豚コレラ イノシシ感染 急拡大 岐阜700頭超… 福井、三重も
2019年07月12日

愛知36頭「ペース速い」警戒
豚コレラウイルスに感染した野生イノシシが岐阜や愛知だけでなく、福井や三重にも広がった。感染イノシシの発見頭数は11日午後7時の段階で、岐阜713頭(27市町村)、愛知36頭(4市)、三重4頭(1市)、福井5頭(4市町)の計758頭。岐阜県内ではほぼ毎日見つかっており、ここ1カ月で急速に感染イノシシの分布が広がった。東海地域の各養豚協会会長は「危機のステージが大きく高まった」とし、切迫感が広がる。
全42市町村のうち半数を超す27市町村で713頭の感染イノシシが見つかった岐阜県。県中央部の岐阜市と関市では発見頭数がともに70頭を超えた。県北側の飛騨地域ではしばらく発生が確認されていなかったが、5月23日に下呂市、6月11日に高山市でそれぞれ初めて見つかった。分布図は県内全域に広がり、長野や福井の県境でも相次いで発覚している。三重県境にある岐阜県養老町でも5月下旬に初の感染を確認した。
愛知県でも感染イノシシの数拡大に歯止めがかからない。昨年12月に岐阜に隣接する犬山市で初めて確認されて以降、全54市町村のうち春日井市、瀬戸市、豊田市の4市でこれまでに36頭が見つかった。県は「感染イノシシの発見ペースが非常に速い」と危機感を募らせている。
福井県では今月7日に大野市で2頭が初めて確認され、越前市と池田町でもそれぞれ1頭ずつ確認。11日には勝山市で新たに1頭が見つかった。三重県では6月26日にいなべ市での初確認以降、これまでに同市で4頭見つかった。同県でも経口ワクチンの埋設を16日から本格的に始める方針だ。
生産現場からは「イノシシが少ない地域でも養豚場で豚コレラが発生している」との声が一部出ている。これに対し、農研機構・西日本農業研究センター畜産・鳥獣害研究領域鳥獣害対策技術グループの江口祐輔グループ長は「人間が気づいていないだけでイノシシはいる」とみる。
岐阜や愛知以外でも豚コレラウイルスに感染した野生イノシシが相次いで発覚していることに「これまでイノシシの広がりを抑えられていたとも言える。ただ、発生した養豚場には人間によるウイルスの持ち込みも想定され、イノシシだけに注目していても感染は防げない」と強調し、総合的な対策の必要性を指摘する。
餌なければ移動 出産は春~夏
■農研機構・西日本農業研究センター畜産・鳥獣害研究領域鳥獣害対策技術グループの話
イノシシの行動範囲はひとくくりにはできないが、餌があれば動かないが、なければ移動する。他の動物に比べ、環境によって大きく行動範囲が変わるのが特徴だ。雄の方が分散し、雌は定着性がやや高いとは言える。猟などで追い回せば長い距離を移動することがあるが、狩猟をやめたりイノシシが移動した先で密度が高かったりすると戻るデータもある。
1、2歳になれば親離れし、雄は単独で移動する。雌は基本的に出生地を中心に子どもを連れて生活する。
出産は春から夏にかけてで、6月がピーク。出産期は警戒心が上がり、移動距離も狭まる。ただ、一般的に子どもを生んで数週間たてば、雌のイノシシが子どもを連れてうろつく。発情期の冬になると雄が出歩き、雌を求めて本来の行動範囲より広がって移動することもある。
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[岡山・JA岡山西移動編集局] 農業も登山も全力投球 倉敷市の小原正義さん
岡山県倉敷市の小原正義さん(40)は、米の生産と餅加工で年間2300万円を売り上げるコアラファームの代表と、登山ガイドの二足のわらじを履く。今秋には、県内の農業振興や農村の活性化に貢献する青年農業者に贈られる「矢野賞」を受賞した。
実家は水稲農家で農業や自然への関心が高く、大学卒業後は8年間、長野県の奥穂高岳の山小屋で働いた。「農業だけでは生活ができないと考え山登りも仕事につなげようと思った」と小原さん。2010年に日本山岳ガイド協会の登山ガイドの資格を取得した。
同じ年に親元就農した。米で収益を上げるビジネスモデルを模索し、生産・販売から餅加工を一体的に行う経営に行き着いた。餅は年間15・9トンを製造。自家栽培の特別栽培米「ヒヨクモチ」を使って、「倉敷・八十八俵堂」の独自ブランドで販売している。
JA岡山西直売所の出荷仲間の紹介などで地道に顧客を増やし、倉敷市のふるさと納税返礼品に採用されている他、JA直売所や県内スーパー、インターネットなど多方面に販路を拡大。売り上げの9割を占める経営の柱になった。
小原さんは「登山も農業も自給自足が原則。通じるところが多い」と話す。山小屋勤務での接客や大工仕事、道路の舗装、水道工事などの経験が、農業経営に役立っているという。
