[ゆらぐ基 問われる実効性](4) 偏重からの脱却 未来つくる“多様性”

「元就」として出荷予定の県血統「芳乃照」を父に持つ肥育牛。奥村さんは県血統ブランドに期待を寄せる(広島県三原市で)

 和牛の新しい価値の創出に向け、さしだけに頼らない生産が広島県で始まっている。全国の市場流通する子牛血統の実に6割が、15頭の種雄牛に集中する中、同県は40年前に活躍したさし偏重以前の血統を取り入れ、ブランド化や遺伝的多様性に対応している。同県三原市の久井牧場は、飼養する繁殖牛135頭の1割、肥育牛350頭の3割が、県が独自育成した血統だ。同牧場3代目の奥村恭兵さん(34)は「広島ならではの歴史を生かした血統を残したい」と語る。
 

輸入牛台頭伝統に活路


 日本食肉格付協会によると、農家の技術向上や改良で肉質等級が最高のA5の流通割合は46%(和牛去勢・2019年)と10年間で27ポイント上がった。1991年の輸入自由化に打ち勝つため、国内産地がさし中心の品質向上に力を注いだ結果だ。

 だが、違う流れも出てきた。18年度の牛肉需要量(概算)は91年度比20万トン増の133万トンで、国内生産量は同10万トン減の48万トン。輸入牛肉は安さの他に赤身の栄養成分の高さをPRしながら消費拡大を目指しており、国産の商機を奪っている。消費動向でも、高齢化などでさしが控えめの肉のニーズが増えてきた。消費変化やニーズに対応した産地づくりの重要性が高まっている。

 黒毛和種は近親交配の度合いを示す近交係数が上昇を続ける。一般的に近交係数が高過ぎると能力低下や病気発生が懸念される。京都産業大学の野村哲郎教授は「多様な遺伝子の存在は改良に不可欠」と指摘。赤身を好む消費者が増える中「霜降り以外の肉を作ろうとしても多様性がなければ方向転換できない」と、遺伝的多様性の面からさし偏重の改良に警鐘を鳴らす。

 広島県の取り組みは、商機や遺伝的多様性に対応する事例として注目度が高い。JA全農ひろしまは、県血統を持つ和牛を「元就」と名付けてブランド化。独自の血統や歴史が人気で、枝肉価格は他の県産和牛より1キロ50~60円高い。
 

異種交配で長命連産へ


 海外から精液を導入する乳牛でも「ホルスタイン」種純系に一石を投じる動きがある。近交係数の上昇に対応するためだ。日本ホルスタイン登録協会によると、近交係数1%の上昇で乳量は1乳期当たり27・4キロ減る。北海道では根室地方を中心に乳牛1頭を大切に長く飼い、コストを下げる長命連産を目指し、他品種との異種交配(クロスブリーディング)による雑種強勢を始めた。

 15年に根室地方の5JAとホクレン、根室生産連で検討チームを設立。19年11月、「ホルスタイン」にフランス原産「モンベリアード」の交配を始めた。今年8月に生まれる牛に、さらにカナダの「カナディアンエアシャー」の精液を使う三元交配を計画する。JAけねべつは、農家9戸が89頭にモンベリアード種を交配。JAは「10年先、20年先を見据え、今取り組む必要がある」と強調する。

 次期食料・農業・農村基本計画案では、消費者が国産農畜産物を手に取る機会を増やし生産拡大の好循環が生まれるよう、国民理解の醸成を打ち出す。表題は「我が国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために」。実現に向け現場の挑戦が続く。
 

おすすめ記事

ゆらぐ基の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは