新過疎法・要件変更案 自治体に波紋 人口の実態考慮して “対象外”なら事業頓挫
2020年11月24日

農作業をするニセコ高の生徒。同校は地域に徹底的に根差した教育が特徴だが、ハウスをはじめ施設は老朽化している(北海道ニセコ町で)
今年度で期限切れとなる過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)に代わる新法案で、財政支援を受けられる「過疎地域」の指定から外れる恐れがある自治体に、動揺が広がっている。自民党の議論では、指定要件となる人口減少率の基準年を変更する案が有力となっているためだ。「田園回帰に逆行する」「財源不足で事業が継続できない恐れもある」などとして、継続や経過措置を求める意見が続出。一方で「人口減少の実態に合った基準にするべきだ」との声もある。(尾原浩子)
過疎法について議論する自民党過疎対策特別委員会では、人口減少の起点について現行法の1960年ではなく、75年または80年とする案が浮上している。同法の対象は他に複数の要件があり、基準年の変更も決定ではないものの、適用されれば過疎地域から“卒業”する自治体が出てくる見通しだ。
北海道ニセコ町。全国でも珍しい町立の農業高校、北海道ニセコ高校があり、農家実習、地域の特産品開発、地元企業と連携したPRなど、地元に根差した運営が特徴だ。
同町はスキー場などがある道内屈指のリゾート地として有名だが、多様な農作物が栽培される農業地帯でもある。地域おこし協力隊員や移住者の受け入れも熱心に進め、住民の話し合いを大切にする地域づくりを進めてきた。同校はそんな町の核となる存在だ。
同町の人口は、現行法の算定要件となる国勢調査(2015年)時点で4958人。1960年に比べ4割減だが、75年とはほぼ同じ。80年に比べると400人増えるため、新法の対象から外れる可能性がある。
人口増の内実は、町に憧れて移住する定年退職した世代(65歳以上)が中心だ。高齢化率は27・2%(15年)と、全国平均(26・6%)よりも高い状態が続いている。
町は昨年、過疎債を活用し、住民の避難所にもなっている同校の体育館を改修した。学校側からは朽ちてしまったガラス温室の棚の改修も求められている。学校の維持には多額の予算がかかり、近年は過疎債を教育環境の充実などに使ってきた。
町は「持続可能な地域づくりに向け、移住者を呼び込む住宅設備も進める予定だったが、過疎法の対象から外れれば計画が頓挫する可能性まで出てきた」(総務課)と主張。人口密度や、財政力指数なども低いとして「地域の実情を鑑みてほしい」と、新法でも対象になるよう求める。
同町以外にも、対象から外れる可能性がある自治体は多い。沖縄県の試算によると、新たな案が適用されれば、現在の指定対象18市町村のうち半数が対象から外れてしまう。県地域離島課は「離島など小さな自治体にとって影響は大きい」として、幅広い地域が対象になるように求めている。
ただ、西日本の一部自治体からは「人口が極端に減っていない自治体も支援されることは、国民の幅広い理解を得られない」などと、案を支持する声も上がっている。
自民党過疎対策特別委員会は今後議論を深め、年末までに「施策大綱」を示したい考えだ。
委員の一人は「“卒業”する自治体が出るのはやむを得ない。経過措置など、財政力が弱い自治体をどう支援するかは、今後の課題だ」と説明している。
1970年に議員立法として制定された。その後、政府は4次にわたり制定。元利償還の70%を交付税措置とする過疎対策事業債を中心に、国庫補助金の補助率かさ上げ、税制特例措置などで過疎地域を支援する。現在は、全市町村の48%の817市町村が対象だ。道路や水道、学校などや農業、医療、教育などでも活用できる。
北海道ニセコ町
過疎法について議論する自民党過疎対策特別委員会では、人口減少の起点について現行法の1960年ではなく、75年または80年とする案が浮上している。同法の対象は他に複数の要件があり、基準年の変更も決定ではないものの、適用されれば過疎地域から“卒業”する自治体が出てくる見通しだ。
