新潟県佐渡市 熱中症で地域の仲間失う 大切な命胸に声掛け 「暑い時は休もう」

昭子さんが植えたイチジクの木をいとおしそうに見つめる實さん(左)を励ます自治会長の斎藤さん(新潟県佐渡市で)

 梅雨明けから一転、最高気温が35度を超える地点が出始め、急な暑さによる熱中症への危険性が高まっている。「気を付けよう」「暑い時は畑に行かない」。家族で、地域で、掛け合う一言が、誰かの命を救うかもしれない。熱中症で妻を亡くした男性や集落の住民らは今も悲しみの中におり、二度と同じ悲劇を繰り返さないよう声掛けするようになった。

 海が見える小さな土地に育つイチジクの木。新潟県佐渡市の稲鯨集落で、熱中症で亡くなった濱口昭子さん(享年80)が地域のみんなで食べようと植えた幼木が、大きく成長し始めた。昭子さんの夫、實さん(82)がイチジクの実を手に取り、目頭を抑える。

 「思い出すと、泣けてくるんだよ……」

 2018年7月19日。2年前のことを濱口さんは忘れたことはない。昭子さんが畑で、熱中症で亡くなった日だ。午前8時半、お茶が入ったペットボトルと、凍らせたペットボトル2本を持ち、昭子さんはいつものように畑に向かった。

 普段、午前10時半には實さんは犬を連れて迎えに行っていた。それが、亡くなった日だけ、かかりつけ医だけで診察が終わらず、市内の総合病院に行かなければならなくなった。家に帰ったのが午後3時。すぐに畑に迎えに行ったが、農作業用のヤッケを着て、畑に突っ伏した昭子さんがいた。ペットボトル2本は木の下に置いたまま。飲んだ形跡はない。救急車を呼ぶよう親戚に携帯電話で依頼し、實さんは人工呼吸を試みた。しかし、昭子さんの体は熱くなり、触るとやけどしそうだった。思い出した實さんは「俺が悪い。病院に行かなければ死ぬことはなかった」と涙ぐむ。

 夏になると島外に住む子どもや親戚に育てた野菜を20箱以上も贈っていた昭子さん。みんなから「佐渡の野菜はおいしい」と言われ、農作業が趣味だった。

 今も實さんは毎日、昭子さんを思う。悲しみの渦中にいる實さんは思い出すため農業はできないという。昭子さんが亡くなった畑は今、草が生い茂る。人に会うのが嫌になり、實さんは犬1匹と身を寄せ合って暮らす。

 コロナ禍では、島外に住む子どもとも会うことができない。「寂しくてたまらない」(實さん)。信頼を寄せる自治会長の斎藤邦雄さん(67)が時折声を掛け、気に留めている。

 集落の中心部にある、憩いの場だった野菜の直売をする「稲鯨いいないいな農園」。昭子さんは荷物を送る分の足りない野菜を農園で買い、住民とだんらんをしていた。斎藤さんは、優しくていつもにこにこしていた昭子さんのたたずまいをよく覚えている。

 昭子さんの死で、集落は大きく変わったという。「暑い時は畑には行かないし、熱中症に気を付けようとみんなで声を掛け合うようになった。もう稲鯨集落で熱中症で誰かを亡くしたくないから」と斎藤さん。今年の夏は実ったイチジクを食べ、昭子さんをしのびたいと考えている。
 

全国678地点で真夏日 熱中症 最大級警戒を


 高気圧が日本列島に張り出している影響から、4日は広い範囲で今夏の最高気温を記録するなど、厳しい暑さに見舞われた。気象庁によると、4日午後4時時点で30度以上の真夏日を記録した地点は921地点のうち7割の678地点、35度以上の猛暑日を記録したのは34地点。各地で7月までの日照不足から一転して急激に気温が上昇するため、同庁は熱中症や農作物の管理に最大級の警戒を呼び掛けている。

 同庁は、8月からの3カ月間は全国的に平年に比べて気温が高い見通しを発表している。

 環境省と厚生労働省はがまとめた新型コロナウイルスを防ぐための「新しい生活様式」に対応した熱中症予防行動では五つのポイントを提示。コロナ禍の熱中症予防策は、①暑さを避ける②マスクを適宜外す③水分補給④日頃からの健康管理⑤暑さに備えた体づくり──が柱だ。

 気温や湿度が高い所でのマスク着用は危険なため、屋外で人と十分な距離を確保できる場合は、マスクを外して良いことも明記した。

 この他、自宅でも熱中症になる恐れもあり、感染症予防のため空気の入れ替えをしながら、エアコンで温度設定を小まめに調節することなどを求めている。水分補給は1日当たり1・2リットルを目安にするなどの注意喚起もした。

 総務省消防庁が4日発表した、8月2日までの1週間の熱中症搬送者数は今年最多の3426人に上った。前週より353人増えた。高齢者は57%で、農林畜産漁業の現場では136人が搬送された。
 

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