あんぐる
守り伝えたい農村の風習や新しい農業・農村の動き、農や食にまつわる各地の話題などを、カメラで追います。

[あんぐる] 天空の特等席 田んぼに泊まろう 棚田キャンプ(長野県上田市)
農閑期の棚田を期日限定のキャンプ場とするユニークな取り組み「棚田キャンプ」が、長野県上田市の「稲倉の棚田」で開かれている。5回目となる11月9、10日の開催には約150人が集まり、秋の絶景を満喫した。
この棚田は北アルプスを望む標高640~900メートルの急斜面にあり、約780枚、合わせて30ヘクタールほどの水田が連なる。
「棚田キャンプ」は春と秋の稲作に影響しない時期に開かれる。今回は約20枚の棚田に設けた、一つ60平方メートルの区画それぞれに、アウトドア愛好家がテントを張った。
ハイライトは夜だ。日が沈むと、明かりがついた約60張りのテントが暗い棚田に浮かび、遠くに市街の明かりが輝いた。
参加は4度目で、自分で田植えや稲刈りをする「棚田米オーナー」でもある東京都荒川区の会社員、石井由紀さん(48)は「冷えて風も強いが景色がきれい。都内からのアクセスも良い」と魅力を話した。
参加者に配られた新米のコシヒカリ「稲倉の棚田米」。「おいしい」と評判だ
江戸時代に開かれたと伝わる「稲倉の棚田」は大きな農機を使えず、一時は耕作放棄が目立った。だが1999年の「日本の棚田百選」入りを契機に、地元有志が荒れた水田の再生を始めた。
2003年には、住民やJA信州うえだ、市などが棚田保全を目指した組織を発足。15年からは「稲倉の棚田保全委員会」の名称でオーナー制度などに取り組んでいる。
「棚田キャンプ」は、各地の棚田保全を支援するNPO法人棚田ネットワークの玉崎修平さん(44)の案を、同委員会メンバーらの任意団体「棚田フューチャーズ」が形にした。18年春に始めるとアウトドア情報誌で紹介されるなど注目を集め、毎回満員になっている。参加後に棚田米オーナーになる人も多い。
次回は来年春の予定。同委員会の事務局を務める石井史郎さん(57)は「これからも活用を含めた棚田の新しい在り方を探りたい」と話す。(釜江紗英)
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2019年12月02日

[あんぐる] どっぷりはまった 島原城秋のレンコン掘り大会(長崎県島原市)
この秋も消費者が農産物の実りを楽しむ催しが各地で開かれた。長崎県島原市では、島原城を囲む堀でレンコンを収穫し重さを競う名物イベントに、県内外から約130人が集合。収穫合戦を繰り広げた。
行事の名前は「島原城秋のレンコン掘り大会」。島原城の間近にある森岳商店街が毎年催し、15回目の今年は10月14日に行った。
ルールは単純明快。参加者は城を囲む外周約4キロの堀に入り、自生するレンコンを手で収穫する。一番重いものを採った人が勝ちだ。
午前10時、開始の合図とともにゴーグルや雨具に身を包んだ参加者が一斉に堀に入り、首まで漬かってレンコンを探した。しばらくすると、あちこちから「あった!」「採れた!」と歓声が起こった。
堀で自然に育ったレンコンは一般に流通しているものより細いが、同じように料理して食べられる。長崎市の会社員、安永まゆみさん(55)は「足の感覚で探すのが楽しかった。たくさん採れたのでレンコンパーティーをしたい」と楽しんでいた。
島原城の石垣と堀は昔のままだという
島原城は1620年代に築かれたと伝わり、現在は公園として整備されている。堀は昔のまま。ハスは、1950年代まで農家がここでレンコンを栽培していた名残だという。
この逸話を地域おこしに生かそうと考えた同商店街が2005年、レンコン掘り大会を始めた。初回は30人ほどだった参加者は口コミで増え、今では地域の名物行事の一つになった。
今回、重さ2・6キロのレンコンを採って優勝した島原市の看護師、北村寿郎さん(41)はトロフィーやメダルを受け取り「7回目の参加で優勝できた」と喜んでいた。
商店街会長の松坂昌應さん(65)は「堀には、130人がかりでも採り切れないほどレンコンがある。来年も大勢の挑戦を待っています」と笑顔を見せた。(富永健太郎)
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2019年11月18日

