岡ゆう子さん(歌手) 野菜料理が楽しい 母の漬物思い出し
稲刈りの時には、4人のきょうだいが両親を手伝いました。今と違って農機具はそんなになかったので、鎌でやっていましたね。もう一つ思い出すのが、夏の消毒。暑い中、父と母がマスクをして田んぼの端と端で長いホースのようなものを持って薬をまいていました。大変だなあと子ども心にも思いました。
母は畑仕事をするのが一番好きで、小さい体で朝から夜まで畑にいました。家で食べる四季の野菜は母が作ったものでした。
また近所の人によると、漬物を漬けたらうちの母に並ぶ人はいないそうで、皆、喜んで母の漬物を食べていました。夏はキュウリの古漬け作り。塩もみをしたのを重石で大きなたるに漬け込んで、毎日出てきた水分を捨ててまた塩を。一年中腐らない保存食でした。山菜、タケノコ、梅やラッキョウも漬けていましたね。
おやつも母の手作り。おまんじゅうやぼた餅を作ってもらいました。時にはよもぎまんじゅうだったり。今考えますと、これほど貴重な自然食のおやつはありませんね。
年末になると、餅つきをしました。きねと臼でついていたんです。
親戚が有明海でノリの養殖をしていて、忙しい時期には母は手伝いに行ってました。
有明海には珍しい魚や貝がたくさんいます。ムツゴロウ、ワラスボ(共にハゼ科の魚)、ヒラメに似たクチゾコ、二枚貝のウミタケなども食べていました。有明海には白身の魚が多くて、私は東京に出るまで赤い身の魚は食べたことがなかったですね。
家で作ったお米と野菜、地元の有明海のノリと魚で育ったためでしょうか。仕事で全国を回るようになってからは、その土地ならではの食べ物を食べたいという気持ちが強くて、行った先の名産品を楽しんでいます。
北海道は野菜も魚もおいしいですけど、特に忘れられないのは島牧村で食べたイカ。朝ご飯に取れたてのイカが出て感動しました。
山形で食べたヒメタケノコも忘れられません。山形ではコゴミ、ワラビといった山菜、シメジやエダマメも良いですし、お土産に頂いたおみ漬けという青菜の漬物のおいしかったこと。その土地を離れるにあたって名残惜しくて、帰りの駅や空港では必ず食事することにしています。大阪ならたこ焼き。名古屋ならひつまぶしとみそ煮込みうどん。新居浜のじゃこ天。福岡では、駅ならめんたいこの入った駅弁を買いますし、空港なら搭乗口を入ってからの通路にある小さな店でうどんを食べます。
名産品の料理を楽しむだけでなく、地方の野菜を食べたいという気持ちも強いんです。行く先々で道の駅に寄って野菜を買い、車のトランクいっぱいに積んで帰ってきます。トランクには着物が入っているんですけど、その横に詰め込むんですよ。買ってきた野菜を料理して食べるのが楽しくて。母のまねをして作る漬物に使うこともあります。一緒に食べるご飯もおいしいんですよ。
お米は実家の田んぼを継いだ兄が送ってくれる「ヒノヒカリ」。それと仕事でご縁のできた茨城の方が、献上米の田んぼの隣の田んぼで作ったお米を送ってくれるんです。農家の苦労を知っているだけに、一粒も残さずに食べています。(聞き手=菊地武顕)
おか・ゆうこ 佐賀県生まれ。1979年に「博多の女」でデビュー。全国の市町村から依頼を受けて吹き込んだご当地ソングは400曲を突破し、「歌う日本地図」の異名を取る。2013年に発売した人気曲「九州慕情」は福岡・長崎・鹿児島を舞台としたものだが、このたび他県も巡る新たな詞を付けた九州全県制覇の新盤を発売した。