群馬・養蚕農家群 文化財登録進むが… 観光期待も誘客できず
2020年11月07日

蚕の生育で通風を良くした天窓から望む景色を案内する田島さん。建物は今年度中に国の登録有形文化財への登録を目指す(群馬県伊勢崎市で)
群馬県の養蚕農家住居群が残る地区で、歴史や景観を次の世代へ残そうと、文化財登録が進む。観光資源としての価値の高まりに機運が高まる一方、新型コロナウイルスの感染拡大で、思うように誘客できない状況が出てきた。観光資源に頼りがちな文化財をコロナ禍でどう守るのか。課題を探った。(木村泰之)
2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界文化遺産に登録された構成遺産のうち、同県伊勢崎市境島村地区には、住居兼蚕室に天窓を設けるなどして風通しを良くした「清涼育」を考案した、田島弥平旧宅がある。周辺の4戸(1戸は隣接する埼玉県本庄市内)が今年、登録有形文化財として申請した。
申請した一人、田島一栄さん(64)の住居は、江戸時代末期に建てられ、50年ほど前まで蚕を育てていた。地元養蚕の歴史を知ってもらおうと7年ほど前から月に1度、住居内を無料で公開しており、一日に約70人が訪れる。文化財のお墨付きを得ることで、一層のPRを目指す。4戸の取り組みを受け、その他の所有者も登録を希望。田島さんは「地域全体で取り組めば発信力はより高まる。登録戸数を増やしたい」と意欲的だ。
ただ、コロナ禍で新たな懸念が生まれた。養蚕農家住居に暮らす人は、高齢者が大半。観光客の増加による感染拡大に不安を抱き、住居の開放に消極的な人も出てきた。田島さんも90代の父と同居しており、集客増加を目指す半面、感染予防対策に頭を悩ませる。
同県中之条町赤岩地区は、養蚕農家住居群が昔のまま残っていることから、06年に重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に登録された。築年数がたった外観の修繕に1000万円以上かかる事例もあるが、国・自治体の支援や農泊の収入を充て、景観を守る。
現在40戸。高齢化と過疎化は深刻だが、草津温泉などを訪れた観光客を呼び込み、地域を盛り上げてきた。それがコロナ禍で一転、誘客ができなくなっている。
農家の関駒三郎さん(88)は、築360年の住居で養蚕道具などを観光客に紹介するガイドを務める。「高齢者が多い地域で、新しいことに挑戦しにくい。コロナ禍でどう客を集めたらいいものやら」と顔を曇らす。農泊を営む篠原辰夫さん(80)は「コロナで農泊も休業中。このままでは住む人がいなくなる」と、空き家の増加を心配する。
登録有形文化財制度の創設に携わった工学院大学の後藤治理事長は「新型コロナ禍は、建物の維持や継承を見つめる機会」と指摘する。
成功している地区は、遠方から多くの観光客を呼び込むより地元リピーターを重視しているという。後藤理事長は「地元ファンを増やすには、母屋以外にも、景観を損なうトタン製の納屋を周囲になじませるなどの改修も大事。行政支援が薄い場合は、所有者を中心にした組織がインターネットで募った資金を修繕費に充てる方法もある。できることから取り組んでほしい」と提起する。
築50年がたった建造物のうち、外部の改修に対し、指導・助言といった緩やかな規制で保護する制度。内装改修や一部の外観変更に届け出が不要で、国が保存や修理の設計監理費の半分を補助する。
歴史的な集落などを、自治体の支援を受けながら保存するのが伝統的建造物群保存地区。国が認めた地区を重伝建地区にする。重伝建には国の支援も加わり、改修や保存費用9割が補助されたり、固定資産税が減免されたりする。
コロナ対策 悩みの種
2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界文化遺産に登録された構成遺産のうち、同県伊勢崎市境島村地区には、住居兼蚕室に天窓を設けるなどして風通しを良くした「清涼育」を考案した、田島弥平旧宅がある。周辺の4戸(1戸は隣接する埼玉県本庄市内)が今年、登録有形文化財として申請した。
