最新ニュース
技術では捉え切れぬ自然 何を気付けるだろう 百姓・思想家 宇根 豊
私たちの行動や感覚は、いつも意識されているわけではない。例えば駐車場を離れ、ふと、車の鍵はかけてきたろうか、と不安になり戻ってみると、ちゃんと施錠している。無意識にかけたのである。
百姓仕事でも、身体は無意識に動くときが多い。手で田植えをしているときは、苗を挿す右手はかなり意識するが、苗をさばいて送る左手の指は意識しない。ところがけがをしていると、時々気になる。
無意識にやっているときは気付かないから無意識という。ところがそれに気付くときがある。その時に「ああそうか。無意識にやっていたのか」とはじめて自覚する。無意識とは、いつも意識の周りにあって、意識化され(気付かされ)て、現れる。
とある私の発見
実は、農が天地自然を守っているのは、無意識に行われているのではないか、というのが私の発見である。そのきっかけになったのは、もう数年前のことだ。田んぼの水を切らして、お玉杓子(たまじゃくし)を全滅させてしまった。「すまなかった、ごめんな。」とわびた。私たち百姓はお玉杓子のために、田んぼに水をためているのではない。稲のためだという意識である(草を抑えるためでもある)。しかし、お玉杓子が死んではじめて、お玉杓子のためにも、無意識にためていたことに気付いた。どうしてこんなに大切なことを、普段は意識しないのだろうか。
技術の定義としては、武谷三男氏の「技術とは生産過程における、科学的な(合理的な)法則性の意識的適応である」というものが最もよくできている。つまり、技術はどこまでも意識の世界にあるのだ。
しかし、百姓は「合理的な法則性を適応させよう」として身体を動かしているだろうか。もしそうなら、百姓仕事の最中に、時を忘れ、経済も忘れ、我も忘れて、天地自然に抱かれることはできない。無意識に身体を動かしている時が、つまり仕事に没頭しているときが、百姓にとっては一番の幸せだろう。それは無意識の世界だから、いいのではないか。
しかし、それに気付くことが、時々ある。そのきっかけは、①思い出すとき②他人から教えられたとき③異常な事態になったとき――である。
食べ過ぎた場合には、普段は意識していない胃という内臓を意識する。
食料の生産は、技術によって意識する。ところが、自然環境(多面的機能)を支える行為は、百姓仕事の無意識の部分によって、行われているのである。だからこそ、無意識にお玉杓子を育ててもいるが、殺してもいるかもしれない。
無意識は無責任
この無意識に天地自然を支えている仕事に、時々は気付くべきだ、と私は言いたいのだ。「多面的機能」という言葉で、責任を回避するのではなく、自分の仕事がどのように生きものの生を守り、あるいは殺しているのかを意識しようではないか。
そうすれば、これまでにない農の深い世界を家族や世間に伝えることができる。さて、あなたは何を気付くだろうか。
<プロフィル> うね・ゆたか
1950年長崎県生まれ。農業改良普及員時代の78年から減農薬運動を提唱。「農と自然の研究所」代表。農本主義三部作『農本主義が未来を耕す』『愛国心と愛郷心』『農本主義のすすめ』を出版。
[達人列伝 13] 泉州水なす 大阪府岸和田市・山本敏勝さん 根張り重視 高収量 東京進出貢献 若手の育成も
大阪府の泉州地域特産のブランド「泉州水なす」の主産地の一つ、岸和田市で、約30年にわたって栽培を手掛ける山本敏勝さん(73)は、一般的なナスに比べ収量が半分ほどとされる水ナスで、10アール当たり約16トンの圧倒的な高収量を実現する。約50人が所属するいずみの農協水茄子(なす)生産出荷組合でもトップの収量だ。繊細な水ナスの特性を踏まえた高い管理技術を学ぼうと、弟子入り希望者も多い。技術は惜しみなく伝授し、次世代の育成にも貢献する。
絞ると水が滴り落ちてくるほどのみずみずしさと、軟らかさが特徴の「泉州水なす」。大阪中央青果によると、一般的なナスに比べ、3割ほど高く取引される高級ナスだ。元々ミカン農家として就農した山本さんは、「ミカンではトップ産地に味で勝てない。泉州でしか作れない本当においしいものを作りたい」との一念で水ナス栽培を始め、技術を磨いてきた。
最も力を入れる土づくりでは、地域平均の2、3倍にもなる10アール当たり3、4トンの堆肥を投入する。1つ20キロある堆肥を扱う作業はさすがに骨が折れるが、毎年この作業を欠かさない。「若い農家は目に見える木の様子ばかり気にするが、大事なことはいかに根を張らせるかに尽きる」と力を込める。