[あんぐる] 光の食卓夢心地 夜の果樹園(福島市)
日が暮れた後の果樹園を新たな観光資源に生かす挑戦が福島市で進んでいる。実ったリンゴや桃の木を幻想的にライトアップした園地で、果実狩りや県産食材のディナーを楽しむもので、その名も「夜の果樹園」。来年の本格実施を目指す。
市内のまるせい果樹園で10月23日、リンゴの実りに合わせた「夜の果樹園」が開かれた。
午後6時ごろ、復興庁が催した福島県の食などを体感するツアーの参加者およそ30人が到着。カウントダウンとともに約500個の電飾が一斉にともり、暗闇に収穫期を迎えたリンゴ「陽光」の実が浮かび上がると歓声が上がった。
参加者は、この光景をインターネット交流サイト(SNS)に載せようと盛んに写真を撮り、昼間とは一味違う夜のリンゴを満喫した。園主の佐藤清一さん(49)の手ほどきを受けてリンゴ狩りを楽しみ、市内の人気店のシェフが腕を振るった福島牛のステーキや、同市産の地酒「金水晶」などを味わった。
リンゴの木に電飾を取り付ける作業は、収穫間際の実に注意して慎重に行う
「夜の果樹園」は、桃などの大産地である同市の木幡浩市長が県内で撮られた夜の桃園の写真を見て観光資源化を思い付いたことを発端に、市内の有志による実行委員会が始めた。
2018年9月に同園で初めて行って以来、プレオープンと位置付けて夏は桃、秋はリンゴの園地で不定期に開く。20年からの本格実施に向けてノウハウを蓄えてきた。
来年からはサクランボ畑でも開く予定で、夜の行楽として定着を目指す。特に東京オリンピック・パラリンピックで来日する外国人観光客に、福島県の食や農業をアピールする考えだ。
実行委員で、SNSによる自治体などの情報発信を手助けする会社、SMLで代表取締役を務める熊坂仁美さん(59)は「農地はエンターテインメントの場になる可能性を秘める。あまり訪れる機会がない人にも農業の魅力を伝えたい」と話す。(釜江紗英)
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2019年11月04日

[あんぐる] 静かな人気「農業ミニチュア」 郷愁、憧れ…胸キュン
農業を題材にしたミニチュアが静かな人気を集めている。“萌(も)え系”フィギュアと農機を組み合わせた斬新なプラモデルは模型ファンの心をつかみ、農作業の紙製ミニチュアは部屋を飾る小物として女性が注目する。さまざまな模型を集めた。(富永健太郎)
アニメ風の農業女子フィギュアが操るのは、ホンダが1966年に発売した耕運機「F90」。東京都千代田区の玩具メーカーのマックスファクトリーが、2018年に売り出したプラモデルだ。大きさは実物の20分の1で、やかんや水筒などの小道具も添えた。開発担当の高久裕輝さん(37)は「耕運機がSFに登場する機械に見えた。農業は未開拓の分野だが、売れ行きはいい」と手応えをつかむ。
茨城県守谷市の巧玩具設計者・河邊明さん(69)は、趣味で半世紀前の米国社製トラクター「フォード871」を木で作り上げた。コンピューターで描いた図面を元に、板から工作機械で部品を切り出した。大きさは実物の12分の1。さまざまな木製玩具を手掛ける河邊さんは「古いトラクターの無骨なデザインに引かれた」という。
東京都世田谷区のテラダモケイが販売する、農作業中の農家を表現した紙製のミニチュアが女性に人気だ。元は建築模型に添える部品だったが、農作業を再現したものが「懐かしさを感じる」と注目された。切り離して折るだけで飾れる。同社の足立睦さん(39)は「20代から40代の女性が、部屋に飾って楽しんでいる」と話す。
農作業中の農家を表現した紙製のミニチュア
埼玉県蕨市の模型メーカー、マイクロエースが販売する「箱庭シリーズ『農家』」は、かやぶき民家や水田を再現したジオラマ風のプラモデル。実物の100分の1サイズで、屋根はヤシの繊維で表現。完成すると、井戸や荷車などがある農家の庭先ができる。水田の部分で栽培できるチモシーなどの種も付属する。同じシリーズに牧場などもある。同社は「作って育てて楽しんで」と勧める。
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2019年10月21日

[あんぐる] 豊穣の舞 脈々と 朝日豊年太鼓踊(滋賀県米原市)
滋賀県米原市朝日地区では、住民が毎年10月上旬、五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する「朝日豊年太鼓踊(おどり)」を八幡神社に奉納する。色鮮やかな衣装を身にまとい、竹のばちで太鼓を打ち鳴らしながら、掛け声に合わせて勇ましく舞う。
今年の開催日となった6日の午後1時ごろ、背中に金色の飾りを付け、肩から腕に着る赤い「緋(ひ)小手」やすげがさ、縦じまのはかまで着飾った住民合わせて約100人の行列が出発。腹に抱えた太鼓や鉦(しょう)、笛を鳴らしながら、伊吹山を望む住宅地や農道を八幡神社まで練り歩いた。
参加者には子どもが目立った。「太鼓打ち」として参加した吉田絢寧さん(7)は「とっても緊張する。上手にたたけるように頑張る」と本番に向けて意気込んでいた。
神社に着いた一行は、境内で輪になり、体を翻しながら腕を大きく振り上げて太鼓をたたき、ばちを打ち合わせて踊った。踊り手の列の間を、子どもが舞いながら通り抜ける見せ場もあった。終盤には2列になって膝を突いて踊る「綾(あや)の踊り」を披露。最後は再び輪になって踊った。
ばちを勇ましく打ち合わせながら踊る「太鼓打ち」
この踊りは約1300年前、伊吹山の山裾に位置する大原郷を開墾した際に、雨乞いを目的に始まったと伝わる。かつては地域のあちこちで見られたが、農業用水が整って雨乞いが廃れると、多くは消えた。
一方、朝日地区では、自然への感謝と五穀豊穣の祈願に姿を変えて現在まで受け継がれてきた。現存する太鼓踊りの中でも勇壮さが特徴で、1974年に国が選択無形民俗文化財に指定。2015年認定の日本遺産「琵琶湖とその水辺景観―祈りと暮らしの水遺産」の構成文化財にも名を連ねる。
保存会の馬渕英幸会長は「地域の自慢で、郷土愛を育むきっかけになっている。受け継いだ踊りを絶やさぬよう、若い人にも参加してほしい」と語る。(釜江紗英)
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2019年10月14日

