1936年の夏、月に向かった日本人3人が行方不明になった
2020年11月24日
1936年の夏、月に向かった日本人3人が行方不明になった。そして10年。月の生物と一緒に地底で暮らしているところを捜索隊が発見した▼日本SF界の先駆けの一人、海野十三の『月世界探検記』の筋立てである。これより前、日本人が月に降り立つ小説は明治期には登場した。月に行くのは時代を超えたロマン。それが間近に迫る▼米国主導の月探査「アルテミス計画」に日本も参加する。2024年までに人類を再び月に送る。月を回る宇宙ステーションも建設する。そこを拠点に月面を探査する。有人火星探査の技術実証も行う。日本の目標は日本人の月面着陸である。資源開発にも乗り出す。氷があるとされ、水素燃料にする。ルール作りも始まった。資源の扱いなどの原則に8カ国が合意した。宇宙大航海時代の幕開けである▼と、手放しでは喜べない。米国と覇権を争う中国とロシアは先の合意には参加せず、月面基地建設を独自に構想する。冒頭の小説では月の金塊を巡って殺人事件が起きたが、現実世界でも資源の争奪戦の勃発が危ぶまれる。国連の月協定は休眠状態。資源開発が現実化した今、法の支配が要る▼月の平和を乱す者は「月にかわっておしおきよ!」。『美少女戦士セーラームーン』(武内直子著)よろしく、国際社会が声を上げねば。
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「BUZZ MAFF」 Jリーグとコラボ動画 若者に農業PR 農水省
農水省は15日、公式ユーチューブチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」で、サッカーJリーグと連携した動画の投稿を始めた。地域の農業への理解や関心を深めてもらうため、Jリーグチームの行う農林水産業の取り組みを同省職員の「ユーチューバー」が発信する。第1弾としてJ2の松本山雅FC(長野県)、J3の福島ユナイテッドFC、ガイナーレ鳥取との動画を投稿した。
「ばずまふ」は、職員の個性や発想を生かした動画を投稿し、農業への関心が薄い若者を含めて広く情報を発信している。 現在、動画の総再生回数は620万回以上。スポーツチームと連携してPRに取り組むのは初めて。
松本山雅FCと連携した動画では、黒ずくめのばずまふユーチューバーが登場。休耕地で地域の住民と連携して1トンの青大豆を生産する取り組みを紹介し、青大豆を使った新しいスイーツの開発に挑戦する。
選手が生産した農産物を販売する「農業部」がある福島ユナイテッドFCとの動画では、選手が自ら作った米をPRする。東北農政局の職員が米を食べ、自作の応援ソングも披露する。ガイナーレ鳥取と連携した動画では、中国四国農政局の職員が、チームの職員と地域の休耕地を利用して芝生を生産・販売する取り組みについて語り合う。
今後も、全国のチームと連携した動画を配信していく。同省は「農業に取り組むクラブは他にもある。地域の農業への理解が深まれば」(広報評価課)と期待を寄せる。
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2021年01月16日

20年産米販売 家庭向けもブレーキ 10、11月支出額 過去20年で最低
2020年産米の販売が低迷している。新型コロナウイルス下で業務用需要の苦戦が続き、頼みの家庭用需要も勢いを失っている。10、11月の米の家計支出額は過去20年で最低水準だった。緊急事態宣言の再発令で、販売環境は不透明さが強まる。需給の均衡に向けて、需要に応じた生産だけでなく消費喚起対策が求められる。(玉井理美)
総務省の家計調査によると、2人以上世帯の米の支出額は10月が前年比10・8%減の2604円、11月が同4・7%減の1847円。ともに過去20年の同じ月と比べて最も少なかった。内食傾向が高まり、9月までは連続で前年を上回っていたが、10月に減少に転じた。
20年産の米価は6年ぶりに下落したが、消費の刺激にはつながらず、購入数量も10、11月ともに過去20年で最低水準に落ち込んだ。主食で競合する麺類は支出額の前年超えが続いており、対照的な動きだ。消費者の米離れが背景にある。
農水省がまとめた主要米卸の11月の販売数量は、同3・5%減と8カ月連続で前年を下回り、家庭用の販売が業務用の低迷を補い切れていない。
