[戦後75年] 「非行の原因は空腹、孤独 食べにゃ駄目 農は生きる糧」 広島市の“ばっちゃん”中本忠子さん(86)からメッセージ

子どもたちに弁当を作る“ばっちゃん”こと中本さん。「食事会が良いね。孤独は弁当じゃ癒やせない」と、葛藤しながら、コロナ禍でも活動は続ける。(広島市で)

 原爆の苦しみ胸に 子どもに食事提供40年
 

 あんた、ご飯、食うたん──。広島市のNPO法人「食べて語ろう会」の理事長、中本忠子さん(86)は40年以上、350人を超す子どもたちに無償で食事を提供し、子どもの居場所をつくってきた。戦争中の苦しみを今も抱えながら、食を通じた心の交流をしてきた“ばっちゃん”。終戦の日を前に、若者たちに伝えたい思いや社会へのメッセージを聞いた。(尾原浩子)

 ──終戦から75年たちました

 戦争のことは語りたくない。人間、誰しも触れられたくないことはある。それが私にとって戦争。原子爆弾が投下された後の街のにおいが、今でも私の体の中に残っとる。焼夷(しょうい)弾が低空飛行で襲ってくる。今も忘れられんのじゃけ。75年たったというと、長い年月を重ねたように思えるけれど、私は昨日のことのようよ。

 原爆で伯父を失った。原爆投下から3日後、伯父を捜しに親戚たちと広島市に向かった。海にはたくさんの遺体が浮かんでいた。子どもは待っとけ、と言われて、いとこと2人でずっと待っていた。待っていたら、顔も何も分からなくなった伯父の遺体がござに包まれて戻ってきた。警官だった伯父が持っていた短刀に名前が書いてあったから、分かったんよ。

 いまだにその時のにおいが、私の鼻の奥に残っとる。消えることはない。私は被爆者健康手帳をもらっていないんじゃけど、甲状腺やいろんな病気をこれまでしてきたんよ。でも、おかげさまで、生きとるね。

 ──子どもの支援をずっと続けてこられました

 戦争の体験と、私がしてきた子どもの支援が関係あるかは、自分ではよう分からん。でも「食うことが何より大切じゃ」という気持ちは同じ。

 40年前、保護司だった私が食べ物の提供を始めたきっかけは、シンナーを吸っている子どもの言葉だった。「なんでシンナー吸うんじゃ」と聞くと「腹が減っとることを忘れられるんじゃ」と答えた。腹いっぱい食べさせることで、子どもを満たすことができる。

 いつの時代も同じ。空腹、孤独が子どもを非行に走らせる。子どもだけじゃのうて、大人も一緒。再犯を繰り返す人は、居場所がないから。私がずっとやってきたことは食を通じた居場所づくり。

 最近、居場所をつくること、心を通わすことは難しくなってきているね。人々はスマートフォンに没頭し、会話ができない。それにコロナで、ハグ(抱擁)もできん。どうすればええんかね。

 ──戦後75年。世の中は平和になりましたか

 戦争が終わったことが平和じゃないんよ。戦争をしていないから今が平和とは思わんね。

 暴力団組員の子ども、いじめにあった子ども、うんちがパンツにこびり付いた子ども、一見何も問題を抱えていない子ども……。いろんな子どもが来るんよ。でも、差別の気持ちで見たことは、うちは1回もない。もちろん、人間じゃけぇ、腹が立つことはあるんよ。でも、相手を受け入れる、認めるのが出発点。地域や社会が仲良くなるのも、多様なものを認めることから始まる。社会の人みんなが、そういう気持ちを持つことが平和の一歩と思うんよ。
 

相手を認めること願って


 ──今、子どもや社会に伝えたいことは何ですか

 食べにゃ、駄目。食は生きる糧。いろいろなものがゆがんでいるけれど、食が基盤よ。

 前に子どもを畑に連れて行ったことがある。そしたら、なんでダイコンが土に入っとるんか、みんな驚いとった。スーパーに並ぶきれいなダイコンしか見たことなかったからじゃろうね。教科書で習うことより、大切なことがある。食とその土台である農業が分からんと、物を粗末にするようになるよ。感謝ができなくなるよ。大人が教えちゃらんといけん。

 子どもにも誰にも「ありがとうと言いんさい」と正論を言っても、通じん。でも空腹を満たし、日常の会話を積み重ねることで人は変わっていく。コロナで分断、差別がひどくなった。でも、大切なことは変わらないと、うちは思う。食べることを大切にして、自分と違っていても相手を認める。それをみんながする社会が良いなと思うんよ。

 なかもと・ちかこ 1934年広島県江田島市生まれ。戦時中は呉市で過ごし、空襲で家を失った。54年に結婚し、3人の子どもを生んだが、夫とは死別。80年に保護司になり、82年から自宅で食事の無料提供を始める。2015年にNPO法人を作り、食事提供をし続ける。「ばっちゃん」の愛称で慕われ、その生き方をつづった本が多数出版されている。
 

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