大雨 またも被害 ハウス、水田 冠水多発 福岡県久留米市
2019年07月23日

浸水の影響で黄色くしなびたキュウリの葉を見つめる八尋さん(22日、福岡県久留米市で)
九州北部を中心に降り続く大雨で、福岡県JAくるめ管内の広範囲に農業被害が生じていることが22日、分かった。複数の地区でハウスや水田が冠水。作物の収穫を断念したり、機械が故障したりする事例が相次いでいる。収入が減り、出費が増える二重苦の状況だ。管内では昨年7月の西日本豪雨でも同様の被害が出た。生産者は2年連続の災害に落胆する。
久留米市北部の33アールでキュウリを栽培する八尋義文さん(52)は、変色した葉を前に「昨年と同じ。本当に大変だ」と嘆く。一帯は一時、膝の高さまで冠水。ハウス内には水が残り、土はひどくぬかるむ。昨年、同じように水に漬かったキュウリは枯れてしまったといい、今年も本来なら9月まで見込める夏秋時期の収穫を断念する。収入は500万円減る見通しだ。
炭酸ガス発生装置や加温機なども浸水被害に見舞われた。昨年の豪雨で故障し、300万円かけて買い替えたばかり。追い打ちをかけるような状況に八尋さんは落胆し、「冬までに機械を新調できるよう、行政は早めに手を打ってほしい」と訴える。
昨年は浸水しなかった地域でも被害が出た。JA小松菜研究会副会長、岡光輝さん(46)が手掛ける同市西部のハウス66アールでは、全ての小松菜が泥水をかぶり、廃棄せざるを得なくなった。被害額は1000万円近くに上る。再び収穫するには2カ月ほどかかる。「まさか、こんなことになるなんて」と困惑する。
同市では21日、24時間降水量が観測史上最多を記録し、冠水被害が多発していた。JAは22日、管内の農業被害を調査したが、同日も断続的に強い雨が降っており、全容は分かっていない。
久留米市北部の33アールでキュウリを栽培する八尋義文さん(52)は、変色した葉を前に「昨年と同じ。本当に大変だ」と嘆く。一帯は一時、膝の高さまで冠水。ハウス内には水が残り、土はひどくぬかるむ。昨年、同じように水に漬かったキュウリは枯れてしまったといい、今年も本来なら9月まで見込める夏秋時期の収穫を断念する。収入は500万円減る見通しだ。
炭酸ガス発生装置や加温機なども浸水被害に見舞われた。昨年の豪雨で故障し、300万円かけて買い替えたばかり。追い打ちをかけるような状況に八尋さんは落胆し、「冬までに機械を新調できるよう、行政は早めに手を打ってほしい」と訴える。
昨年は浸水しなかった地域でも被害が出た。JA小松菜研究会副会長、岡光輝さん(46)が手掛ける同市西部のハウス66アールでは、全ての小松菜が泥水をかぶり、廃棄せざるを得なくなった。被害額は1000万円近くに上る。再び収穫するには2カ月ほどかかる。「まさか、こんなことになるなんて」と困惑する。
同市では21日、24時間降水量が観測史上最多を記録し、冠水被害が多発していた。JAは22日、管内の農業被害を調査したが、同日も断続的に強い雨が降っており、全容は分かっていない。
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日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。
同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。
同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。
政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。
発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。
協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。
今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。
日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。
政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。
政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
国内対策 農家規模問わず
政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。