経営が安定した15年からは、農閑期の7、8月に北アルプスや大山などで月10日程度の山岳ガイドも務める。19年は大山ガイドクラブ代表に就任し、山小屋の経営を始めた。
「日常を幸せにする農業、非日常を楽しむ登山」と、どちらも全力投球する。「20代は山、30代は農業に打ち込み、土台を作れたと思う。農業者、登山家として一層レベルアップしたい」と話し、40代を楽しむ。
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2019年12月05日

ディスカバー農山漁村の宝 個人賞に上乗さん(石川)
政府は3日、地域の資源を活用し、活性化につなげている地区を表彰する第6回「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」のグランプリに、天然ワカメ商品などを手掛ける島根県大田市の魚の屋を選んだ。今回から選定方法を一新。地域で活躍する人材を表彰するために新設した「個人賞」には、子どもが里山の自然を体験できる環境づくりなどに携わる石川県能登町の上乗(じょうのり)秀雄さん(75)を選んだ。
団体・法人向けの表彰では、所得向上や雇用創出につなげている「ビジネス」、地域活性化に貢献する「コミュニティ」の2部門を新設。両部門からグランプリを選出した。
個人賞に選ばれた上乗さんは、故郷の里山を再開発し、子ども向けの自然体験村「ケロンの小さな村」を創設。さらに耕作放棄地を活用して生産した米を米粉にしてパンやピザに加工、販売し、大人の来場にも結び付けた。年間5000人が訪れる施設を作り上げ、地域のにぎわいづくりに貢献した点が評価された。
同日、首相官邸に選定地区を招き、グランプリなどを発表した。安倍晋三首相は「人の努力や活躍があって地域や日本が元気になる。地域だけでなく人の魅力にもスポットを当てて発信したい」、江藤拓農相は「今の農政は産業政策よりも地域政策が大事という議論が盛んにされるようになってきた。一緒に頑張っていきたい」と話した。
コミュニティ、ビジネス両部門では、準グランプリも選出した。受賞者は次の通り。
コミュニティ=北海道立遠別農業高校(北海道遠別町)▽上山市温泉クアオルト協議会(山形県上山市)
ビジネス=山上木工(北海道津別町)▽杉本製茶(静岡県島田市)
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2019年12月04日

[あんぐる] 天空の特等席 田んぼに泊まろう 棚田キャンプ(長野県上田市)
農閑期の棚田を期日限定のキャンプ場とするユニークな取り組み「棚田キャンプ」が、長野県上田市の「稲倉の棚田」で開かれている。5回目となる11月9、10日の開催には約150人が集まり、秋の絶景を満喫した。
この棚田は北アルプスを望む標高640~900メートルの急斜面にあり、約780枚、合わせて30ヘクタールほどの水田が連なる。
「棚田キャンプ」は春と秋の稲作に影響しない時期に開かれる。今回は約20枚の棚田に設けた、一つ60平方メートルの区画それぞれに、アウトドア愛好家がテントを張った。
ハイライトは夜だ。日が沈むと、明かりがついた約60張りのテントが暗い棚田に浮かび、遠くに市街の明かりが輝いた。
参加は4度目で、自分で田植えや稲刈りをする「棚田米オーナー」でもある東京都荒川区の会社員、石井由紀さん(48)は「冷えて風も強いが景色がきれい。都内からのアクセスも良い」と魅力を話した。
参加者に配られた新米のコシヒカリ「稲倉の棚田米」。「おいしい」と評判だ
江戸時代に開かれたと伝わる「稲倉の棚田」は大きな農機を使えず、一時は耕作放棄が目立った。だが1999年の「日本の棚田百選」入りを契機に、地元有志が荒れた水田の再生を始めた。
2003年には、住民やJA信州うえだ、市などが棚田保全を目指した組織を発足。15年からは「稲倉の棚田保全委員会」の名称でオーナー制度などに取り組んでいる。
「棚田キャンプ」は、各地の棚田保全を支援するNPO法人棚田ネットワークの玉崎修平さん(44)の案を、同委員会メンバーらの任意団体「棚田フューチャーズ」が形にした。18年春に始めるとアウトドア情報誌で紹介されるなど注目を集め、毎回満員になっている。参加後に棚田米オーナーになる人も多い。
次回は来年春の予定。同委員会の事務局を務める石井史郎さん(57)は「これからも活用を含めた棚田の新しい在り方を探りたい」と話す。(釜江紗英)
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2019年12月02日
テレビドラマ「水戸黄門」で、悪代官役を演じた俳優の訃報に触れ、名場面がよみがえってきた
