結婚式でよく用いられる祝辞に「袋の話」がある
2019年11月09日
結婚式でよく用いられる祝辞に「袋の話」がある。先日、知人の結婚式で久しぶりに聞いた▼「結婚生活には大切な三つの袋があります」で始まる。生活を支える給料袋、家庭での食事を大切にする胃袋、そしておふくろである。育ててくれたおふくろを大切にするよう諭して話は終わる。最近は、堪忍袋を加える人も多いと聞く。「不満を詰め込んで、ひもでしっかり締めておけ」。長持ちの秘訣(ひけつ)だとか▼袋といえば、なにかと肩身の狭いのがレジ袋である。「地球環境を壊す」と悪者扱いされ、政府は来年7月から全ての小売店に有料化を義務付ける方針だという。東京五輪で環境重視をアピールしたいのだろうが、「破壊の主因は別にある」とする業界の反発も根強い▼この便利な袋が梨園で生まれたことはあまり知られていない。梨狩りをする女性が竹で編んだ籠を使うとストッキングが伝線し、不評だった。そこで登場したのがプラスチック製の袋。これが好評であっという間にレジ袋にも広がった。よく見ると持ち手の横に封止弁まである。梨がこぼれ落ちないよう口を結ぶための名残だとか▼有料化で全てが片付く問題でもあるまい。一つの袋を繰り返し使っても量は減らせるはず。どんな「袋」も扱い方が大事だということだろう。
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コスト増、人材不足、日米交渉… 生乳生産不安尽きず 畜酪対策 来週ヤマ場
2020年度の畜産・酪農対策を巡る政府・与党の協議が来週、ヤマ場を迎える。都府県は生乳生産の減少に歯止めがかからない一方、北海道は増産意欲は高いが、コスト増や人材確保などの課題があり、日米貿易交渉など将来への不安も尽きない。生産基盤強化に向け、規模拡大や家族経営の維持など多様な担い手が将来に安心して生産できる体制を求める声が強まっている。
生乳生産量は、北海道は増産基調だが、都府県は前年割れが続く。課題の一つが農家戸数の減少が続く都府県酪農だ。
栃木県大田原市で、育成牛含めたホルスタイン66頭を家族3人で飼養する藤田義弘さん(43)は「乳価は上がったが、消費増税で相殺され、経営は改善していない」と訴える。課題として挙げるのは人手の確保。毎月の休みは3日で休む時は酪農ヘルパーに頼むが、来てくれないときもあるためヘルパーの人材確保を強く求める。
藤田さんが就農した20年前の市内の酪農家は約90戸だったが、現在は約70戸。戸数減に歯止めをかけるため「現状の規模や労働力でも経営が維持できる対策にも力を入れてほしい」と家族酪農が続けられる対策の充実を求める。
「クラスター」要件厳し過ぎ
北海道頼みの生乳生産だが、道内の生産基盤も盤石ではない。酪農家は減り、規模拡大で生産量を維持、拡大している状況でコスト増が課題だ。
士幌町で乳牛380頭を育てる川口太一さん(56)は、牛舎の増築費用に頭を悩ませる。現在の搾乳牛200頭を約260頭に増やしたいが、増築費は資材費や人件費の高騰で「10年前に牛舎を作った時より、2倍以上(3500万~4000万円)かかる」と話す。畜産クラスター事業を活用したいが、建築基準などの要件が厳しく適用が難しいという。このため、同事業の要件緩和を求める。
コストが高くなりがちな冬の施工を防ぐため、十分な工期を確保できる仕組みも提案。同事業本来の狙いである畜産関係事業者が連携・集結し、地域ぐるみで高収益型の畜産を目指す体制整備も重要と話す。「産地としての責任を果たすため経営主になって以来、増頭してきた。少しでも事業を使いやすくしてほしい」と強調する。現在はパート1人、中国人技能実習生3人で経営しており、将来の雇用確保も懸念している。
中小・家族経営守る政策必要
酪農の規模拡大が進む中、新たな課題が広がる。「増頭で、ふん尿処理に困っている」「酪農ヘルパーなどの人材確保の対策を続けてほしい」──。11月30日、12月1日に釧路市や幕別町、網走市を視察した自民党畜産・酪農対策委員会の委員に、各地区のJA組合長が訴えた。「中小規模・家族経営基盤の維持強化に向け、省力化などの支援を続けてほしい」といった声も目立つ。酪農家が減少する中で規模拡大一辺倒ではなく、中小規模や家族経営を守るという意識も高まっている。
