日米協定参院へ 所得維持具体策 熟議を

 日米貿易協定の承認案が19日の衆院本会議で可決された。農業への影響試算の妥当性など議論が深まらず不安払拭(ふっしょく)には程遠い。参院審議で政府は、試算の前提とした生産量と農家所得の維持をどう実現するか明らかにすべきだ。そのため与野党には熟議を求める。

 衆院では、影響試算の根拠や牛肉セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の実効性などが焦点となった。経営への影響が大きく、農家の関心は高い。

 しかし腰を据えた審議とはならなかった。担当する外務委員会は、公職選挙法違反疑惑で閣僚2人が辞任した影響で2度も延期となった。審議が本格化しても、11月8日の質疑では、資料提出に応じない政府に主要野党が反発し退席。与党は、質問者不在のまま審議を進める「空回し」で時間を消化した。

 議論が深まらなかった原因の一つは、政府の説明不足にある。影響試算で政府は「国内対策で生産量や農家所得への影響はゼロになる」と主張した。しかし、国内対策はまだ決まっていない。このため生産量などをどうやって維持するか、具体的な説明を避けた。

 牛肉SGを巡る答弁も同様だ。協定では、SGを発動した場合「発動水準を一層高いものに調整するための協議を開始する」と明記。発動基準となる数量が高くなれば効きにくくなる。野党は追及した。しかし基準数量を巡って協議するとどういう結果が見通せるか「予断していない」(茂木敏充外相)との答弁にとどまった。

 安倍晋三首相は、今国会の所信表明演説で日米協定について「農家の皆さんの不安にもしっかり向き合う」と明言した。政府は、農家が安心できるよう具体的で明確な根拠を示し、説明を尽くすべきだ。また、政府にそうさせるのは、国民の代表からなる国会の役割である。

 野党にも正すべき点がある。今国会は閣僚2人の辞任に加え、首相主催の「桜を見る会」を巡る問題が噴出。野党は徹底究明する構えだ。ただ、政局を重視するあまり日米協定を追及する機運が弱まったのではないか。衆院外務委での15日の採決は、野党も合意して行われた。しかし、それまでの審議時間は11時間にすぎない。米国抜きの環太平洋連携協定(TPP)でさえ20時間以上だった。時間だけ見ても審議不足は明確だ。

 日本はTPP、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)と巨大自由貿易協定(メガFTA)を相次いで発効させ、かつてない自由化時代に突入した。日米両政府の思惑通りなら来年1月に日米協定が発効し、米国産農産物の関税撤廃・削減を実施。同4月には3協定に基づいて一層の削減を行う。

 政府は今月中にも国内対策をまとめる。生産基盤の縮小が続く中、日米協定の影響回避と併せて生産基盤の強化が課題だ。対策への反映も視野に、参院は議論を尽くすべきだ。

おすすめ記事

論説の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは