みどりの食料戦略 共生への理念 見えず 特別編集委員 山田優

 農水省が進めているみどりの食料システム戦略の具体的な内容がメディアに漏れ始めた2月末、これまで日本国内で有機農業を引っ張ってきた人たちの間に、困惑が広がった。

 ニュースを読んだ日本有機農業学会の谷口吉光会長(秋田県立大学教授)が、役員ら30人に急いで一斉メールすると、「驚いた」という返事しかなかった。学会は3月19日に戦略に対する提言をまとめた。その中で「多くの有機農業関係者にとって寝耳に水」と表現し、農水省の拙速な政策手法に苦言を呈した。

 3月29日に決まった戦略の中間取りまとめは、環境対策を農政に大胆に取り込む宣言のようだ。「環境対策に力を入れるのは悪いことじゃない」と思う半面で、戦略を決める方法と内容は突っ込みどころ満載の欠陥品にしか見えない。

 手順からしておかしい。昨年10月16日に野上浩太郎農相が戦略づくりを会見で披露。その後12月21日に戦略本部が設置された。年が明けて関係者らとの意見交換会を繰り返し、3月5日に素案がまとまったという。

 即席麺じゃあるまいし、3カ月ぐらいで農政の大転換を決めないでほしい。農政の重要事項を調査審議する食料・農業・農村政策審議会という場があったはずだが、スルーして官僚だけで大切な話を決めてよいのか。

 日本の有機農業は農水省が守り育てたものではない。逆に有機農業を異端視してきた歴史がある。反省して有機農業に本腰を入れるのなら、これまで引っ張ってきた人たちへの最低限の敬意と意思疎通が必要だろう。

 欧州委員会も先週、30年までに25%を有機農業に転換する行動計画を決めた。長い歴史をかけ有機農業を育ててきた欧州だが、計画を決める前には念入りなコミュニケーションを取った。昨年9月から3カ月ほど24の言語で広く意見を求めたところ、市民や関係団体から840が集まり、委員会は検討した。

 農水省が戦略をお手軽につくれたのは、人工知能(AI)や除草ロボットなどスマート農業が「なんとかしてくれる」と考えたからだろう。農家や地域、消費者の視点が抜け落ちた上から目線の計画は、中身がすかすかだ。

 有機農業を増やすのは目標であって目的ではない。地域の農業を巻き込みながら、日本全体で環境と共生できる農業に近づける手段の一つだ。戦略にそうした理念や全体像の姿が見えないことも残念だ。

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