11月22日、「いい夫婦の日」になると思い出す光景がある
2020年11月22日
11月22日、「いい夫婦の日」になると思い出す光景がある。おそろいの赤いシャツを着て肩を寄せ合う老夫婦の後ろ姿である▼30年近く前、結婚間もない頃だった。ある遊覧船のデッキで見掛けた。上り坂、下り坂、それに“まさか”もあったかもしれない。幾星霜を経てなお恋人同士のような2人に、50年後もこうありたいと思った▼〈コロナ禍で 夫婦の絆 試される〉。今年度の「いい夫婦 川柳コンテスト」の大賞作品である。試されているのは、外出自粛中の夫婦の忍耐ではあるまい。相手にうつさないよう、感染防止に互いに努める思いやりの心を詠んだに違いない。昨年の「いい夫婦 パートナー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた俳優の高橋英樹さんも、妻の美恵子さんとの夫婦円満の秘訣(ひけつ)を「相手の気持ちを考えること」と話していた▼ミステリー作家の内田康夫さんの歌に〈妻が踏む枯れ葉の音の心地よく秋の終わりに言うこともなし〉がある。妻の早坂真紀さんとの共著『愛と別れ 夫婦短歌』(短歌研究社)に収められている。脳梗塞で闘病生活を送っていた内田さんは、この歌を作った翌春、83歳で亡くなった。どれだけの時を経ても、妻と過ごす時間がいとおしかったのだろう▼きょうは小雪。自然と肩を寄せ合いたくなる季節が巡ってきた。
おすすめ記事
冬将軍というより白魔である
冬将軍というより白魔である。「家から出るのも大変」。富山の親戚から悲痛な声が届く▼北陸や新潟などは、死傷者も後を絶たず、自衛隊派遣の非常事態に。その惨状はさながら現代の『北越雪譜』である。同書は、越後の商人で文人でもあった鈴木牧之による迫真の豪雪ルポ。江戸のベストセラーにして名著である。雪国に住む者の恨み節が随所に出てくる。意訳するとこんな具合だ▼暖かい地方の人は銀世界をめで、舞い散る雪を花や宝石に例え、雪見の宴などを楽しむが、毎年3メートルもの雪に覆われるこちらの身にもなってほしい。楽しいことなどあるものか。雪かきで体は疲れ果て、財産も費やし、苦労の連続だ─。今も昔も変わらぬ豪雪地帯の悲哀だろう▼コロナ禍や雪害に苦しむ人たちに一足早く春を届けようと、富山市花き生産者協議会が、富山駅の自由通路を特産の「とやま啓翁桜」で飾り、道行く人を楽しませている(13日まで)。産地の山田村花木生産組合では、豪雪で配送に影響が出たが、今月約5万本の出荷を見込む。「人々の心に安らぎを届けたい」と石崎貞夫組合長▼暖かい部屋で7、8分咲きにした後、涼しい場所に移すと1カ月は花を楽しめるという。凍(い)てつく冬に咲く桜のように、つらく厳しい時を乗り越えたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日

原動機1台で内張り2層を同時展張 茨城・施設ピーマン栽培の須之内さん
茨城県神栖市でピーマンを施設栽培する須之内康至さん(66)は、内張りカーテン2枚をビニール巻き取り用の原動機1台で張る方法を取り入れ、省力化につなげている。2枚のカーテンの端を固定し、同時に展張する仕組みだ。
カーテンの端固定
須之内さんは、栽培面積95アールのうち、促成作型の30アールで10年ほど前から取り入れている。カーテンを展張する仕組みは、親戚に改良してもらったものだ。
ワイヤ巻き上げ式の内張りカーテンを、3重に被覆する。屋根側の2層のビニールの端を、直径約1センチの鉄パイプにパッカーで固定。下層のビニールは、たるむほどの余裕をもたせてある。
張ったカーテンを確実にしまうために、ビニールを固定した鉄パイプと、下層のビニールを支えるワイヤをひもでつないだ。
カーテンの操作は手で電動スイッチを押すタイプ。午前8、9時に下層のカーテンから開け、午後4時ごろにカーテンを閉める。
「カーテンの開閉は毎日の作業。電動だが操作が一つ減るだけでも、省力的に感じる」と須之内さんは実感する。
