豚コレラ 9府県養豚協会長 ワクチンの是非 説明を 本紙緊急調査
2019年07月12日

豚コレラの感染農場が相次ぎ、感染した野生イノシシの分布が広がっていることを受け、日本農業新聞は、発生や隣接する9府県の養豚協会の会長らに現状や政府への訴えなどを聞き取る緊急調査をした。豚へのワクチン投与を求める意見の他、共通して農水省にワクチン投与によるメリットやデメリットなど丁寧な説明を要望する声が出た。感染の恐怖と戦いながら衛生管理を徹底しても発生に歯止めがかからず、現場には焦燥感が高まっている。
半数の豚が殺処分された岐阜県養豚協会の吉野毅会長は「日本最高レベルの衛生対策をしている自信はあるが、防げない。限界だ。今にも大粒の涙が出るほど心が壊れている」と疲労する。最初に感染が分かってから10カ月が過ぎた。終息の兆しは見えず、県内全農家が精神的に追い詰められている。
近隣県にも緊張感がみなぎっている。感染したイノシシが11日時点で4頭発覚した三重県養豚協会の小林政弘会長は「衛生管理基準を守れと指示する国と、恐怖におののく現場との溝が大き過ぎる。衛生管理をやり尽くしても発生する岐阜や愛知の実態を見て皆、びくびくしている」と明かす。7月に感染イノシシが見つかった福井県養豚協会の相馬秀夫会長は「殺処分した農家の思いを考えると言葉がなく、自分たちも切羽詰まっている」と窮状を訴える。
吉野会長は「国の水際対策が甘い中、なぜ岐阜に責任をなすり付け、ワクチンを打たないのか」と水際対策の徹底やワクチン投与を求める。吉野会長の他、複数の会長が豚へのワクチン投与を切望する。
感染したイノシシが広がる中で同省が提唱する早期出荷に疑問の声も相次ぐ。静岡県養豚協会の中嶋克巳会長は「早期出荷してもイノシシを考えると一歩踏み出せない。今、発生したら終わり。発生していない静岡でも農家は疲弊している」と語気を強める。全大阪養豚農業協同組合の川上幸男組合長は「早期出荷を現場に求めるなら再開対策をセットで考えなければ農家は守れない」と訴える。中嶋会長も川上組合長も、2010年に宮崎県で発生した口蹄(こうてい)疫は4カ月で終息したことを踏まえ「豚コレラで初動を誤った農水省の責任は大きい」と感じる。
各県から共通して挙がるのが、同省に丁寧な説明を求める声だ。愛知県養豚協会の小林功理事長は「全国で順次、説明会を行う必要がある」と強調。豚へのワクチン投与では、科学的な根拠に基づくメリットやデメリットなどを丁寧に説明してほしいと指摘する。滋賀県養豚推進協議会の森本雄一会長は、相次いで感染イノシシが見つかっていることから「危機のステージは大きく変わった。明日はわが身」とした上で「農水省の説明不足が際立つ。衛生管理の不備を言うなら発生農場の課題点を各地にフィードバックしなければ教訓は生かせない」とみる。
各県とも、消毒の徹底や畜舎への出入りの厳重管理、畜舎へのフェンス設置など衛生対策に時間と費用を投資し、厳重な対策を急ぐ。ただ、費用や作業時間がかさむ一方で対策に終わりが見えず、複数の会長から「このままでは養豚業が消える」と悲痛な声が出る。
見えぬ終息…現場は「切望」
半数の豚が殺処分された岐阜県養豚協会の吉野毅会長は「日本最高レベルの衛生対策をしている自信はあるが、防げない。限界だ。今にも大粒の涙が出るほど心が壊れている」と疲労する。最初に感染が分かってから10カ月が過ぎた。終息の兆しは見えず、県内全農家が精神的に追い詰められている。
近隣県にも緊張感がみなぎっている。感染したイノシシが11日時点で4頭発覚した三重県養豚協会の小林政弘会長は「衛生管理基準を守れと指示する国と、恐怖におののく現場との溝が大き過ぎる。衛生管理をやり尽くしても発生する岐阜や愛知の実態を見て皆、びくびくしている」と明かす。7月に感染イノシシが見つかった福井県養豚協会の相馬秀夫会長は「殺処分した農家の思いを考えると言葉がなく、自分たちも切羽詰まっている」と窮状を訴える。
吉野会長は「国の水際対策が甘い中、なぜ岐阜に責任をなすり付け、ワクチンを打たないのか」と水際対策の徹底やワクチン投与を求める。吉野会長の他、複数の会長が豚へのワクチン投与を切望する。
感染したイノシシが広がる中で同省が提唱する早期出荷に疑問の声も相次ぐ。静岡県養豚協会の中嶋克巳会長は「早期出荷してもイノシシを考えると一歩踏み出せない。今、発生したら終わり。発生していない静岡でも農家は疲弊している」と語気を強める。全大阪養豚農業協同組合の川上幸男組合長は「早期出荷を現場に求めるなら再開対策をセットで考えなければ農家は守れない」と訴える。中嶋会長も川上組合長も、2010年に宮崎県で発生した口蹄(こうてい)疫は4カ月で終息したことを踏まえ「豚コレラで初動を誤った農水省の責任は大きい」と感じる。