申請した一人、田島一栄さん(64)の住居は、江戸時代末期に建てられ、50年ほど前まで蚕を育てていた。地元養蚕の歴史を知ってもらおうと7年ほど前から月に1度、住居内を無料で公開しており、一日に約70人が訪れる。文化財のお墨付きを得ることで、一層のPRを目指す。4戸の取り組みを受け、その他の所有者も登録を希望。田島さんは「地域全体で取り組めば発信力はより高まる。登録戸数を増やしたい」と意欲的だ。
ただ、コロナ禍で新たな懸念が生まれた。養蚕農家住居に暮らす人は、高齢者が大半。観光客の増加による感染拡大に不安を抱き、住居の開放に消極的な人も出てきた。田島さんも90代の父と同居しており、集客増加を目指す半面、感染予防対策に頭を悩ませる。
同県中之条町赤岩地区は、養蚕農家住居群が昔のまま残っていることから、06年に重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に登録された。築年数がたった外観の修繕に1000万円以上かかる事例もあるが、国・自治体の支援や農泊の収入を充て、景観を守る。
現在40戸。高齢化と過疎化は深刻だが、草津温泉などを訪れた観光客を呼び込み、地域を盛り上げてきた。それがコロナ禍で一転、誘客ができなくなっている。
農家の関駒三郎さん(88)は、築360年の住居で養蚕道具などを観光客に紹介するガイドを務める。「高齢者が多い地域で、新しいことに挑戦しにくい。コロナ禍でどう客を集めたらいいものやら」と顔を曇らす。農泊を営む篠原辰夫さん(80)は「コロナで農泊も休業中。このままでは住む人がいなくなる」と、空き家の増加を心配する。
地元ファン増やそう
登録有形文化財制度の創設に携わった工学院大学の後藤治理事長は「新型コロナ禍は、建物の維持や継承を見つめる機会」と指摘する。
成功している地区は、遠方から多くの観光客を呼び込むより地元リピーターを重視しているという。後藤理事長は「地元ファンを増やすには、母屋以外にも、景観を損なうトタン製の納屋を周囲になじませるなどの改修も大事。行政支援が薄い場合は、所有者を中心にした組織がインターネットで募った資金を修繕費に充てる方法もある。できることから取り組んでほしい」と提起する。
<ことば> 登録有形文化財
築50年がたった建造物のうち、外部の改修に対し、指導・助言といった緩やかな規制で保護する制度。内装改修や一部の外観変更に届け出が不要で、国が保存や修理の設計監理費の半分を補助する。
<ことば> 重要伝統的建造物群保存地区
歴史的な集落などを、自治体の支援を受けながら保存するのが伝統的建造物群保存地区。国が認めた地区を重伝建地区にする。重伝建には国の支援も加わり、改修や保存費用9割が補助されたり、固定資産税が減免されたりする。
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秋田ぶっかけ生姜(しょうが)大根 JAあきた白神
秋田県のJAあきた白神のブランドネギ「白神ねぎ」を100%使った商品。県産食材の商品を手掛けるフルゥール(秋田市)が開発した。細かく刻んだネギとダイコンの歯応えがや病みつきになり、食欲のないときも食が進むと好評だ。
しょうゆベースのたれに刻んだ昆布とショウガがアクセントになっている。そのまま食べても熱々のご飯に掛けてもおいしい。冷ややっこやチャーハンと合わせても楽しめる。
JA農産物直売所みょうが館や、県内の道の駅などで土産品として人気だ。1袋(150グラム)540円。問い合わせはJAあきた白神生活課、(電)0185(58)2154。
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2021年01月14日

市来農芸(鹿児島)が連覇 和牛甲子園オンラインで最多33校
和牛生産に情熱を注ぐ全国の農業高校生“高校牛児”が集い、日頃の飼養管理の成果や肉質を競う「和牛甲子園」が15日、オンラインで開かれた。新型コロナウイルス禍による休校や活動制限を乗り越え、全国19県から過去最多の33校が出場した。頂点となる総合優勝には、昨年に続き、鹿児島県立市来農芸高校が輝き、2連覇を達成した。
JA全農の主催で、今回が4回目。……
2021年01月16日
二度目の緊急事態宣言