JAグループ北海道は畜産クラスター事業では計画的に投資できるように全ての事業の基金化を求める。加工原料乳生産者補給金は再生産可能な水準、集送乳調整金は指定団体が機能発揮できる水準を求めている。
生産減、離農止まらず
全国の生乳生産量は減少傾向にあり、農水省によると2018年度は728万9227トンと、5年前から2・9%減。特に都府県で減り続けている。牛乳・乳製品の需要は堅調だが、生産量が伸び悩み自給率は低下。同年度はカロリーベースで25%にとどまった。
酪農家戸数はこの10年、前年比4%前後の減少が毎年続く。大規模化や牛1頭当たりの乳量の伸びで、生乳生産の下落をカバーしている。
JAグループは、中小規模の家族経営などの離農が止まらないことが生産基盤の弱体化につながっていると指摘。大規模農家を、引き続き生産基盤の維持・拡大をリードする存在と位置付ける一方、「多様な生産者」の生産基盤の強化を重視する考えを打ち出した。
20年度畜産・酪農対策の重点要請では、規模拡大を問わず事業継承や生産効率の向上を支援するように提起。特に、飼養頭数50頭未満が76%を占める都府県酪農を念頭に、牛舎の空きスペースを活用した増頭への支援などが必要だとしている。
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2019年12月07日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日
農村政策の再構築 農水省は司令塔役 担え
農山村を支援する研究者や実務家らでつくるNPO法人中山間地域フォーラムが、新たな食料・農業・農村基本計画への提言を農水省に提出した。農村の振興には生産面、生活面などの政策を総合的に推進する必要があるとして、同省に政府全体の司令塔となるよう提起した。その本気度が問われている。
提言は「総合的な農村政策の再構築を!」との名称だ。農村政策として農水省は、中山間地域直接支払いなどを実施。それらは、農業の多面的機能を発揮するために農地や水路、農道などを維持する資源管理政策になっていると分析した。しかし、中山間地域を中心に活動を担う農家や住民らが減少している。
そこで提言は、農業経営が成り立ち地域社会が持続してこそ同機能は発揮されると指摘。農村、特に中山間地域の今後の姿として①地域特性ごとに、どんな農業経営や農業と他の仕事との組み合わせで経営体として生き残れるか②移住者や農家以外の人と共に、地域経済と持続可能なコミュニティーをどうやって維持できるか――ビジョンを示すよう農水省に求めた。その上で、生きがいを持って仕事を続け、必要な所得を得て、安心して住み続けられるようにする総合的な政策の構想と体系化、府省の連携促進を訴えている。
農水省の「農村地域人口と農業集落の将来予測結果」によると、山間農業地域では2045年までの30年間に人口が半減し、過半が65歳以上の高齢者になる。また、約14万の農業集落のうち存続が危惧されるのが同年は約1万集落になり、9割近くを中山間地域が占める。
各府省が農村政策に取り組むが、施策が「バラバラに行われている」(提言)。生活サービスや地域活動の場を小学校区などを単位にまとめ暮らしを支える小さな拠点や、住民を中心に地域の課題解決に取り組む地域運営組織、過疎地などに都会から移住して地域活性化に携わる地域おこし協力隊など他府省の施策も、農業・農村振興の観点での再編成が必要だろう。
食料・農業・農村基本法は、「農村の総合的な振興」のために農業生産の基盤と生活環境の整備などを総合的に推進するよう国が必要な施策を講ずると定める。そして農水省設置法で総合的な政策の企画・立案・推進を同省の役割と規定。提言は、同省に「リーダーシップを発揮し、積極的な役割をはたすべき」とし、その姿勢を基本計画で明らかにするよう迫る。
農水省は、まず農村の実態把握と分析で政府内でのリーダーシップを取ると表明している。しかし農村振興は待ったなし。府省横断での政策立案や、現場での使い勝手をよくする仕組み作りまで踏み込むよう求める。
基本計画は閣議決定し政府全体の方針になる。今国会で農林水産物・食品輸出促進法が成立し、政府の司令塔組織を農水省に創設する。農村政策でもその役割を同計画に明記すべきだ。