北海道ニセコ町。全国でも珍しい町立の農業高校、北海道ニセコ高校があり、農家実習、地域の特産品開発、地元企業と連携したPRなど、地元に根差した運営が特徴だ。
同町はスキー場などがある道内屈指のリゾート地として有名だが、多様な農作物が栽培される農業地帯でもある。地域おこし協力隊員や移住者の受け入れも熱心に進め、住民の話し合いを大切にする地域づくりを進めてきた。同校はそんな町の核となる存在だ。
同町の人口は、現行法の算定要件となる国勢調査(2015年)時点で4958人。1960年に比べ4割減だが、75年とはほぼ同じ。80年に比べると400人増えるため、新法の対象から外れる可能性がある。
人口増の内実は、町に憧れて移住する定年退職した世代(65歳以上)が中心だ。高齢化率は27・2%(15年)と、全国平均(26・6%)よりも高い状態が続いている。
町は昨年、過疎債を活用し、住民の避難所にもなっている同校の体育館を改修した。学校側からは朽ちてしまったガラス温室の棚の改修も求められている。学校の維持には多額の予算がかかり、近年は過疎債を教育環境の充実などに使ってきた。
町は「持続可能な地域づくりに向け、移住者を呼び込む住宅設備も進める予定だったが、過疎法の対象から外れれば計画が頓挫する可能性まで出てきた」(総務課)と主張。人口密度や、財政力指数なども低いとして「地域の実情を鑑みてほしい」と、新法でも対象になるよう求める。
「変更やむなし」の声も
同町以外にも、対象から外れる可能性がある自治体は多い。沖縄県の試算によると、新たな案が適用されれば、現在の指定対象18市町村のうち半数が対象から外れてしまう。県地域離島課は「離島など小さな自治体にとって影響は大きい」として、幅広い地域が対象になるように求めている。
ただ、西日本の一部自治体からは「人口が極端に減っていない自治体も支援されることは、国民の幅広い理解を得られない」などと、案を支持する声も上がっている。
自民党過疎対策特別委員会は今後議論を深め、年末までに「施策大綱」を示したい考えだ。
委員の一人は「“卒業”する自治体が出るのはやむを得ない。経過措置など、財政力が弱い自治体をどう支援するかは、今後の課題だ」と説明している。
<ことば> 過疎法
1970年に議員立法として制定された。その後、政府は4次にわたり制定。元利償還の70%を交付税措置とする過疎対策事業債を中心に、国庫補助金の補助率かさ上げ、税制特例措置などで過疎地域を支援する。現在は、全市町村の48%の817市町村が対象だ。道路や水道、学校などや農業、医療、教育などでも活用できる。
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助かった命「奇跡」 兵庫県西宮市・卸売市場
地震発生から3日後の1995年1月20日付の1面。激しく倒壊した木造建築物を捉えた写真が、地震の規模の大きさを物語る。撮影されたのは兵庫県西宮市の西宮地方卸売市場だ。
「スーパーのバイヤーと取引していたら、不意に強い衝撃が走り、天井が落っこちてきた」。当時、同市場で青果卸・中善を営んでいた前田裕司さん(65)は振り返る。
震災当日は午前4時ごろから市場で働いていた。地震発生時は、地面から突き上げられるような縦揺れの衝撃が大きく「店にトラックでも突っ込んだのかと思った。はじめは何が起こったのか分からなかった」。
木造瓦屋根で2階建てだった建物は倒壊。ただ、山積みだった荷物の上に屋根がかぶさる形で、地面との間にわずかな空間が生まれた。「命が助かったのは本当に偶然だった」。奇跡的に犠牲者は出なかったという。
当初は再建を目指したものの、膨大な建設費などを前に話はまとまらず、2001年に閉場となった。
跡地にはスーパーなどが立ち並び、当時の面影はほとんど残っていない。前田さんは「当時の様子を知る人はもうほとんどいないと思う」と指摘する。
神戸市・農林中金事務所
「農林中央金庫神戸事務所も無残な姿に」。発生1週間となる1995年1月24日付の近畿・北陸面。3階部分が押しつぶされ、大きな被害を受けたビルの写真が説明文と共に掲載された。