改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。
自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。
改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。
農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。
TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。
参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。
国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。
協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。
ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。
衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。
一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。
さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。
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2019年12月05日
農山村と関係人口 「関わりしろ」広げ育もう
住んでいなくても地域や住民といろいろな形で継続して関わる「関係人口」。三大都市圏では居住者の4分の1近くに上る。この流れを確かなものにするため、地域と関わる伸びしろ、「関わりしろ」を広げていこう。地域外の人との交流を育み、関係人口を農山村の担い手や応援団につなげたい。
国土交通省は11月、首都圏、近畿圏、中京圏に住む2万9254人にインターネットで行った関係人口に関するアンケート結果を公表した。関係人口に当たる「日常生活圏や通勤圏以外に、定期的、継続的に関わりのある地域を訪れている」と答えた人は24%。「地縁、血縁先の訪問」10%、「盆や正月に帰省」3%だった。
地域との関わり方は多様だ。調査結果から同省は、買い物や趣味を楽しむ「余暇型」、住民との交流や体験に参加する「参加交流型」、農林水産業への従事や副業など「就労型」、地域づくりへの参画など「直接寄与型」に分類。地域を訪れなくても、首都圏での販売促進を手伝うといった関わり方もある。
農山村には、この流れをどう捉えるかが問われる。訪れる人が気軽に農家と話せる場をつくったり、祭りや運動会への参加を呼び掛けたりするなど、都市住民が地域を訪れ、住民と出会う機会を増やし、関心を寄せる層を広げる仕掛けが必要だ。
離れた場所に住む人が草刈りや祭りを担うなど、地域に欠かせない存在になっている小規模集落もある。例えば、世界遺産で有名な石川県輪島市の「白米千枚田」。地元農家はわずか1戸で、周辺住民、行政やJA、大学生や都市住民らが協働で棚田を守り続けている。
地域側が注意したい点は、関係人口は「人口」という言葉が付いているものの、人数を増やすことにとらわれると対策を間違えるということだ。住民がおもてなしをするだけで終われば、地域は疲弊してしまう。地域に共感し行動する人になってもらえるよう、一人一人との関わりを大切にしたい。
一方で、農山村を訪れる都市住民も、棚田や里山などの感動する景色は、脈々と続く人々の日々の営みがあるからだということに思いをはせてほしい。地域住民と関係人口が理解し合うことが欠かせない。
関係人口を育むことは地域農業やJAにとっても重要だ。就農を目指さなくても、農業に関心を持っている若者との接点づくりを始めよう。専業農家以外の若者と関わるJAには、気付きを得たり新たな発想や交流が生まれたりしている。
国交省の調査では、特定の地域と関わりのない人のうち3割が、居住地以外の地域と何らかの形で関わりたいと希望していた。「関わりしろ」を求めていることがわかる。
人手不足、担い手不足が農業・農村の課題だ。関係人口を育む、その視点が農山村再生の鍵になる。
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2019年12月01日