ビニールを巻き上げるワイヤが伸びて長くなり、巻き上げが不十分になることがあるため注意が必要という。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=R_dqGEomQ4w
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月12日
ドイツでアフリカ豚熱 野生イノシシで確認 各地で価格低下 中国など豚肉輸入停止
野生のイノシシのアフリカ豚熱感染が相次いでいることから、ドイツ養豚業界は、警戒を強めている。2020年9月から21年1月8日現在で、計480症例が報告された。その影響で、主な輸出先を失った同国産の豚肉が欧州域内や国内に大量に出回り、各地で価格を下げている。
同国では20年9月、ポーランドと接する東部地域で野生のイノシシから初めてアフリカ豚熱が検出された。……
2021年01月13日

実習生ら対象 外国人入国停止 人手不足深刻化も
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は14日、ビジネス関係者らに例外的に認めていた外国人の新規入国を一時停止した。この例外措置の対象には技能実習生も含まれており、昨年11月から今月10日までにベトナム、中国などから実習生約4万人が入国していた。入国制限で生産現場の人手不足に拍車がかかる可能性があり、農水省は影響を注視している。
農水省 支援活用促す
政府は、コロナの水際対策の入国制限を昨年10月に緩和し、全世界からのビジネス関係者らの入国を再開。感染再拡大を受けて12月28日には一時停止したが、中国や韓国、ベトナム、ミャンマーなど11カ国・地域のビジネス関係者らの入国は例外的に認めていた。だがこの措置も14日から、宣言解除予定の2月7日まで停止した。……
2021年01月15日

コロナ禍の食と農三つの革命で道開け ナチュラルアート代表 鈴木誠
今、コロナ禍にある日本は、産業政策と食料安全保障の両面から、官民挙げた1次産業強化が待ったなしの局面を迎えている。現代は情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)中心の第4次産業革命といわれるが、これからは食料問題中心の第5次産業革命へ移行すべきだ。
今年もわれわれは、コロナと気象変動に強い制約を受ける。現実を受け止め、マイナス面を超える新たな付加価値創造が必要だ。
DX、脱炭素…
創造的破壊は、まずは過去の破壊から始まる。昨年のコロナは、まさに社会を破壊したのだから、今年は創造の年になる。国内1次産業再構築の大命題は、「生産性向上」だ。さもなければ、競争優位性を確保できず、所得は増えず、産業はさらに衰退し、国力は低下する。生産性向上には「DX(デジタル)革命」「脱炭素革命」「物流・サプライチェーン革命」と、三つの革命が成長エンジンだ。
1次産業は、他産業に比して遅れているDX革命が、逆に期待の星だ。業界や地方が抱える人手不足問題を解消し、経験・勘・思いこみに依存した経営スタイルから脱却し、科学的経営に移行する。
脱炭素革命はエネルギー革命だ。1次産業は化石燃料の依存度が高く、高コストかつ二酸化炭素(CO2)の問題を抱えている。太陽光など、再生可能エネルギーの普及・拡大はもちろんのこと、ウオーターカーテン方式や高度化した断熱シート、エネルギーの無駄遣い対策の熱交換システムなど、脱化石燃料が進みつつある。災害等緊急事態への事業継続計画(BCP)対策も忘れてはいけない。
物流・サプライチェーン革命もCO2問題をはじめ、ドライバー不足、低積載効率、車両・運賃等高コスト問題など、早急に対応が必要だ。物流センターはハブ&スポーク方式とし、全国主要地域に大型拠点物流センターを再整備し、それに連なる中小集荷センターを各地に配置することだ。
そのためには、卸売市場の自己構造改革、あるいは物流事業者や総合商社などの新規参入を含め、選択肢は複数ある。現状縦割りのサプライチェーンは、売り手と買い手が協調する一体改革が求められる。
栽培技術向上も