各県から共通して挙がるのが、同省に丁寧な説明を求める声だ。愛知県養豚協会の小林功理事長は「全国で順次、説明会を行う必要がある」と強調。豚へのワクチン投与では、科学的な根拠に基づくメリットやデメリットなどを丁寧に説明してほしいと指摘する。滋賀県養豚推進協議会の森本雄一会長は、相次いで感染イノシシが見つかっていることから「危機のステージは大きく変わった。明日はわが身」とした上で「農水省の説明不足が際立つ。衛生管理の不備を言うなら発生農場の課題点を各地にフィードバックしなければ教訓は生かせない」とみる。
各県とも、消毒の徹底や畜舎への出入りの厳重管理、畜舎へのフェンス設置など衛生対策に時間と費用を投資し、厳重な対策を急ぐ。ただ、費用や作業時間がかさむ一方で対策に終わりが見えず、複数の会長から「このままでは養豚業が消える」と悲痛な声が出る。
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[未来人材] 33歳。茶の店継承し生産も。闘茶会全国3位に 信用磨き若年層狙う 前野裕蔵さん 大津市
大津市で69年続く前野園茶舗を経営する前野裕蔵さん(33)は、「近江の茶を世間に広めたい」という思いを形にしようと、茶と向き合う。まず目指すのは、茶を鑑定でき信用される存在になること。甲賀市の農事組合法人スタッフとして働く生産者として、今年の茶審査技術大会(闘茶会)では全国3位に入った。一層の技術向上に意欲を燃やしている。
祖父母が営んでいた店を継承したのは24歳。土木作業、工場勤務、専門学校を経て就職し、地元百貨店で服を売っていた。祖父が高齢になる中で、愛着ある店の存廃の話が転機だった。「やめておけ。茶は厳しい」と、父や親戚の茶農家は大反対だった。
継いだ当初、茶業青年団に刺激を受けて、県外で近江の茶を扱う店へ飛び込みで営業した。「自分は後先考えないところがある。自分らしい営業ができればいい」。そう思い、その店で扱っていたものと同じ品を用意し、値を少し下げて納めた。
取引は数回で打ち切られた。長年の取引先との関係もあっただろうが「技術(信用)がない。何も分かってないと思われた」と人づてに聞いた。茶を学び、再び取引をすることが目標になった。「(鑑定技術で)納得できる結果を残したら挑戦しよう」と誓った。
「滋賀の茶はうまいよ。通好みの味だね」。茶を見て実際に飲み、品種を当てて点数を競う闘茶会で聞いた、静岡の人の言葉が印象的だった。長崎の生産者からも「問屋の見る目がないから茶業界が傾いている」と言われ、はっとした。
2018年からは、生産から販売まで一貫して行う法人で働きながら、茶について学んでいる。店の経営と一人二役。「近江の茶を広めるには、自分がどれだけ動けるのだろうか」と考える。
前野さんは若い頃、大阪や名古屋のクラブに遠征して遊んだ。「青春だった頃とは違うが、憧れは今もある」という。
若者が集うクラブで試したいことがある。「茶を使って、健全に格好よく楽しめること。企画を店に持ち込み、あっと言わせたい」。茶と若者を近づける。具体策を明かすにはまだ早いが、構想は固まっている。(加藤峻司)
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2019年12月01日

日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。
同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。
同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。
政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。
発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。
協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。
今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。
日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。
政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。
政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
国内対策 農家規模問わず