二度目の緊急事態宣言。都心はひっそりかんとしている▼東京郊外の拙宅周辺は、昨年後半から住宅建設ラッシュ。地元通の酒屋の店主いわく、優に100棟は建つとか。都心脱出の流れなのか。入居も始まったが、巣ごもりのせいでにぎわいはない。赤ん坊の泣き声もとんと聞かない▼昨今、赤ちゃんの泣き声を耳障りに感じる人が増えた気がする。飛行機や列車で露骨に嫌な顔をする人を何度も目にした。「騒音」と感じるか、ほほ笑ましく感じるか。あなたはどちらだろう。そもそも赤ちゃんの泣き声は、言葉の代わりに発する緊急サイン。「おなか減った」「おしっこ漏れそう」「なんだか熱っぽいよ」▼親に分かってもらおうと必死に伝える。だから不思議なことに、その泣き声は、救急車や目覚まし時計のアラーム音などと同じ周波数を含んでいるという。しかも世界共通。成長するに連れ、声帯は変わるが、生まれたては人類皆同じ。サイレンと同じだから不快になって当たり前。「子どもは泣くのが仕事」。そんな大事な「仕事」を温かく見守り、手を差し伸べ合う社会であってほしい▼ところでコロナで窮状にあえぐ国民の悲鳴や泣き声は、政府にちゃんと届いているのだろうか。よもや「騒音」封じの緊急事態宣言再発令ではあるまいが。
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2021年01月12日

牛マルキン発動 大幅減-11月 内食好調、枝肉アップ 生産者負担金 再開は不透明
肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)の昨年11月販売分の肉専用種の発動地域が10道県となり、前月分の38都道県から大幅に減ったことが農畜産業振興機構のまとめで分かった。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ枝肉価格が回復しているためで、1頭当たり交付単価も1000円台~5万円台と落ち着きを見せている。だが緊急事態宣言の再発令で今後の相場に不透明感があり、生産者負担金の納付再開時期は予断できない。
発動したのは北海道、茨城、栃木、神奈川、長野、兵庫、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の10道県。交付単価は最大の兵庫で5万4596円、沖縄と北海道がそれぞれ5万3282円、2万6851円で続き、その他の県は1万円を下回った。10月販売分は38都道県で発動し、交付単価は最大で10万5545円だった。
11月の枝肉価格は、農水省の食肉流通統計の食肉中央卸売市場価格(和牛去勢、全規格)で1キロ当たり2641円だった。この価格が、コロナ対策で免除されている生産者負担金の納付再開の判断基準となる。コロナの影響で大きく落ち込んだ4月と比べて41%高く、前年同月比でも2%高い。同省によると、内食傾向で 量販店の引き合いが強いことが要因だ。
生産者負担金の納付再開は、今年1月以降で「3カ月連続で1キロ当たり2300円以上」になった場合の3カ月後からで、最短で6月。同省は1月も「量販店 の需要は続く」(食肉鶏卵課)とみる一方、緊急事態宣言の再発令で「外食には厳しい部分がある。枝肉価格への影響は、様子を見る必要がある」(同)と指摘する。納付再開時期は見通せない状況だ。
交雑種(F1)と乳用種の交付単価は、国費分だけの場合で5万6524円、2万5609円だった。
牛マルキンは、標準販売価格(粗収益)が生産費を下回った場合、差額の9割を補填(ほてん)する。国、生産者が積み立てた基金から、3対1の割合で 交付。生産者積立金が不足する地域や納付が免除された牛は、交付が国費分だけになる。
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2021年01月11日
全農TAC大会 JAぎふ最優秀
JA全農は14日、地域農業の担い手に出向くJA担当者(愛称TAC=タック)の活動成果を共有する2020年度の「TACパワーアップ大会」をオンラインで開いた。全国のJAが、TACによる新型コロナウイルス禍での労働力支援やスマート農業の推進など、環境変化に柔軟に対応した活動や提案を報告。最優秀のJA表彰全農会長賞に岐阜県JAぎふを選んだ。
大会は13回目。コロナ対策として発表も含めオンラインで行った。全農によると19年度は全国235JA、1644人のTACが活動を展開。6万9000人の担い手を訪問し、面談は58万7000回に達した。……