探究心は人一倍だ。出荷時期は180日間休まずハウスに通い、収穫を一人でこなしながら状態を観察する。常に作物の3週間先をイメージし、かん水や追肥のタイミングを見極める。品質面でも、実需者である漬物業者のニーズを探ろうと、自ら漬物加工を手掛け栽培に生かしたこともある。
山本さんは、同組合の立ち上げ時から関わり、泉州地域での消費が主流だった「泉州水なす」を、腕利きの料理人らが集う東京都の築地市場で取り扱われる全国ブランドに押し上げた立役者の一人。今では、組合全体の出荷量の約1割が築地に出荷される。
ハウスには若手農家が市内外からやってくる。「これから一緒になすびを作る仲間なので、自分の技術は何でも伝えている」(山本さん)と話す。JAいずみの販売課の双和功課長は「中堅が少ないことが産地の課題。見本であり、若手を育ててくれる存在」と信頼を寄せる。(斯波希)
経営メモ
加温ハウス20アール、無加温ハウス15アールで「泉州水なす」を栽培する。いずみの農協水茄子生産出荷組合の組合長を務める。2012年には、第41回日本農業賞(個別経営の部)の大阪府代表に選ばれている。
私のこだわり
一番は土づくり。毎年、前作を振り返り、元肥の窒素成分の割合を変えている。
米価 3年続き上昇へ 1~5%高に設定 収穫前契約基準
JA全農が米卸に提示する2017年産米の収穫前契約の基準価格がおおむね出そろった。過去5年の平均取引価格を基に算出し、前年産から1~5%高を中心に設定。出来秋には作柄や需給環境を踏まえて上下10%の範囲で調整するが、このままいけば米価水準は3年連続で上昇に向かう。
トランプ政権 NAFTA再交渉 米農業団体警戒強める
米国の農業団体は、トランプ政権による北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の行方に警戒を強めている。メキシコとカナダは、米国農業の最大の“お得意さま”。乱暴なトランプ氏のせいで話がこじれれば輸出にブレーキがかかりかねない。一方で、再交渉の中では遺伝子組み換え(GM)作物の基準を米国にとって有利に見直すことも求めている。
大統領選を通しトランプ氏はNAFTAを「最悪の協定」と攻撃してきた。米国企業がメキシコに流れ、自動車など国内製造業が廃れる原因となったという理由だ。当初よりトーンダウンしてきたが、8月半ばにNAFTA再交渉を設定した。
「ロシアとの関係で政治的苦境に陥るトランプ氏に、NAFTA再交渉は数少ない前向きな話。ここで派手に立ち回られると、農業側は困るだろう」と米国の農業ジャーナリストは解説する。
米国最大の農業団体ファームビューローは6月12日の書簡で「米国内の農家、牧畜業者によるメキシコ、カナダ向け農業輸出は、NAFTA発効後に急増した」とし、NAFTAの枠組み維持を強く求めた。せっかく引き下げたメキシコやカナダの農産物関税が元に戻ったり、国境をまたいで統合が進んだ畜産ビジネスに障害が出たりすることを懸念している。
NAFTAを大きく修正しようという機運は3カ国の農業界全体としても乏しい。米国、カナダ、メキシコの農業担当閣僚は6月に「農業に関する(立場の)違いは比較的少ない」との共同声明を出した。各国の農業輸出がNAFTA後に増えた他、カナダは再交渉で自国の酪農政策に悪影響が及ぶのを警戒する。
ただ、米農業団体は再交渉が行われれば、自らの要求をちゃっかり反映させるつもりだ。ファームビューローは書簡でNAFTAを高く評価しつつ、「修正が必要な部分はある」と強調した。
その一つがGM作物の貿易。NAFTA加盟国の規制の違いにより、米国産の農産物の輸出に悪影響が出ないよう見直しを求めた。地理的表示(GI)保護制度についても、環太平洋連携協定(TPP)合意水準まで引き上げるよう要求。各地でGI保護強化を進める欧州の攻勢に、くさびを打ちたい意向だ。(特別編集委員・山田優)
納豆市場が急成長 16年 過去最高の2140億円 「国産使用」後押し
納豆の販売額が急成長している。全国納豆協同組合連合会(納豆連)の推計によると2016年の市場規模は、前年比16%増の2140億円と過去最高を記録。健康ブームに加え、国産大豆を使用した高価格帯商品の売れ行きの良さが、成長を後押ししている。国産の使用量は、3年で倍増した。商機と捉えた納豆メーカーは国産をPRした商品を投入。産地はメーカーと連携しながら、増産に乗り出している。