その他、栽培や養殖などの生産技術向上も、生産性向上には欠かせない。植物の栽培技術向上の起爆剤として、「バイオスティミュラント」が注目されている。
バイオスティミュラントは、海外では欧州連合(EU)を中心に急拡大しているものの、国内ではまだ緒に就いたばかりだ。これまでのように化学農薬や化学肥料で、過保護に植物を育てるのではなく、植物そのものの免疫力を高め健康にする栽培だ。日本は、化学農薬大国からそろそろ卒業する必要がある。植物が健康になれば、収量が増え、食味は良くなり、機能性(栄養価)は向上し、結果として生産者所得は向上する。
これまで幾多の試練を乗り越えた日本の真価が、いま改めて問われている。
すずき・まこと 1966年青森市生まれ。慶応義塾大学卒、東洋信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)を経て、慶大大学院でMBA取得。2003年に(株)ナチュラルアート設立。著書に『脱サラ農業で年商110億円!元銀行マンの挑戦』など。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月11日
四季の新着記事
1991年1月17日、米国主導の多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が始まった
1991年1月17日、米国主導の多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が始まった▼イラクによるクウェート侵略が原因。フセイン大統領は、米国は介入しないと判断していたとされる。イラクは敗北し、米国の「テロとの戦い」でフセイン政権は崩壊した。指導者の判断ミスは国を危うくする▼38年1月16日は日本にとってそうした日である。日中戦争の最中、近衛文麿首相は「国民政府を対手(あいて)とせず」と声明。「和平なんてしないというもので(略)泥沼化」(半藤一利著『昭和史1926―1945』)。日本はその後、三国同盟の締結、南部仏印進駐と対米戦争への道を進む。時の首相も近衛で、石油の全面禁輸など米国の報復に驚いたという▼政治学者の猪木正道さんは『日本の運命を変えた七つの決断』で、太平洋戦争の開戦では「東条よりは近衛の責任の方がはるかに重い」と断罪。「与えられた状況のもとにおいては、最も有利な、最も危険のない道を選ぶのが政治家としての使命」と指摘する。日本のコロナ初感染者の発表から1年。爆発的感染拡大に近い地域が増え、入院に優先順位を付けなければならない事態も生じている。政治家の使命に照らし菅首相の責任はいかほどか▼前出の半藤さんが亡くなった。著作から史実の見方を学んだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月16日
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた▼映画は、大正7(1918)年、富山県で起きた米騒動の史実による。主人公は、米を船に積み込む漁村の「おかか」たち。シベリア出兵を控え、米の価格が高騰する。家族と暮らしを守るため、米問屋に直談判、ついには米の積み出しを阻止しようと体を張って実力行使し、価格引き下げを勝ち取る。「女米一揆」は新聞で取り上げられ、各地の運動に火をつけていく▼働く女性による民主化運動の嚆矢(こうし)だろう。映画でリーダー役のおばばが言い放つ。「理想や主張で腹いっぱいになるんがやったら、誰も苦労せんわ」。資産家や警察の脅しに一歩も引かない。「負けんまい」「やらんまいけ」。命懸けの決起が、社会を動かしていく▼主演の井上真央さんが、公開イベントで語っている。「名の無い人たちの頑張ろうとする力が(社会を)大きく変えていくのだろうなと思う。この時代に勇気を与えられるような作品になっていると思います」。コロナ禍に豪雪被害。井上さんは、大変な時だからこそ、映画や娯楽が「一筋の光」になればと願う▼時は移り、世は空前の米余り。値崩れの危機を前に政府の腰は重い。「令和の米騒動」で、「全米作農家が泣いた」とならぬよう祈る。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月15日
