[新型コロナ] 伝統芸能神楽が存続ピンチ コロナ禍で公演軒並み中止

神楽の練習再開へ準備をする佐古副総代。経営難で頭を抱える(島根県浜田市で)

演目「有明」(上)と演目「大蛇」(石見神楽佐野神楽社中提供)

 新型コロナウイルス感染拡大が日本の伝統芸能「神楽」に影を落としている。五穀豊穣(ほうじょう)や厄災の払拭(ふっしょく)、豊作に感謝するために舞う神楽。コロナ感染拡大の懸念から、練習や公演が中止に追い込まれた。7月は再開の動きもあったが、全国に広まる第2波で先が見通せない。発表の場を失い、大幅な収入減で存続が危ぶまれている神楽団や衣装店もある。アフターコロナを見据え、農村に伝わる神楽を守ろうと、奮闘する動きを追った。(鈴木薫子)
 

維持費重くよぎる解散 島根県


 島根県西部に伝わる「石見神楽」。明治以降、神職から民衆に伝わり、今は130以上の神楽団が祭りやイベントで披露する。太鼓や手拍子、笛で奏でる囃子(はやし)に合わせ、木彫面を付けた舞手が舞う。人気の演目「大蛇(おろち)」は17メートルの大蛇が圧巻だ。2019年5月には日本遺産に登録された。

 新型コロナの影響で、多くの神楽団が2月から公演を中止。1873(明治5)年に発足し、およそ150年の歴史を持つ浜田市佐野町の石見神楽佐野神楽社中も2月から収入が途絶えた。同社中を含む市内10の神楽団は、東京都千代田区の国立劇場で8月25日に予定していた公演も中止となった。同社中の佐古義光副総代は「厳しい闘いだ」とうつむく。

 20~70代の30人ほどで構成する同社中はメンバーの多くが兼業農家。水田に囲まれる神楽会館で仕事や農作業の合間に練習に励んできた。古参が若者に技術を何代にもわたって伝えた。「子どもの時から頭の中は神楽だ」と佐古副総代は話す。

 神楽団は、イベントなどの謝礼を衣装や移動など活動費に充てる。衣装は新調すると1着100万円に上る。年間30~40回を公演する同社中。今年は何回公演できるかも見通せないが、「衣装代などに充てた借入金の返済や2トントラックの維持費など支払いは待ってくれない」(佐古副総代)。

 7月からは、同市で週末夜公演の「夜神楽」が今年度初めて予約制で始まった。同社中も練習を再開したが、全ての公演が再開する見通しはなく、新型コロナの第2波、第3波など心配事は尽きない。佐古副総代は「衣装を手放して解散する道もある」と最悪のケースが頭によぎる。
 

やむなく社員解雇 広島の衣装店


 緻密な刺しゅうが施された神楽衣装を仕立てる衣装専門店にも影響が出ている。広島県内唯一の専門店の広島市の「かぐらや」は5月末、社員とパートの全7人を解雇した。ベテラン職人もいたが、2月から新規注文はなく「やむを得なかった」と菅沢秀巳社長はこぼす。

 菅沢社長は、1998年に脱サラして夢だった衣装専門店を立ち上げた。丁寧な刺しゅうで県内にファンが多い。自身も2年前まで舞台に立つなど、神楽への思いは人一倍大きい。

 今は元社員だった娘と2人で、コロナ前に受けた注文や、修理に対応する。資金繰りが厳しい神楽団からの注文は見込みにくく、「コロナ前に戻るには3、4年かかるのでは」と菅沢社長。それでも、「神楽が大好き。やめる気にはなれない」と前を向く。
 

公演配信へ支援も


 広島県では、神楽公演の再開めどが立っていない。代替策として無観客公演ライブ配信の開催に向け、NPO法人広島神楽芸術研究所などは「ひろしま神楽活動再開プロジェクト」と題し、クラウドファンディングによる資金集めを8月から始めた。

 支援金は、神楽団への出演料や、神楽の衣装や面を作る業者らへの経費に充てる予定になっている。「広島神楽の衰退危機につながりかねない」(同研究所)とし、支援を呼び掛けている。


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