テレビドラマ「水戸黄門」で、悪代官役を演じた俳優の訃報に触れ、名場面がよみがえってきた▼白ひげをたくわえ、好々爺(や)然とした黄門さまが、助さん、格さんを従え、諸国を巡りながら悪事を懲らしめていく。決めぜりふは「この紋所が目に入らぬか」。言わずと知れた徳川家の家紋が入った印籠である。悪人たち、一斉にひれ伏し一件落着と相成る。さしずめ今なら「安倍官邸」の紋所が、絶大な威光を発揮する印籠か▼黄門さまこと水戸藩第2代藩主・徳川光圀には、逸話や俗説が多い。「恐れ多くも先の副将軍」というのはドラマ上の設定。諸国漫遊というが実は関東近県しか歩いていないとも。これは『大日本史』の編さんで家臣を各地に派遣したことから尾ひれがついたようだ▼光圀は子孫のために9カ条の訓戒を残した。1条は「苦は楽の種、楽は苦の種としるべし」。ドラマ主題歌の冒頭〈人生楽ありゃ苦もあるさ〉はここから来たのだろう。「主人と親は無理を言うものと思え」。これも納得。主人をトランプさんに置き換えればよく分かる。「おきてを恐れよ」は、決まり事や法令を守れとの戒めである▼あすは黄門忌。現代によみがえれば忙しかろう。ぜひとも「令和の不平等条約」に喝を入れてもらいたい。「国益を一体何と心得る」
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2019年12月05日

日米協定“拙速”承認 来年1月1日発効へ 参院
日米貿易協定は4日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、承認された。来年1月1日に発効する見通し。牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税を削減。生産額の減少は過去の大型協定に匹敵する。昨年末に発効したTPP、今年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に続き大型協定の発効が迫り、日本農業はかつてない自由化に足を踏み入れる。
同協定を巡る交渉は4月に開始。9月に最終合意し、10月に署名した。合意内容の公表から協定の国会審議までは1カ月足らず。TPPなど過去の大型協定と比べても異例の短さで、情報開示や国民的な議論の不十分さが目立った。
同日の採決では、自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。立憲民主党、国民民主党などの共同会派や共産党は反対した。
政府は今後、関連する政令改正などの国内手続きを終え、米国に通知する。米国側は国内法の特例に基づき議会審議を省く方針。両国の合意で発効日を決められ、米国の要望に応じて1月1日の発効となる見通しだ。
発効後、日米は追加交渉に向けた予備協議に入り、4カ月以内に交渉分野を決める。政府は関税交渉について「自動車・自動車部品を想定しており、農産品を含めてそれ以外は想定していない」(茂木敏充外相)としているが、具体的な交渉範囲は協議次第だ。
協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。
今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。
日本の攻めの分野の自動車・同部品の関税撤廃は継続協議となった。
政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。
政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
国内対策 農家規模問わず
政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。
改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。
自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。
改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。
農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。
TPPの牛肉SGの発動基準見直しを巡っては、「日米貿易協定の発効後の実際の輸入状況などを見極めつつ、適切なタイミングで関係国と相談を行っていく」との記述にとどめた。
日米協定国会承認 期限ありき審議不足 再協議規定 農業扱い不透明