2021年01月15日
新型コロナの新着記事
[新型コロナ] 緊急事態追加発令 7府県、栃木・福岡も 政府決定
政府は13日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を追加することを決めた。発令済みの首都圏4都県と合わせ11都府県に拡大。発令地域の人口は7000万人超で、飲食店への営業時間短縮要請による農産物の需要減少などの影響が広がる可能性がある。
全国拡大には慎重
首都圏4都県以外の都市部でも感染拡大が止まらないことを踏まえた。……
2021年01月14日
[新型コロナ] 営業短縮飲食店の取引先 最大40万円支援
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の再発令を受け、梶山弘志経済産業相は12日の閣議後記者会見で、営業時間の短縮要請に応じた飲食店の取引先に給付金を支給すると発表した。時短の影響などで1月か2月の売上高が前年同月比で半分以下に減った場合に、中堅・中小企業は40万円、個人は20万円を上限に支払う。JAや卸売業者などを通じて間接的に取引する農家も対象に想定する。……
2021年01月13日

緊急事態宣言 ガイドライン順守を コロナ感染防止で農水省
農水省は緊急事態宣言の再発令を受け、農家に新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは大日本農会のホームページに掲載。日々の検温や屋内作業時のマスク着用、距離の確保などの対策をまとめている。感染者が出ても業務を継続できるよう、地域であらかじめ作業の代替要員リストを作ることも求める。
ガイドラインは①感染予防対策②感染者が出た場合の対応③業務の継続──などが柱。予防対策では、従業員を含めて日々の検温を実施・記録し、発熱があれば自宅待機を求める。4日以上症状が続く場合は保健所に連絡する。
ハウスや事務所など、屋内で作業する場合はマスクを着用し、人と人の間隔は2メートルを目安に空ける。機械換気か、室温が下がらない範囲で窓を開け、常時換気をすることもポイントだ。畑など屋外でも複数で作業する場合は、マスク着用や距離の確保を求める。
作業開始の前後や作業場への入退場時には手洗いや手指の消毒を求めている。人が頻繁に触れるドアノブやスイッチ、手すりなどはふき取り清掃をする。多くの従業員が使う休憩スペースや、更衣室は感染リスクが比較的高いことから、一度の入室人数を減らすと共に、対面での会話や食事をしないなどの対応を求める。
感染者が出た場合は、保健所に報告し、指導を受けるよう要請。保健所が濃厚接触者と判断した農業関係者には、14日間の自宅待機を求める。保健所の指示に従い、施設などの消毒も行う。
感染者が出ても業務を継続できるよう、あらかじめ地域の関係者で連携することも求める。JAの生産部会、農業法人などのグループ単位での実施を想定。①連絡窓口の設置②農作業代替要員のリスト作成③代行する作業の明確化④代替要員が確保できない場合の最低限の維持管理──などの準備を求める。
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2021年01月09日

[新型コロナ] 緊急事態再宣言 1都3県、来月7日まで 飲食店午後8時まで一斉休校は要請せず
政府は7日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県を対象に、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を決めた。期間は8日から2月7日までで、感染リスクが高いとされる飲食店などへの営業時間の短縮要請が柱。小中高校の一斉休校は求めないが、外食やイベント需要の減少などで農産物の価格に影響が出る可能性がある。
宣言発令は昨年4月以来2回目。首都圏の感染拡大が止まらず、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)していることを踏まえた。菅義偉首相は対策本部後の記者会見で「何としても感染拡大を食い止め、減少傾向に転じさせるため、緊急事態宣言を決断した」と述べた。