ディスカバー農山漁村の宝 個人賞に上乗さん(石川)
政府は3日、地域の資源を活用し、活性化につなげている地区を表彰する第6回「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」のグランプリに、天然ワカメ商品などを手掛ける島根県大田市の魚の屋を選んだ。今回から選定方法を一新。地域で活躍する人材を表彰するために新設した「個人賞」には、子どもが里山の自然を体験できる環境づくりなどに携わる石川県能登町の上乗(じょうのり)秀雄さん(75)を選んだ。
団体・法人向けの表彰では、所得向上や雇用創出につなげている「ビジネス」、地域活性化に貢献する「コミュニティ」の2部門を新設。両部門からグランプリを選出した。
個人賞に選ばれた上乗さんは、故郷の里山を再開発し、子ども向けの自然体験村「ケロンの小さな村」を創設。さらに耕作放棄地を活用して生産した米を米粉にしてパンやピザに加工、販売し、大人の来場にも結び付けた。年間5000人が訪れる施設を作り上げ、地域のにぎわいづくりに貢献した点が評価された。
同日、首相官邸に選定地区を招き、グランプリなどを発表した。安倍晋三首相は「人の努力や活躍があって地域や日本が元気になる。地域だけでなく人の魅力にもスポットを当てて発信したい」、江藤拓農相は「今の農政は産業政策よりも地域政策が大事という議論が盛んにされるようになってきた。一緒に頑張っていきたい」と話した。
コミュニティ、ビジネス両部門では、準グランプリも選出した。受賞者は次の通り。
コミュニティ=北海道立遠別農業高校(北海道遠別町)▽上山市温泉クアオルト協議会(山形県上山市)
ビジネス=山上木工(北海道津別町)▽杉本製茶(静岡県島田市)
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2019年12月04日

[岡山・JA岡山西移動編集局] リスク診断 県トップ800件 災害への備え万全に
異常気象による自然災害が増えているため、岡山県のJA岡山西は、2019年度から農業者へのリスク診断に力を入れている。JA共済連岡山によると、11月末現在でリスク診断を受けたのは県内JAでトップの800件。農業経営へのリスクを“見える化”することで、農業者の意識改革につなげる。
農作業中のけが、自動車事故、農業用施設の損壊、自然災害による収入減少など、農業者を取り巻くリスクは増大・多様化している。リスク診断は、16年度にJA共済連が開始。18年度に導入したシステムでは業種や経営規模などを選択すると農業経営に応じたリスクが表示され、被害を減らす対策や共済・保険などを紹介してくれる。
18年7月に西日本豪雨で甚大な被害を受けたJA岡山西では、防災意識の高まりを受け、JAがリスク診断を提案したところ、診断を希望する農業者が多かった。
2日にリスク診断を受けた倉敷市の岡本彰夫さん(48)は「災害や事故は起きてみないと分からない。最悪のことを考えて備えることが大切」と実感した。90アールでブドウ「ピオーネ」「シャインマスカット」などを栽培するが、診断で畑にある倉庫が共済対象になることを知った。西日本豪雨では被害を免れたが、リスクを把握し備える大切さを痛感したという。
JA共済部の高杉博部長は「一件でも多く診断をすることで、経営を取り巻くリスクを知らせ、ニーズに応じた対策を総合事業の強みを生かして提案したい」と、農業者の意識の変化を歓迎する。
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2019年12月06日
メガFTAと食肉 影響見据え対策加速を
大型自由貿易協定(メガFTA)の影響が心配される食肉の動向から目が離せない。輸入の増加は依然として続き、国産の相場は弱含みで推移している。関税引き下げの影響が出るのはまだ先だとみられていたが、生産者・産地と政府、業界は警戒を強め、生産・販売対策を加速させる必要がある。
環太平洋連携協定(TPP)は昨年末に発効し、今年2月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効した。牛肉、豚肉などの食肉は、関税引き下げによる国内への影響が最も心配された分野だ。深刻になるのは税率の下げ幅が大きくなる5年後、10年後との見方もあるが、そう悠長に構えてはいられない状況が出始めている。