消費低迷で、産地の販売も遅れている。農水省によると、産地から卸に引き取られた全国の販売量は、11月末時点で38万5000トン。前年同月より13%少ない。集荷量に占める販売比率は16%で、進捗(しんちょく)は例年よりも遅れている。
業務用需要の低迷で持ち越し在庫の消化が遅れていることに加え、家庭用米販売の鈍化も影響している。北陸地方のJA関係者は「家庭用定番銘柄でも販売に勢いがない。コロナの影響で試食などの販促活動がしづらい」と頭を悩ます。
消費低迷が続けば、今後の取引価格や需給にも影響を及ぼす。20年産の持ち越し在庫が多くなれば、需給を均衡させるために、21年産ではさらに転作の拡大が必要になる。
東北地方のJA関係者は「適正量の生産だけでなく、消費拡大も両輪で取り組む必要がある。事前契約を積極的に進めて販売先を確保しても、実際の販売が遅れれば厳しいことに変わりない」と指摘する。
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2021年01月18日
「災害強い地域」切望 島根・江の川氾濫から半年 移転決定も課題山積
広島県と島根県を流れる1級河川・江の川が豪雨で氾濫してから14日で半年がたち、流域では災害に強い地域づくりを望む声が高まっている。平成以降でも8回の大きな水害に見舞われるなど、危険と隣り合わせの江の川流域。常態化する災害を乗り越えようと、集団移転や堤防建設が進みつつあるが、費用がかさむなど課題は山積みだ。(鈴木薫子)
美郷町
「腹を決めた。もうここには住めん」。江の川と支流の君谷川が流れる島根県美郷町港地区。自治会長を務める屋野忠弘さん(78)ら5戸は、地区内の高台にある安全な場所への集団移転を決断した。
江の川の直近の氾濫は2020年7月14日。同県だけでも8市町で全半壊42戸、床下浸水43戸、水田は213ヘクタールが冠水した。農林水産関係被害額は約20億円に上る。
同地区は川沿いに13戸が点在するが、地形が低い上に堤防がなく、農地冠水などの水害が毎年起きる。7月の豪雨では本流が増水して支流の水をせき止める「バックウオーター現象」が起き、家屋も浸水した。
住み慣れた土地を離れたくないという思いを抱えながらも、次世代を優先させた屋野さん。集団移転は、国の防災集団移転促進事業を利用。同年9月の町議会で請願書が採決され、移転先として地区中心部の集会所近くを希望した。
だが事業は思うように進まなかった。移転先は山を切り崩して造成する必要があるが、費用が想像以上に膨らんだ。造成費用の国の助成上限は1戸約1000万円だが、試算した費用は4倍近い。高齢の移転希望者が多く、高額の持ち出しは厳しい。屋野さんは「中山間地で条件に合う所を探すのは難しい。地形に見合った助成をしてほしい」と切実だ。
同町建設課の担当者は「住民の負担を減らしたいが、町の持ち出しが膨らむ」と頭を抱え、町は費用見直しや別の移転先の選定を進める。屋野さんらは「年寄りが今から新しい場所に溶け込むのは難しい」と考え、地区内での移転を希望している。
堤防建設急ぐ 江津市
2020年7月の豪雨による江の川氾濫で浸水した島根県江津市桜江町(中国地方整備局提供)
長さ194キロ、流域面積3900平方キロの江の川。堤防が必要な区間は154キロに上るが、20年3月末現在で27%に当たる41キロ分の堤防がない。水害が常態化している地域が多いが「堤防規模が大きく建設に時間がかかる」(国土交通省中国地方整備局河川計画課)ため、整備が遅れていた。
20年7月の大規模な氾濫を受け、江津市桜江町では建設が急ピッチで進むことになった。水田やカボチャ畑が冠水した同町小田地区では、今年6月に念願の堤防が完成予定だ。支流の田津谷川流域でも用地・建物調査が進む。
田津谷川が流れる同町川越地区の渡田自治会では、18年の西日本豪雨で被災した若い世帯2組が地区外へ転居するという苦い過去がある。自治会長の小松隆司さん(64)は「(これ以上の災害は)地区が衰退しかねない」と懸念。堤防の早期建設を望む。
<メモ> 防災集団移転促進事業
災害危険区域などの住居を安全な場所へ集団移転させるもので、事業主体は市町村。20年4月に住宅団地の規模要件が「10戸以上」から「5戸以上」に緩和された。移転先の用地取得や造成、住宅建設などの費用は、国が実質94%、市町村が6%を負担する。東日本大震災を除く同事業の実施状況は、35市町村で移転戸数1854。
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2021年01月14日