国産大豆の使用量は6年連続で増え続けている。10年の1万トンから16年は2万5000トン。原料に占める国産割合は、10%未満で長く推移してきたが、現在は18%と2割に迫る勢いだ。
産地を商品名に
ブームを受け、スーパーなどの小売店の納豆売り場には国産の商品が並ぶ。「北海道大豆スズマル」「宮城産ミヤギシロメ」「茨城小粒」などと、使用原料の産地や品種銘柄をパッケージで強調した商品が売り場を広げている。
北海道産大豆を使う納豆メーカーのあづま食品(宇都宮市)。スーパーからの要望が増え、現在、自社商品や小売り数社のプライベートブランド(PB)商品に道産大豆を使用した納豆を納品。国産をPRすることで、有利販売につなげている。
県内で契約栽培
国産というだけでなく、地場産を付加価値販売につなげる動きも目立つ。長野市の村田商店は、甘味があって発酵しやすい長野産大豆「ナカセンナリ」に着目。大豆品質について生産者と意見交換を重ね、県内JAの協力も得ながら契約栽培を進める。取り組みは奏功し、地元の学校給食やホテルなど事業用にも販路を広げた。村田滋社長は「地産地消は大豆や納豆生産の収益性向上に有効」とみる。
大豆産地を抱えるJA全農いばらきは「国産納豆用大豆の引き合いは非常に強い」と指摘する。10年前の納豆ブームでは、茨城産品種「納豆小粒」の高騰を受け生産が過剰になった経緯がある。近年は農家やメーカーと対話しながら、需要動向を意識した安定取引を強化。来期は「納豆市場の拡大に応えるため増産していく」(担当者)。
健康志向追い風
納豆連によると、「価格競争だけでは市場を縮める」との危機感から、製造業者や小売りは国産納豆の扱いを増やす傾向にある。松永進専務は「健康志向という追い風もあり、市場の拡大は一過性でない。確かな上昇基調にある」と強調する。(岡下貴寛)
[活写] ポテチなぜ赤?
長崎県が2009年に登録した、アントシアニンを多く含む赤いジャガイモ「西海31号」で作った、真っ赤なポテトチップスが人気だ。埼玉県八潮市の菓子メーカー、菊水堂が6月に限定生産し、すぐに完売した。
「新品種を発信したい」という農家の声を、野菜ソムリエの吉開友子さん(51)が同社に届け、製品化が実現した。雲仙市の農家が収穫した芋で6月上旬と下旬に2度生産した。「Lady j(レディー ジェイ)」と名付けホームページで予約販売すると最初の3000袋は6時間、次の5000袋は1時間で完売した。65グラム入り5袋が1500円。
次は来年1月に作る予定。同社の岩井菊之社長は「新品種を生かし、ジャガイモ消費拡大につなげたい」と話す。(木村泰之)
[花やいで 東北の農村女性] 第二の古里 魅力を発信 特産の包装デザイン 山形県小国町地域おこし協力隊 宮崎美穂さん
山形県小国町地域おこし協力隊の宮崎美穂さん(25)は、学生時代に培ったデザイン技術を生かし、特産品のオリジナル包装などを手掛ける。小国町に興味を持ってもらうことを追求し、目を引くデザインや地元の情報発信に力を入れる。
東京都出身。山形市の東北芸術工科大学で洋画を学んだ経験を持つ。都内の会社に勤めたが、以前から農村での暮らしに憧れていたことから、大学時代に慣れ親しんだ山形県内で職場を探していた。
同町が、特産品開発やPRができる人を協力隊として募集していることを知り、「絵の技術が生かせる」と思い応募。2016年2月に着任した。
町内の女性農業者らの特産品開発グループ「ミグリオグニ」に参加した。イタリアのパンの一種で、地元の米やタカキビを使った「グリッシーニ」の包装デザインを担当。実を付けたタカキビをかたどったロゴをデザインした。手軽に食べてもらえるよう、「つまむ穀つぶ」というキャッチフレーズを打ち出した。
「つい、友達にあげたくなるような包装を心掛けた」と振り返る。「グリッシーニ」は、やまがた土産菓子コンテストで知事賞を受賞している。
地元の業者が作るタカキビを使ったうどんを紹介するパンフレットも製作。タカキビ農家へのインタビューや、料理レシピを盛り込んだ。
一連の商品については、小国いきいき街づくり公社の特産品をPRするホームページ「おぐにもん」で紹介している。
宮崎さんは「商品のデザインや情報発信を通じて、小国町に興味を持ってもらい、行ってみたいと思う人を増やしていきたい」と思い描く。
