コロナ禍 豊かに暮らせる社会 鍵は無理しない農業 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 大手人材派遣会社の会長がある県で、「なぜ、こんなところに人が住むのか。早く引っ越しなさい。こんなところに無理して住んで農業をするから行政もやらなければならない。これを非効率というのだ。原野に戻せ」と言った。

 コロナショックは、この方向性、すなわち、地域での暮らしを非効率として放棄し、東京や拠点都市に人口を集中させるのが効率的な社会の在り方として推進する方向性が間違っていたことを改めて認識させた。都市部の過密な暮らしは人々をむしばむ。

 これからは、国民が日本全国の地域で豊かで健康的に暮らせる社会を取り戻さねばならない。そのためには、地域の基盤となる農林水産業が持続できることが不可欠だ。それは、家族農業を「淘汰(とうた)」して、メガ・ギガファームが生き残ることでは実現できない。それでは地域コミュニティーが維持できないし、地域の住民や国民に安全・安心な食料を量的に確保することもできない。

 コロナショックに加えて、バッタショック、異常気象の頻発も重なり、国民が自分たちの食料を身近な国産でしっかり確保しないといけないという意識も高まっている。米国の食肉加工場のコロナ感染は移民労働者の劣悪な衛生環境での低賃金・長時間労働もあぶり出した。食肉加工だけではない。野菜や畜産などの米国の農業生産そのものが、「奴隷的」な移民労働力なくして成り立たないことも露呈した。

 安いものには必ずワケがある。成長ホルモン、残留除草剤、収穫後農薬、遺伝子組み換え、ゲノム編集などに加えて、労働条件や環境に配慮しないソーシャルダンピングやエコロジカルダンピングで不当に安くなったものは、本当は安くない。どうして、いま日英貿易協定を急ぐのか。畳み掛けるように貿易自由化して安く買えばよいというのは間違いだ。しかも、お金を出しても買えなくなる輸出規制のリスクの高さも再認識されたばかりだ。

 本当に「安い」のは、身近で地域の暮らしを支える多様な経営が供給してくれる安全・安心な食材だ。本当に持続できるのは、人にも牛(豚、鶏)にも環境にも種にも優しい、無理をしない農業だ。それなのに、地域の農林漁家から農地や山や海を奪い、「今だけ、金だけ、自分だけ」の一部大手企業に地域を食い物にさせるようなショックドクトリンが止まらない。

 国民が目覚めるときだ。消費者は単なる消費者でなく、国民全体がもっと食料生産に直接関わるべきだ。自分たちの食料を確保するために、地域で踏ん張っている多様な農林漁家との双方向ネットワークを強化しよう。地域の伝統的な種もみんなで守ろう。リモートで仕事をするようになったのを機に、半農半Xで、自分も農業をやろう。農業生産を手伝おう。いざというときには、みんなの所得がきちんと支えられる安全網(セーフティーネット)政策もみんなで提案して構築しよう。

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