日米貿易協定は、踏み込んだ議論には至らないまま、国会審議が終結した。来年1月1日発効を目指す政府・与党は、野党側の資料請求にも応じず、議論がかみ合わないまま審議が進展。野党も最終的には4日の参院本会議での採決に応じたため、農産品の再協議の可能性をはじめとした懸念を掘り下げることなく、協定は承認された。衆参両院の委員会審議は22時間余り。過去の経済連携協定を大きく下回る。
参院本会議では、これまでの委員会審議と同様に、農産品について、米国が「特恵的な待遇を追求する」と明記した再協議規定への懸念が続出。採決の最終盤となっても不明瞭な部分が残っている実態が改めて浮き彫りになった。
国民民主党の羽田雄一郎氏が再協議規定について「米国の強い意志を感じる」と指摘。大統領再選を目指すトランプ氏の強硬姿勢を警戒した。
協定に賛成した日本維新の会の浅田均氏も「米国がさらに強気の姿勢で交渉に臨んでくるのは不可避。積み残しになった自動車・同部品の関税撤廃の確定も含め、交渉は一筋縄ではいかない」と警鐘を鳴らした。
ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。
衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。
一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。
さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。
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2019年12月05日
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協定では、牛肉は関税率を最終的に9%まで削減する。セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)を設定した一方、発動した場合、発動基準をさらに高くする協議に入る。TPPのSGと併存し、低関税で輸入できる量がTPPを超えるため、政府は加盟国との修正協議に乗り出す。
今後、追加交渉での農産品の扱いやSGの発動基準数量の引き上げの動向などが焦点になる。
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政府の影響試算では、農林水産物の生産額は、米国抜きのTPP11の影響も踏まえると最大2000億円減る。国会審議で野党は、日欧EPAなど発効済みの他の貿易協定も含めたより精緻な試算を求めたが、政府・与党は応じなかった。
政府・与党は現在、中長期的な農政の指針となる食料・農業・農村基本計画の見直しの議論を進めている。一連の大型協定による農産品の自由化にどう対応するか具体策が問われている。
国内対策 農家規模問わず
政府は4日、日米貿易協定に伴い、国内対策の指針となる「TPP等関連政策大綱」改定案を自民、公明両党に示し、了承された。農業分野では、中山間地を含めた生産基盤強化の必要性を強調し、「規模の大小を問わず、意欲的な農林漁業者」を支援する方針を明記。新たに肉用牛や酪農の増頭・増産対策などを盛り込んだ。政府は5日に正式決定し、2019年度補正予算に農林水産業の対策費として3250億円程度を計上する。
改定案では、国内外の需要に応え、国内生産を拡充するため農林水産業の生産基盤を強化する必要性を指摘。畜産クラスター事業による中小・家族経営支援の拡充や、条件不利地域も含めたスマート農業の活用も盛り込んだ。規模要件の緩和や優先採択枠の設置で対応する。
自民党TPP・日EU・日米TAG等経済協定対策本部(本部長=森山裕国対委員長)などの会合で、西村康稔経済再生担当相は「(農業の)国内生産を確実に拡大するため、中山間地域も含めた生産基盤を強化していく」と述べた。森山本部長は会合後、「(家族経営を)政策の横に置くのではなく、中心に据えてやっていくことが大事だ」と記者団に語った。
改定案には輸出向けの施設整備、堆肥活用による全国的な土づくりの展開、家畜排せつ物の処理円滑化対策、日本で開発した農産物の新品種や和牛遺伝資源の海外流出対策なども盛り込んだ。
農林水産分野の対策の財源について、既存の農林水産予算に支障のないよう「政府全体で責任を持って」確保する方針は改定案でも維持した。
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ただ、野党側は採決を容認。会議場内では「反対」などの声が出たが、賛否の投票作業は淡々と進んだ。
衆参両院を通じて、審議不足は否めない結果となった。衆院では、自動車の追加関税の回避の根拠となる議事録など示さない政府・与党に対し、主要野党が反発して退席。与党側が審議時間の消化を優先。質問者不在のまま割当時間を消化する「空回し」を含めても、審議時間は22時間余りにとどまる。