持続可能な地域形成へ 国際フォーラム 新たな移動手段確保 内閣府
内閣府と地方創生SDGs官民連携プラットフォームは14日、地方創生と持続可能な開発目標(SDGs)をテーマにした国際フォーラムをオンラインで開いた。国内外の自治体が持続可能な地域づくりの実践例などを報告。……
2021年01月15日
コロナ特措法改正 補償が実効確保の鍵に
政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案を18日召集の通常国会に提出し、早期成立を目指す。休業と財政支援、罰則のセットが柱で、実効性が鍵を握る。農家を含め幅広で十分な補償の明確化が必要だ。罰則は私権制限との兼ね合いで慎重を期すべきだ。国民の命を守る視点で徹底審議を求める。
特措法改正論議に際し、現行法の問題点と、この間の拙劣な政府対応を指摘しておきたい。
日本で最初の新型コロナ感染者が確認されてから15日で1年。政府の後手後手の対策やGoToキャンペーンなどちぐはぐな対応も重なり、感染終息どころか2度目の緊急事態宣言発令に追い込まれた。昨年11月ごろから続く第3波は、全国的に医療体制の逼迫(ひっぱく)を招き、失業や自殺者の増加など負の連鎖も止まらない。感染拡大をここで止めることができなければ、暮らしと雇用・事業の破壊、医療崩壊、経済の失速へと一直線に向かいかねない。
現行法では、飲食店などへの営業時間短縮や休業、外出自粛などは要請で、強制力を持たない。経済的補償も措置されていない。特措法の対象にならない遊興施設などへは協力依頼しかできない。国民の自覚と協力に頼らざるを得ないのが実情だ。
国と自治体の役割分担や司令塔機能のあいまいさも混乱に拍車を掛けた。法律の立て付けでは、都道府県知事に感染防止策の権限を持たせ、政府は総合調整をすることになっているが、危機感の共有や連携が十分だったとは言い難い。緊急事態宣言を発令するのは首相だが、専門家の調査・分析に基づく丁寧な説明が尽くされたか疑問だ。発信力も弱い。経済回復や東京五輪・パラリンピックなど国家的行事を優先し、判断の遅れや対策の不備はなかったか。
さらに公立病院に偏重した感染者の受け入れ態勢、広がらないPCR検査など、浮き彫りになった感染防止策の問題点も洗い出し、検証した上で特措法改正論議を深めるべきだ。
検討されている改正案では、緊急事態宣言下で知事は店舗に休業を「命令」できるようにし、違反すれば過料を科す。宣言発令前の予防的措置も設ける。時短営業や休業に応じた事業者への財政支援の規定も書き込む考えだ。補償することを明確化し、休業店舗などへの直接補償にとどまらず、食材納入業者や農家など関係者に広く補償すべきだ。感染防止の実効確保は、事業継続可能な補償が前提である。営業の自由など私権制限に踏み込む内容なだけに、罰則の必要性や補償とのバランスを含め慎重な議論を求める。
政府は通常国会に感染症法改正案も提出し、入院を拒否した感染者への罰則規定を盛り込む方向だ。コロナ対策に名を借りた厳罰化が進めば、新たな偏見や差別につながりかねない。
なにより、政治に信がなければ、どんな法改正をしても国民の理解は得られない。
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2021年01月16日
四季の新着記事
〈百日の説法屁(へ)一つ〉
〈百日の説法屁(へ)一つ〉。菅首相が昨年12月14日の夜、8人で会食したとの報に接し頭に浮かんだことわざである▼100日にわたり仏の教えを説いた坊さんがうっかりおならをしたことで、ありがたみが台無しになったという話。長い間の努力もわずかな失敗で無駄になることの例えである▼首相はこの日「GoToトラベル」の全国一斉停止を発表した。遅きに失したとはいえ、コロナ感染防止優先へとかじを切る姿勢を示したように見えた。その直後の会食。政府が「原則4人以下で」と呼び掛けているのを尻目に、である▼今、国会議員の会食が問われている。首相が批判された後も大人数でのそれが相次いで発覚。各党は飲食を伴う会合の自粛などを呼び掛けている。きょう召集の国会に政府は、コロナ特措法などの改正案を提出する。時短営業の要請に応じない事業者などへの罰則を設けるという。〈身をもって範を示す〉。松下幸之助の言葉である。「(そういう)気概のない指導者には、人びとは決して心からは従わない」(『松下幸之助一日一話』)▼感染対策に強制力を持たせる決定を国会が下すのであれば、自らを厳しく律していると分かる形で示すことが肝要である。そうでなければ立法府への国民の信頼が揺らぎ、法案への支持は得られまい。