コロナ対策の新たな基本的対処方針では、飲食店に対し、営業時間を午後8時までに短縮し、酒類の提供は午前11時から午後7時までとするよう要請。応じない場合は店名を公表する一方、応じた場合の協力金の上限は、現行の1日当たり4万円から6万円に引き上げる。宅配や持ち帰りは対象外とした。
大規模イベントの開催は「収容人数の50%」を上限に「最大5000人」とする。午後8時以降の不要不急の外出自粛も求める。出勤者数の7割削減を目指し、テレワークなどの推進を事業者らに働き掛ける。
宣言解除は、感染状況が4段階中2番目に深刻な「ステージ3」相当に下がったかなどを踏まえ「総合的に判断」するとした。西村康稔経済再生担当相は同日の衆院議院運営委員会で、東京に関しては、新規感染者数が1日当たり500人を下回ることなどが目安との認識を示した。
政府は対策本部に先立ち、専門家による基本的対処方針等諮問委員会を開き、西村氏が宣言の内容などを説明し、了承された。その後、西村氏は衆参両院の議院運営委員会で発令方針を事前報告した。
政府は昨年4月7日、東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、16日には全国に拡大した。5月25日に全面解除したが、農畜産物では、飲食店やイベントの需要の激減で、牛肉や果実、花などの価格が下落した。
政府は、コロナ対策を強化するため、特措法の改正案を18日召集の通常国会に提出する方針だ。
業務需要減加速の恐れ
緊急事態宣言が再発令されることを受け、流通業界や産地では農畜産物取引への影響が懸念されている。飲食店向けや高級商材はさらに苦戦する様相。一方、家庭消費へのシフトが進んでおり、対象地域が限られることから、前回宣言時ほどの打撃にはならないとの声もある。品目、売り先で影響の大きさが異なる展開になりそうだ。
米は、春先のようなスーパーでの買いだめは現状、起きていない。しかし、飲食店の営業縮小で業務用販売は厳しさが増す見通しで、JA関係者は「今も前年水準に戻り切れていない。在宅勤務が増え、米を多く使う飲食店の昼食需要までなくなる」と警戒する。
青果物は、飲食店の時短営業で仕入れに影響が出てきた。
東京都の仲卸業者は「7日から注文のキャンセルが出た。多くの店が休んだ前回の宣言時ほどでなくても、1件当たりの注文量はがくっと減る」と懸念する。果実は、大手百貨店が営業縮小する方針で、メロンなど高級商材を中心に販売が厳しくなるとの見方で出ている。
鶏卵は加工・業務需要が全体の5割を占めるため、飲食店の時短営業の拡大による販売環境の悪化が予想される。
切り花は、葬儀や婚礼の縮小、飲食店の休業や成人式などイベントの中止で業務需要が冷え込むため、「相場は弱もちあいの展開が避けられない」(花き卸)見通し。長引けばバレンタインデーの商戦に影響するとの懸念もある。
一方、牛乳・乳製品は家庭用牛乳類の販売好調が続く。緊急事態宣言再発令で業務需要はさらに減少する恐れがある。だだ、「前回のような全国一斉休校がなければ加工処理量の大幅な増加はない」(業界関係者)との観測も広がる。
食肉は各畜種ともに内食需要の好調が継続しそうだ。豚肉、鶏肉は前回の緊急事態宣言以降、価格が前年を上回って推移しており「国産は在庫も少なく、引き続きスーパー向け中心に引き合いが強まりそう」(市場関係者)。
和牛は外食から内食へのシフトが進んでおり、「外食向けの上位等級は鈍化するものの、3、4等級は前回のような大きな落ち込みはない」(都内の食肉卸)との見通しだ。
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2021年01月08日

緊急事態宣言 再発令 感染防止徹底を 農作業 通常通り可 需要喚起の対策用意
東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県に緊急事態宣言が再発令された。農家は農作業を通常通りに行えるが、農水省は新型コロナウイルス感染防止のガイドラインの順守を呼び掛ける方針。一方、1都3県の人口は3600万人超で日本の3割を占め、政府は飲食を「急所」と指摘する。外食向けの農産物の需要減も懸念される中、同省は2020年度第3次補正予算などで対策を用意する。
