時の木材運びのためです。
夜はイカ釣り漁船で働かされました。朝まで釣って、大人たちはその後で眠るんですけど、私はそのまま学校に行かないといけない。授業中に居眠りをして、先生に「この野郎」と殴られました。
私は船酔いがひどくて、船の上で必ず戻してしまいました。だから私のところには、イカがたくさん寄って来たんです。
慣れれば良くなると思っていたんですが、いつまでたっても駄目。三半規管が弱かったからなんですね。それが分かって漁師は向かないと思い、実家に逃げ帰りました。伯父の家では商売にならないような魚を料理してもらうことがあったから、食事は実家より良かったんだけど、それでもね。
実家に戻ってから1年くらい働いて、そのお金を全部両親に渡して、上京しました。新聞配達や牛乳配達など、いろんな仕事をしました。東京に出て初めて、肉を食べました。こんなうまいものがあるのかと、たらふく食いました。
仕事で一番長かったのが、建設現場。羽田空港の滑走路は私たちが作ったんですよ。高度経済成長期。景気が良かったのでお金はたくさんもらいましたが、変なことに使いたくはなかったんです。会社の寮のそばに、ボクシングジムがありました。このジムで汗を流せば悪い誘惑に乗ることもないだろうと考えて、入門しました。
私は当時24歳。ボクサーとしては引退間際の年齢です。ジムの方も「金を払うならいい」という態度。で、なにくそと思ったんです。今に見てろ、と頑張ったね。
恩人との出会い
私はファイティング原田と同じ年なんです。原田が引退した69年に新人王になりました。チャンピオンになって、ぜいたくな暮らしをする。うまいものをたらふく食ってやる。そういうハングリー精神を持つのが普通ですが、私はそんなことはなかった。ジムの人を見返す。故郷の同級生で大学を卒業して「いい会社」に入った連中に負けたくない。その思いで練習しました。
69年に日本チャンピオンになりました。建設会社の社長は大のボクシング好き。私のことをとてもかわいがってくれて、「会社員としての給料は払うけど、会社に顔を出すだけで仕事はしなくていい。ボクシングに専念して頑張れ」と言ってくれました。その上よく瀬里奈(東京・六本木の高級料理店)に連れて行ってくれました。
ぜいたくをするために練習に励んだわけではありませんが、その成果で食べた瀬里奈の肉は本当においしく、今でも覚えています。(聞き手・写真=菊地武顕)
わじま・こういち 1943年、樺太生まれ。71年、世界ボクシング協会(WBA)・世界ボクシング評議会(WBC)世界ウェルター級チャンピオンに。かえる跳びなどの変則ボクシングで相手を翻弄(ほんろう)した。WBAで3度、WBCで2度王座に就いた。現在は輪島功一スポーツジムで後進を育成している。
日本農業新聞の購読はこちら>>