政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。
改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。
自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。
改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。
農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。
TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。
参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。
国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。
協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。
ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。
衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。
一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。
さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。
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2019年12月05日

農高初 花き国際認証取得へ 世界と未来視野 県立栃木農高
模擬会社で経営を学ぶ 環境配慮した生産実践
県立栃木農業高校の模擬会社「フローラTOCHINOU」が、来年1月にも国内の農業高校として初めて、花き栽培の国際認証MPS―ABC(花き産業総合認証環境部門)を取得する見通しだ。既に仮認証を取得し、11月に行われた現地審査の結果を待つ。環境への配慮で、花きに国際的な付加価値をつけることで、将来的な海外輸出も視野に入れる。
模擬会社は2016年に、草花の栽培や経営をより専門的・実践的に学ぶために設立した。農業科の生徒ら7人が参加し生産部、販売部、企画部、経理部、広報部の5部門からなる。シクラメンやサイネリアの鉢花を中心に8品目を栽培し、アジサイやトルコギキョウも生産する予定だ。
生徒らは、15年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)について学ぶ中で、欧州の園芸技術や環境への意識の高さを痛感。オランダを発祥とし花き生産の環境負担を低減する国際認証である、MPS取得を目指すことにした。
MPSは農薬や肥料、エネルギーをできるだけ削減し、環境と安全に配慮した花き栽培を行う。認証取得に向けては、同校の農場での栽培記録を審査機関に報告し、18年10月には国内の農業高校で初めて仮認証を受けた。
さらに19年11月中旬には、審査員が学校を訪れ、農場を現地調査。農薬や肥料、エネルギー、水の使用状況や廃棄物の分別状況など五つの環境負担要素について審査した。今後、これまで約1年間の栽培記録と現地での審査を基にポイントを算出。来年1月に、ポイントに応じた認証を受ける予定だ。
農業科3年生の佐々木一哉さん(17)は「花き栽培などの農業は、見た目の美しさだけでなく、常に循環型・持続可能であり、環境に配慮した産業でなければならないと学んだ。この取り組みを多くの消費者に発信していきたい」と話す。
「MPS―ABC」は農業大学校が取得した例はあるが、高校では初となる。同校生徒の取り組みについて、本多淳一MPS審査員は「世界的潮流である環境負荷が少ない生産への意識を高める上で、認証の教育的な意義は大きい」と強調。「取得はゴールではなくスタート。蓄積した情報を基に、翌年以降のさらなる改善に挑戦してほしい」と期待する。
同校は8月、ユネスコ憲章に示された理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校「ユネスコスクール」への加盟が決定。気候変動への対応や持続可能な生産と消費など、国際社会が達成を目指すSDGsの17の目標に積極的に取り組んでいる。
<メモ>
MPS(花き産業総合認証)は、花き業界の世界標準的な認証制度。2018年現在、45カ国以上、約3200団体が認証を取得している。認証の対象は、花きの生産者、流通業者。日本では07年からMPSジャパンが認証の取り扱いを始め、現在78の個人・団体が参加している。