<ここだけの話>
米や野菜を分けてもらうことも多く「気遣いが本当にうれしい」と振り返る。東京では弁当を買ったり、外食したりすることが多かった。「お裾分けをきっかけに、料理の楽しさを知りました。もう前の暮らしには戻れないですね」と話す。
[食農応援隊 大学生リポート](3) 留学生の「気付き」参考に 地域と世界をつなぐ 国際農業団体「AGLOC」
「地域と世界をつなぐ」をテーマに、神戸大学の学生が留学生を巻き込みながら、兵庫県篠山市で農業ボランティアなどを行っています。
なんだ、農家のお手伝いか、と思われるかもしれませんが、私たちはこの小さなことこそが最も重要と考えています。
留学生の「気付き」というのは、日本人には想像もつかないことがあります。「そこに疑問を持つのか」「そこが面白いのか」と、驚かされてばかりです。この小さな気付きこそ、農村の「グローバル化」に最も必要なものだと思うのです。実際、この気付きを基に、インバウンド(訪日外国人)需要の取り込みや特産品開発といった取り組みも進めています。
「グローバル化」。これはさまざまな分野で、昨今必要とされています。しかし、農村におけるグローバル化とは一体何なのでしょう。一見、農村すなわち地域は世界においていかれているように見えます。でも、本当にそうでしょうか。少なくとも、農村で活動する私たち大学生は、世界に通用するモノやコトが農村にあることを知っています。
私たちは、自分たちの力で農村のグローバル化が起こせるとは思っていません。ただ、いつの日か、この活動の輪が広がり、留学生と農村が手を取り合う日が来る。そう信じています。(代表・阿部大樹=神戸大学)
日欧EPA国内対策 政府 秋に取りまとめ
政府は14日、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉の大枠合意を受けて設置した「TPP等総合対策本部」の初会合を首相官邸で開き、国内対策の基本方針を決めた。本部長を務める安倍晋三首相は、日欧EPAと環太平洋連携協定(TPP)は成長戦略の切り札として「政府一体で総合的な対策を策定する」と表明。秋をめどに、TPP11の早期発効も視野に入れ、国内農業の体質強化策やEPAを活用した日本企業の海外展開の促進策などをとりまとめ、TPP関連政策大綱を改訂する。
首相 再生産確保を指示
安倍首相は、日欧EPAの大枠合意を受け「アベノミクスの新たなエンジンが動きだす」と強調。国内の農業対策について「守る農業から攻める農業に転換し、意欲ある生産者が安心して再生産に取り組め、若い人が夢を持てるものにしていく。万全の対策を講じていく」と述べ、具体策の検討を指示した。
会合では、対策の策定に向けての基本方針を決定。特に影響が想定される①チーズを中心とする乳製品②構造用集成材などの木材製品③パスタ・菓子④輸出環境の整備――などへの対応を柱に据えた。
これを受け、農水省は同日、省内にTPP等対策本部を設置。今後、日欧EPAの影響試算と対策の検討を行う。山本有二農相は記者会見で「効果的な対策を打つことによって影響はむしろプラスになるようにしていきたい」と述べ、試算には対策の効果を織り込む考えを示した。
一方、自民党は来週、日EU等経済協定対策本部(西川公也本部長)の会合を開き、党としての基本方針を決めて対策検討を本格化させる。
日欧EPAでは、TPPで関税を維持したソフト系チーズに最大3万1000トンの低関税輸入枠(枠内税率は段階的に引き下げ、16年目に撤廃)を設定するなど、一部品目でTPPを超える譲歩を余儀なくされた。
今後、酪農家向けに、チーズに適した生乳の品質向上を促す対策や、生乳の生産性向上・生産拡大対策を検討。チーズの製造設備の生産性向上なども支援する方向だ。
牛豚の経営安定対策事業(マルキン)の拡充の早期実施や、パスタの関税撤廃に伴うデュラム小麦のマークアップ(輸入差益)の引き下げ、加糖調製品からの調整金の徴収なども検討課題となる。
政府は大綱改訂を踏まえ、12月にも対策の裏付けとなる補正予算を編成する。TPPを巡っては、2016年度第2次補正予算に総額3400億円の農業対策費を計上していた。与党は日欧EPAが加わったことで一層の予算獲得を目指すが、財政事情が厳しい中で財務省との折衝は難航しそうだ。
[活写] めくると古里 未知の味?