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2019年12月11日

ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
民宿の裏庭から飛び立ったドローンは、上空50メートルほどまで上昇した後、あらかじめ設定しておいた経路に沿って直売所まで飛行した。10分ほどで直売所近くの広場に到着し、すぐさま店頭に商品が並んだ。
実験に協力した農家民宿「星雪館」の代表、門脇富士美さん(48)は4カ所の直売所で野菜などを販売する。輸送に往復1時間近くかかる場所もあるため「ドローンに運搬を任せることができれば、空いた時間で他の仕事をできるようになる」と期待する。
法律、価格、天候 壁高く
仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
ドローンの運行を担当した東光鉄工(秋田県大館市)によると「自律飛行は技術的に可能なレベルに到達している」が、法律上の規制が運搬用途での実用化に向けた課題になっているという。
国土交通省が今年8月に公表したガイドラインでは、ドローンを飛行させるには、原則として目視による確認が必要。今回の試験では複数の補助者が配置され、飛行ルートと並行する鉄道会社の職員も監視するなど、警戒態勢が取られた。そのため、「現状では車を使って輸送する方が効率的」との声も上がる。
価格面も課題だ。門脇さんは「1台10万円くらいなら手が届く」と話すが、物資運搬が可能な大型機は100万円を超えることがほとんどで、手軽に購入することはまだ難しい。また、試験時の天候は雨交じりで「強い雨の中では電気回線に不具合が出る可能性がある」として直前まで飛行が危ぶまれた。
市地方創生・総合戦略室の藤村幸子室長は、目視外飛行への法規制などさまざまな課題があるとしつつ「ドローンは人手不足が深刻な中山間地域にとっては有効な手段。実証試験を繰り返して課題を克服し、将来的な実用化につなげたい」と話している。
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2019年12月12日

ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日
四季の新着記事
笑顔がはじけた
笑顔がはじけた。そして誇らしい。きのうの〈桜の戦士〉凱旋(がいせん)パレードは、多くの人の祝福と共にあった▼まず印象的だったのは、〈ぐーくん〉こと韓国出身の具智元選手の全身から伝わる喜び。大仕事を終えた充実感だろう。巨漢を生かしスクラムの最前線で戦い、強豪チームを相手に一歩も引かない。日本代表は外国人が半分近い。日韓関係が最悪の中で、具選手への温かな拍手と声援に、スポーツを通した友好復活の芽を見た▼ラグビーは体の大きさもさまざま。多様性こそこの競技の素晴らしさの一つ。小柄なだけに逆に目立ったのが、スクラムハーフを担った田中史朗と流大の2選手。攻守逆転を何度も演じ、ベスト8につながる。共に166センチと一般人と変わらない体格だが、パスの達人で敬称の〈小さな巨人〉に納得する▼感極まったのは、やはりリーチ・マイケル主将の勇姿である。ピンチを何度も救った切れ味鋭いタックルに多くの勇気をもらう。高速ウイングで〈ダブル・フェラーリ〉の異名を持つ福岡堅樹と松島幸太朗の両選手は華やかそのもの。俊足は“チータ”に例えられる▼合言葉はワンチーム。先日の会見で中家徹JA全中会長も連帯や多様性など「協同組合にも通じるものがある」と。〈桜の戦士〉よ、感動をありがとう。
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2019年12月12日
今年は俳聖・松尾芭蕉がみちのく・東北へ旅立ってから330年