一方、環太平洋連携協定(TPP)は2016年、衆参両院に特別委員会を設けて計130時間以上審議。日米協定の審議時間は短さが際立つ。
さらに衆院では、協定の審議が「桜を見る会」の説明責任を巡る与野党の駆け引き材料になった部分も多い。野党内からも「政争の具にせず、審議の充実を追求していくべきだった」(幹部)と審議運営を批判する声が出ている。
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2019年12月05日
畜酪対策で重点要請 家族経営支援を 全中
JA全中は4日、2020年度の畜産・酪農対策に関する重点要請事項を決めた。中小規模の家族経営を含む、多様な生産者の生産基盤の強化などが柱。ICT(情報通信技術)による労働負担の軽減などに支援を求める。……
2019年12月05日

所得向上に重点を 年内に論点まとめる 自民基本政策委
自民党の農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長)は4日、来年3月に改定を予定する政府の食料・農業・農村基本計画について、年内に一定の論点をまとめる方針を確認した。同委員会の顧問を務める宮腰光寛・前沖縄北方相は、農業の経営継承や農家の所得向上に重点を置くべきとする考えを示した。食料自給率目標だけにこだわらず、深刻化する農業の担い手不足などの課題に直結した内容に見直す狙いとみられる。
小野寺委員長は「年内に一定の論点をまとめ、具体的な内容について踏み込んだ政策を図っていきたい」と述べた。
宮腰氏は「今回は農家の高齢化や若い農業経営者の不足などを考えると農地を含めた経営継承が大きなテーマだ」と強調。その上で「農家の農業所得や農村での所得をどう上げていくかが基本計画の目玉になるべきではないか」と提起した。
現行計画ではカロリーベースの食料自給率目標を45%に掲げるが、直近の18年は37%と過去最低に落ち込んだ。45%達成に向けた品目別の生産努力目標も大半の品目で実現が難しい状況だ。
党内には自給率を目標にすることを疑問視する声は少なくない。米中心だった食生活が変化していることへの対応に加えて、自給率低下を招いたとの批判をかわしたい思惑も見え隠れする。
一方、農業就業者は2015年で196万人と、政府の見通しを7万人程度下回る。担い手不足を背景に農地面積も減り続け、直近の19年で439万7000ヘクタールとなり、政府の25年の確保目標440万ヘクタールを早くも下回る。
会合では「規模の大小を問わず、経営を継承している農家にはしっかり支援しないといけない」(進藤金日子氏)、「水田地域を維持するには兼業農家を含む関連人口が多くないと大規模農家が(過重負担で)苦しくなっていく」(鈴木憲和氏)などの意見が挙がった。
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2019年12月05日

日米協定 熟議程遠く 参院委可決 政府、要求応じず
参院外交防衛委員会は3日、日米貿易協定の承認案を与党などの賛成多数で可決した。4日の参院本会議で承認される見通しだ。参院の審議は計11時間余りで、より精緻な農林水産品への影響試算や、追加交渉で農業分野が対象になる可能性など、重要な論点の政府と野党のやり取りは平行線のままだった。野党の資料請求に政府・与党は引き続き応じず、議論は深まらなかった。
自民、公明両与党と日本維新の会が賛成。立憲民主、国民民主両党などの共同会派と共産党、参院会派「沖縄の風」は反対した。
日米両政府は、来年1月1日の発効を目指す。日本政府は承認後、関係政令の閣議決定など国内手続きを終え、米国に通知する。発効すれば牛肉、豚肉などは環太平洋連携協定(TPP)と同様に関税が削減される。米は除外した。
参院では、有識者らを招いた参考人質疑も実施したが、質疑時間は11時間15分にとどまった。衆参両院合計でも22時間余りで、特別委員会で130時間以上審議したTPPや、米国抜きのTPP11の際の審議時間を大きく下回る。
衆参両院の審議を通じ、野党側は、時期が未定となった自動車・同部品の関税撤廃を除いた経済効果や、TPPと、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効済みの現状を踏まえた農林水産品の影響試算などを要求した。追加関税の回避の前提となる首脳会談の議事録なども求めたものの、政府・与党は提出要求には応じなかった。
採決前の討論で、野党は「再三の提出要求にも一切応じず、国会への説明責任を放棄した」(野党共同会派の小西洋之氏)などと政府を強く批判した。