徳島はスダチ、栃木はかんぴょう――。全都道府県の名物を使った“ご当地おにぎり”を描いたトランプが人気だ。
東京都渋谷区の玩具・雑貨会社アイアップの製品で、「おにぎりトランプ日本全国版」。一辺約10センチの正三角形のカード54枚に、裏面はのりを巻いた同じおにぎりを印刷。表面に具が見える状態の写真と、マークや数字を入れた。
表では材料なども解説。例えば青森の「菊香りおにぎり」は、ゆでた食用菊と、エダマメとシメジのいり煮の混ぜご飯を握っている。2枚のジョーカーは海外から伝わったキムチとチーズが具だ。
旅行中などに遊ぶグッズとして女性に受け、これまでに約1万セットを販売。最近は土産に買う訪日外国人が多いという。
開発に携わった同社の波賀麻里帆さん(34)は「めくって遊んで郷土の魅力を見直してほしい」と話す。価格は1512円。(木村泰之)
[未来人材] 33歳、育てた牛肉 レストランの目玉に 岡山県奈義町・豊福祥旗さん 社会的価値・魅力を伝え 子ども憧れる職業に
岡山県奈義町の豊福祥旗さん(33)は、牛の肥育をしつつ自身が育てた肉を出すレストランも経営し、多忙な日々を送る。願いである「農業の社会的価値」を引き上げるために自ら店に立ち、消費者に農業の魅力や農産物のおいしさを直接伝えている。
同町で交雑牛と和牛約170頭を飼育する。農家の3代目で、経営を引き継いでから店を立ち上げるため(株)オリジナルキューチを設立、役員を務める。2014年、岡山市にレストラン「QUCHI(きゅーち)」を開店。牛の管理もしながら週2、3日は店で接客する日々を送る。翌年には町内に精肉販売店もオープンさせた。
農家に生まれ「農業は汚い、しんどい、他の職業より劣っている」と思いながら育った。高校生になって家業に本気で向き合った時、「努力と技術でいろいろな変化を起こせる。一人一人が社長で、実は夢があって面白い」と気付き、自分が好きな地元が農業で成り立っていることも分かった。「農業の価値を高め、子どもが憧れる職業トップ10にしたい」と思うようになった。
情報があふれる時代に、本当の農業の価値を感じ取ることができるものは何か――。導き出した答えは「誇りを持って農業者自らが伝えていくこと」だった。生産するブランド牛「なぎビーフ」は主に関西に出荷され、県内での認知度は低い。そこで店でも「なぎビーフ」のステーキを提供し、魅力を発信する。
今後は同じ思いを持つ“農業を語れる”同世代を増やしていく。義務教育に農業が取り入れられることも目標に掲げる。夢はまだまだ尽きない。(柳沼志帆)
濁流浸水 酪農家悲鳴 九州豪雨 福岡、大分
九州北部を襲った豪雨で、酪農に欠かせない飼料に深刻な被害が出ている。濁流に漬かったため廃棄せざるを得ない。ほぼ全てが使えなくなった農家もいる。自給飼料と比べコストが3倍ほど高い輸入牧草で代替するしかなく、経営には大きな打撃だ。水に漬かった牛はストレスで乳量が落ちており、影響は長引きそう。酪農家はコスト増と収入減の二重苦に悲鳴を上げている。
「牧草がない」乳量大幅減・・・
草がない――。福岡県朝倉市。経産牛43頭と育成牛33頭を飼う岩下寿秀さん(42)の農場では、白いビニールでラップした飼料400個近くが濁流にのまれ、ほぼ全て使えなくなった。「自給飼料が経営を支えていた。今後どうすればいいのか」とうつむく。
当面はわずかに残った自給飼料でやりくりする。だが、いずれは輸入牧草に頼るしかない。県酪農協によると、輸入牧草は1キロ60円ほどで、自給飼料に比べ、3倍も高い。岩下さんは「飼料だけで数百万円のコスト増になる」とみる。浸水した機械の修繕費なども重くのしかかる。
飼料不足は今後も続きそうだ。土砂が流入し、岩下さんが手掛けていた牧草12ヘクタール、稲発酵粗飼料(WCS)4ヘクタールを含め、地域の多くの農地が被災した。今年のWCSは収穫できない恐れがあるだけでなく、次の作付けに悪影響が出かねない。