1都3県を含め、農家は前回の発令時と同様、農作業を通常通りに継続できる。農家向けにコロナの感染防止や発生時も事業を継続するための対策をまとめたガイドラインは、大日本農会が定める。 同省は、これに従って3密の回避や手洗い、マスク着用などを徹底してもらいたい考えだ。
コロナ禍で売り上げが落ち込んだ農産物の販売促進のため、同省は3次補正予算で「国産農林水産物等販路多様化緊急対策事業」に250億円を確保。販促キャンペーン時の食材を通常より安く仕入れられるように補助し、インターネット販売の送料も助成する。
同省は、国産農産物の需要を喚起する「#元気いただきますプロジェクト」「花いっぱいプロジェクト」も展開中だ。
一方、同省は飲食店支援策の「GoToイート」事業については一斉停止を求めず、①プレミアム付き食事券の新規販売の一時停止②食事券やオンライン予約で獲得したポイントの利用自粛の呼び掛け──を検討するよう、都道府県に要請している。6日時点で1都3県を含めて25都道府県が応じているが、期間は知事の判断となる。
前回の緊急事態宣言発令時には、外食での需要が多かった牛枝肉の価格が下落した。同省は3次補正予算で財源を確保し、経営体質の強化に取り組む肥育牛農家に出荷1頭当たり2万円の奨励金を交付する事業を21年度も当面継続する。3次補正予算では、在庫が増えている国産バターや脱脂粉乳の需要拡大に向けた緊急対策も講じる。
牛枝肉価格が再び落ち込めば、最短で6月だった肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)の生産者負担金の納付再開がずれ込む可能性もある。コロナ禍を受けた資金繰り対策で昨年4月から免除しているが、今年1月以降、月平均の枝肉価格が3カ月連続で1キロ当たり2300円以上となった場合、3カ月後から再開するとしている。
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2021年01月08日

[新型コロナ] 技能実習生 再就労 7割食農分野 「コロナ解雇」受け皿に
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で解雇されるなどした外国人技能実習生を対象に一度限りの職種変更を認める「特定活動」の資格へ移行した約7割が、農業や食品製造業を新たな職種に選び、就労先を見つけていたことが分かった。法務省出入国在留管理庁が調べた。実習生の再就労の実態が明らかになるのは初めてで、世界的な社会・経済不安の中でも「食」を巡る産業が雇用の受け皿となっていることを裏付けた。
外国人技能実習機構によると、政府が緊急事態宣言を発令する直前の2020年3月時点で入国していた、もしくは入国予定だった実習生は計36万6167人。……
2020年12月30日

「公園・緑地大切に」 コロナで都民の6割が実感
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、公園や緑地の重要性を感じるようになった人が6割に上ることが、東京都が都政への意見を聞くために行ったアンケートで分かった。家庭菜園や市民農園で野菜を育てることに興味を持つようになった人も2割を超えた。
調査は生物多様性への考えや新型コロナウイルス感染症拡大に伴う都民の意識の変化を知る目的で実施。都政モニター500人を対象に10月6日までの7日間、インターネットで行い、484人から回答を得た。
新型コロナの感染拡大に伴う自然環境に関する意識の変化を尋ねると、「公園や緑地の重要性を感じるようになった」が61%で最も多かった。次いで「人間と自然環境との適切な距離感を考えるようになった」(29%)、「家庭菜園や市民農園で野菜を育てることに興味を持つようになった」(24%)が続いた。
自然環境や生き物のために心掛けていることでは「マイバッグやマイボトルを利用しプラスチックごみを出さない、食品ロスを減らす」が67%で最多だった。「旬の食べ物や地元産農畜水産物などの食べ物を購入」(40%)する人も多かった。
都農業振興課は「新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増え、身の回りの家庭菜園などへの関心や、地元産野菜へのニーズが高まっていると感じている」と話す。