神戸市内にある神栄(株)の本社ビルで、当時は1、2階に農林中金の事務所が入っていた。入社7年目だった同社執行役員の中西徹さん(56)は「当時、3階が職場だったが、出勤前だった。地震が3時間後だったら、おそらくつぶされていた」と話す。ビルは掲載4日後の28日から解体が始まり、1998年には跡地に新たにビルが建てられた。
農林中金の事務所は、95年2月からは仮設店舗で、同年7月からは仮店舗に移転して営業を再開。建て替え後のビルにも戻ったが、2002年に大阪支店に統合された。農林中金は「大阪支店でも当時を知る人は少なくなり、現在では3人しかいない」と話す。
近年、大規模な災害が頻発し、過去の災害の「記憶」と「教訓」から学ぶことは多い。今後起こる災害で被害を少しでも抑えるために、薄れつつある震災をどう次代に継承するかが問われている。
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委員の平井太郎・弘前大学大学院准教授は、「半農半X」を踏まえた事業展開を推進する上で、農業などに詳しい「中小企業診断士や税理士を地域で育てることが重要だ」と指摘。小田切教授も「地方の税務・会計支援は重要な論点」と述べた。
いわて地域づくり支援センターの若菜千穂常務は、「重要なのは、やりたいことが仕事になる、希望が持てる社会づくりだ」と指摘。実現に向けた学びの場や仲間づくりなど、政策による「多様な機会」の創出が必要とした。
同日は、島根県海士町の大江和彦町長が取り組みを報告した。同町では「半官半X」を推進する条例を制定。役場の仕事をしながら、農漁業など地域振興につながる民間の活動に参加できるようにした。
本格的に「半官半X」による地域振興を進めるため、採用試験に「半官半X」枠を新設。職員を配置する新たな部署も立ち上げる予定という。大江町長は「地方、田舎こそ公務員に複業の必要性を感じている」と強調した。
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鳥インフル 飼養管理不備1割 改善へ指導継続 農水省
農水省が全国の養鶏場などを対象に行った飼養衛生管理基準の自主点検で、報告があった約1万4000件の農場などのうち、1割ほどに不備があることが19日、分かった。都道府県ごとの結果は22日に公表する予定。同省は高病原性鳥インフルエンザが過去最大に広がる中、全農場で管理基準が順守されるよう、指導を続ける。
19日に開かれた鳥インフルエンザ関係閣僚会議で報告された。飼養衛生管理基準のうち、今シーズンの発生農場で不十分なケースが多かった7項目について、前回点検で約1割ほどの農場に不備があったため追加調査をした。
今回は1月18日までの約1カ月間で聞き取り、報告数は前回報告数の2倍近くとなる1万3543。小規模農場にも働き掛けた上、愛玩動物として鳥を飼う個人や、動物園、研究施設などにも報告を求めた。
今回の点検では、「衛生管理区域専用の衣服、靴の設置と使用」「家禽(かきん)舎ごとの専用の靴の設置と使用」がともに順守率89%で低かった。一方、「野生動物の侵入防止ネットなどの設置、点検、修繕」など同95%で高かった。
前回点検から順守率が下がった項目は「ネズミ、害虫の駆除」で、前回点検より3ポイント減の93%だった。
同省によると、前回の点検で不備があった農場の多くは改善しているという。今回不備があった農場についても防鳥ネットや消毒機器の整備などへの支援の活用を促し、順守率100%を目指す。同省動物衛生課は「全ての項目を順守する必要がある。引き続き、指導や助言などを続けていく」と強調した。
野上浩太郎農相も19日の閣議後会見で、「今シーズンは発生数、殺処分数とも過去最大となっている状況。関係府省と連携し緊張感を持って対応していきたい」と述べた。
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全国展開前提でない 企業農地取得 特例調査で農相
