日米影響試算 審議の材料たり得ない

 日米貿易協定が発効しても、万全の国内対策を打つので日本の農家の所得や生産量は一切減らない──。政府がそんな影響試算を発表した。現実離れしていると言わざるを得ない。これでは国会審議の材料になるはずもない。政府は納得感の得られる試算を出し直すべきだ。

 日米協定の承認案は24日から衆院本会議で審議が始まる。審議を進める上で重要な材料の一つとなるのが、日米協定によって日本農業が受ける影響試算だろう。

 日米協定発効に伴い、日本農業が受ける打撃はどの程度か。影響をしっかり試算した上で必要な国内対策を考える。これこそが本来あるべき姿のはずだ。だが、政府が先週発表した影響試算は、そうした期待に沿う内容とは言い難い。

 試算によると、日米協定発効に伴い、安い米国産農林水産物が日本に押し寄せた結果、国産の価格も低下。国内の農林水産物の生産額は600億~1100億円減る。減少額がとりわけ大きいのが牛肉で、最大約474億円に達するという。

 不思議なのはここからだ。生産額が減るにもかかわらず、国内の農家の所得、生産量は一切減らないという。コスト低減や経営安定につながる万全な国内対策を措置するからで、食料自給率も変わらないという。

 そもそも国内対策の検討が始まるのはこれからで、まだ決まっていない。にもかかわらず、なぜ日本の農家所得や生産量に影響なしと言い切れるのか。首をかしげたくなる農家も少なくないだろう。

 環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に合意した際も政府は影響試算を発表。今回同様に国内対策の効果で、日本の農家所得や生産量に影響なしという内容だった。

 政府には、農家の不安を大きくしたくない気持ちがあるのかもしれない。だが、貿易自由化に伴う打撃に目を背けたままでは、十分な国内対策が出来上がるとは思えない。

 今回の影響試算には、国内対策を考える以外にも、もう一つ重要な意味合いがある。来年3月の策定に向けて議論が本格化している新しい食料・農業・農村基本計画だ。同計画は今後10年間の農政の指針となる。

 10年後と言えば、日米協定やTPP、日欧EPA発効に伴う関税削減が、今よりずっと進んでいる時期。その時に日本農業が受ける打撃はどの程度か。それをきちんと踏まえて新たな基本計画を策定する必要がある。

 「農家の不安にもしっかり向き合い、生産基盤の強化など十分な対策を講じる」。安倍晋三首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で力強く宣言した。ならば、まずは現実離れした一連の影響試算を見直すべきだ。このまま国会審議に突き進んでも議論は深まらず、生産基盤強化という首相の決意にも疑問符が付きかねない。

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