[あんぐる] だんだん…秋衣装 実りの「くい掛け」 大蕨の棚田 (山形県山辺町)
山形県山辺町の山間部にある「大蕨(おおわらび)の棚田」に、この秋も稲を干す「くい掛け」がずらりと並んだ。その数は約1000本。1本のくいを軸に稲束を積み上げる地域伝統の干し方と棚田の独特な景観を地元農家らが守っている。
棚田ができた時期は不明だが、江戸時代初期に当たる寛永13(1636)年の領地目録などに記録が残る。高低差60メートルの斜面に26枚の水田が広がる。総面積3・4ヘクタールのうち、現在2・5ヘクタールを12戸の農家が耕作し、県が育成した品種「里のゆき」を作っている。
くい掛けに使う棒は杉の木で、長さは約2メートル。これを、あぜに穴を掘って約2メートル間隔で立て、大人の膝と腰の高さに短い横棒を結び付けて軸にする。稲は両手でつかめるくらいの束にして、初めに横棒に掛け、続けて方向を変えながら、最終的に60束ほどを積み上げる。
くいに稲を干す農家。稲束を次々に掛ける
農家らが協力し、10日間かけて大量のくい掛けを作り、10日置きに掛け替えながら約1カ月干す。稲作農家の武田二男さん(71)は「稲穂のまま乾かすので、おいしくなる。今年は天気に恵まれ、米の出来も良い」と作業に励んでいた。
大蕨の棚田は、県内に三つある「日本の棚田百選」認定地区の一つ。1999年の認定時には全体が使われていたが、2011年には高齢化や担い手不足が響き、全体の3割に相当する1ヘクタールほどしか使われなくなった。
この状況に対し、「景観を守り、くい掛けを次世代に継承しよう」と地元農家が奮起し、同年「中地区有志の会」を結成。くい掛け体験や、サッカーJリーグ・モンテディオ山形の選手と農作業をするイベントを催し、ボランティアとも協力して棚田の再生を進めている。
同会とボランティア組織「グループ農夫の会」の発起人で、元JA全農山形職員の稲村和之さん(66)は「多くの人たちの力でここまできた。くい掛けが棚田の頂上まで並ぶ景色を取り戻したい」と話す。(富永健太郎)
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2019年10月07日

[あんぐる] 酢っかりとりこ ミツカンミュージアム(愛知県半田市)
酢の産地として知られる愛知県半田市で、産地の歴史や製法を学べる「ミツカンミュージアム」が人気を集めている。体験型の多彩な展示物で思う存分“酢漬け”になれる博物館として評判を呼んでいる。
同館は市内に本社を構える酢の老舗メーカー、ミツカンが設けた。五つの展示室をツアー形式で巡ると、酢の知識を深めることができる。
異彩を放つのが幅約2メートル、長さ約8メートルのテーブルに並ぶ大量のすしの模型だ。マグロのにぎりずしやイクラの軍艦巻きなど1100貫が整然と並び、来館者の人気を集める。現在のにぎりずしの原型で、江戸で人気があった「早ずし」にも、同地で造られた酢が使われたという逸話にちなんだ展示だ。
この他、仮名の「す」の文字の一部になりきるコーナーや、オリジナルラベルのポン酢作りなど、ユニークな体験がめじろ押しだ。
醸造技術や歴史を紹介する一角では、江戸時代に実際に使っていた仕込みに使う直径約1・8メートルの木おけや、江戸まで酢を運んだ全長約20メートルの「弁才船(べざいせん)」を実物大で再現した物もある。同県東浦町から訪れた会社員、杉浦暁子さん(39)は「この船で酢が運ばれていたかと思うと感慨深い」と感心していた。
(写真左)江戸時代に作られた仕込み用のおけを見物する来館者(同・右)仮名の「す」の文字になりきる来館者
同市がある知多半島は古くから酒などの醸造が盛んだ。同社も造り酒屋がルーツで、江戸時代の1804年に創業者が酒造りの際に出る酒かすを活用した「粕酢(かすず)」を考案。米との相性の良さからすし酢として評判になり、江戸まで送るようになった歴史がある。
同館は酢の歴史や魅力の発信を目的に1986年に開館。2015年に展示内容を一新した。年間およそ16万人が訪れ、市内の観光の目玉になっている。榊原健館長は「酢がテーマの博物館は全国でここだけ。台所では脇役の酢もここでは主役。楽しみながら親しんでほしい」と話す。(富永健太郎)
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2019年09月30日

