日米交渉大枠合意 牛・豚関税TPP並み

閣僚協議後に記者会見する茂木担当相(23日、米ワシントンで)

 【ワシントン岡信吾】日米両政府は23日(日本時間24日)、貿易協定交渉を巡り、当地で3日間の閣僚協議を終えた。会見した茂木敏充経済再生担当相は「大きな進展があった。閣僚協議は恐らく今回で最後」と述べ、閣僚間の協議が全て終了し、事実上の大枠合意に至ったことを示唆した。焦点だった米国産牛肉と豚肉の関税は環太平洋連携協定(TPP)と同じ水準に引き下げる。日本農業にとっては農産物の市場開放が一層進むことになる。国内への影響をどう回避するのか。政府には説明と対応策が求められる。
 

市場開放さらに


 茂木担当相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は同日まで3日間、計10時間以上議論した。日米は25日に予定する首脳会談で、9月合意への道筋を示す見通しだ。

 米国産牛肉については、関税(現行38・5%)をTPP参加国と同じ水準に引き下げる他、米国向けの緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)を設け、輸入急増に一定の歯止めをかける方向。しかしTPP参加国との調整が必須だ。全体としてTPPを超える打撃とならないか見極める必要がある。

 米国側は、オーストラリアなどTPP参加国に競争条件で不利にならないことを要求。牛肉は発効時から一気にTPP参加国と同じ税率まで関税を削減し、最終的に9%まで引き下げる。

 SGは輸入が一定量を超えた場合、関税を引き上げる。米国に対する発動基準数量は近年の米国産の輸入実績などを勘案して設定する方向だ。

 ただ、米国離脱後に11カ国が署名したTPPでは、牛肉SGの発動基準数量(発効初年度59万トン、発効2年目の現在は60万1800トン)は米国の参加を見込んだ水準のまま。日本政府は、オーストラリアなどに発動基準数量から米国分を差し引く見直し協議を求める方針だ。

 18年度の牛肉輸入量は、米国産が25万トン、オーストラリアなどTPP参加国産が36万トンで、合計62万トン。仮にTPPの発動基準数量を見直さないまま日米協定が発効すると、低関税で輸入される牛肉の総量が発動基準数量を超えても、オーストラリアなどにはSGが発動されず、国内にTPP以上の影響が出る恐れがある。

 一方、米国側は日本産牛肉の無税枠を設ける。TPPでは発効初年度に3000トンの無税枠を設定していた。

 豚肉はTPP同様の決着となる見込み。差額関税制度は維持し、低価格品の従量税(現行1キロ482円)は段階的に50円まで下げ、従価税は最終的に撤廃する。

 TPPでは、バターや脱脂粉乳など33品目で参加国全体に一括で低関税輸入枠を設定しているが、米国への枠設定は見送る。参加国との調整に時間がかかるためだ。

 米や小麦は、米国向けの輸入枠を設ける方向。TPPでは米で最大7万トン(13年目)、小麦で同15万トン(7年目)の米国向けの国別枠を設けていたが、それ以下の水準に抑えたい考えだ。

 日本が攻める工業製品では、主力の自動車で関税撤廃の期限を切るのは難しい情勢。同部品の一部での関税撤廃にとどまるとみられる。
 

9月下旬決着で調整


 閣僚協議は4月に始まり、今回が7回目となった。これまで、米国が強い関心を示す牛肉など農産品の重要品目や、自動車・同部品の市場開放を巡り、日米の主張に隔たりがあった。

 茂木担当相は、3日間の協議を踏まえ「ライトハイザー代表と方向性を共有した」と強調。「お互い立場が違っていたが、その溝を埋めるべく交渉を進めてきた。そういったものが絞り込まれた」と日米の溝が埋まったとの認識を示した。合意した内容は「農業をしっかり守る立場で交渉できた」と述べ、農産品で「過去の経済連携協定の内容が最大限」とした日米共同声明に沿った内容で決着したことを強調した。だが、牛肉などの重要品目の扱いを含め、具体的な内容に触れるのを避けた。

 日米は9月下旬に一定の合意を目指す。今回の閣僚協議を受け、安倍晋三首相とトランプ米大統領は、24日からフランス・ビアリッツで開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせた首脳会談の中で、貿易協定の合意に向けた日程などの道筋を確認、発表する方針。茂木、ライトハイザー両氏も同席する。

 首脳会談では合意に向けたスケジュールに加え、明らかにしていない農産品を含めた交渉結果の内容がどこまで示されるかも焦点になる。
 

[解説] 影響回避 政権の責務


 日米貿易協定交渉が事実上の大枠合意に至り、米国産農産物の市場開放が決まったことを受け、今後は国内農業への影響をどう防ぐかが焦点になる。政府には支援策を講じることが求められる。再生産の確保へ、万全の体制を整えるには国民的な議論が不可欠。政府は議論の土台となる交渉内容を早急に開示すべきだ。

 交渉では、日米共同声明に沿ってTPPをはじめ過去の経済連携協定の内容を超えずに決着できるかが焦点となってきた。特に牛肉のSGを巡っては、米国抜きのTPP11との調整が課題になっているが、どう決着するかはまだ不透明だ。

 米国に対しTPP水準の市場開放に踏み切ることの影響を入念に検証すべきだ。政府だけにとどまらず、国会を含め国民的な議論が求められる。だが現時点では交渉結果の具体的内容は開示されていない。

 茂木担当相は、閣僚協議の決着を「合意」とは言わず、「方向性の共有」という言葉で説明した。過去の貿易交渉では「大筋合意」「大枠合意」の発表と同時に内容も明らかにされていただけに「合意」の発言を避けた姿勢には、情報開示を先送りする狙いがにじむ。

 首脳会談では、合意に向けて「今後の進め方やタイムスケジュールなどについて発表される」(茂木担当相)見通し。合意内容を示すのか、明らかにしないまま最終的な合意に進むのか、日本政府の姿勢が問われる。

 昨年末にTPP、今年2月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)と大型貿易協定が相次いで発効した。米国は日本にとって最大の農産物輸出国であり、日米貿易協定交渉が合意すれば、一層の市場開放が進み、国内農業への影響は必至。影響回避は安倍政権の責務だ。
 

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