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2019年12月04日
基盤・競争力強化 輸出拡大 経済対策は13兆円 政府案あす閣議決定
政府が近くまとめる経済対策の案が3日分かった。農業関係では、日米貿易協定の国内対策として生産基盤と国際競争力の強化、輸出拡大などを柱に据える。5日に閣議決定する。財政措置は財政投融資を含め13兆円程度とする方向。2019年度補正予算案と20年度当初予算案に必要経費を計上する。日米協定の農業対策費は、19年度補正予算で3250億円程度で調整している。
政府が同日、自民党の会合で対策案を示した。農業の生産基盤強化の具体策として、産地生産基盤パワーアップ事業や和牛・酪農の増頭、スマート農業技術の開発・実証プロジェクトなどを挙げた。大規模経営への支援だけでなく「中山間地域等の条件不利地域も含め、規模の大小を問わず意欲ある農林漁業者が安心して経営に取り組めるようにする」と記した。
輸出拡大では、司令塔となる「農林水産物・食品輸出本部」を農水省に設置し、輸出に対応できる食品加工・食肉処理施設などの整備を進める。
農業の担い手不足を受け、現在40歳前後の就職氷河期世代の就農支援を打ち出す。相次ぐ自然災害で被害を受けた農林漁業者の再建、災害に強い農業水利施設やため池、農業用ハウスの整備も盛り込む。
財政措置13兆円のうち、国の一般会計からの支出分は補正予算案で4兆円超、当初予算案で1兆円台後半をそれぞれ手当てし、計6兆円程度となる見通し。さらに特別会計を活用し1兆円台半ば程度を確保する。補正予算の農林水産関係総額は、日米協定対策費を含め6000億円超を目指す。
経済対策に伴う地方負担は1兆円台半ばを超えそうだ。財政投融資は3兆円台後半とし、交通網整備などに振り向ける。民間企業の支出分などを加えた事業費の合計は25兆円を超える見通しだ。
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2019年12月04日

台風19号被災長野市を視察 参院農水委
参院農林水産委員会は3日、台風19号の浸水被害を受けた長野市の果樹園地やJAの選果施設を視察し、農家らと意見交換した。被災農家は営農再開に向け、早急な泥の除去や資金対策などの支援を求めた。
与野党議員8人が長野市穂保地区の園地やJAながの長野平フルーツセンターなどを視察した。
地元の若手農家グループが要望を伝えた。浸水被害を受けた農地は、災害復旧事業の支援対象となるが、現状では泥の撤去作業が十分進んでいない実態を説明。リンゴ農家の小滝和宏さん(36)は防除のためのスピードスプレヤー(SS)も入れないことから、「来年3月下旬の薬剤散布時期がリミット。間に合わなければ木を切ることも考えなければいけない」と危機感を示した。
県庁では阿部守一知事が、果樹園に堆積した土砂の処分場確保が難しいことから、公共工事の盛土などに活用することを要望した。
同委員長の自民党の江島潔議員は「想像以上に広範囲で大きな被害に衝撃を受けた。現場の意見や要望は、委員会でしっかり検討して、政府に返していきたい」と述べた。
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2019年12月04日

ディスカバー農山漁村の宝 個人賞に上乗さん(石川)
政府は3日、地域の資源を活用し、活性化につなげている地区を表彰する第6回「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」のグランプリに、天然ワカメ商品などを手掛ける島根県大田市の魚の屋を選んだ。今回から選定方法を一新。地域で活躍する人材を表彰するために新設した「個人賞」には、子どもが里山の自然を体験できる環境づくりなどに携わる石川県能登町の上乗(じょうのり)秀雄さん(75)を選んだ。
団体・法人向けの表彰では、所得向上や雇用創出につなげている「ビジネス」、地域活性化に貢献する「コミュニティ」の2部門を新設。両部門からグランプリを選出した。
個人賞に選ばれた上乗さんは、故郷の里山を再開発し、子ども向けの自然体験村「ケロンの小さな村」を創設。さらに耕作放棄地を活用して生産した米を米粉にしてパンやピザに加工、販売し、大人の来場にも結び付けた。年間5000人が訪れる施設を作り上げ、地域のにぎわいづくりに貢献した点が評価された。
同日、首相官邸に選定地区を招き、グランプリなどを発表した。安倍晋三首相は「人の努力や活躍があって地域や日本が元気になる。地域だけでなく人の魅力にもスポットを当てて発信したい」、江藤拓農相は「今の農政は産業政策よりも地域政策が大事という議論が盛んにされるようになってきた。一緒に頑張っていきたい」と話した。