今年は俳聖・松尾芭蕉がみちのく・東北へ旅立ってから330年。紀行文『おくのほそ道』で珠玉の句を残す▼東京の出光美術館で開かれた特別展「奥の細道330年 芭蕉」を見て驚いた。最晩年に旅の情景を描いた「旅路の画巻」の公開は実に四半世紀ぶり。細く連なるリズミカルな文字は繊細な感性を裏付ける。当初の俳号・桃青(とうせい)の名もある。句に添えた絵は「蕉門十哲(しょうもんじってつ)」の一人、森川許六(きょりく)による。近江・彦根藩士で絵師、俳人、やり使いの名人でもあった▼『ほそ道』を軸に、数百年前後して日本の文学史に残る詩歌が残った。芭蕉は漂泊の歌人・西行500回忌に、歌枕の追体験に旅立つ。明治には短歌革新の正岡子規も同じ行路をたどり多くの名句を詠む▼謎多き人である。門下には武士も多い。旅に同行した弟子の河合曾良(そら)は幕府の巡見、情報収集役。大勢力を持つ伊達・仙台藩の動向を探る役割も担う。公称60万石だが実際は200万石近く。藩領内に入ると緊張が走る。〈夏草や兵 (つわもの) どもが〉など名句を残すが、身の危険を感じていたのか実際の滞在はわずか。『影の日本史にせまる』(嵐山光三郎、磯田道史著)に学ぶ▼600里の長旅から〈不易流行〉の境地に。絶え間ない変化は、“未知の細道”みちのくの情感がもたらしたのか。
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2019年12月11日
問題 次の文はある国会議員の雑誌への寄稿である
問題 次の文はある国会議員の雑誌への寄稿である。Aは誰か。「政府答弁のうちでも、総じてA首相の答弁が不親切で、しかも抽象的である。歴代首相でこれくらい答弁に誠意を欠き~」▼答えは吉田茂。議員は河野一郎である。寄稿では、衆院予算委員会での質問にまともに答えようとしなかった吉田を批判。経緯はこう。1953年7月、河野は、米国への日本の貸金約200億円がいつまでも返済されないことを「(政府の)怠慢」と非難した。お金は、米国が朝鮮に送った物資の代金。日本が立て替えた。吉田は交渉中だと反論し、詳しい説明を避けた。『忘れられない国会論戦』(中公新書)で知った▼「無い無い尽くし」のまま臨時国会が9日、閉幕した。日米貿易協定は、野党が求めた資料は出ず熟議もなしで承認。「桜問題」は名簿がなく、政権に疑惑を晴らす気もなく持ち越した。安倍首相は一問一答の委員会から雲隠れした▼河野は寄稿にこうも記した。「最高審議機関である国会が、茶番的な論議や政府のごまかし答弁ですむようなことは(中略)国政が腐敗するもと」▼河野は当時、鳩山一郎と共に吉田と凄(すさ)まじい権力闘争中だった。とはいえ、農相や副総理を歴任した自民党の大先輩。その言葉を首相はどう受け止めるか。
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2019年12月10日
「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」
「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」。78年前のきょう、太平洋戦争が始まったことを国民はラジオで知った▼歌人の斎藤茂吉はこう詠んだ。「たたかいは始まりたりというこえを聞けばすなわち勝のとどろき」。国民の多くが高揚していたという▼1931年9月18日、満州事変の勃発が世論の転機となる。近現代史作家の半藤一利氏は、戦争回避へ歴史を逆転させるチャンスが「(翌)十九日夜を起点とする二十四時間にあった」、鍵は「世論がどう動くかであった」(『戦う石橋湛山』)と書く。陸軍は警戒したが、新聞が号外戦を繰り広げ「マスコミは争って世論の先取りに狂奔」▼議会も翼賛化した。38年の国家総動員法の成立には抵抗を示したが、2年後には「反軍演説」を行った斎藤隆夫を除名。「議会は議論、討論する場であり、それを失っては国家はその骨格を失ってしまう」。ノンフィクション作家の保阪正康氏が『昭和史の教訓』に記す▼安倍政権は集団的自衛権の行使を認め、それを可能とする安保法制を強行、戦争に巻き込まれるリスクが高まった。いま海上自衛隊を中東に派遣しようとしている。報道と国会。権力監視の力が弱まれば歴史は繰り返す。次も悲劇として。肝に銘じたい。
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2019年12月08日
「月とスッポン」は非常に違いがあることの例えだが、月がスッポンの成長促進剤だとしたらどうだろう