またぞろ巣ごもりに逆戻り
またぞろ巣ごもりに逆戻り。そこで少し頭の体操にお付き合いを▼次に掲げる歌を声に出して読んでいただきたい。「鳥啼(な)く声す 夢覚(さま)せ 見よ明け渡る 東(ひんがし)を 空色栄(は)えて 沖つ辺(へ)に 帆船群れ居ぬ 靄(もや)の中(うち)」。実はこれ「いろは歌」。仮名48文字を1字ずつ織り込んだ作品▼日本語博士・藁谷久三さんの『遊んで強くなる漢字の本』にある。明治36(1903)年、「万朝報」という日刊新聞が募集した「いろは歌」の傑作である。次は回文の秀作。「時は秋 この日に 陽たづねみん 紅葉(こうえふ)錦の葉が 龍田川(たつたがは)の岸に殖(ふ)え 鬱金(うこん)峰づたひに 陽の濃き淡(あは)きと」。全部仮名にして、下から読んでほしい。そのすごさが分かる▼作者や出典はよく分かっていない。だが日本語博士をもってしても、この詩文の長さと出来栄えに匹敵する回文は見たことがないという。「たけやぶやけた」に比べるのは失礼だが、万葉の趣さえ漂う。個人的に好きなのは、不謹慎ながら故立川談志師匠を読み込んだ「だんしがしんだ」▼ネットの回文専門のサイトにはコロナ禍を読んだ傑作が多い。「策ないわ 探すも菅さ ワイ泣くさ」「菅の危機警告 小池聞き逃す」。その見事さに脱帽。脳トレに回文作り、あなたもいかがですか。憂さ晴らしにもうってつけ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月14日
冬将軍というより白魔である
冬将軍というより白魔である。「家から出るのも大変」。富山の親戚から悲痛な声が届く▼北陸や新潟などは、死傷者も後を絶たず、自衛隊派遣の非常事態に。その惨状はさながら現代の『北越雪譜』である。同書は、越後の商人で文人でもあった鈴木牧之による迫真の豪雪ルポ。江戸のベストセラーにして名著である。雪国に住む者の恨み節が随所に出てくる。意訳するとこんな具合だ▼暖かい地方の人は銀世界をめで、舞い散る雪を花や宝石に例え、雪見の宴などを楽しむが、毎年3メートルもの雪に覆われるこちらの身にもなってほしい。楽しいことなどあるものか。雪かきで体は疲れ果て、財産も費やし、苦労の連続だ─。今も昔も変わらぬ豪雪地帯の悲哀だろう▼コロナ禍や雪害に苦しむ人たちに一足早く春を届けようと、富山市花き生産者協議会が、富山駅の自由通路を特産の「とやま啓翁桜」で飾り、道行く人を楽しませている(13日まで)。産地の山田村花木生産組合では、豪雪で配送に影響が出たが、今月約5万本の出荷を見込む。「人々の心に安らぎを届けたい」と石崎貞夫組合長▼暖かい部屋で7、8分咲きにした後、涼しい場所に移すと1カ月は花を楽しめるという。凍(い)てつく冬に咲く桜のように、つらく厳しい時を乗り越えたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日
二度目の緊急事態宣言
二度目の緊急事態宣言。都心はひっそりかんとしている▼東京郊外の拙宅周辺は、昨年後半から住宅建設ラッシュ。地元通の酒屋の店主いわく、優に100棟は建つとか。都心脱出の流れなのか。入居も始まったが、巣ごもりのせいでにぎわいはない。赤ん坊の泣き声もとんと聞かない▼昨今、赤ちゃんの泣き声を耳障りに感じる人が増えた気がする。飛行機や列車で露骨に嫌な顔をする人を何度も目にした。「騒音」と感じるか、ほほ笑ましく感じるか。あなたはどちらだろう。そもそも赤ちゃんの泣き声は、言葉の代わりに発する緊急サイン。「おなか減った」「おしっこ漏れそう」「なんだか熱っぽいよ」▼親に分かってもらおうと必死に伝える。だから不思議なことに、その泣き声は、救急車や目覚まし時計のアラーム音などと同じ周波数を含んでいるという。しかも世界共通。成長するに連れ、声帯は変わるが、生まれたては人類皆同じ。サイレンと同じだから不快になって当たり前。「子どもは泣くのが仕事」。そんな大事な「仕事」を温かく見守り、手を差し伸べ合う社会であってほしい▼ところでコロナで窮状にあえぐ国民の悲鳴や泣き声は、政府にちゃんと届いているのだろうか。よもや「騒音」封じの緊急事態宣言再発令ではあるまいが。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月12日