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2020年12月13日
6割コロナ患者対応 経営は依然厳しく 厚生連病院
新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中、JA厚生連病院が地域医療で奮闘している。JA全厚連によると、1月~9月末までで全国59の厚生連病院が1072人の新型コロナ入院患者を受け入れた。11月からは連日、重症患者数が最多を更新。全厚連は「受け入れ入院患者数は調査時点より確実に増えているとみられ、職員が懸命に対応している」と訴える。
全国には105の厚生連病院があり、受け入れ実績がある病院は56%に上る。また、……
2020年12月04日

コロナ第3波 年末需要に暗雲 営業縮小で家庭向け拡大焦点
新型コロナウイルス感染拡大の「第3波」襲来で、農畜産物の販売動向は不透明感が強まっている。「GoTo」キャンペーン見直しや都市部で飲食店の営業縮小が広がり、業務用の販売は再び鈍化する気配だ。年末の需要期に向けて、堅調な家庭用で全体を補えるかが焦点となる。
米
米は業務需要の低迷が大きな課題だ……
2020年11月27日

コロナ感染急増の北海道 病院、福祉施設に緊張走る 地域のとりで守れ
11月に入り、新型コロナウイルスの感染拡大が急加速する北海道。地域の医療や福祉を守る最前線を担っているのが、医師や介護士らだ。感染者は札幌市だけでなく、道内の農山村地帯に広がりつつある。事態が緊迫する中、地域のとりでとして感染予防策の強化や病床確保など、懸命な対策を続けている。(洲見菜種、望月悠希)
予防対策、態勢整備急ぐ
道内では12日に1日当たりに報告された新規感染者が過去最多の236人を確認するなど、7日連続で150人を超え、感染拡大に歯止めがかからない。
道内で感染拡大が著しい札幌市のJA道厚生連札幌厚生病院共済クリニック。藤永明所長は「従業員はすさまじい緊張感の中で働いている」と話す。飛沫(ひまつ)感染を防ぐため診察室にパーテーションを設けたり、窓口にビニールシートを付けたりする。診察台や検査器具などは1日2回のアルコール消毒を徹底。従業員の会食制限もする。診療控えで3月以降、外来患者は3割ほど減り経営にも影響が出ている。藤永所長は「病院がパニックになり患者の不安をあおるわけにはいかない。冷静沈着に十分に感染対策をして必要な医療を提供したい」と話す。
札幌市の次に人口が多い旭川市。JA道厚生連旭川厚生病院は地域の他の病院と申し合わせ、重症・中症の患者を受け入れることになっている。同病院は「さらに感染者が増加した場合、軽症者を宿泊療養施設に移動させるなどの受け入れ病院の負担減や、個人防護服の不足に備えた支援が必要」とする。
酪農が盛んな釧路地方の弟子屈町。JA道厚生連特別養護老人ホーム摩周は、町内唯一の特別養護老人ホームとして町内や近隣の高齢者福祉を守っている。道内の別の特別養護老人ホームでクラスター(感染者集団)が発生しており「緊張感は高まっている」(菊地崇施設長)という。
同施設は特養で100人、ショートステイは約10人が利用する。菊地施設長は「認知症の利用者が多く面会や外出の制限などの感染対策が理解されないという苦労もある」と明かす。「3密」を避けたレクリエーションなどで対応するが、ストレスを抱える利用者への対応が課題だという。
農業と漁業が盛んな北見市常呂町で96人が入居するJA道厚生連特別養護老人ホームところは2月から、面会方法を変え、窓越しでの会話と無料通話アプリ「LINE(ライン)」を使った対応を取る。11月に入り、同市内の飲食店でクラスターが発生したが、同町とは距離があり、面会は現行対応を当分維持する方針。同施設は「一人でも職員が感染したり、濃厚接触者になったりして出勤停止になると、通常のサービス提供が難しくなる。その場合は人的支援が必要だ」とする。
JA道厚生連は「冷静に地域医療を守る対策を続けるしかない。厚生連だけでなく、地域の医療が一丸で連携したい」としている。
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2020年11月14日