迫文代さん(元リポーター、カレー店店主) そのままを食べる 素材の良さが一番
酒のつまみは、必ず刺し身でした。母親はスーパーではなく魚屋に行って、新鮮なアジやサバやタチウオを買い、刺し身包丁で三枚におろして出していました。
それとうちの父親は畑仕事が趣味だったので、取れたての野菜、曲がって太くなったキュウリとかインゲンなどもお酒の席に出ていました。
私はテレビ「なるほど!ザ・ワールド」のリポーターとして、世界60カ国に行きました。どちらかというと辺境の地が多かったわけですよ。よく皆さんから「ゲテモノを食べてましたよね」と言われるんですけど、まさしくその通りでいつも大変でした。でも一番しんどい撮影は、パリ・ダカールラリーの取材だったなあ。
フランスのパリを出発してアフリカ大陸に渡り、セネガルのダカールまで2週間かけて走る。世界で一番過酷なラリーです。それに番組が、なるほど号というラリー車で参加したんです。私たちはその様子を取材車で追い掛けたわけ。
食事はその日に渡される缶詰とクラッカー。お風呂にも入れない。そんな中で2週間も過ごすと、参加者の本性とかも出てきて、人間関係も大変だったんですよ。
最終日。今までずっと何もない砂漠地帯だったのが、ピンクレイクというピンク色の湖を見ながらゴールするんです。感動しつつ思ったのが、白いご飯に焼き魚を食べたい!だったんです(笑)。
「なるほど」を終えてからは、時代の流れでグルメもののリポートがものすごく多くなったわけです。数千軒もの名店を取材しました。
今でも忘れられないほどおいしかったのは、北海道の羅臼でサケの漁船に乗った時。朝の暗いうちから水揚げに同行したんです。大きな網を引き上げると、いろんな魚が大量に入っているんですね。
その中に1匹か2匹、幻の魚といわれる鮭児(けいじ)がいて。普通のサケとは違って、頭が丸くて体も小ぶりで、青々とした感じなんです。そのカマの部分に塩を振って焼いたのが、本当においしかったのよ。品の良い脂の乗りで言葉で表現できないくらいおいしかった。
要は、旬のものをあまり手を加えずに食べるのが一番ということ。素材の良さが決め手ですよね。
私は50歳の時に、神奈川・鎌倉でカレー店を始めました。カレーに付けるサラダには、鎌倉野菜を使っています。うちから歩いてすぐのところに野菜の市場があるので、毎朝買いに行っています。鎌倉野菜の良いところはたくさんあるけど、種類が豊富なことも魅力。葉物だけでも10種類、この時期だとダイコンも10種類くらい出ています。
お米は天日干しにしたものを使います。食べた時に甘味があるじゃないですか。おいしいんですよ。
丸一日働いた後は、充実感と程よい疲労感に襲われます。なので晩餐(ばんさん)は欠かせません。焼酎を飲みながら食べるのは、刺し身と焼き魚。近くのスーパーは、午後6時になると3割引き。7時になると半額になることもあるのでとってもありがたい。
それと朝に市場で買ってきた鎌倉野菜があれば、本当に幸せ。私、酒のつまみを作るのが得意なんです。作る料理はみんな酒のつまみ。晩酌をしながら、自分には父のDNAが流れてるんだなあとしみじみ思います。(聞き手=菊地武顕)
さこ・ふみよ 1954年、長崎県生まれ。日本女子大学を卒業後、81年にテレビ朝日にアナウンサーとして入社。退社してフリーに転身してからは「なるほど!ザ・ワールド」「スーパーニュース」などで、リポーターとして活躍。グルメ取材で食べた東京・銀座のバーのカレーに触発されて、2010年にカレー店「copepe」を開業した。