野上浩太郎農相は19日の閣議後記者会見で、国家戦略特区の兵庫県養父市で認めている企業による農地取得の特例を巡り、2021年度中に全国で実施する特例のニーズや問題点に関する調査は「全国展開を前提にするものではない」との認識を示した。養父市での期限延長については「今後も複数の企業が活用する可能性がある」として、容認する考えを示した。……
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首相、輸出拡大に意欲 初の施政方針 産地支援を強調 通常国会召集
第204通常国会が18日、召集された。就任後初の施政方針演説に臨んだ菅義偉首相は、農業政策の柱に農林水産物・食品の輸出を改めて提起し、「27の重点品目を選定し、国別に目標金額を定めて、産地を支援する」と強調。2030年に輸出額を5兆円とする政府目標に向けた実行戦略の着実な推進に意欲を示した。
昨年9月に就任した菅首相にとって、初の通常国会。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、農業を含めコロナで影響を受けた経済への対策が論戦の最大の焦点となる。
首相は演説で、地方活性化に向けた政策の柱に農林水産業の成長産業化を提起した。「地域をリードする成長産業とすべく、改革を進める」と強調。輸出拡大策の他、主食用米から高収益作物への転換などを挙げた。農業分野の規制改革については言及しなかった。
農産物輸出については20年の輸出額が「新型コロナの影響にもかかわらず、過去最高となった19年に迫る水準」と述べ、今後の拡大に向けた自信を示した。実行戦略の推進に加え、「農業に対する資金供給の仕組みも変えていく」とも語った。政府は通常国会で輸出への投資が進むよう、「農業法人投資円滑化特別措置法」を改正し、同法の対象を現行の農業法人以外にも広げる方針だ。
外交を巡っては、通常国会に承認案を提出する地域的な包括的経済連携(RCEP)や、今年1月に発効した日英経済連携協定(EPA)を成果として強調。21年は日本が環太平洋連携協定(TPP)議長国であることを踏まえ「着実な実施と拡大に向けた議論を主導していく」と述べた。20日に就任する米国のバイデン次期大統領については「早い時期に会い、日米の結束をさらに強固にする」と語った。
通常国会の会期は6月16日までの150日間。施政方針演説など政府4演説に対する代表質問は、20日の衆院本会議から始まる。
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日本酒・焼酎 無形文化遺産めざす 輸出や消費拡大期待 施政方針で首相 登録は24年以降
菅義偉首相が18日の施政方針演説で、日本酒や焼酎について国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を目指すと表明した。新型コロナウイルス禍で酒類や原料の酒造好適米などの需要が落ち込む中、登録されれば輸出や国内消費の拡大が期待される。政府は申請に向けた準備を既に進めているが、登録は早くても2024年以降となる見通しだ。
無形文化遺産は、地域の歴史や風習などと深く結び付いた芸能や工芸技術などの形のない文化を保護し、重要性への意識を高めることを目的とする。……
日本では歌舞伎や能楽などが登録されている他、13年には「和食」が日本人の伝統的な食文化として登録され、日本食や日本産食材の人気にもつながったとされる。
政府は日本酒や焼酎について、こうじを使った伝統的な醸造技術として申請する方向で検討。技術の保護措置なども検討し、22年2月にも申請したい考えだ。ただ、ユネスコは同遺産の登録が無い国の審査を優先している。登録件数が多い日本の申請は、実質2年に1回の頻度で審査しており、登録は早くても24年になる。
政府は、日本酒や焼酎を輸出の有望品目とみており、昨年策定した農林水産物・食品の輸出拡大に向けた実行戦略で、どちらも「重点品目」に設定している。同戦略でも、無形文化遺産への登録に向けた検討を加速すると明記していた。輸出量が増えれば、原料の酒造好適米などの需要拡大にもつながる。