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2021年01月18日

日の出パッションフルーツプリン 東京都日の出町
東京都日の出町の温泉施設「生涯青春の湯つるつる温泉」が製造・販売する。町内の野口農園が栽培したパッションフルーツと福嶋牧場の搾りたての牛乳を使った新商品だ。
濃厚な牛乳にジャム状にしたパッションフルーツを練り込んだ。
プリンは柔らかく滑らかな口溶けで、パッションフルーツのソースに入っている果実の種が食感にアクセントを加える。お年寄りから子どもまで楽しめる甘酸っぱくてトロピカルな味わいだ。
同温泉の職員が開発し、週末に売店で販売。「地元の農産物を使った商品開発を展開し、来場客に地場産品をPRしていきたい」と意気込む。
1個200円。問い合わせは「生涯青春の湯つるつる温泉」、(電)042(597)1126。
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2021年01月18日
焼け焦げたがれき、白い花束、線香のにおい、手を合わせる人
焼け焦げたがれき、白い花束、線香のにおい、手を合わせる人▼1995年1月17日未明に発生した阪神・淡路大震災の記憶である。大火災に襲われた神戸市長田区を取材した。あれから26年。町並みは復興しても災害は続いていることを『希望を握りしめて 阪神淡路大震災から25年を語りあう』で知る。高齢化する復興住宅と孤独死、心身に障害を負った「震災障害者」とその家族の苦しみ…▼編者の牧秀一さんは「よろず相談室」を立ち上げ、被災者を訪問し、生活支援を続けてきた。本書はその活動の記録と被災者の人生の証言集。「ひとときでも話し相手になることは、『置き去りにされていない』と実感できる時間になる。少しでも気持ちが晴れれば、少しずつ前を向けるようになる。そう信じてやってきた」。遠くにいても手紙を書くことがつながり続ける支援になるという▼東日本大震災をはじめその後も震災は相次ぎ、気象災害は頻発。コロナのような疫病は世界同時災害をもたらす。一方でボランティアや寄付、クラウドファンディング、ふるさと納税、応援消費など支援の仕方は多様化し、ネットの普及でつながり方も広がった▼誰もが被災者になり、誰もが支え手になれる時代。大切なのは「お互いさま」の精神と「忘れない」との思いだろう。
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2021年01月17日
1991年1月17日、米国主導の多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が始まった
1991年1月17日、米国主導の多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が始まった▼イラクによるクウェート侵略が原因。フセイン大統領は、米国は介入しないと判断していたとされる。イラクは敗北し、米国の「テロとの戦い」でフセイン政権は崩壊した。指導者の判断ミスは国を危うくする▼38年1月16日は日本にとってそうした日である。日中戦争の最中、近衛文麿首相は「国民政府を対手(あいて)とせず」と声明。「和平なんてしないというもので(略)泥沼化」(半藤一利著『昭和史1926―1945』)。日本はその後、三国同盟の締結、南部仏印進駐と対米戦争への道を進む。時の首相も近衛で、石油の全面禁輸など米国の報復に驚いたという▼政治学者の猪木正道さんは『日本の運命を変えた七つの決断』で、太平洋戦争の開戦では「東条よりは近衛の責任の方がはるかに重い」と断罪。「与えられた状況のもとにおいては、最も有利な、最も危険のない道を選ぶのが政治家としての使命」と指摘する。日本のコロナ初感染者の発表から1年。爆発的感染拡大に近い地域が増え、入院に優先順位を付けなければならない事態も生じている。政治家の使命に照らし菅首相の責任はいかほどか▼前出の半藤さんが亡くなった。著作から史実の見方を学んだ。
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2021年01月16日
