もし文人酒乱番付があれば、中原中也は間違いなく上位にくるだろう

 もし文人酒乱番付があれば、中原中也は間違いなく上位にくるだろう。それほど酒癖が悪かった▼絡み酒でけんかっ早いから始末が悪い。大勢の作家が被害を受けたが、一番の犠牲者は太宰治。酔うほどに突っかかり毒舌を吐く。「何だ、おめえは。青鯖(あおさば)が空に浮かんだような顔をしやがって」。暴言もどこか文学的だが、太宰のへきえきした顔が浮かぶ▼きょうは中也忌。いまも多くの人に愛読される詩人である。酒癖のことばかり書くと、ファンからお叱りを受けそうだ。中也は酒をこよなく愛しただけに、次のような美しい詩篇(しへん)もある。〈渓流(たにがわ)で冷やされたビールは、青春のように悲しかつた〉。この一節を読むたびに清冽(せいれつ)な叙情が湧く。30年の人生を駆け抜けた夭逝(ようせい)の天才をしのぶ▼コロナはいまだ収束の気配を見せないが、酒場は人が戻りつつある。山口瞳の名著『酒呑みの自己弁護』に、酒場におけるカラミ役とカラマレ役の一考察がある。いわくカラミ型の人間は、小心で内向的で自己反省癖が強いと。だから絡まれても気が小さい人なんだと受け流せばいい。とまれ、気の合う仲間との和み酒に勝るものはない▼悪酔いは酒にも失礼。〈千の天使がバスケットボールする〉とは、中也の「宿酔」の一節。どうぞ酒はほどほどにご同輩。

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