[あんぐる] 跳べ 世界へ ハンドボール選手 三重・JA鈴鹿職員の河嶋英里さん
三重県のJA鈴鹿で働く河嶋英里さん(27)は、女子ハンドボールの国内トップリーグ「日本ハンドボールリーグ」に属する地元チーム選手の顔も持つ。日本代表に選ばれた実績もあり、実力は折り紙付き。JAの後押しを受け、来年の東京五輪出場を目指して日夜トレーニングに励んでいる。
神戸市出身の河嶋さんは高校、大学とハンドボールに打ち込み、2015年に鈴鹿市が本拠地のクラブチーム「三重バイオレットアイリス」に入団。チームスポンサーのJAで働き始めた。営農部営農指導課が持ち場で、青果物関係の事務などを担っている。
現在は来年1月のリーグ開幕に向け、平日はほぼ毎日練習に励む。仕事後の夕方から3時間ほどチームで練習。JAの理解を得て、週3日の午前中は筋力トレーニングなどに費やす。営農部の練木昌弘部長は「練習の疲れも見せず、大切な仕事を任せられる。もっと活躍できるよう後押ししたい」とエールを送る。
(写真左)JA鈴鹿では、営農指導課で働く。受付に席を置き、事務作業を担う(三重県鈴鹿市で)(同・右)「球技の格闘技」と例えられるハンドボールは激しい接触プレーも見どころ。相手チームの選手とぶつかる河嶋さん(名古屋市で)
「仕事中は猫をかぶっています」とおどける河嶋さんは、コートに入ると一変する。七つのポジションのうち、速攻で相手を翻弄(ほんろう)するレフトウイングを担当。持ち前の判断力で、難しい角度からでも鋭いシュートを放つ。チームの梶原晃監督は「賢くて器用な選手。思考が柔軟で、チームが行き詰まったときも打開してくれる」と信頼を置く。
「リーグ優勝できたら、インタビューでJA特産の白ネギをアピールしたい」と話す河嶋さん。その視線の先には、44年ぶりに女子日本代表「おりひめJAPAN」が出場する東京五輪もある。昨年までは代表入りし、メンバーから漏れた今も代表チームのサポート機関に食事の内容などを報告して、栄養管理を受けている。
河嶋さんは「現役の間に大舞台があるのはうれしい。目の前の課題を地道に克服し、最後まで代表入りを狙いたい」と力を込める。(染谷臨太郎)
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2019年09月16日

[あんぐる] 里山の営み 美の宝庫 中之条ビエンナーレ(群馬県中之条町)
群馬県中之条町の山深い農村が2年に1度、現代美術の芸術祭「中之条ビエンナーレ」で活気づく。7回目の今年は古民家や農業用倉庫など50カ所が作品の展示空間に姿を変え、多くの見物客が足を運んでいる。
地元住民らでつくる実行委員会や町などが主催し、芸術での町おこしを目的に2007年から隔年で開いている。今年は8月24日に開幕した。
会期中、立体造形や絵画などさまざまな作品が集落や温泉街、公園など、あちこちに現れる。英国やポーランド、タイなど海外の作家も含む150組が町内に滞在して手掛けたものだ。地域の歴史を踏まえた作品が多い。
見物客はパンフレットの地図を頼りに作品を探し、現代美術と農村風景が醸し出す独特の雰囲気を楽しむ。
森にある巨大な自然石を心臓に見立てた作品「赭(まそほ)の鼓動」
開催のきっかけは、町内の廃校に設けられた「伊参共同アトリエ」で活動する芸術家が「地元の人に作品を見てもらいたい」と発想し、町に提案したことだった。
総合ディレクターを務めるデザイナーの山重徹夫さん(44)は「野菜を差し入れしてくれるなど、地域の皆さんが親切で温かい」と話し、「何百年もたつ建物や土地の雰囲気が刺激になり、都会では作れない作品が生まれる」と、この町が創作活動に向く理由を説く。
地域住民の支えもあり、初回に延べ4万8000人だった来場者は、17年に10倍近い同46万人に増加。町の一大イベントに育った。
ボランティアで受付を手伝う地元農家、柏原裕行さん(72)は「都会から来た人との交流が楽しみ。ビエンナーレで町全体が活気づいた」と感じている。開催は9月23日まで。(富永健太郎)
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2019年09月02日

