矢野吉彦さん(アナウンサー) 競馬場にうまいものあり

矢野吉彦さん

 もともと鉄道が好きで旅行好き。旅先でおいしいものを食べることを楽しみにしています。

 競馬中継の仕事をしていることもあって、日本だけでなく世界各地の競馬場を見て歩くのがライフワークになりました。競馬場がある町の名物はもちろんですが、競馬場内での食事もいろいろ思い出に残っています。

 国内でこれはおいしい! と感じたのは、川崎競馬場のタンメン。初めて食べたのは30年以上も前です。そのお店、タンメンだけ作っている専門店なんです。野菜と肉のだしがたっぷり入ったスープ、麺、具のどれもがおいしい。スタンドが新しくなった今も、4コーナー寄りの2階に店があります。でも改修前の古いスタンドに入っていた時の方が、味わいがあって良かった気がしますね。
 

具うどんと牛丼


 今はなき熊本・荒尾競馬場の牛丼にも思い出があります。ある時、私が食堂に入ってカツ丼を頼むと、後から入ってきたおじさんが「グゥードン」を注文したんです。

 実は、その店のメニューには「具うどん」というものがあったんです。長崎の島原に具雑煮という郷土料理がありますね。海の幸、山の幸をたっぷり入れた雑煮です。それのうどん版だったのかな? メニューには「牛丼」もありました。店のおばちゃんが「牛丼? 具うどん?」と何度も聞いたんですが、おじさんは「グゥードン。グゥードンじゃ」としか答えない。やっとのことでおじさんの注文は牛丼だと分かりました。

 それくらいやり取りがあったにもかかわらず、なんと店のおばちゃんは、おじさんの所に私のカツ丼を持って行ったんです。するとおじさんは何のちゅうちょもなく、そのカツ丼を食べ始めちゃったんです! 私はおわびの50円をもらって、牛丼を食べました。さっきの騒ぎはなんだったのかと思いながらね(笑)。

 今は夏競馬の真っ最中です。われわれが中継に行くのは福島と新潟。新潟はいいですね。さすがに米どころ。中継当日に局が用意してくれる昼の弁当はご飯がおいしいし、市内には絶品おにぎりを出す居酒屋やおすしの名店もあります。日本酒もたくさんあるし、新潟競馬の中継は楽しみですね。

 福島に行ったら、ギョーザです。円盤ギョーザといって、丸い皿に円盤状にぎっしりと隙間なくギョーザが載っているんです。中継前日も中継の後も、これとビール。最高です。
 

地元でこその味


 JRAの競馬場は、なぜか食べ物のおいしい所にばかりあるんですよ(笑)。札幌、函館、京都はいうまでもありませんよね。

 中京競馬場や名古屋競馬場、岐阜の笠松競馬場に行った時は名古屋メシを満喫します。東京の支店では、あのおいしさは実感できません。名古屋の気候風土を感じながら食べるのが大事なんです。

 特に私が好きなのは、冬限定のカキ入りみそ煮込みうどん。絶品です! シーズンになると必ず1回はエスカ(名古屋駅地下街)にある山本屋本店に食べに行きます。

 大阪では梅田の地下街にある立ち飲みの串カツ屋。冬の小倉ならフグでしょう。外国人騎手にもフグは有名みたいですよ。武豊さんやオリビエ・ペリエさん(日本での騎乗経験も豊富なフランス人騎手)が広めたんだと思います。

 今年はコロナ禍で遠出を我慢していましたが、そろそろうずうずとしてきました。飢餓状態を強いられただけに、いただいた時の喜びも大きいことでしょう。(聞き手=菊地武顕)

 やの・よしひこ 1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送に入社しスポーツ番組を中心に活躍。89年、フリーに転進。90年から「ウイニング競馬」(テレビ東京)で実況・司会を担当している。著書『競馬と鉄道~あの“競馬場駅”はこうしてできた』(交通新聞社)で、2018年JRA賞馬事文化賞を受賞。
 

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