[新型コロナ禍 農と食] 不安でも… 命つなぐ 継続探る高齢者介護施設

原田さんがいちご大福の盛られた皿を置くと、利用者がうれしそうにほほ笑んだ(広島県府中市で、鈴木薫子写す)

 広島県府中市にある高齢者福祉センター「ひだまり」で4月30日、デイサービスの昼食を終え、おやつのいちご大福をうれしそうに頬張るお年寄り20人を、マスクをした介護士らが見守っていた。こいのぼりや塗り絵など利用者が描いた作品が天井や壁一面を彩り、穏やかな時間が流れる。
 

対策は万全に


 一方、マスクや笑顔に隠された職員の緊張感はすさまじい。食事を食べさせたり、歯を磨いたり、入浴や排せつの補助をしたりと「濃厚接触」を避けられないからだ。

 職員も利用者も検温や手の消毒など健康管理を続けている。だが、感染リスクは付きまとい、感染すれば利用者は重症化しかねない年代だ。デイサービス担当係長、原田美香さんは「恐る恐るの対応だ」と本音を漏らした。

 ひだまりは、JA福山市が2009年に開設し、デイサービスと訪問介護を提供。敷地内の畑では、利用者と職員が農産物を育て、食材にもする。栽培や収穫に携わり、心を癒やす「園芸療法」を取り入れた。

 デイサービスは、4月中旬から1日の定員を30人から23人に減らし、利用者同士の間隔を離した。食事も免疫力を高める食材を使い、畑での収穫物の他、JA直売所やスーパーからも仕入れている。いちご大福のイチゴも施設産だ。

 利用者は90人余りで認知症や一人暮らしも多い。「不安を抱える利用者を食から支えたい」。極限状況下でも原田さんは笑顔を絶やさない。
 

買い物を支援


 厚生労働省の4月調査によると、デイサービスやショートステイを担う老人介護施設は全国に7万5327あり、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に休業を決めたのは1%強に当たる858。ただ施設は休止しても、「食」の提供を続ける所がある。

 中国山地の懐に抱かれた広島県三次市は、高齢化率が35・5%と全国平均(28・4%)を大幅に上回る。老人福祉施設「デイサービスセンターやすらぎ館」は4月13日、感染予防のため一時休館した。

 利用者の多くは「仕方がない」と理解したが、運営主体のJA三次は、訪問介護事業の一部継続を決め、弁当配達や食材の買い物支援などを続ける。やすらぎ館も最近、入浴支援などに絞ってデイサービスの一部を再開した。「全面再開すべきか、今のまま続けるべきか、答えは出ない」。担当者の悩みは深い。

 緊急事態宣言下、大型連休の広島帰省を諦めた東京都の会社員、田中慎二さん(55)の両親は、古里の三次で暮らしている。共に87歳で認知症が進み、車の運転もできない。2人の「食」を支えているのはJA三次の買い物支援だ。

 「ヘルパーさんたちの変わらない支えがあるから、両親は非常時でも日常の生活が送れる」。感染リスクがある中での食の支援という、かつてない試練に直面する福祉関係者に、田中さんは感謝の言葉を口にした。(鈴木薫子)

<メモ>

 全国各地のJAも、高齢化社会を背景に福祉事業に取り組む。JA全中によると、デイサービスなど介護保険事業を担うJAは208あり、施設数は937。高齢化した家族の介護負担を減らすことで安心して農業に取り組める環境づくりに加え、JA三次のように地域住民も広く受け入れている施設もある。

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