「月とスッポン」は非常に違いがあることの例えだが、月がスッポンの成長促進剤だとしたらどうだろう▼月のリズムで餌を与えると早く育つことを、自動車部品大手トヨタ紡織新領域開拓部の田畑和文グループ長に教わった。卵からかえって3カ月後のスッポンに、24時間ごとと24・8時間ごとに餌を与え3カ月間育てた。すると前者では体重が3倍に、後者では4・1倍に▼24・8時間は月が次の日に同じ方角に見えるまでの時間。地球の周りを月は地球の自転と同じ方向に回っている。なので1日よりも長く時間がかかる。月が潮の満ち引きを起こす力「起潮力」が影響しているのではないかという▼月のリズムとは起潮力の変化の周期。植物工場でのレタスの実験でも月のリズムに合わせて光を調節すると収量が増えた。起潮力の影響は車のドアの材料となる植物の生育を早める研究で発見した。名古屋大学と共同研究も行う。持続的な食料増産など「社会貢献」(田畑さん)を目的にしている▼内閣府は、農作業の完全自動化など挑戦的な技術を「ムーンショット(月を撃つ)」と名付け研究開発を後押しする。温室効果ガスの排出削減策を話し合うCOP25がスペインで開催中だ。“月を生かす”といった、地球にやさしい技術を目指す研究にも期待したい。
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2019年12月07日
街を歩けば、掲示板の何と多いことか
街を歩けば、掲示板の何と多いことか。標識、標語、宣伝。つい見てしまうのが、お寺の掲示板である▼近くの寺は、ほぼ毎月、更新する。「自分が変われば相手も変わっていく」「実践こそ現状を変える」。説教臭くもあるが、妙にしみる時もある。気になる存在だと思っていたら、なんと「輝け!お寺の掲示板大賞」なるものがあった▼仕掛け人は、仏教伝道協会の江田智昭さん。聞けば、昨年7月、お寺の掲示板の写真の投稿を呼び掛けたのが始まり。4カ月で約700作品が集まった。2018年の大賞は「おまえも死ぬぞ」。お釈迦(しゃか)様こと釈尊の教えだとされる。生と死の本質に迫り、インパクトは絶大。これで認知度が高まった▼掲示板の言葉は、仏の教えから人生訓、著名人の名言までさまざま。寺の個性がにじみ出る。「掲示板はお寺と一般の人の境目にあり、双方をつなぐ存在」と江田さん。今年は925作品が寄せられた。5日に発表された大賞は「衆生は不安よな。阿弥陀動きます」。松本人志さんの「後輩芸人たちは不安よな。松本動きます」をもじったもの。全ての生き物の身を案じた阿弥陀仏の教えを伝えた▼衝撃を受けたのは、大分の寺に掲げてあった一言。「ばれているぜ」。深くて怖い。官邸前に張り出したい。
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2019年12月06日
テレビドラマ「水戸黄門」で、悪代官役を演じた俳優の訃報に触れ、名場面がよみがえってきた
テレビドラマ「水戸黄門」で、悪代官役を演じた俳優の訃報に触れ、名場面がよみがえってきた▼白ひげをたくわえ、好々爺(や)然とした黄門さまが、助さん、格さんを従え、諸国を巡りながら悪事を懲らしめていく。決めぜりふは「この紋所が目に入らぬか」。言わずと知れた徳川家の家紋が入った印籠である。悪人たち、一斉にひれ伏し一件落着と相成る。さしずめ今なら「安倍官邸」の紋所が、絶大な威光を発揮する印籠か▼黄門さまこと水戸藩第2代藩主・徳川光圀には、逸話や俗説が多い。「恐れ多くも先の副将軍」というのはドラマ上の設定。諸国漫遊というが実は関東近県しか歩いていないとも。これは『大日本史』の編さんで家臣を各地に派遣したことから尾ひれがついたようだ▼光圀は子孫のために9カ条の訓戒を残した。1条は「苦は楽の種、楽は苦の種としるべし」。ドラマ主題歌の冒頭〈人生楽ありゃ苦もあるさ〉はここから来たのだろう。「主人と親は無理を言うものと思え」。これも納得。主人をトランプさんに置き換えればよく分かる。「おきてを恐れよ」は、決まり事や法令を守れとの戒めである▼あすは黄門忌。現代によみがえれば忙しかろう。ぜひとも「令和の不平等条約」に喝を入れてもらいたい。「国益を一体何と心得る」
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2019年12月05日
マルチ作家の永六輔さんは、言葉集めの才人だった
