松本薫さん(柔道ロンドン五輪金メダリスト) 骨折しない体になり開花

松本薫さん

 私にとって思い出の食べ物といえば、父が作ってくれたスペアリブです。中学の頃から、試合の前、合宿や遠征に出掛ける前、父がいつも作ってくれました。私にとっての勝負飯でした。

 海外での大会での試合前に絶対食べたのが、卵。黄色い黄身が「君に金メダル」と言ってくれているみたいじゃないですか。ロンドンオリンピックの時は、栄養士さんに卵焼きを作ってもらい、それを食べて試合に臨みました。
 

勝利のためなら


 験担ぎやルーティン(決まり事)をあえてしないという考え方もあると思います。でも私はやった方がいいと思っていましたし、周りの選手も何かしらやっていましたね。試合前は必ずカツ丼を食べるとか、パンではなくご飯じゃないと力を出せないとか。

 勝つ道に続くのなら、できることはどんなことでもするんです。

 これを食べたら、これをやったら、自分が落ち着く。そういうものがあったら、すがり付きます。柔道選手は体はタフなんですが、優勝して当たり前と期待されていますので、プレッシャーが大きい。それだけ注目して応援していただいているわけですから、こちらとしてもしっかり卵を食べて勝ちにいったわけです。

 私は甘い物が大好きなんです。学生の頃はめちゃくちゃな食生活をしていました。お昼ご飯は、お米も肉も野菜も食べずに、アイスやチョコと炭酸飲料で済ませていました。いつもそればっかり。

 私が甘い物好きなのは、強化コーチも知っていたので、禁止令を出されました。合宿の時は見張られていたんです。それでも食堂でジュースだけ飲んで「ごちそうさまでした」と言って、部屋に戻って甘いお菓子を食べたりしてました。先輩たちにバレて、めちゃ怒られました。

 食生活が悪かったから、よく骨折をしました。18、19、20歳と、年に1回骨折したんです。

 21歳、大学4年になって、そろそろ実業団に入るので、このままではいけないと感じて、食生活を改善しました。自分でもかなり勉強したんです。体がきつい時は、豚肉を食べてアミノ酸を取る。減量時には脂肪と炭水化物を減らしてタンパク質多めの食事を。試合前の1週間は炭水化物を多めにしてエネルギーを作るように、と。

 食事を改善してからは、骨が折れなくなりましたね。しっかり筋肉が出来上がって、減量の必要がほとんどなくなりました。そして、力を発揮しやすくなったんです。それまでできなかった技の仕掛けに素早く入れるようになったんです。戦っていて「あれ、技に入れる。技をかけられる」と、不思議に感じました。瞬間的な動きや素早い反応ができるようになり、柔道の幅が広がったと思います。
 

“勝負飯”娘にも


 結婚して子どもにも恵まれました。旦那と二人で、手料理をするように心掛けています。食事が本当に大事だと分かったからです。私が一番得意なのは、父からレシピを教えてもらったスペアリブ。3歳になった娘が初めてお稽古事に行く時に作ってあげました。娘の勝負飯です。

 今、私はアイスクリーム店で働いています。天職だと感じています。一緒に働く皆と試食もしないといけないですから。でも食べ過ぎないように抑えるのが大変。食べたい気持ちを抑えて、ルールを作りました。試食は2口まで。それだけでどう改良すればいいか判断できるように、五感全てを研ぎ澄ませて食べています。(聞き手=菊地武顕)

 まつもと・かおり 1987年、石川県生まれ。2010年から3年連続で女子57Kg級世界ランク1位。12年のロンドン五輪で金メダルに輝き、闘志あふれる姿から「野獣」と呼ばれた。16年のリオデジャネイロ五輪では銅。19年に引退し、現在は所属会社が開いたアイスクリーム店「ダシーズ」で働く。2児の母でもある。
 

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