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2019年11月30日

行動起こす一歩大切 酪農女性340人経営ヒント学び合う 北海道でサミットファイナル
全国から酪農に携わる女性が集い、経営や技術などを学ぶ「酪農女性サミット」が3日、北海道帯広市で始まった。酪農女性ら340人が参加し行動を起こすことの大切さや、今後のあるべき姿などを話し合いながら交流を深めた。4日まで開く。
サミットは2017年から北海道で年1回開かれ、3回目の今年が最後の開催。酪農家の女性が互いに学び語り合い、女性も楽しく仕事ができる酪農を目指そうと、酪農家の女性自らが企画・運営してきた。
「酪農女性のモチベーションUP!講座」と題したトークセッションでは、経営の最前線で活躍する女性たちが登壇した。
オランダで酪農家と結婚したニューランド伏木亜輝さん(43)は、酪農経営は義父と夫が行い「牧場に自分の居場所がない」と悩んでいたことを話した。自分のやりたいことは何かを考えた結果、日本からの研修を受け入れる事業を始めたことを紹介。「少しでも考えたらアクションを起こしてみて」と会場に呼び掛けた。
北海道大樹町で経産牛600頭を飼育する「カネソファーム」の金曽千春代表は、15歳で酪農家の実家を継ぐ決意をした生い立ちを披露した。経営者として先代からの思いを受け継ぎ、次の世代につなぐことで「酪農の未来は明るい」と語った。
酪農以外では、神奈川県藤沢市で野菜を栽培する「えと菜園」の小島希世子代表が、ホームレスや引きこもりの人に農作業を体験してもらい、農家への就職などにつなげる取り組みを紹介した。
「後継者不足に悩む農家と、働きたくても働けない人を結び付けたいとの思いから始めた」と話した。「農業は裾野が広い。適材適所を見つければ、人の才能を伸ばせる産業だ」と農業の可能性を訴えた。
サミットはJA全農、日本コカ・コーラが共催。中央畜産会が後援した。4日は帯広畜産大学の仙北谷康教授が酪農所得や共済について話す他、参加者同士がモチベーションを保つ工夫を話し合う。
成果 農場で実践を 参加者3倍に、注目実感
<初回からの実行委員長 砂子田円佳さん>
北海道内の酪農女性が企画・運営し、全国から酪農に携わる女性らが年1回集う「酪農女性サミット」。これまで全3回の実行委員長を務めてきた広尾町の酪農家・砂子田円佳さん(36)にサミットを始めた経緯や思い、成果などを聞いた。
──開催したきっかけを教えてください。
女性酪農家が話すパネル討論にパネリストとして参加した時、参加者から「これだけ頑張っている人がいるなら酪農女性が集うサミットを開いたらどうか」という意見が出て、酪農家ら6人で企画した。互いに見ず知らずだったが、楽しく酪農をするには勉強も大事、女性の酪農にも勉強する場があればなど、共通した課題や方向性を持っていてすぐに意気投合した。
──女性だけにした理由は何ですか。
酪農関係のセミナーは多いが、参加する女性は少なく質問していいのかと遠慮しがち。「女性」と銘打つことで来やすい人もいる。
私も20代で実家から独立した時、「お前なんか嫁に行ってすぐにやめるだろう」と言われ悔しい思いをした。頑張って働き30代になり、女性らしく生きることや理解してもらうことの大切さを感じた。それにはもっと力を付けないといけない。言われたことだけしてもんもんとするのでなく、勉強して提案することで違う世界が見えてくる。
──3年間、サミットを開いた手応えは。
初回に比べ参加者が3倍ほどに伸びた。当初は「やって意味があるのか」とも言われてきたが、男性の見る目が変わった。開催案内を広報誌や店舗に張って紹介してくれるJAもあった。3年の積み重ねで多くの人に注目されるようになったと実感している。大会実行委員への講演の依頼も増えている。私たちの体験を通じ、次に続く人たちが前に出やすくなってほしい。
──今回で最後の開催としています。
「ファイナル」としたが「これで終わり、解散」ではなく、実行委員が各地で小さくても動いていきたい。参加者も各地域に帰って動き始めてほしいし、その手伝いができたらうれしい。(聞き手・洲見菜種)
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2019年12月04日

[営農ひと工夫] 積み重ね最大50束 はさがけ台組み立て簡単 岐阜県富加町の吉田さん考案
