一石英一郎さん(医師) 「好き嫌いしない」が秘訣

一石英一郎さん

 私の場合、生まれ育ったのは神戸なんですよ。外国人居留地がつくられ、海外の食物が輸入され、他の地域に比べて食の多様化が進んだ街といえます。

 日本で初めてドイツパンが作られたのも神戸で、「風見鶏」というNHK朝ドラも作られましたね。失敗覚悟で始めたパン作りが、事業として成功する物語。そのモデルの店「フロインドリーブ」のパンは、神戸に住む私たちにとって、欠かせない味でした。

 私の父は海軍兵学校の最後の卒業生。頑固で厳しかったのですが、食べ物については洋食も抵抗なく受け入れていました。父はコーヒーが大好きでした。子どもの頃に試しに飲んでみた私は死ぬほど苦いと感じ、「よくこんなものを飲むな」と思いました。

 でも人間には、他の人がおいしそうに飲み食いしているものは、自分も欲しくなる遺伝子が組み込まれているのです。生存のための知恵ですね。両親は好き嫌いがなく何でも食べていましたので、それをまねた私も、自然と何でも食べるようになったんです。苦手だったコーヒーも、成長するに従い好きになりました。
 

食から病気予防


 私の大学院時代の研究テーマは「食とガン予防」。学位論文も、ビタミンAでどれだけ人の細胞が変わり、がん予防に役立つかということでした。

 おかげで、食生活があらゆる病気予防につながるということを知りました。○○を取るのが大事だ、△△が必要だ……と栄養素の名を上げつつ、良質の野菜や果物を取る習慣が身に付きました。

 大学の近くにおいしい牛タン屋があり、講師の先生によく連れて行ってもらいました。栄養素や免疫効果のことなどすっかり忘れて、ただただおいしいから食べていました。その先生は後に恩師となり学長にもなられた元気いっぱいの先生でして、食と元気について大いに考えさせられました。

 各国の人々が、どれだけたくさんの食材を食べているかを調査した研究があります。アメリカ人は2500~3000種類ほどの食材を食べています。「四足のものは机以外、翼のあるものは飛行機以外、何でも食べる」といわれる中国人は約1万種類。さすがに多いですね。新型コロナウイルスも、コウモリかタケネズミを食べて感染したと報じられています。

 では日本人は何種類か。約1万2000種類。中国人よりもずっと多いんです。
 

良い物も適度に


 その上、みそ、しょうゆ、納豆など大豆を発酵させた食材を日常的に取っています。これが健康長寿の秘訣(ひけつ)なのです。

 大学時代に生理学の講義で、名誉教授が面白い逸話を教えてくれました。ドイツだったかイギリスだったか忘れてしまいましたが、その国の海軍の軍医が「日露戦争に勝った日本人の体力の源は、納豆かもしれない」という仮説を立て、納豆を与えたネズミと与えないネズミを水槽で溺れさす実験をしたそうです。すると納豆を与えたネズミの方が、優位に生き残ったというのです。

 その講義を聞いて、私は毎日三食必ず納豆を食べるようにしました。1カ月ほど続けた頃、急に40度の熱が出たんですね。納豆を食べるのを控えたら、熱は自然に収まりました。全身を納豆菌に侵されたのでしょうか?

 どんなに優れた食材でも、それだけを取るのはいけない。たくさんの食材を適量ずつ取るのが大事だと、身を持って知ったわけです。(聞き手・写真=菊地武顕)

 いちいし・えいいちろう 1965年兵庫県生まれ。京都府立医科大学大学院修了。国際医療福祉大学病院内科学教授。日本内科学会の指導医として医療現場の最前線をけん引する。世界の著名ながん研究者が参加する米国がん学会の正会員で、このほど『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)を出版。
 

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