深刻な「物流危機」 コスト 適正に反映を

首藤若菜 立教大学教授

 トラック業界では深刻な人手不足による「物流危機」が叫ばれてきた。

 その「危機」を回避するため、ここ数年、物流コストが上昇している。「2019年度物流コスト調査報告書」によれば、18年度に物流費の値上げ要請を受けた企業は93・1%あり、そのうち91・5%が値上げに応じた。売上高に占める物流コスト比率は、15年度まではほぼ横ばいだったが、16年度に上昇し、19年度も高い水準が続く。

 だが、物流コスト上昇による物価上昇は起きていないようだ。物流だけでなく、最低賃金も年3%程度上昇し続けているし、消費税も上がった。にもかかわらず、消費者物価指数の上昇率は0・5%程度である。
 

値上がり今後も


 物流コストの値上がりはまだ十分でなく、今後もさらに上がっていくともいわれる。例えば、ドライバーが不足している理由に、長時間労働がある。運転従事者には、一般労働者とは異なるワークルールが適用されてきたが、そのルールの見直しが進む。24年以降、ドライバーの時間外労働の上限は年960時間に短縮される。法改正により長時間労働が許容されなくなれば、「長い労働時間が求められる仕事からは手を引かざるを得ない」との声も聞かれる。長距離輸送の現場では中継輸送などの対応が迫られ、一層のコストアップが求められる可能性がある。

 また、物流を巡る商慣行の見直しも議論されている。例えば、農産品の現場では、パレットの利用が遅れている。荷物の手積み・手下ろしは、時間が長くかかるだけでなく、労働負荷が極めて高い。手荷役は、肉体疲労を増幅させ、安全運転のリスクを高める。人手不足の解決策である高齢労働者や女性労働者の参入も阻む。パレット利用に向けた検討は繰り返されてきたが、費用分担や段ボール箱の標準化など、今後は、踏み込んだ論議が一層進むことが期待されている。
 

運賃が原価規定


 さて、そのようにして上昇したコストは、誰が負担するのか。

 トラック業界が「物流危機」に陥った背景には、原価を適正に運賃に反映できなかった市場環境がある。この業界では、原価を積み上げて運賃が計算されてきたというよりは、運賃が原価を規定してきた。例えば、運賃が低下すれば、賃金を引き下げ、原価を圧縮させてきた。そうした無理が、低賃金で長時間労働を強いる労働環境をつくり出し、その結果、深刻な人手不足と「物流危機」が起きた。

 むろんコストを価格に反映させることは、簡単でない。例えば、コスト上昇分を価格に転嫁すれば、より安価な外国産の農産品に負けてしまう懸念もある。しかし、コストを適正に反映させていかなければ、どこかにしわ寄せがいく。そうなると、次第にその産業の維持さえ困難になる場合がある。私たちは「物流危機」からそのことを学ばなければならない。
 
 しゅとう・わかな 1973年東京都生まれ。労使関係論、女性労働論専攻。日本女子大学大学院人間生活学研究科単位取得退学。博士(学術)。近著『物流危機は終わらない』(岩波新書、2018年)、『グローバル化のなかの労使関係』(ミネルヴァ書房、17年)など。

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