岐阜県富加町の吉田正生さん(65)は、鉄製パイプを組み合わせ、短時間で作成できる「はさがけ台」を考案した。シンプルな構造だが、稲穂を最大50束掛けることができる。稲穂を掛ける土台を回転するように工夫し、日当たりを調節できるようにした。材料はホームセンターで購入でき、費用は3000円程度という。
材料は鉄製パイプと金具、鉄製のくいだけ。まずは、鉄製のくい1メートルを地面に約30センチ埋め込み、金具で2メートルの鉄製パイプとつなげる。つなげたパイプと垂直になるように、収穫した稲穂を掛ける台として80センチに切ったパイプを取り付ければ完成。吉田さんは「組み立ての作業時間は5分以内で終わるので楽。誰でもすぐに作ることができる」とアピールする。
稲穂は最初の1束だけパイプを挟むように二つに分けて掛ける。2段目以降は、下段の稲穂から90度回転して2束ずつ重ねる。高さは、縦に取り付ける鉄製パイプの長さで調節でき、最大2メートルで50束を掛けることができるという。
吉田さんがこのはさがけ台を考案したのは昨年。昨年は鉄製パイプ3本を正三角形に組み合わせて使っていたが、風通りが悪く、一部の稲穂にかびが生えたという。今年は鉄製パイプ1本ではさがけができるように改良。土台部分のパイプはねじを少し緩めれば回転でき、日光の当たり方を変えることが可能だ。今のところかびの発生はないという。晴天日が3日あれば1週間程度で、乾燥機にかけなくてもよい程度の乾燥度合いになる。穴を開けた防水シートを穴から鉄製パイプに通し、シートで稲穂を覆うことで雨風対策もできる。
吉田さんは「コシヒカリ」などを1ヘクタールで栽培する。そのうち20アールで栽培する水稲もち品種「モチミノリ」は、全て考案した方法で乾燥させる。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=Fbj_omjeE9A
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2019年12月04日
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日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。
同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。
同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。
政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。
発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。
協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。
今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。
日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。
政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。
政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
国内対策 農家規模問わず
政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。
改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。
自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。
改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。
農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。
TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。
参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。
国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。
協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。
ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。
衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。
一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。
さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。
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2019年12月05日
畜酪対策で重点要請 家族経営支援を 全中
JA全中は4日、2020年度の畜産・酪農対策に関する重点要請事項を決めた。中小規模の家族経営を含む、多様な生産者の生産基盤の強化などが柱。ICT(情報通信技術)による労働負担の軽減などに支援を求める。……
2019年12月05日

所得向上に重点を 年内に論点まとめる 自民基本政策委
自民党の農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長)は4日、来年3月に改定を予定する政府の食料・農業・農村基本計画について、年内に一定の論点をまとめる方針を確認した。同委員会の顧問を務める宮腰光寛・前沖縄北方相は、農業の経営継承や農家の所得向上に重点を置くべきとする考えを示した。食料自給率目標だけにこだわらず、深刻化する農業の担い手不足などの課題に直結した内容に見直す狙いとみられる。
小野寺委員長は「年内に一定の論点をまとめ、具体的な内容について踏み込んだ政策を図っていきたい」と述べた。
宮腰氏は「今回は農家の高齢化や若い農業経営者の不足などを考えると農地を含めた経営継承が大きなテーマだ」と強調。その上で「農家の農業所得や農村での所得をどう上げていくかが基本計画の目玉になるべきではないか」と提起した。
現行計画ではカロリーベースの食料自給率目標を45%に掲げるが、直近の18年は37%と過去最低に落ち込んだ。45%達成に向けた品目別の生産努力目標も大半の品目で実現が難しい状況だ。
党内には自給率を目標にすることを疑問視する声は少なくない。米中心だった食生活が変化していることへの対応に加えて、自給率低下を招いたとの批判をかわしたい思惑も見え隠れする。
一方、農業就業者は2015年で196万人と、政府の見通しを7万人程度下回る。担い手不足を背景に農地面積も減り続け、直近の19年で439万7000ヘクタールとなり、政府の25年の確保目標440万ヘクタールを早くも下回る。
会合では「規模の大小を問わず、経営を継承している農家にはしっかり支援しないといけない」(進藤金日子氏)、「水田地域を維持するには兼業農家を含む関連人口が多くないと大規模農家が(過重負担で)苦しくなっていく」(鈴木憲和氏)などの意見が挙がった。
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2019年12月05日

日米協定 熟議程遠く 参院委可決 政府、要求応じず
参院外交防衛委員会は3日、日米貿易協定の承認案を与党などの賛成多数で可決した。4日の参院本会議で承認される見通しだ。参院の審議は計11時間余りで、より精緻な農林水産品への影響試算や、追加交渉で農業分野が対象になる可能性など、重要な論点の政府と野党のやり取りは平行線のままだった。野党の資料請求に政府・与党は引き続き応じず、議論は深まらなかった。
自民、公明両与党と日本維新の会が賛成。立憲民主、国民民主両党などの共同会派と共産党、参院会派「沖縄の風」は反対した。
日米両政府は、来年1月1日の発効を目指す。日本政府は承認後、関係政令の閣議決定など国内手続きを終え、米国に通知する。発効すれば牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税が削減される。米は除外した。
参院では、有識者らを招いた参考人質疑も実施したが、質疑時間は11時間15分にとどまった。衆参両院合計でも22時間余りで、特別委員会で130時間以上審議したTPPや、米国抜きのTPP11の際の審議時間を大きく下回る。
衆参両院の審議を通じ、野党側は、時期が未定となった自動車・同部品の関税撤廃を除いた経済効果や、TPPと、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効済みの現状を踏まえた農林水産品の影響試算などを要求した。追加関税の回避の前提となる首脳会談の議事録なども求めたものの、政府・与党は提出要求には応じなかった。
採決前の討論で、野党は「再三の提出要求にも一切応じず、国会への説明責任を放棄した」(野党共同会派の小西洋之氏)などと政府を強く批判した。