[あんぐる] 好奇心芽生えた? 触れて学んで、種子の特別展(京都市)
子どもに植物の種子について教える特別展「タネはふしぎな命のカプセル」が京都市青少年科学センターで開かれている。来場者は、同市に本社がある大手種苗会社、タキイ種苗が用意した多彩な展示を通して種子の魅力に触れている。
会場中央で目を引くのが、ネギやレタスなどの野菜や、ヒマワリ、コスモスといった花き、合わせて120種類の種子の展示だ。シャーレに詰めた種子を額縁に似たケースに収めて掛け、大きさや形を見比べやすく工夫している。
その隣にはキャベツの種子およそ1億粒、500キロ分を詰めた高さ約90センチの容器が陣取り、誰でも触ることができる。滋賀県草津市から訪れた菊田賢秀君(6)は腕を肩まで容器に差し込み、「つぶつぶで楽しい。キャベツの種の形なんて知らなかった」と喜んでいた。
容器に入った大量のキャベツの種子を触って遊ぶ子ども
展示の中には一風変わったアート作品もある。同社の従業員が検品ではじかれた種で作った水族館の水槽や、清水寺の貼り絵なども飾っている。
同センターは2013年から毎年夏、府内に本社がある企業の協力を得て、子ども向けの特別展を行っている。農業に関係が深い展示は、今回が初めて。同センターの倉澤大介さん(43)は「世界をリードする地元企業の魅力を知り、子どもに将来の夢を考えてほしい」と意図を話す。
タキイ種苗は、江戸時代後期の1835年に同市で創業した。広報出版部の松本麗さん(43)は「見て、触れて、体験しながら学べる。展示をきっかけに種の世界に興味を持ってほしい」と話す。展示は9月23日まで。(富永健太郎)
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2019年08月19日
あんぐるアクセスランキング
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[あんぐる] 天空の特等席 田んぼに泊まろう 棚田キャンプ(長野県上田市)
農閑期の棚田を期日限定のキャンプ場とするユニークな取り組み「棚田キャンプ」が、長野県上田市の「稲倉の棚田」で開かれている。5回目となる11月9、10日の開催には約150人が集まり、秋の絶景を満喫した。
この棚田は北アルプスを望む標高640~900メートルの急斜面にあり、約780枚、合わせて30ヘクタールほどの水田が連なる。
「棚田キャンプ」は春と秋の稲作に影響しない時期に開かれる。今回は約20枚の棚田に設けた、一つ60平方メートルの区画それぞれに、アウトドア愛好家がテントを張った。
ハイライトは夜だ。日が沈むと、明かりがついた約60張りのテントが暗い棚田に浮かび、遠くに市街の明かりが輝いた。
参加は4度目で、自分で田植えや稲刈りをする「棚田米オーナー」でもある東京都荒川区の会社員、石井由紀さん(48)は「冷えて風も強いが景色がきれい。都内からのアクセスも良い」と魅力を話した。
参加者に配られた新米のコシヒカリ「稲倉の棚田米」。「おいしい」と評判だ
江戸時代に開かれたと伝わる「稲倉の棚田」は大きな農機を使えず、一時は耕作放棄が目立った。だが1999年の「日本の棚田百選」入りを契機に、地元有志が荒れた水田の再生を始めた。
2003年には、住民やJA信州うえだ、市などが棚田保全を目指した組織を発足。15年からは「稲倉の棚田保全委員会」の名称でオーナー制度などに取り組んでいる。
「棚田キャンプ」は、各地の棚田保全を支援するNPO法人棚田ネットワークの玉崎修平さん(44)の案を、同委員会メンバーらの任意団体「棚田フューチャーズ」が形にした。18年春に始めるとアウトドア情報誌で紹介されるなど注目を集め、毎回満員になっている。参加後に棚田米オーナーになる人も多い。
次回は来年春の予定。同委員会の事務局を務める石井史郎さん(57)は「これからも活用を含めた棚田の新しい在り方を探りたい」と話す。(釜江紗英)
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2019年12月02日

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[あんぐる] どっぷりはまった 島原城秋のレンコン掘り大会(長崎県島原市)
この秋も消費者が農産物の実りを楽しむ催しが各地で開かれた。長崎県島原市では、島原城を囲む堀でレンコンを収穫し重さを競う名物イベントに、県内外から約130人が集合。収穫合戦を繰り広げた。
行事の名前は「島原城秋のレンコン掘り大会」。島原城の間近にある森岳商店街が毎年催し、15回目の今年は10月14日に行った。
ルールは単純明快。参加者は城を囲む外周約4キロの堀に入り、自生するレンコンを手で収穫する。一番重いものを採った人が勝ちだ。
午前10時、開始の合図とともにゴーグルや雨具に身を包んだ参加者が一斉に堀に入り、首まで漬かってレンコンを探した。しばらくすると、あちこちから「あった!」「採れた!」と歓声が起こった。
堀で自然に育ったレンコンは一般に流通しているものより細いが、同じように料理して食べられる。長崎市の会社員、安永まゆみさん(55)は「足の感覚で探すのが楽しかった。たくさん採れたのでレンコンパーティーをしたい」と楽しんでいた。
島原城の石垣と堀は昔のままだという
島原城は1620年代に築かれたと伝わり、現在は公園として整備されている。堀は昔のまま。ハスは、1950年代まで農家がここでレンコンを栽培していた名残だという。
この逸話を地域おこしに生かそうと考えた同商店街が2005年、レンコン掘り大会を始めた。初回は30人ほどだった参加者は口コミで増え、今では地域の名物行事の一つになった。
今回、重さ2・6キロのレンコンを採って優勝した島原市の看護師、北村寿郎さん(41)はトロフィーやメダルを受け取り「7回目の参加で優勝できた」と喜んでいた。
商店街会長の松坂昌應さん(65)は「堀には、130人がかりでも採り切れないほどレンコンがある。来年も大勢の挑戦を待っています」と笑顔を見せた。(富永健太郎)
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2019年11月18日

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[あんぐる] だんだん…秋衣装 実りの「くい掛け」 大蕨の棚田 (山形県山辺町)
山形県山辺町の山間部にある「大蕨(おおわらび)の棚田」に、この秋も稲を干す「くい掛け」がずらりと並んだ。その数は約1000本。1本のくいを軸に稲束を積み上げる地域伝統の干し方と棚田の独特な景観を地元農家らが守っている。
棚田ができた時期は不明だが、江戸時代初期に当たる寛永13(1636)年の領地目録などに記録が残る。高低差60メートルの斜面に26枚の水田が広がる。総面積3・4ヘクタールのうち、現在2・5ヘクタールを12戸の農家が耕作し、県が育成した品種「里のゆき」を作っている。
くい掛けに使う棒は杉の木で、長さは約2メートル。これを、あぜに穴を掘って約2メートル間隔で立て、大人の膝と腰の高さに短い横棒を結び付けて軸にする。稲は両手でつかめるくらいの束にして、初めに横棒に掛け、続けて方向を変えながら、最終的に60束ほどを積み上げる。
くいに稲を干す農家。稲束を次々に掛ける
農家らが協力し、10日間かけて大量のくい掛けを作り、10日置きに掛け替えながら約1カ月干す。稲作農家の武田二男さん(71)は「稲穂のまま乾かすので、おいしくなる。今年は天気に恵まれ、米の出来も良い」と作業に励んでいた。
大蕨の棚田は、県内に三つある「日本の棚田百選」認定地区の一つ。1999年の認定時には全体が使われていたが、2011年には高齢化や担い手不足が響き、全体の3割に相当する1ヘクタールほどしか使われなくなった。
この状況に対し、「景観を守り、くい掛けを次世代に継承しよう」と地元農家が奮起し、同年「中地区有志の会」を結成。くい掛け体験や、サッカーJリーグ・モンテディオ山形の選手と農作業をするイベントを催し、ボランティアとも協力して棚田の再生を進めている。
同会とボランティア組織「グループ農夫の会」の発起人で、元JA全農山形職員の稲村和之さん(66)は「多くの人たちの力でここまできた。くい掛けが棚田の頂上まで並ぶ景色を取り戻したい」と話す。(富永健太郎)
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2019年10月07日