かさむコスト 経営圧迫
出費がかさむ一方、収入は減っている。被災ストレスで乳量が大幅に減っているためだ。岩下さんの農場では、牛の膝まで浸水。「泥でホルスタインだと分からないくらい真っ黒になってしまった」(岩下さん)。乳量は今も通常の7割ほどにとどまる。「影響は長引きそうだ」と心配する。
大分県でも同様の被害が出ている。日田市で乳牛230頭などを飼う本川耕三さん(66)は、道路が寸断された影響で牧草15ヘクタールのうち2.5ヘクタールを刈り取れない。道路の復旧には時間がかかるとみられ、割高な輸入牧草で代替するしかない。乳量も2割ほど減っている。
道路寸断の影響で集乳できず、やむを得ず生乳を廃棄する事例も福岡、大分の両県であった。集乳は現在、ほぼ正常化している。(松本大輔)
農薬に再評価制度 21年から 安全性欧米水準 農水省
農水省は13日、農薬の安全性を定期的に評価する制度(再評価制度)を2021年に創設する方針を明らかにした。農薬の登録後も、最新の科学的な基準で評価し直し、より安全性が高い剤の流通につなげる。再評価制度は欧米諸国も導入しており、制度の調和で日本の農薬メーカーの海外での登録を促し、農薬の輸出による販路拡大で単価の引き下げも狙う。実現へ、来年の通常国会にも農薬取締法の改正案を提出する。
スーパー 総菜販売を強化 対面式で試食 “爆盛り”提供
スーパー各社が総菜の売り込みに力を入れている。1人暮らしや共働き世帯の増加で中食市場が拡大したことに応え、利益率の高い総菜部門を強化。「デパ地下」のように試食可能な対面コーナーを設置したり、注文を受けてから出来たてを提供したりするなど、販売方法に工夫を凝らす。
イオングループのスーパーを運営するイオンリテール(千葉市)は、総菜売り場への専門店形式の導入を2015年から進めている。おにぎり、ピザ、サラダ、総菜など品目ごとに対面式の売り場を設置。デパートの地下食品売り場さながらの雰囲気だ。店員が試食を勧めながら対面販売し、オードブル作りにも応じる。サラダコーナーでは野菜とドレッシングの組み合わせをリクエストでき、ピザは注文後に焼き上げる。通常の総菜商品に比べ、価格は若干高めに設定する。
「5月に導入した新浦安店(千葉県)は総菜が好調で、6月の食品売上高は昨年の3割増し」と同社。運営する約400店の1割に導入済みで、さらに拡大する方針だ。
ボリュームたっぷりの「爆盛り」を売りにするのは、千葉県が地盤のスーパー・てらお食品(八千代市)。唐揚げ888円(1.1キロ)、焼きそば777円(1.8キロ)、いなり699円(30個)と、1000円以下の価格設定で量感を充実。野菜や肉など素材の大半を国産にこだわる。
共働き世帯を中心に固定客をつかみ、売れ筋の唐揚げは多い日に50パックを売る。八千代市内の店を訪れた50代の女性は「日常的に購入しており、家族で分け合う」と話す。
埼玉県を拠点とするヤオコー(川越市)は、自動券売機を用いた注文提供を一部店舗で始めた。3月に改装した南古谷店(同)では券売機を設置し、客はチケットを購入して注文する仕組み。メニューは天丼や海鮮丼など丼物中心に、650~880円で販売する。
日本惣菜協会によると、16年の中食市場は前年比2.7%増の9兆8399億円で、7年連続の伸び。1人暮らしや共働き世帯の増加を背景に、スーパーやコンビニエンスストアの総菜が好調だ。ここ10年で市場は3割拡大した。
修正 踏み込まず 来月下旬にも再協議 TPP11首席会合
環太平洋連携協定(TPP)署名11カ国は13日、2日間の首席交渉官会合の日程を終えた。米国離脱を受けて合意内容をどの程度修正するかについては具体的な議論には入れず、先送りした。次回の首席交渉官会合を8月下旬にもオーストラリアで開き、再び議論するが、修正の程度には各国の思惑があり、米国抜きのTPP発効は依然見通せない。