最大の要因は食肉輸入の増加が止まらないことだ。豚肉は、2017年に93万トンと過去最高を記録し、昨年も横ばいの高い水準だったが、今年は10月までの累計で17年同期を既に4万トン上回った。過去最高を更新するのは確実な情勢だ。TPP、EPAともに2回の引き下げで従価税が1・9%へと2・4ポイント削減されたが、予想を超える輸入ラッシュとなった。
背景には、日本市場でのシェア争いが早くも始まっていることがあるとみられる。特に、この10年で対日輸出量を2倍に増やし、シェアを3割に高めたEUが今年の増加の一因だ。TPP、日欧EPA加盟国はいずれも、前年を上回っており、最大の輸出国の米国だけが前年を下回っている。
輸入が増えているのは豚肉だけではない。牛肉も、10月までの累計が、この20年間で最も多かった18年をわずかとはいえ上回っている。従来9割を占めてきたオーストラリアと米国の二大輸出国が前年を下回る中で、TPP加盟のカナダ、ニュージーランドなど新興国が追い上げている。鶏肉も10月累計で過去最高水準の輸入量となった。
食肉輸入の増加は、国産の枝肉相場に影響を及ぼし始めている。豚肉は1年ほど前から国産豚の生産回復に輸入の増加が追い打ちを掛け相場低迷となった。今年は回復の兆しが見え始めたが、夏場から輸入増で、再び弱含みの展開となっている。鶏肉相場、和牛相場も似たような構図だ。
これまで枝肉相場を大きく左右してきたのは国内の景気動向だ。この10年ほどでは、リーマン・ショック、東日本大震災が相場低迷の要因となった。この5年ほど大きな景気後退もなく、相場は安定するはずなのだが、輸入の増加で相場はますます不安定なものとなっている。
TPP、EPAに加え来年1月には日米貿易協定も発効の見通しだ。抑制効果を発揮してきた牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置)は、TPPからの米国離脱でほとんど期待できない。関税という防波堤が低くなる中、それを越えて食肉輸入が増えるのは先のことではない。始まっているとみるべきだ。
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2019年12月02日
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ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 農業も登山も全力投球 倉敷市の小原正義さん
岡山県倉敷市の小原正義さん(40)は、米の生産と餅加工で年間2300万円を売り上げるコアラファームの代表と、登山ガイドの二足のわらじを履く。今秋には、県内の農業振興や農村の活性化に貢献する青年農業者に贈られる「矢野賞」を受賞した。
実家は水稲農家で農業や自然への関心が高く、大学卒業後は8年間、長野県の奥穂高岳の山小屋で働いた。「農業だけでは生活ができないと考え山登りも仕事につなげようと思った」と小原さん。2010年に日本山岳ガイド協会の登山ガイドの資格を取得した。
同じ年に親元就農した。米で収益を上げるビジネスモデルを模索し、生産・販売から餅加工を一体的に行う経営に行き着いた。餅は年間15・9トンを製造。自家栽培の特別栽培米「ヒヨクモチ」を使って、「倉敷・八十八俵堂」の独自ブランドで販売している。
JA岡山西直売所の出荷仲間の紹介などで地道に顧客を増やし、倉敷市のふるさと納税返礼品に採用されている他、JA直売所や県内スーパー、インターネットなど多方面に販路を拡大。売り上げの9割を占める経営の柱になった。
小原さんは「登山も農業も自給自足が原則。通じるところが多い」と話す。山小屋勤務での接客や大工仕事、道路の舗装、水道工事などの経験が、農業経営に役立っているという。
経営が安定した15年からは、農閑期の7、8月に北アルプスや大山などで月10日程度の山岳ガイドも務める。19年は大山ガイドクラブ代表に就任し、山小屋の経営を始めた。
「日常を幸せにする農業、非日常を楽しむ登山」と、どちらも全力投球する。「20代は山、30代は農業に打ち込み、土台を作れたと思う。農業者、登山家として一層レベルアップしたい」と話し、40代を楽しむ。
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2019年12月05日

行動起こす一歩大切 酪農女性340人経営ヒント学び合う 北海道でサミットファイナル
全国から酪農に携わる女性が集い、経営や技術などを学ぶ「酪農女性サミット」が3日、北海道帯広市で始まった。酪農女性ら340人が参加し行動を起こすことの大切さや、今後のあるべき姿などを話し合いながら交流を深めた。4日まで開く。