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[あんぐる] 酢っかりとりこ ミツカンミュージアム(愛知県半田市)
酢の産地として知られる愛知県半田市で、産地の歴史や製法を学べる「ミツカンミュージアム」が人気を集めている。体験型の多彩な展示物で思う存分“酢漬け”になれる博物館として評判を呼んでいる。
同館は市内に本社を構える酢の老舗メーカー、ミツカンが設けた。五つの展示室をツアー形式で巡ると、酢の知識を深めることができる。
異彩を放つのが幅約2メートル、長さ約8メートルのテーブルに並ぶ大量のすしの模型だ。マグロのにぎりずしやイクラの軍艦巻きなど1100貫が整然と並び、来館者の人気を集める。現在のにぎりずしの原型で、江戸で人気があった「早ずし」にも、同地で造られた酢が使われたという逸話にちなんだ展示だ。
この他、仮名の「す」の文字の一部になりきるコーナーや、オリジナルラベルのポン酢作りなど、ユニークな体験がめじろ押しだ。
醸造技術や歴史を紹介する一角では、江戸時代に実際に使っていた仕込みに使う直径約1・8メートルの木おけや、江戸まで酢を運んだ全長約20メートルの「弁才船(べざいせん)」を実物大で再現した物もある。同県東浦町から訪れた会社員、杉浦暁子さん(39)は「この船で酢が運ばれていたかと思うと感慨深い」と感心していた。
(写真左)江戸時代に作られた仕込み用のおけを見物する来館者(同・右)仮名の「す」の文字になりきる来館者
同市がある知多半島は古くから酒などの醸造が盛んだ。同社も造り酒屋がルーツで、江戸時代の1804年に創業者が酒造りの際に出る酒かすを活用した「粕酢(かすず)」を考案。米との相性の良さからすし酢として評判になり、江戸まで送るようになった歴史がある。
同館は酢の歴史や魅力の発信を目的に1986年に開館。2015年に展示内容を一新した。年間およそ16万人が訪れ、市内の観光の目玉になっている。榊原健館長は「酢がテーマの博物館は全国でここだけ。台所では脇役の酢もここでは主役。楽しみながら親しんでほしい」と話す。(富永健太郎)
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2019年09月30日

5
[あんぐる] 静かな人気「農業ミニチュア」 郷愁、憧れ…胸キュン
農業を題材にしたミニチュアが静かな人気を集めている。“萌(も)え系”フィギュアと農機を組み合わせた斬新なプラモデルは模型ファンの心をつかみ、農作業の紙製ミニチュアは部屋を飾る小物として女性が注目する。さまざまな模型を集めた。(富永健太郎)
アニメ風の農業女子フィギュアが操るのは、ホンダが1966年に発売した耕運機「F90」。東京都千代田区の玩具メーカーのマックスファクトリーが、2018年に売り出したプラモデルだ。大きさは実物の20分の1で、やかんや水筒などの小道具も添えた。開発担当の高久裕輝さん(37)は「耕運機がSFに登場する機械に見えた。農業は未開拓の分野だが、売れ行きはいい」と手応えをつかむ。
茨城県守谷市の巧玩具設計者・河邊明さん(69)は、趣味で半世紀前の米国社製トラクター「フォード871」を木で作り上げた。コンピューターで描いた図面を元に、板から工作機械で部品を切り出した。大きさは実物の12分の1。さまざまな木製玩具を手掛ける河邊さんは「古いトラクターの無骨なデザインに引かれた」という。
東京都世田谷区のテラダモケイが販売する、農作業中の農家を表現した紙製のミニチュアが女性に人気だ。元は建築模型に添える部品だったが、農作業を再現したものが「懐かしさを感じる」と注目された。切り離して折るだけで飾れる。同社の足立睦さん(39)は「20代から40代の女性が、部屋に飾って楽しんでいる」と話す。
農作業中の農家を表現した紙製のミニチュア
埼玉県蕨市の模型メーカー、マイクロエースが販売する「箱庭シリーズ『農家』」は、かやぶき民家や水田を再現したジオラマ風のプラモデル。実物の100分の1サイズで、屋根はヤシの繊維で表現。完成すると、井戸や荷車などがある農家の庭先ができる。水田の部分で栽培できるチモシーなどの種も付属する。同じシリーズに牧場などもある。同社は「作って育てて楽しんで」と勧める。
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2019年10月21日