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた▼映画は、大正7(1918)年、富山県で起きた米騒動の史実による。主人公は、米を船に積み込む漁村の「おかか」たち。シベリア出兵を控え、米の価格が高騰する。家族と暮らしを守るため、米問屋に直談判、ついには米の積み出しを阻止しようと体を張って実力行使し、価格引き下げを勝ち取る。「女米一揆」は新聞で取り上げられ、各地の運動に火をつけていく▼働く女性による民主化運動の嚆矢(こうし)だろう。映画でリーダー役のおばばが言い放つ。「理想や主張で腹いっぱいになるんがやったら、誰も苦労せんわ」。資産家や警察の脅しに一歩も引かない。「負けんまい」「やらんまいけ」。命懸けの決起が、社会を動かしていく▼主演の井上真央さんが、公開イベントで語っている。「名の無い人たちの頑張ろうとする力が(社会を)大きく変えていくのだろうなと思う。この時代に勇気を与えられるような作品になっていると思います」。コロナ禍に豪雪被害。井上さんは、大変な時だからこそ、映画や娯楽が「一筋の光」になればと願う▼時は移り、世は空前の米余り。値崩れの危機を前に政府の腰は重い。「令和の米騒動」で、「全米作農家が泣いた」とならぬよう祈る。
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2021年01月15日
またぞろ巣ごもりに逆戻り
またぞろ巣ごもりに逆戻り。そこで少し頭の体操にお付き合いを▼次に掲げる歌を声に出して読んでいただきたい。「鳥啼(な)く声す 夢覚(さま)せ 見よ明け渡る 東(ひんがし)を 空色栄(は)えて 沖つ辺(へ)に 帆船群れ居ぬ 靄(もや)の中(うち)」。実はこれ「いろは歌」。仮名48文字を1字ずつ織り込んだ作品▼日本語博士・藁谷久三さんの『遊んで強くなる漢字の本』にある。明治36(1903)年、「万朝報」という日刊新聞が募集した「いろは歌」の傑作である。次は回文の秀作。「時は秋 この日に 陽たづねみん 紅葉(こうえふ)錦の葉が 龍田川(たつたがは)の岸に殖(ふ)え 鬱金(うこん)峰づたひに 陽の濃き淡(あは)きと」。全部仮名にして、下から読んでほしい。そのすごさが分かる▼作者や出典はよく分かっていない。だが日本語博士をもってしても、この詩文の長さと出来栄えに匹敵する回文は見たことがないという。「たけやぶやけた」に比べるのは失礼だが、万葉の趣さえ漂う。個人的に好きなのは、不謹慎ながら故立川談志師匠を読み込んだ「だんしがしんだ」▼ネットの回文専門のサイトにはコロナ禍を読んだ傑作が多い。「策ないわ 探すも菅さ ワイ泣くさ」「菅の危機警告 小池聞き逃す」。その見事さに脱帽。脳トレに回文作り、あなたもいかがですか。憂さ晴らしにもうってつけ。
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2021年01月14日
冬将軍というより白魔である
冬将軍というより白魔である。「家から出るのも大変」。富山の親戚から悲痛な声が届く▼北陸や新潟などは、死傷者も後を絶たず、自衛隊派遣の非常事態に。その惨状はさながら現代の『北越雪譜』である。同書は、越後の商人で文人でもあった鈴木牧之による迫真の豪雪ルポ。江戸のベストセラーにして名著である。雪国に住む者の恨み節が随所に出てくる。意訳するとこんな具合だ▼暖かい地方の人は銀世界をめで、舞い散る雪を花や宝石に例え、雪見の宴などを楽しむが、毎年3メートルもの雪に覆われるこちらの身にもなってほしい。楽しいことなどあるものか。雪かきで体は疲れ果て、財産も費やし、苦労の連続だ─。今も昔も変わらぬ豪雪地帯の悲哀だろう▼コロナ禍や雪害に苦しむ人たちに一足早く春を届けようと、富山市花き生産者協議会が、富山駅の自由通路を特産の「とやま啓翁桜」で飾り、道行く人を楽しませている(13日まで)。産地の山田村花木生産組合では、豪雪で配送に影響が出たが、今月約5万本の出荷を見込む。「人々の心に安らぎを届けたい」と石崎貞夫組合長▼暖かい部屋で7、8分咲きにした後、涼しい場所に移すと1カ月は花を楽しめるという。凍(い)てつく冬に咲く桜のように、つらく厳しい時を乗り越えたい。
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2021年01月13日
二度目の緊急事態宣言