マルチ作家の永六輔さんは、言葉集めの才人だった。普通の人々のなにげない言葉に耳を澄ました。一番書きたかったのが「職人」の世界だった▼同名の著書には、気っ風のいい職人たちの言葉が並ぶ。「職業に貴賤(きせん)はないと思うけど、生き方には貴賤がありますねェ」。その生き方を端的に表すのがお金。「いいかい、仕事は金脈じゃない、人脈だぞ。人脈の中から金脈を探せよ。金脈の中から人脈を探すなよ」▼永さんには、お金にまつわる原体験がある。中学生の時、NHKの番組に投書して、初めて謝礼をもらった。それを聞いた近所の職人、ほめた後に言った。「(大人になったら)なぜくれたのかわかる金だけをもらえよ。なぜくれるんだかわからない金は、絶対もらうんじゃないぞ」。そして永さんは思う。「この言葉を政治家と役人に伝えたい」と▼永さんが逝って3年。訳のわからない金が飛び交っている。不透明な原発マネー、企業談合の裏金、「政治とカネ」の不祥事も後を絶たない。極めつけは、首相による公金を使った支持者接待の「桜疑惑」。供応を受ける側に反社会的勢力やマルチ商法の張本人がいたらしい▼公と私のけじめなく、金脈と人脈が入り乱れる花見の宴(うたげ)である。〈花開けば風雨多し〉。政権に冬の花嵐が吹き荒れる。
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2019年12月04日
ヒット中の映画を見に行った
ヒット中の映画を見に行った。ほぼ満席。期待にたがわず導入から息をのむ。圧倒的な映像世界に引き込まれる▼とその時、突然、画面が消え、場内が明るくなった。一瞬、往時の映写機を思い出した。デジタル全盛時代の珍事に客席がざわつく。おもむろに係員が現れ、説明し始めた。「先ほど販売したポップコーンに異物混入の疑いがあります。決して食べないでください、後ほど払い戻しに応じます」▼係員は不手際をわび、程なく映画は再開された。上映後は、観客全員に無料の映画券が配られ、スタッフ総出で頭を下げた。その機敏な対応と誠実な姿勢は、映画の余韻と相まってすがすがしかった。幸い体調不良の人もなく、クレームもなかった▼福沢諭吉が、「事小なるにもって決して小ならず」という言葉を残している。福沢家は、病院から牛乳を取り寄せていた。ある朝、牛乳瓶が汚れているのに気付き、病院に衛生管理を正す。たとえ小さな汚れであっても信頼を大きく損ねる。健康を預かる病院であってはならぬことだと叱る▼往々にして小さなミスが命取りになる。事実を説明し、迅速に対応すれば致命傷には至らない。こちら花見酒に酔って「小事」と高をくくっていたか。ほころびが広がり、最長政権の「大事」になりつつある。
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2019年12月03日
暑さを逃れる生き物が大移動する
暑さを逃れる生き物が大移動する。そんなSF小説のような現象につながる前兆かもしれない▼地球温暖化に伴う異変である。ヒートアップした地球上で異常気象が相次ぐ。南半球のオーストラリアでは、空気が乾燥した南東部を大規模な森林火災が襲った。北半球でも、経験したことのない大雨や高温に悩まされている。日本が頼る農産物が気に掛かる▼“ゆでガエル”の例えでもないが、金もうけに忙しい指導者の危機感は高まらない。国連の報告書では、昨年の温室効果ガス排出量はCO2換算で、過去最高だった。このペースで出し続けたら「破壊的な影響」が出ると警告する。にもかかわらず、米国は温室効果ガスを減らす「パリ協定」から離脱すると通告した。トランプ大統領の気が知れぬ▼楽観できないのは日本も同じ。今世紀末には、温暖化のスピードに生物の移動が間に合わず、絶滅の可能性が高まる。長野県環境保全研究所や国の農研機構等の試算で分かった。気候変動は全国平均で年249メートルの速さで進むが、年間移動がせいぜい40メートルの植物は適応できないという。野菜や果樹の産地地図ががらりと塗り替わることも考えなければならないのだろう▼既に米に高温障害が目立ち始めている。「飽食ニッポン」。うかうかできない。
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2019年12月02日