6
[あんぐる] 光の食卓夢心地 夜の果樹園(福島市)
日が暮れた後の果樹園を新たな観光資源に生かす挑戦が福島市で進んでいる。実ったリンゴや桃の木を幻想的にライトアップした園地で、果実狩りや県産食材のディナーを楽しむもので、その名も「夜の果樹園」。来年の本格実施を目指す。
市内のまるせい果樹園で10月23日、リンゴの実りに合わせた「夜の果樹園」が開かれた。
午後6時ごろ、復興庁が催した福島県の食などを体感するツアーの参加者およそ30人が到着。カウントダウンとともに約500個の電飾が一斉にともり、暗闇に収穫期を迎えたリンゴ「陽光」の実が浮かび上がると歓声が上がった。
参加者は、この光景をインターネット交流サイト(SNS)に載せようと盛んに写真を撮り、昼間とは一味違う夜のリンゴを満喫した。園主の佐藤清一さん(49)の手ほどきを受けてリンゴ狩りを楽しみ、市内の人気店のシェフが腕を振るった福島牛のステーキや、同市産の地酒「金水晶」などを味わった。
リンゴの木に電飾を取り付ける作業は、収穫間際の実に注意して慎重に行う
「夜の果樹園」は、桃などの大産地である同市の木幡浩市長が県内で撮られた夜の桃園の写真を見て観光資源化を思い付いたことを発端に、市内の有志による実行委員会が始めた。
2018年9月に同園で初めて行って以来、プレオープンと位置付けて夏は桃、秋はリンゴの園地で不定期に開く。20年からの本格実施に向けてノウハウを蓄えてきた。
来年からはサクランボ畑でも開く予定で、夜の行楽として定着を目指す。特に東京オリンピック・パラリンピックで来日する外国人観光客に、福島県の食や農業をアピールする考えだ。
実行委員で、SNSによる自治体などの情報発信を手助けする会社、SMLで代表取締役を務める熊坂仁美さん(59)は「農地はエンターテインメントの場になる可能性を秘める。あまり訪れる機会がない人にも農業の魅力を伝えたい」と話す。(釜江紗英)
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2019年11月04日

7
[あんぐる] 里山の営み 美の宝庫 中之条ビエンナーレ(群馬県中之条町)
群馬県中之条町の山深い農村が2年に1度、現代美術の芸術祭「中之条ビエンナーレ」で活気づく。7回目の今年は古民家や農業用倉庫など50カ所が作品の展示空間に姿を変え、多くの見物客が足を運んでいる。
地元住民らでつくる実行委員会や町などが主催し、芸術での町おこしを目的に2007年から隔年で開いている。今年は8月24日に開幕した。
会期中、立体造形や絵画などさまざまな作品が集落や温泉街、公園など、あちこちに現れる。英国やポーランド、タイなど海外の作家も含む150組が町内に滞在して手掛けたものだ。地域の歴史を踏まえた作品が多い。
見物客はパンフレットの地図を頼りに作品を探し、現代美術と農村風景が醸し出す独特の雰囲気を楽しむ。
森にある巨大な自然石を心臓に見立てた作品「赭(まそほ)の鼓動」
開催のきっかけは、町内の廃校に設けられた「伊参共同アトリエ」で活動する芸術家が「地元の人に作品を見てもらいたい」と発想し、町に提案したことだった。
総合ディレクターを務めるデザイナーの山重徹夫さん(44)は「野菜を差し入れしてくれるなど、地域の皆さんが親切で温かい」と話し、「何百年もたつ建物や土地の雰囲気が刺激になり、都会では作れない作品が生まれる」と、この町が創作活動に向く理由を説く。
地域住民の支えもあり、初回に延べ4万8000人だった来場者は、17年に10倍近い同46万人に増加。町の一大イベントに育った。
ボランティアで受付を手伝う地元農家、柏原裕行さん(72)は「都会から来た人との交流が楽しみ。ビエンナーレで町全体が活気づいた」と感じている。開催は9月23日まで。(富永健太郎)
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2019年09月02日

8
[あんぐる] 跳べ 世界へ ハンドボール選手 三重・JA鈴鹿職員の河嶋英里さん
三重県のJA鈴鹿で働く河嶋英里さん(27)は、女子ハンドボールの国内トップリーグ「日本ハンドボールリーグ」に属する地元チーム選手の顔も持つ。日本代表に選ばれた実績もあり、実力は折り紙付き。JAの後押しを受け、来年の東京五輪出場を目指して日夜トレーニングに励んでいる。
神戸市出身の河嶋さんは高校、大学とハンドボールに打ち込み、2015年に鈴鹿市が本拠地のクラブチーム「三重バイオレットアイリス」に入団。チームスポンサーのJAで働き始めた。営農部営農指導課が持ち場で、青果物関係の事務などを担っている。
現在は来年1月のリーグ開幕に向け、平日はほぼ毎日練習に励む。仕事後の夕方から3時間ほどチームで練習。JAの理解を得て、週3日の午前中は筋力トレーニングなどに費やす。営農部の練木昌弘部長は「練習の疲れも見せず、大切な仕事を任せられる。もっと活躍できるよう後押ししたい」とエールを送る。
(写真左)JA鈴鹿では、営農指導課で働く。受付に席を置き、事務作業を担う(三重県鈴鹿市で)(同・右)「球技の格闘技」と例えられるハンドボールは激しい接触プレーも見どころ。相手チームの選手とぶつかる河嶋さん(名古屋市で)
「仕事中は猫をかぶっています」とおどける河嶋さんは、コートに入ると一変する。七つのポジションのうち、速攻で相手を翻弄(ほんろう)するレフトウイングを担当。持ち前の判断力で、難しい角度からでも鋭いシュートを放つ。チームの梶原晃監督は「賢くて器用な選手。思考が柔軟で、チームが行き詰まったときも打開してくれる」と信頼を置く。
「リーグ優勝できたら、インタビューでJA特産の白ネギをアピールしたい」と話す河嶋さん。その視線の先には、44年ぶりに女子日本代表「おりひめJAPAN」が出場する東京五輪もある。昨年までは代表入りし、メンバーから漏れた今も代表チームのサポート機関に食事の内容などを報告して、栄養管理を受けている。
河嶋さんは「現役の間に大舞台があるのはうれしい。目の前の課題を地道に克服し、最後まで代表入りを狙いたい」と力を込める。(染谷臨太郎)
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2019年09月16日