二度目の緊急事態宣言。都心はひっそりかんとしている▼東京郊外の拙宅周辺は、昨年後半から住宅建設ラッシュ。地元通の酒屋の店主いわく、優に100棟は建つとか。都心脱出の流れなのか。入居も始まったが、巣ごもりのせいでにぎわいはない。赤ん坊の泣き声もとんと聞かない▼昨今、赤ちゃんの泣き声を耳障りに感じる人が増えた気がする。飛行機や列車で露骨に嫌な顔をする人を何度も目にした。「騒音」と感じるか、ほほ笑ましく感じるか。あなたはどちらだろう。そもそも赤ちゃんの泣き声は、言葉の代わりに発する緊急サイン。「おなか減った」「おしっこ漏れそう」「なんだか熱っぽいよ」▼親に分かってもらおうと必死に伝える。だから不思議なことに、その泣き声は、救急車や目覚まし時計のアラーム音などと同じ周波数を含んでいるという。しかも世界共通。成長するに連れ、声帯は変わるが、生まれたては人類皆同じ。サイレンと同じだから不快になって当たり前。「子どもは泣くのが仕事」。そんな大事な「仕事」を温かく見守り、手を差し伸べ合う社会であってほしい▼ところでコロナで窮状にあえぐ国民の悲鳴や泣き声は、政府にちゃんと届いているのだろうか。よもや「騒音」封じの緊急事態宣言再発令ではあるまいが。
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2021年01月12日
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある。今の大学生がそうかもしれない▼入学式は自粛、授業はオンライン、サークル活動は停滞、アルバイトもできない。たまに友人と盛り上がったら〈自粛警察〉の目が光り、年配者からは〈無症状感染〉を疑われる。だが未来は閉ざされてはいない。「機会は誰にでも平等であると固く信じている」。世界を変えたスティーブ・ジョブズの言葉。ピンチはチャンスへの入り口と信じよう▼コロナ下の明るいニュースに困窮学生に食料支援と励ましのメッセージを送る活動がある。新潟県燕市が昨年春、帰省できない学生に行い、他の自治体やJAなどの協同組合にも広がった。中には支援を受けた若者が人手不足の農作業を手伝う動きも生まれた。そんな活動に汗をかくJAふくしま未来が昨年暮れ、政府の「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞した。地域貢献以上の可能性を感じさせる▼若い世代との関わりづくりは農の未来に種をまくはずだ。きょう成人の日。各地で成人式の中止・延期が相次ぐ。本人はもとより両親、祖父母まで晴れの日を迎えられない落胆はいかばかりか。週末には大学入学共通テストも控える▼せめて寒気が収まり、穏やかな日であってほしい。
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2021年01月11日
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある。今年はどう見ても辛抱の年か。その先に希望が芽吹いてほしい▼あまり話題に上らないが、夏には東京五輪・パラリンピックが控えている。国産食材と花のブーケ、そしておもてなしの心で世界中のアスリートと訪日外国人を笑顔にしたい。初夢のことである。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が世に出たのは1961年の丑年。人間でいえば今年還暦を迎える。少年まさに老いやすし。大都会に生きる地方出身の若者たちの応援歌で、今なお励まされている人は少なくない▼九さんが日航機墜落事故で亡くなったのは、くしくも丑年の1985年。感染症分類で新型コロナウイルスより危険度が高いペストは、明治時代に国内でも流行した。丑年の1901年、警視庁が屋外での跣足(せんそく)(裸足)歩行禁止令を出している。願わくば後世、コロナ終息の丑年と刻まれたい▼牛は昔、農耕になくてはならぬ役牛、今はミルクやブランド牛肉として地域農業の屋台骨になっている。「牛に引かれて善光寺参り」は思いがけず良い方向に導かれること。年末の本紙記事で、米食が免疫力を高めてコロナ感染を抑制するとの研究論文を知った▼消費拡大に導いてほしい。コロナ禍に隠れているが、米需給も〈勝負の1年〉になる。
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2021年01月10日