コミュニティ、ビジネス両部門では、準グランプリも選出した。受賞者は次の通り。
コミュニティ=北海道立遠別農業高校(北海道遠別町)▽上山市温泉クアオルト協議会(山形県上山市)
ビジネス=山上木工(北海道津別町)▽杉本製茶(静岡県島田市)
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2019年12月04日
日米協定参院委可決 牛肉SG、追加交渉分野 懸念拭えぬまま
日米貿易協定の承認案を巡る参院外交防衛委員会の審議が3日、終了したが牛肉セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の発動基準数量の引き上げや、追加交渉での農産品の扱いなど、同協定が抱える多くの懸念事項は払拭(ふっしょく)されなかった。野党側が追及するも政府側は従来の答弁に終始。国会での議論は消化不良のまま、協定の発効へ最終局面に入る。
農産品で議論になったのは、SGの発動基準の見直しだ。協定の補足文書では、発動した場合、基準を一層高いものに調整する協議に入ることを明記。初年度の基準が2018年度の輸入実績よりも低くSGが発動しやすい半面、協議による基準引き上げの動向が焦点になっている。
立憲民主、国民民主など野党でつくる共同会派の舟山康江氏は「(日本側が)相当不利な書きぶりだ」、共産党の井上哲士氏も「極めて特例的な規定だ」と批判。協定発効後はSGが発動しても税率は発効前の38・5%にしか上がらないことを踏まえ、輸入抑制効果を疑問視した。
茂木敏充外相は、SGの発動について、輸入業者が発動基準をにらんで年度末に輸入量を調整すると見通し、「毎年そういう(発動する)ことが起きるとは想定していない」との認識を示した。内閣官房の渋谷和久政策調整統括官は「協議することは同意したが、先は予断していない」と従来の答弁を繰り返した。
日米が発効後4カ月以内に予備協議し、追加交渉の分野を決めるという規定も論点になった。政府は交渉でまとまらなかった自動車・同部品の関税撤廃期間を追加交渉で扱うと説明してきた。
舟山氏は「自動車の関税撤廃を獲得する時は、何も譲らないと約束すべきだ」とし、農産品などの一層の市場開放をしないよう強く求めた。
渋谷氏は「協定を誠実に履行することが米国にとって望ましい」と協定の基本的な在り方を述べるにとどまり、具体的な対象分野への言及は避けた。
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2019年12月04日
規制会議 スマート普及が重点
政府の規制改革推進会議は2日、当面審議する重点事項を決めた。農業分野は、スマート農業の普及に向けた環境整備などを盛り込んだ。これまで規制改革を求めてきた事項で、今後も進捗(しんちょく)状況を重点フォローする事項も決定。農協改革は、信用事業の健全な持続性確保へ代理店方式の活用推進を挙げ、農林中央金庫や信連、全共連の株式会社化は記述から外れた。……
2019年12月03日
低病原性鳥インフル アジアで発生続く 農水省、農家に警戒呼び掛け
愛媛県で野鳥のふんから今シーズン初めて、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H7N7亜型)が確認された。韓国では既に、野鳥のふんからから同ウイルスの確認が相次ぐ。他のアジアの国では高病原性鳥インフルエンザも継続的に発生しており、警戒を強める必要がある。
韓国で10月以降、飼養鶏では低病原性鳥インフルエンザは発生していない。だが、野鳥のふんから同ウイルスが確認されたケースは15件に上る。11月中旬には日本に近い韓国南東部の慶尚南道でも確認された。ウイルスの型が不明の1件を除く14件が、日本とは異なるH5亜型。
他のアジア各国では、高病原性鳥インフルエンザの発生が続く。台湾では少なくとも17年以降は毎月、飼養鶏で発生。今年11月にはH5N5亜型とH5N2亜型が1件ずつ見つかった。インドネシア、ベトナム、ネパールでも継続的に発生している。
今季初の低病原性鳥インフルエンザウイルスの確認を受け、農水省は農家に警戒を呼び掛けている。農場では、野鳥などの野生動物が鶏舎に侵入しないよう、防鳥ネットなどの確認が必須。農場に入る車や人、モノの消毒の徹底も求められる。鳥インフルエンザは低病原性でも、飼養鶏で発生した場合には農場の全羽殺処分が必要となる。
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2019年12月02日