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある。今の大学生がそうかもしれない▼入学式は自粛、授業はオンライン、サークル活動は停滞、アルバイトもできない。たまに友人と盛り上がったら〈自粛警察〉の目が光り、年配者からは〈無症状感染〉を疑われる。だが未来は閉ざされてはいない。「機会は誰にでも平等であると固く信じている」。世界を変えたスティーブ・ジョブズの言葉。ピンチはチャンスへの入り口と信じよう▼コロナ下の明るいニュースに困窮学生に食料支援と励ましのメッセージを送る活動がある。新潟県燕市が昨年春、帰省できない学生に行い、他の自治体やJAなどの協同組合にも広がった。中には支援を受けた若者が人手不足の農作業を手伝う動きも生まれた。そんな活動に汗をかくJAふくしま未来が昨年暮れ、政府の「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞した。地域貢献以上の可能性を感じさせる▼若い世代との関わりづくりは農の未来に種をまくはずだ。きょう成人の日。各地で成人式の中止・延期が相次ぐ。本人はもとより両親、祖父母まで晴れの日を迎えられない落胆はいかばかりか。週末には大学入学共通テストも控える▼せめて寒気が収まり、穏やかな日であってほしい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月11日
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある。今年はどう見ても辛抱の年か。その先に希望が芽吹いてほしい▼あまり話題に上らないが、夏には東京五輪・パラリンピックが控えている。国産食材と花のブーケ、そしておもてなしの心で世界中のアスリートと訪日外国人を笑顔にしたい。初夢のことである。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が世に出たのは1961年の丑年。人間でいえば今年還暦を迎える。少年まさに老いやすし。大都会に生きる地方出身の若者たちの応援歌で、今なお励まされている人は少なくない▼九さんが日航機墜落事故で亡くなったのは、くしくも丑年の1985年。感染症分類で新型コロナウイルスより危険度が高いペストは、明治時代に国内でも流行した。丑年の1901年、警視庁が屋外での跣足(せんそく)(裸足)歩行禁止令を出している。願わくば後世、コロナ終息の丑年と刻まれたい▼牛は昔、農耕になくてはならぬ役牛、今はミルクやブランド牛肉として地域農業の屋台骨になっている。「牛に引かれて善光寺参り」は思いがけず良い方向に導かれること。年末の本紙記事で、米食が免疫力を高めてコロナ感染を抑制するとの研究論文を知った▼消費拡大に導いてほしい。コロナ禍に隠れているが、米需給も〈勝負の1年〉になる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月10日
朝はラジコで郷里のローカルニュースを聞く