サミットは2017年から北海道で年1回開かれ、3回目の今年が最後の開催。酪農家の女性が互いに学び語り合い、女性も楽しく仕事ができる酪農を目指そうと、酪農家の女性自らが企画・運営してきた。
「酪農女性のモチベーションUP!講座」と題したトークセッションでは、経営の最前線で活躍する女性たちが登壇した。
オランダで酪農家と結婚したニューランド伏木亜輝さん(43)は、酪農経営は義父と夫が行い「牧場に自分の居場所がない」と悩んでいたことを話した。自分のやりたいことは何かを考えた結果、日本からの研修を受け入れる事業を始めたことを紹介。「少しでも考えたらアクションを起こしてみて」と会場に呼び掛けた。
北海道大樹町で経産牛600頭を飼育する「カネソファーム」の金曽千春代表は、15歳で酪農家の実家を継ぐ決意をした生い立ちを披露した。経営者として先代からの思いを受け継ぎ、次の世代につなぐことで「酪農の未来は明るい」と語った。
酪農以外では、神奈川県藤沢市で野菜を栽培する「えと菜園」の小島希世子代表が、ホームレスや引きこもりの人に農作業を体験してもらい、農家への就職などにつなげる取り組みを紹介した。
「後継者不足に悩む農家と、働きたくても働けない人を結び付けたいとの思いから始めた」と話した。「農業は裾野が広い。適材適所を見つければ、人の才能を伸ばせる産業だ」と農業の可能性を訴えた。
サミットはJA全農、日本コカ・コーラが共催。中央畜産会が後援した。4日は帯広畜産大学の仙北谷康教授が酪農所得や共済について話す他、参加者同士がモチベーションを保つ工夫を話し合う。
成果 農場で実践を 参加者3倍に、注目実感
<初回からの実行委員長 砂子田円佳さん>
北海道内の酪農女性が企画・運営し、全国から酪農に携わる女性らが年1回集う「酪農女性サミット」。これまで全3回の実行委員長を務めてきた広尾町の酪農家・砂子田円佳さん(36)にサミットを始めた経緯や思い、成果などを聞いた。
──開催したきっかけを教えてください。
女性酪農家が話すパネル討論にパネリストとして参加した時、参加者から「これだけ頑張っている人がいるなら酪農女性が集うサミットを開いたらどうか」という意見が出て、酪農家ら6人で企画した。互いに見ず知らずだったが、楽しく酪農をするには勉強も大事、女性の酪農にも勉強する場があればなど、共通した課題や方向性を持っていてすぐに意気投合した。
──女性だけにした理由は何ですか。
酪農関係のセミナーは多いが、参加する女性は少なく質問していいのかと遠慮しがち。「女性」と銘打つことで来やすい人もいる。
私も20代で実家から独立した時、「お前なんか嫁に行ってすぐにやめるだろう」と言われ悔しい思いをした。頑張って働き30代になり、女性らしく生きることや理解してもらうことの大切さを感じた。それにはもっと力を付けないといけない。言われたことだけしてもんもんとするのでなく、勉強して提案することで違う世界が見えてくる。
──3年間、サミットを開いた手応えは。
初回に比べ参加者が3倍ほどに伸びた。当初は「やって意味があるのか」とも言われてきたが、男性の見る目が変わった。開催案内を広報誌や店舗に張って紹介してくれるJAもあった。3年の積み重ねで多くの人に注目されるようになったと実感している。大会実行委員への講演の依頼も増えている。私たちの体験を通じ、次に続く人たちが前に出やすくなってほしい。
──今回で最後の開催としています。
「ファイナル」としたが「これで終わり、解散」ではなく、実行委員が各地で小さくても動いていきたい。参加者も各地域に帰って動き始めてほしいし、その手伝いができたらうれしい。(聞き手・洲見菜種)
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2019年12月04日

冬風揺れる柿すだれ JAふくしま未来伊達地区
全国有数のあんぽ柿産地、福島県のJAふくしま未来伊達地区管内で、皮をむいた柿を干し場につるす加工作業が最盛期を迎えている。きれいなオレンジ色の柿が次々とつるされる光景は「柿色のカーテン」と呼ばれ、この時期の風物詩だ。
原料の「蜂屋」や「平核無」の渋柿から乾燥によって独特の深い味わいと甘味を生み出す地区特産のあんぽ柿。
同地区では、11月上旬から原料となる柿の収穫作業が始まり、中旬からは、連通しと呼ばれる柿の皮むきや縄に柿を取り付ける作業、干し場につるす作業など、加工作業が本格化する。