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2019年12月04日
基盤・競争力強化 輸出拡大 経済対策は13兆円 政府案あす閣議決定
政府が近くまとめる経済対策の案が3日分かった。農業関係では、日米貿易協定の国内対策として生産基盤と国際競争力の強化、輸出拡大などを柱に据える。5日に閣議決定する。財政措置は財政投融資を含め13兆円程度とする方向。2019年度補正予算案と20年度当初予算案に必要経費を計上する。日米協定の農業対策費は、19年度補正予算で3250億円程度で調整している。
政府が同日、自民党の会合で対策案を示した。農業の生産基盤強化の具体策として、産地生産基盤パワーアップ事業や和牛・酪農の増頭、スマート農業技術の開発・実証プロジェクトなどを挙げた。大規模経営への支援だけでなく「中山間地域等の条件不利地域も含め、規模の大小を問わず意欲ある農林漁業者が安心して経営に取り組めるようにする」と記した。
輸出拡大では、司令塔となる「農林水産物・食品輸出本部」を農水省に設置し、輸出に対応できる食品加工・食肉処理施設などの整備を進める。
農業の担い手不足を受け、現在40歳前後の就職氷河期世代の就農支援を打ち出す。相次ぐ自然災害で被害を受けた農林漁業者の再建、災害に強い農業水利施設やため池、農業用ハウスの整備も盛り込む。
財政措置13兆円のうち、国の一般会計からの支出分は補正予算案で4兆円超、当初予算案で1兆円台後半をそれぞれ手当てし、計6兆円程度となる見通し。さらに特別会計を活用し1兆円台半ば程度を確保する。補正予算の農林水産関係総額は、日米協定対策費を含め6000億円超を目指す。
経済対策に伴う地方負担は1兆円台半ばを超えそうだ。財政投融資は3兆円台後半とし、交通網整備などに振り向ける。民間企業の支出分などを加えた事業費の合計は25兆円を超える見通しだ。
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2019年12月04日

台風19号被災長野市を視察 参院農水委
参院農林水産委員会は3日、台風19号の浸水被害を受けた長野市の果樹園地やJAの選果施設を視察し、農家らと意見交換した。被災農家は営農再開に向け、早急な泥の除去や資金対策などの支援を求めた。
与野党議員8人が長野市穂保地区の園地やJAながの長野平フルーツセンターなどを視察した。
地元の若手農家グループが要望を伝えた。浸水被害を受けた農地は、災害復旧事業の支援対象となるが、現状では泥の撤去作業が十分進んでいない実態を説明。リンゴ農家の小滝和宏さん(36)は防除のためのスピードスプレヤー(SS)も入れないことから、「来年3月下旬の薬剤散布時期がリミット。間に合わなければ木を切ることも考えなければいけない」と危機感を示した。
県庁では阿部守一知事が、果樹園に堆積した土砂の処分場確保が難しいことから、公共工事の盛土などに活用することを要望した。
同委員長の自民党の江島潔議員は「想像以上に広範囲で大きな被害に衝撃を受けた。現場の意見や要望は、委員会でしっかり検討して、政府に返していきたい」と述べた。
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2019年12月04日

ディスカバー農山漁村の宝 個人賞に上乗さん(石川)
政府は3日、地域の資源を活用し、活性化につなげている地区を表彰する第6回「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」のグランプリに、天然ワカメ商品などを手掛ける島根県大田市の魚の屋を選んだ。今回から選定方法を一新。地域で活躍する人材を表彰するために新設した「個人賞」には、子どもが里山の自然を体験できる環境づくりなどに携わる石川県能登町の上乗(じょうのり)秀雄さん(75)を選んだ。
団体・法人向けの表彰では、所得向上や雇用創出につなげている「ビジネス」、地域活性化に貢献する「コミュニティ」の2部門を新設。両部門からグランプリを選出した。
個人賞に選ばれた上乗さんは、故郷の里山を再開発し、子ども向けの自然体験村「ケロンの小さな村」を創設。さらに耕作放棄地を活用して生産した米を米粉にしてパンやピザに加工、販売し、大人の来場にも結び付けた。年間5000人が訪れる施設を作り上げ、地域のにぎわいづくりに貢献した点が評価された。
同日、首相官邸に選定地区を招き、グランプリなどを発表した。安倍晋三首相は「人の努力や活躍があって地域や日本が元気になる。地域だけでなく人の魅力にもスポットを当てて発信したい」、江藤拓農相は「今の農政は産業政策よりも地域政策が大事という議論が盛んにされるようになってきた。一緒に頑張っていきたい」と話した。