朝はラジコで郷里のローカルニュースを聞く。彼我の決定的な違いは天気予報で、「風雪波浪注意報・警報」の久しく失念していた気象用語が頻繁に耳に入る▼この時季、ドラマ「北の国から」で、突然の猛吹雪に遭難した純と雪子をドサンコが見つけるシーンを思い出す。近づいてくる馬の鈴の音が2人の命を救った。馬は地吹雪でも立ち往生せず、そりは雪道にはまらない。自動車はそうはいかない。馬そりを操る笠松のじいさんは開拓民、名優大友柳太朗が演じた。「なつぞら」よりもリアルな人物像であり、偏屈でけちで顔が酒焼けしている。18年間苦労を共にした愛馬を手放した夜、五郎の前で涙を浮かべるシーンが心を打つ▼年末から日本列島は殊の外寒い。農作物への雪害に気を付けたい。菅首相が2度目の緊急事態宣言。慎重姿勢を転じたが、1都3県・業種限定で意図した〈強いメッセージ〉が国民に伝わるか。ここは命を守り抜くとの迫力を見たい▼昨年5月の宣言解除の際、安倍首相は「日本モデルの力を示した」と胸を張った。強制を伴わなくても3密回避の行動変容を国民がやり抜いたことへの自負だろう。しかし今は〈コロナ慣れ〉と〈背に腹は代えられぬ〉の現実がもう一方にある▼寒波と3波が覆う列島に鈴の音は近づくか。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月09日
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』には、盗っ人でも守るべき「三か条」がある
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』には、盗っ人でも守るべき「三か条」がある▼「殺さず、犯さず、貧しきからは盗(と)らず」。主人公の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵は、「三か条」を守る盗っ人には寛容で、平然と破る悪党には容赦がない。幼少の頃からの苦労が醸す、人情味あふれる捕物帳である。権力を持つ巨悪に目をつむりがちな世の中への憤りもあってか、池波文学は多くのファンを引き付ける▼司法関係者にも人気がある。元東京高裁判事で弁護士の原田國男さんは、特に若い裁判官に薦める。「悪い奴は徹底的に懲らしめるが、可哀想(かわいそう)な奴は救うという精神で一貫している。ここがいい」(『裁判の非情と人情』岩波新書)。裁判官は人を裁く権力を持つ。だからこそ、「可哀想だなと思ったら、量刑相場でなくとも、軽い刑や執行猶予にすればよい」。厳粛な司法の世界で生きる人情味▼きょうは「一か八か」に見立てた「勝負事の日」。江戸時代の賭け事「丁半ばくち」の丁と半の漢字の上部分が「一」と「八」に見えることから使われるようになったとも伝わる。新型コロナには「勝負の3週間」「真剣勝負の3週間」と連敗し、政府は1都3県を対象に緊急事態宣言の発令を決めた▼貧者も弱者も苦しめる“巨悪”に、手加減はいらない。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月08日
中国の唐の時代に孫思邈(そんしばく)という仙人がいた
中国の唐の時代に孫思邈(そんしばく)という仙人がいた。大みそかになると、生薬を入れた袋を酒に浸し、元旦の朝に飲んでいた▼おとそである。いつまでも若くて元気なのは、あの酒のせいではないかとうわさとなり、正月の習慣が生まれた。一説では、仙人のいおり「とそ庵」にちなんで、呼ばれるようになった。「そ」の漢字は「蘇」で「よみがえる」を意味する。つまり、病魔に打ち勝って新しくよみがえる願いを込めた。『身近な「くすり」歳時記』(鈴木昶著)で知った▼いくら薬といっても、飲み過ぎれば毒となる。おせち料理をさかなにやっているうちに、空のちょうしが並ぶ。日常生活を一変させた、新型コロナへの恨みと一緒に飲み干す。体にいいわけがない。そんな凡人の習性を見通すように、体調を整える七草がゆの登場である▼きょうは、七種(ななくさ)の節句。7種類の若草をかゆに入れて食べると、病気にかからず、邪気を払うという中国伝来の習俗が伝わった。平安中期に宮中行事として取り入れられ、江戸後期に庶民の生活に広まった。〈セリ、ナズナ、オギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草〉。五七五調のリズムもいい▼雪国は大雪、首都圏は緊急事態宣言へ。門松を外し、正月気分もほどほどに、気を引き締める。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月07日