JA伊達地区あんぽ柿生産部会長の佐藤孝一さん方では、11月15日から加工作業を開始。約8トンを加工する。1本の縄に10個ほど付けられた柿は、手作業で次々と専用の干し場につるされ、約40日間自然乾燥し、あんぽ柿として出荷される。「昼夜の寒暖の差や乾燥に適したこの産地特有の自然環境が、味わい深い極上のあんぽ柿を育む」と佐藤部会長は話す。
JAのあんぽ柿は、主に京浜地方を中心に各地の市場などへ出荷される。現在、「平核無」が出荷最盛期を迎え、生産量の9割以上を占める「蜂屋」は、12月上旬から本格的な出荷が始まり、翌年の3月下旬まで続く。
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2019年12月04日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 豪雨被災から1年5カ月 営農再開へ一歩 果樹産地の総社市
2018年7月の西日本豪雨でブドウ園などの農地や農業用施設に甚大な被害を受けた果樹産地・JA岡山西管内の岡山県総社市福谷地区。6日で1年5カ月となる中、営農再開の動きが始まった。県と市の連携で氾濫した高梁川の堤防を整備し、浸水被害を受けた約3ヘクタールの園地をかさ上げする。100年続く農業に向け、地域の話し合いが進み、近く工事が始まる。JAは営農や融資相談で復興を後押しする。異常気象のリスクが高まる中、災害に強い地域農業のモデルとして注目が集まる。(鈴木薫子)
次代に継に向け 堤防整備、園地かさ上げ
同地区は県内有数のブドウの早期加温栽培産地。しかし、園地には、ビニールが剥がれ、骨組みがあらわのハウスや、川から流れてきた大きな岩が目立つ。堤防の決壊で農地の浸水や施設が倒壊。今も園地は豪雨被害発生時のままだ。
県は同地区で約2キロにわたる高梁川の堤防整備に乗り出した。道路から1、2メートル上げる計画で下流側から用地取得を進めている。同地区の他、高梁川に隣接する4地区で計約5キロの堤防を整備。近く工事に着手し、22年度内の完了を目指す。
園地整備は同市が担当する。堤防から下の園地を3、4メートルかさ上げし、堤防と同じ高さにする方針。整備範囲は上流約600メートルで園地は約3ヘクタール。河川などの残土で埋め立て、栽培用に上層60センチはきれいな土で埋め立てを計画する。復旧には、JA担当者も営農再開に向け密に情報交換をする。
ブドウや桃の生産者22人でつくる福谷果樹組合は、被災した18年産売上高は前年産比2割減の6500万円。19年産は上向いたが、被災前水準には達していない。
ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」などを栽培する同組合の温室ブドウ部会の仮谷昌典部会長は、経営面積の半分の10アールでハウス3棟が倒壊。被害を免れたハウスとの距離は30メートル。半分の土地で収益を高めようと栽培に励む。54歳の仮谷部会長は「80代まで農業を続けたい。今が踏ん張り時。復旧に時間がかかるのは覚悟の上で、次世代のために災害に強い農業を復活させたい」と強調する。
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2019年12月03日

これユズ!? 広島の個性派 初出荷
人の顔ほどのジャンボサイズかんきつ「獅子柚子(ししゆず)」の出荷が始まった。JA広島ゆたか上島選果場管内で栽培される特産で、ブンタンの一種とされる大型の香酸かんきつ。
直径20センチを超える黄金色の果実は、表面がボコボコと波打っており、獅子を連想させる迫力ある外観から別名「鬼柚(おにゆ)」とも呼ばれ、魔よけや縁起物として珍重される。
広島市中央卸売市場ではこのほど初入荷。広島市のスーパーやデパートでは冬至に向けたディスプレー商材として売場に飾る他、温泉施設や外食業界、観光施設からの引き合いもある。
広印広島青果の小山隆之副部長は「存在感抜群の外観に加え、季節感やストーリー性があり注目を集めている。地元の個性派商品として紹介したい」と話す。
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2019年12月03日

在来カブ継承を 滋賀で初のサミット
全国各地のカブ産地が一堂に会し、カブの魅力を発信する「全国在来かぶらサミット2019」が1日、大津市の龍谷大学で開かれた。後援する滋賀県によると、カブに特化した全国規模の会合は初めて。講演会で保存食として発展したカブの歴史が紹介された他、在来品種の継承を求める意見が出た。