19年の輸出額は、日本酒が234億円、焼酎が16億円。同戦略では25年の目標額をそれぞれ600億円と40億円に設定した。政府は同遺産の登録を通じて「現場のモチベーションを高めると同時に、日本酒と焼酎の海外での認知度が向上し、国内の需要創出や輸出拡大につながってほしい」(国税庁)と期待する。
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2021年01月19日

農業の特定技能「派遣」 広がる 短期雇用も柔軟 手続き負担減
外国人の新在留資格「特定技能」の農業分野で認められた「派遣」が広がっている。農家は直接雇用に比べ事務手続きなどの負担が少なく、雇用期間を柔軟に調整できる。農繁期が異なる北海道と沖縄など地域間で連携した受け入れも進む。派遣に参入する事業者も増え、専門家は「これまで外国人を入れてこなかった家族経営でも受け入れが広がる」と指摘する。(望月悠希)
外国人材 大きな力
畑作が盛んな北海道浦幌町の選果施設。次々とコンベヤーで流れてくるジャガイモを段ボール箱に手際よく詰めるのは、カンボジア人のレム・チャントーンさん(26)だ。「将来は帰国してビジネスを立ち上げたい。分からないことも周りに聞くと、よく説明してくれる」と笑顔で話す。
チャントーンさんらは特定技能の資格を得た外国人。道内各地で農業生産・販売の他、作業受託をする「北海道グリーンパートナー」が、人材派遣会社の「YUIME(ゆいめ)」から受け入れた。
8~10月の農繁期には150人もの人手が必要な北海道グリーンパートナーは、YUIMEからの提案で、技能実習生だった特定技能の派遣を2019年に11人、20年に23人受け入れた。
YUIMEの派遣は、夏は北海道、冬は本州や沖縄で働くのが基本だ。ジャガイモの選果など冬場でも仕事がある場合は、道内で通年で働くこともある。
直接雇用では通年で仕事を用意しないと外国人の受け入れは難しいが、派遣なら必要な時期を決めて契約を結べる。北海道グリーンパートナー代表の高田清俊さん(59)は「外国人にとっても、さまざまな農家で働くことで、より豊かな経験を積むことができる」と評価する。
受け入れ側は面接や入国手続きなど事務負担が少ないのもメリットだ。北海道グリーンパートナーに組合員の農作業を委託するJAうらほろの林常行組合長は「人手不足を解消し、付加価値の高い販売に力を入れたい」と期待する。
各地で参入の動き
一定の技能を持ち、即戦力としての労働が認められている特定技能の仕組みは、19年に始まった。農業分野では、農業者が雇用契約を結び直接雇用する方法と、雇用契約を結んだ派遣業者が受け入れ機関となり農家に派遣する方法の、2種類がある。派遣では、繁忙期の違う地域に季節ごとに人材を送り出せる。
農業分野の特定技能は、制度発足から1年半の20年9月末時点で1306人。農業分野の受け入れ事業者が加入する「農業特定技能協議会」のうち、10社ほどが派遣事業者だ。
YUIMEは、農業分野の技能実習生だった外国人を採用。給料や待遇は日本人と同等の扱いで、現場のリーダーになる人材を育てている。住まいは、受け入れ農家に住宅の敷地内にある持ち家などを用意してもらい、YUIMEが借り入れる。
北海道以外でも派遣は進む。アルプス技研は、2019年4月から特定技能の派遣事業に参入。現在は子会社の「アグリ&ケア」が9道県に49人を派遣する。
JA北海道中央会も、特定技能のあっせん・派遣をする新組織の立ち上げを目指す。北海道稚内市の酪農家・石垣一郎さん(39)が経営する「アグリリクルート」は、21年から派遣事業に乗り出す。
家族経営も 活用しやすい 北海学園大学の宮入隆教授の話
入国手続きや労務管理の一部を派遣事業者に任せられるため、家族経営が外国人を受け入れるハードルが下がった。季節雇用、通年雇用問わず、広がっていくことは間違いない。一方で事業者は、各地に移動する特定技能の外国人の心理的な負担を考慮すべきだ。
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