コミュニティ、ビジネス両部門では、準グランプリも選出した。受賞者は次の通り。
コミュニティ=北海道立遠別農業高校(北海道遠別町)▽上山市温泉クアオルト協議会(山形県上山市)
ビジネス=山上木工(北海道津別町)▽杉本製茶(静岡県島田市)
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2019年12月04日
日米協定参院委可決 牛肉SG、追加交渉分野 懸念拭えぬまま
日米貿易協定の承認案を巡る参院外交防衛委員会の審議が3日、終了したが牛肉セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の発動基準数量の引き上げや、追加交渉での農産品の扱いなど、同協定が抱える多くの懸念事項は払拭(ふっしょく)されなかった。野党側が追及するも政府側は従来の答弁に終始。国会での議論は消化不良のまま、協定の発効へ最終局面に入る。
農産品で議論になったのは、SGの発動基準の見直しだ。協定の補足文書では、発動した場合、基準を一層高いものに調整する協議に入ることを明記。初年度の基準が2018年度の輸入実績よりも低くSGが発動しやすい半面、協議による基準引き上げの動向が焦点になっている。
立憲民主、国民民主など野党でつくる共同会派の舟山康江氏は「(日本側が)相当不利な書きぶりだ」、共産党の井上哲士氏も「極めて特例的な規定だ」と批判。協定発効後はSGが発動しても税率は発効前の38・5%にしか上がらないことを踏まえ、輸入抑制効果を疑問視した。
茂木敏充外相は、SGの発動について、輸入業者が発動基準をにらんで年度末に輸入量を調整すると見通し、「毎年そういう(発動する)ことが起きるとは想定していない」との認識を示した。内閣官房の渋谷和久政策調整統括官は「協議することは同意したが、先は予断していない」と従来の答弁を繰り返した。
日米が発効後4カ月以内に予備協議し、追加交渉の分野を決めるという規定も論点になった。政府は交渉でまとまらなかった自動車・同部品の関税撤廃期間を追加交渉で扱うと説明してきた。
舟山氏は「自動車の関税撤廃を獲得する時は、何も譲らないと約束すべきだ」とし、農産品などの一層の市場開放をしないよう強く求めた。
渋谷氏は「協定を誠実に履行することが米国にとって望ましい」と協定の基本的な在り方を述べるにとどまり、具体的な対象分野への言及は避けた。
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2019年12月04日
規制会議 スマート普及が重点
政府の規制改革推進会議は2日、当面審議する重点事項を決めた。農業分野は、スマート農業の普及に向けた環境整備などを盛り込んだ。これまで規制改革を求めてきた事項で、今後も進捗(しんちょく)状況を重点フォローする事項も決定。農協改革は、信用事業の健全な持続性確保へ代理店方式の活用推進を挙げ、農林中央金庫や信連、全共連の株式会社化は記述から外れた。……
2019年12月03日
低病原性鳥インフル アジアで発生続く 農水省、農家に警戒呼び掛け
愛媛県で野鳥のふんから今シーズン初めて、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H7N7亜型)が確認された。韓国では既に、野鳥のふんからから同ウイルスの確認が相次ぐ。他のアジアの国では高病原性鳥インフルエンザも継続的に発生しており、警戒を強める必要がある。
韓国で10月以降、飼養鶏では低病原性鳥インフルエンザは発生していない。だが、野鳥のふんから同ウイルスが確認されたケースは15件に上る。11月中旬には日本に近い韓国南東部の慶尚南道でも確認された。ウイルスの型が不明の1件を除く14件が、日本とは異なるH5亜型。
他のアジア各国では、高病原性鳥インフルエンザの発生が続く。台湾では少なくとも17年以降は毎月、飼養鶏で発生。今年11月にはH5N5亜型とH5N2亜型が1件ずつ見つかった。インドネシア、ベトナム、ネパールでも継続的に発生している。
今季初の低病原性鳥インフルエンザウイルスの確認を受け、農水省は農家に警戒を呼び掛けている。農場では、野鳥などの野生動物が鶏舎に侵入しないよう、防鳥ネットなどの確認が必須。農場に入る車や人、モノの消毒の徹底も求められる。鳥インフルエンザは低病原性でも、飼養鶏で発生した場合には農場の全羽殺処分が必要となる。
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2019年12月02日