主催は「三大かぶら王国」と称される県内の産地関係者や同大学でつくる実行委員会。同県のJAグリーン近江も加わった。産地関係者や消費者約150人が参加した。
サミットでは、山形大学の江頭宏昌教授が「日本各地の在来カブとその利用の文化」と題して基調講演。種まきから2カ月と短期間で収穫でき、「全国的に保存食として重要な位置付けにあった」と説明。在来カブは全国に約100種あり、各地で保存加工技術が発展したと紹介した。信州大学の松島憲一准教授は、在来カブと郷土料理について講演。地域ごとに在来カブを使った独自の郷土料理が発展したと指摘し、「在来カブは地域の宝。(品種を)保全・伝承してほしい」と訴えた。
会場では、全国13府県の28種の在来カブが並び、パネル展示や漬物の試食販売が行われた。
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2019年12月02日

地方版総合戦略 5年後へ真剣に丁寧に 住民主体本音で議論 北海道鹿追町
今後5年間の地域の目指す将来像を描く地方版総合戦略の策定が各地で進む。地方創生の交付金を得るためだけでなく、地域ならではの“未来予想図”を作ろうとワークショップなどの手法を取り入れる自治体が目立つ。地域の課題解決や目標に向け議論を深め、住民主体の策定に向けた模索が始まっている。
農商工や福祉 多世代が参加
11月半ば、人口5300人の北海道鹿追町。「公共交通機関が減った。畜産農家と連携しバイオガスでバスを走らせられないか」「移住者や地域に興味を持つ人を温かく迎えられる町にしたい」。農家や会社員、高校生や高齢者、役場職員、JA鹿追町役職員ら80人が思い思いの意見を出す。各テーブルで付箋に自分の考えを書き、町の課題や将来像をポスターに記した。
千歳市から移住した斉藤亜利紗さん(26)は「JAや商工会の人と初めて話し、親しくなれた。町の未来は自分たちの問題。毎年ワークショップを開いてほしい」と話す。
同町が夏から開くワークショップには毎回、JA役職員が10人程度と農家も参加する。JAの櫻井文彦常務は「農業の課題を農家以外の人と共有したいと思い参加した。多世代と意見を交わせて楽しい」。80ヘクタールで畑作経営する植田葉子さん(55)は「農業と家事に追われ、真剣に街づくりを考えたことはなかった。意見を出し合って作った計画ができると思う」と話す。
同町では、5年前の同戦略を町の産官学の代表を集めた審議会で決めた。今回は審議会とは別に、公募などで集まった住民がワークショップを開き、福祉や経済などテーマごとに話し合い戦略に反映させる。同町企画財政課は「新たな戦略策定は住民主体で身近なものにしたい」と話す。年度内に、戦略と町の総合計画を策定する方針だ。
外部委託の反省踏まえ
地域の将来設計を描く地方版総合戦略。地方自治総合研究所が2018年に公表した調査では、回答した1342市町村のうち77%がコンサルタントなど外部に策定を委託していた。この反省から、プロセスを重視し住民主体の戦略にする動きが生まれている。アンケートや集落点検など手法はさまざま。策定時期は基本的に今年度だが、話し合う期間を確保するため、策定を来年度に延長する自治体も複数ある。
香川県東かがわ市は11月上旬、気軽で自由に対話ができる「ワールドカフェ」を試みた。今後も対話型の話し合いを行い、戦略づくりの参考にする。同市は「言いっ放しでなく、住民の意見を戦略に反映する仕組みを模索している」とする。
鳥取県琴浦町は「ことうら未来カフェ」で、将来の町の姿を住民同士が話し合う。長崎県五島市は、市民と高校生に交通や農業、病院などの課題などを聞くアンケートを実施。同市は「雇用の場の確保や担い手不足対策を求める意見が多く骨子案に反映する」とする。
形式的でなく 地方自治総合研究所の今井照主任研究員の話
5年前も、建前はさまざまな業界の人を集めて策定するように言われたが、実際は期間も短く、形式的な策定が主だった。地方創生は、人口増という数字達成を目的にしてはいけない。地方再生に向けて地域にとって何が必要なのかを話し合い、住民目線で主体的な形にする必要がある。
<ことば> 地方版総合戦略
「まち」「ひと」「しごと」を柱に、目標を掲げて策定する自治体の将来計画。15年度から始まり、今後5年の政策目標や施策の基本方向を盛り込む。現在、各自治体が第1期(15~19年度)の検証と併せ、次期5年間を見据えた同戦略の策定を進めている。国のまち・ひと・しごと総合戦略は年内に決定する。
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2019年12月01日