9
[あんぐる] 豊穣の舞 脈々と 朝日豊年太鼓踊(滋賀県米原市)
滋賀県米原市朝日地区では、住民が毎年10月上旬、五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する「朝日豊年太鼓踊(おどり)」を八幡神社に奉納する。色鮮やかな衣装を身にまとい、竹のばちで太鼓を打ち鳴らしながら、掛け声に合わせて勇ましく舞う。
今年の開催日となった6日の午後1時ごろ、背中に金色の飾りを付け、肩から腕に着る赤い「緋(ひ)小手」やすげがさ、縦じまのはかまで着飾った住民合わせて約100人の行列が出発。腹に抱えた太鼓や鉦(しょう)、笛を鳴らしながら、伊吹山を望む住宅地や農道を八幡神社まで練り歩いた。
参加者には子どもが目立った。「太鼓打ち」として参加した吉田絢寧さん(7)は「とっても緊張する。上手にたたけるように頑張る」と本番に向けて意気込んでいた。
神社に着いた一行は、境内で輪になり、体を翻しながら腕を大きく振り上げて太鼓をたたき、ばちを打ち合わせて踊った。踊り手の列の間を、子どもが舞いながら通り抜ける見せ場もあった。終盤には2列になって膝を突いて踊る「綾(あや)の踊り」を披露。最後は再び輪になって踊った。
ばちを勇ましく打ち合わせながら踊る「太鼓打ち」
この踊りは約1300年前、伊吹山の山裾に位置する大原郷を開墾した際に、雨乞いを目的に始まったと伝わる。かつては地域のあちこちで見られたが、農業用水が整って雨乞いが廃れると、多くは消えた。
一方、朝日地区では、自然への感謝と五穀豊穣の祈願に姿を変えて現在まで受け継がれてきた。現存する太鼓踊りの中でも勇壮さが特徴で、1974年に国が選択無形民俗文化財に指定。2015年認定の日本遺産「琵琶湖とその水辺景観―祈りと暮らしの水遺産」の構成文化財にも名を連ねる。
保存会の馬渕英幸会長は「地域の自慢で、郷土愛を育むきっかけになっている。受け継いだ踊りを絶やさぬよう、若い人にも参加してほしい」と語る。(釜江紗英)
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2019年10月14日

10
[あんぐる] 好奇心芽生えた? 触れて学んで、種子の特別展(京都市)
子どもに植物の種子について教える特別展「タネはふしぎな命のカプセル」が京都市青少年科学センターで開かれている。来場者は、同市に本社がある大手種苗会社、タキイ種苗が用意した多彩な展示を通して種子の魅力に触れている。
会場中央で目を引くのが、ネギやレタスなどの野菜や、ヒマワリ、コスモスといった花き、合わせて120種類の種子の展示だ。シャーレに詰めた種子を額縁に似たケースに収めて掛け、大きさや形を見比べやすく工夫している。
その隣にはキャベツの種子およそ1億粒、500キロ分を詰めた高さ約90センチの容器が陣取り、誰でも触ることができる。滋賀県草津市から訪れた菊田賢秀君(6)は腕を肩まで容器に差し込み、「つぶつぶで楽しい。キャベツの種の形なんて知らなかった」と喜んでいた。
容器に入った大量のキャベツの種子を触って遊ぶ子ども
展示の中には一風変わったアート作品もある。同社の従業員が検品ではじかれた種で作った水族館の水槽や、清水寺の貼り絵なども飾っている。
同センターは2013年から毎年夏、府内に本社がある企業の協力を得て、子ども向けの特別展を行っている。農業に関係が深い展示は、今回が初めて。同センターの倉澤大介さん(43)は「世界をリードする地元企業の魅力を知り、子どもに将来の夢を考えてほしい」と意図を話す。
タキイ種苗は、江戸時代後期の1835年に同市で創業した。広報出版部の松本麗さん(43)は「見て、触れて、体験しながら学べる。展示をきっかけに種の世界に興味を持ってほしい」と話す。展示は9月23日まで。(富永健太郎)
「あんぐる」の写真(全6枚)は日本農業新聞の紙面とデータベースでご覧になれます
2019年08月19日