全体会合は、神奈川県箱根町で12日から2日間の日程で開催。米国抜きのTPP発効に向け、合意内容をどの程度修正するかが焦点だった。
だが、今回全体会合では、個別の議論に入れば各国から修正要望が相次ぎ収拾がつかなくなるため、まず議論の進め方や基本的な方向性を確認するにとどまった。
今後、首席交渉官以下のレベルで関税やルールなど分野ごとに修正の是非を検討し、次回の首席交渉官会合で議論する。梅本和義首席交渉官は終了後、記者団に「(11カ国の協定が)どういう形になっていくのか、ある程度イメージはできた」と成果を強調した。
交渉関係者によると、合意内容をどの程度修正するか、隔たりは大きいままだ。11カ国による早期発効を実現したい日本やオーストラリア、ニュージーランドは小幅な修正にとどめたい考え。シンガポールも同じ立場に転じつつあるという。だが、会合では一部の国から、医薬品のデータ保護期間など米国が各国に譲歩を迫った部分の修正要望も出たもようだ。
米国抜きのTPP発効を巡っては、日本は農産物関税部分で課題を抱える。バターと脱脂粉乳でTPPの国からの輸入に対して、低関税を適用するTPP枠については11カ国が先に枠数量を満たし、離脱した米国が別途、市場開放を迫る懸念がある。各国からは関税部分は修正すべきではないとの意見が多く出ており、どう国内農業に影響を防ぐ手立てを見いだすかも、今後の大きな課題となる。
14日には、日本が次の議長国オーストラリアなどと今後の進め方について議論する。
林業にICT活用じわり 森林GISで効率化 現地調査や照合不要に 北海道の自治体
農業分野だけなく、林業でも情報通信技術(ICT)の活用が進んでいる。特に森林管理では、白地図の台帳を使う自治体が多い中、飛行機で撮影した画像を地理情報システム(GIS)で処理し、所有者の情報や樹種などをパソコンですぐに確認。伐採計画などを効率的に立案できるようにした。ドローン(小型無人飛行機)を使った省力的な森林管理を始める自治体も出ている他、台風被害の把握にもドローンが活用されている。
新野菜「トルコナス」順調 白さ 売り 共販拡大 4市場へ 神奈川・JAさがみ
神奈川県のJAさがみ管内の若手生産者らでつくる「マーケティングチーム茅ヶ崎地区」が生産する新野菜「トルコナス」の共販出荷が順調だ。市場や消費者からの反響も上々。今後、一層の普及を目指していく。
20、30代若手農家 チームで新規開拓
同チームは、新野菜の栽培・出荷により市場開拓を目指し、20、30代の若手農家3人が2015年に結成した。これまでも「マー坊ナス」「福耳とうがらし」などの出荷を手掛けてきた。昨年は「縞(しま)むらさき」と「トルコナス」の2種類を栽培・出荷。「トルコナス」の反応が良かったため、今年は「トルコナス」1本に絞った。
栽培本数を、昨年の90本から今年は1080本に大幅に増やし、出荷先も4市場に拡大。JAではさらなる拡大を目指す。6月下旬から出荷を始め、新しく取引を始めた市場でも反応は良い。県西地区では料亭で利用するところも出ている。
同チームの清水俊朗代表は、520本の「トルコナス」を栽培している。白くつやのある皮が特徴のため、1個ずつ皮を拭いてから段ボール箱に詰める。とげが鋭いので、出荷時に傷を付けないように気を使う、長持ちするよう古新聞をクッションにして荷造りする。
出荷規格も、消費者が食べやすいサイズに変更した。小ぶりのうちに収穫するため、ナスの株が疲れず収量も期待できるようになった。
もともとナス栽培が盛んな地域だったこともあり“茅ヶ崎の白いナス”が名産になれば、地域の活性化につながると期待する声も出ている。
清水さんは「ナスは白いものだ、といわれるくらいに普及させたい」と意気込んでいる。
園芸5品目栽培 地元に見守られ就農 新潟県小千谷市 金崎優さん(31)