農高初 花き国際認証取得へ 世界と未来視野 県立栃木農高
模擬会社で経営を学ぶ 環境配慮した生産実践
県立栃木農業高校の模擬会社「フローラTOCHINOU」が、来年1月にも国内の農業高校として初めて、花き栽培の国際認証MPS―ABC(花き産業総合認証環境部門)を取得する見通しだ。既に仮認証を取得し、11月に行われた現地審査の結果を待つ。環境への配慮で、花きに国際的な付加価値をつけることで、将来的な海外輸出も視野に入れる。
模擬会社は2016年に、草花の栽培や経営をより専門的・実践的に学ぶために設立した。農業科の生徒ら7人が参加し生産部、販売部、企画部、経理部、広報部の5部門からなる。シクラメンやサイネリアの鉢花を中心に8品目を栽培し、アジサイやトルコギキョウも生産する予定だ。
生徒らは、15年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)について学ぶ中で、欧州の園芸技術や環境への意識の高さを痛感。オランダを発祥とし花き生産の環境負担を低減する国際認証である、MPS取得を目指すことにした。
MPSは農薬や肥料、エネルギーをできるだけ削減し、環境と安全に配慮した花き栽培を行う。認証取得に向けては、同校の農場での栽培記録を審査機関に報告し、18年10月には国内の農業高校で初めて仮認証を受けた。
さらに19年11月中旬には、審査員が学校を訪れ、農場を現地調査。農薬や肥料、エネルギー、水の使用状況や廃棄物の分別状況など五つの環境負担要素について審査した。今後、これまで約1年間の栽培記録と現地での審査を基にポイントを算出。来年1月に、ポイントに応じた認証を受ける予定だ。
農業科3年生の佐々木一哉さん(17)は「花き栽培などの農業は、見た目の美しさだけでなく、常に循環型・持続可能であり、環境に配慮した産業でなければならないと学んだ。この取り組みを多くの消費者に発信していきたい」と話す。
「MPS―ABC」は農業大学校が取得した例はあるが、高校では初となる。同校生徒の取り組みについて、本多淳一MPS審査員は「世界的潮流である環境負荷が少ない生産への意識を高める上で、認証の教育的な意義は大きい」と強調。「取得はゴールではなくスタート。蓄積した情報を基に、翌年以降のさらなる改善に挑戦してほしい」と期待する。
同校は8月、ユネスコ憲章に示された理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校「ユネスコスクール」への加盟が決定。気候変動への対応や持続可能な生産と消費など、国際社会が達成を目指すSDGsの17の目標に積極的に取り組んでいる。
<メモ>
MPS(花き産業総合認証)は、花き業界の世界標準的な認証制度。2018年現在、45カ国以上、約3200団体が認証を取得している。認証の対象は、花きの生産者、流通業者。日本では07年からMPSジャパンが認証の取り扱いを始め、現在78の個人・団体が参加している。
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2019年11月30日

母さんの頑張り反響 豪雨被災地の「花ドレ」人気 福岡県朝倉市の女性グループ
福岡県朝倉市で活動する女性グループ「宮園たんぽぽの会」が作る、コスモスの花びらドレッシング「乙女の花ドレ」が販路を広げている。九州北部豪雨の被害農地で育てたコスモスを使い、復旧を後押しするという商品コンセプトに共感が集まった。通信販売、地元観光協会、高校文化祭などで扱う。見た目の鮮やかさ、手作りの味が評判を呼んでいる。
2017年の豪雨で被害があった同市黒川地区宮園集落の農地や荒廃地でコスモスを育て、収獲する。ドレッシング製造の拠点は地元公民館。同グループ4人が、花びらにタマネギ、塩こうじ、植物油、穀物酢を加えて手作りする。
さっぱりとした和風の味わいと美しい彩りが人気だ。サラダ以外にも豚しゃぶやカルパッチョ、パスタなどにも合うという。18年秋に商品化した。1本(200ミリリットル)750円。
需要増を受け、グループは通年販売も検討。コスモスの花びらなどをミキサーにかけた後、冷凍保存する方法を試みる。商品開発・販売に協力する、あさくら観光協会の里川径一事務局長は「災害に負けずに頑張る地域のお母さんたちの思いが地域の励みになればいい」とエールを贈る。
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2019年11月29日