[新型コロナ禍 農と食] 家族で考える「国産」 “風”起こす体験農園

「きょうの晩ご飯に使おう」。水菜を収穫する桜井純子さん(中)、晴香さん(左)と智彦さん(東京都練馬区で、栗田慎一写す)

 東京都練馬区の農業体験農園「大泉 風のがっこう」に24日の日曜日、母子3人の姿があった。6日ぶりに朝から晴れ渡った空の下、広々とした畑の一角で野菜の手入れや追肥をしている。

 区内に住む桜井純子さん(45)、長男智彦さん(12)、長女晴香さん(9)。農園を運営する農家の白石好孝さん(66)の指導を受け、3月からトマトやホウレンソウなど通年で23種の野菜を育てる。

 智彦さんは4月から中学生、晴香さんは小学4年生だが、新型コロナウイルス禍による3月からの休校で入学式はなくなり、新学年になって学校に行けたのも登校日の1度だけ。生まれて初めての農作業が、思いがけず手にした時間の大きな使い道になった。

 コロナ禍で食料不足が懸念され、自ら作る大切さに気付いたのか。純子さんは質問に「というより」と少し考えた後、「農家さんのものを買うことで、日本の農業をちゃんと守ろうという気持ちになった」と言う。家で食卓を囲みながら「国産を買う意味」を家族みんなで考える。

 農園で利用者を見守っていた白石さんが、その話を耳にして心からうれしそうな表情をした。
 

全国130カ所超


 都市に農地はいらない。1997年、そんな時代背景の中で「風のがっこう」は生まれた。

 バブル経済の余韻が尾を引いていた90年代、東京など都心の農業経営は厳しさを増していた。地方の産地が力を付け、通年で青果物が買える「産地リレー」の時代に、地価の高騰した都市部で農業をやる意味が問われた。狭い農地で少量出荷していては採算に合う値は付かず、東京の農家はやる気を奪われていた。

 江戸時代から300年続く農家で、当時30代後半の白石さんら農協青年部の若手が、生き残りと次世代への農業継承をかけて考え出したのが「体験農園」だった。

 耕作をやめるなどした農地を行政が借り受け、市民に貸し出す「市民農園」は当時から数多くあった。これに対し体験農園は、農地の貸し出しでなく、備品やたい肥を提供し、農家が指導しながら収穫物を持ち帰ってもらう。観光農園と似た経営形態で、農園の運営主体は農家という税法上の位置付けも明確にした。

 練馬型体験農園は「都市農業の新しいスタイル」となり二十数年間に首都圏や関西、福岡を中心に130カ所を超えた。そして、もう一つの理想だった「都市と農村の距離を近づける」ことが、コロナ禍を機に前進していると白石さんは思う。
 

大きな一歩に


 刈り取ったキャベツを両手にした晴香さんが、純子さんに駆け寄った。先日収穫したキャベツに青虫がいるのを見て生では食べられなくなったが、おいしさは格別だ。純子さんが「青虫がいるのは安全で新鮮な証拠だよ」と言うと、「分かってはいるけど」と悩ましい表情になった。そんなささいな会話も、純子さんは農と食を学ぶ大きな一歩だと考える。白石さんから教わった通りに栽培すると「びっくりするほどうまく育つ」と智彦さんが目を丸くするのも、同じ理由からほほ笑む。

 「コロナ禍で日本の低い食料自給率が問題視されたけど、社会みんなが農業に関心を持って初めて課題解決への風になる。そんな風が全国の体験農園からどんどん吹けばうれしいよね」。白石さんが言い、キャベツや水菜を持ち帰る3人を見送った。(栗田慎一)
 

<メモ> 東京都練馬区の農業体験農園


 全国最多の17園ある。利用額は年5万円で、区民には区から一部補助がある。毎年1月に希望者抽選があり、125区画ある「風のがっこう」にも多数の応募があった。同園では集団感染防止のため農園での栽培指導を中止し、ユーチューブ上に動画を公開。利用者からは「繰り返し学べる」と高い評価を得ている。
 

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