新潟県小千谷市の金崎優さん(31)は今年、Uターンで自家就農を果たし、小玉スイカやカリフラワーなど園芸5品目の栽培に奮闘している。金崎さん家族が、園芸作物を本格導入するのは初めて。米と園芸作物の組み合わせで安定した経営を目指す。
小千谷市園芸振興協議会やJA越後おぢやは、園芸作物を新しく始める若者を積極的に支援する取り組みを始めた。金崎さんは、こうした支援対策の第一号のうちの一人といえる。
金崎さんは2017年4月に就農。基礎知識や実践的技術は2年ほどかけて、地元の農業生産法人で習得した。「食を通じ感動と健康」を目標に掲げ、名刺にも刷り込んだ。
園芸作物の作付面積は50アールで、小玉スイカやメロン、カリフラワー、ニンジン、サツマイモといった同市を代表する野菜を取り入れた。現在はスイカ、メロンの着果表示や摘果に追われている。主力はカリフラワーの35アールで、4品種を7回転することで、9月上旬から11月中旬まで長期出荷を計画する。作物の出荷は、同JAの出荷組合を通じて行う。稲作は、父が担当するため、作業競合はない。金崎さんは「まずは、品質の良いものを安定生産する。自分で納得できる野菜を出荷したい」と意気込みを見せる。
園芸産地の維持・発展へ、金崎さんに対する周囲の期待は大きい。園芸作物に求められる高い栽培技術は、同協議会に所属するベテラン農家がアドバイス。JAや県長岡地域振興局小千谷分室も全面的に支援する。
JAの経済事業改革 担い手8割 姿勢評価 農水省調査
農水省は農協改革の一環で行っている、担い手の意向調査の結果を初めて公表した。JAが事業改革で「具体的な取り組みを開始した」「検討している」と答えた担い手の割合の合計は2017年度で販売事業は79%、購買事業は78%で、約8割の担い手がJAの取り組み姿勢を前向きに評価した。前年度の調査に比べ、いずれも増加した。経済事業改革の進み具合は、政府による准組合員規制の是非の判断基準となる。JAは改革の一層の具体化で、担い手が納得感を得られる成果を上げることが求められる。
米抜き発効へ議論 合意内容修正に温度差 TPP11首席会合
環太平洋連携協定(TPP)署名11カ国は12日、首席交渉官会合を神奈川県箱根町で開き、米国抜きのTPP発効に向けた議論を始めた。日本は合意内容の修正をできる限り小幅にとどめたい考えが主流だ。だが、日本が欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)で一部農産物でTPPを超える自由化に踏み切ったことで、合意内容の修正を求める声が勢いづく可能性もあり、先行きは不透明だ。
TPP署名国は5月のベトナムの閣僚会合で、早期発効を目指すことを確認。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに、11カ国で先行発効する具体的な方法や米国の復帰を促す方法をまとめ、閣僚に報告することにしている。
議長を務める梅本和義首席交渉官は12日の全体会合の冒頭、「(11月という)目標に向けて議論が前進できるよう全力を尽くしたい」と語った。全体会合は13日までの予定。14日は各国と個別協議を行う。
全体会合では、発効方式について議論した。最終的に米国が復帰し12カ国による発効を目指しつつ、まずは11カ国で発効させるには法技術的な課題があるとの指摘が各国から出たため、法律の専門家が検討を行った。交渉関係者によると、過去には有志国で暫定発効した国際協定もあるが、TPPのように2段階で発効を目指すのは、技術的に難しいという。
日本が各国と行った水面下の調整では、合意内容の修正をどの程度行うべきかで、各国の思惑の違いが露呈。議長国の日本などは11カ国で早期発効を実現するために最小限の修正にとどめたい考えだが、ペルーなどは米国が強く譲歩を迫った医薬品などルール部分を見直すよう求めている。日本国内にも、米国と将来の2国間交渉を想定して、農業分野の合意内容を見直すべきとの意見が出ており、今後の検討課題になっている。
