伊藤みきさん(元モーグル日本代表) 作って体感農家のすごさ

伊藤みきさん

 現役時代に大きなけがをし、長いリハビリ期間中に、食事について改めて見直しました。

 それまでも油について気にしていましたが、けがをして以降は、脂質をどう取るのがいいのか、公認スポーツ栄養士に相談しました。脂質は、タンパク質、炭水化物と並ぶ三大栄養素の一つです。減らすのではなくどう取るのがいいのか考えました。

 生ものは食べないようにしていましたから、魚の刺し身は食べられません。魚の脂を取ることが少ないので、それを亜麻仁油でカバーするとか。そういう細かいところにまで取り組みました。
 

油変え体質改善


 現役最後の1年間は、MCT(中鎖脂肪酸)オイルをヨーグルトに混ぜて、毎日6グラムずつ取るようにしました。その習慣を続けたら、3、4カ月で筋量が増えて体脂肪が2%落ちたのでびっくりしました。MCTオイルを取るだけで、体が変わったんです。

 私は滋賀県で生まれました。農家ではないんですが、家の裏に畑があって野菜を作っていました。母に「ナス、取ってきて」と言われて私が取ったナスが食卓に出る。そんな生活でした。

 大学時代の4年間を愛知県で過ごし、その後、社会人として長野県で9年間。今は縁あって、北海道で暮らしています。

 地域地域で、食文化というのが違うんですね。私が驚いたのはネギ。滋賀県では九条ネギなんです。他の県のネギは白い部分が多くて太い。それを見て、実家の畑でなっていたネギは出来損ないだったのかなぁと感じたり。

 実家の日野町では、日野菜というカブが作られています。細長くて、土に入っている部分は白いんですが、外に出ている部分は薄紫色になります。日野菜で作る漬物は、カブ特有のえぐ味もあって、とてもおいしいんです。でも愛知県でも長野県でも北海道でも、日野菜は手に入らなくて。
 

「選ばれし野菜」


 北海道江別市の農家と知り合い、この春、2カ月ほど農作業を手伝いました。ニンジン、トウモロコシ、エダマメ作り。お願いして、日野菜の種をまいてもらいました。本当は日野菜は秋まきなんですが、試しにやってみようと、6月から1週間ごとに何度かに分けてまいたんです。

 早いものは7月の頭に収穫できました。日野菜は、真っすぐなものが良いとされています。でも畑で収穫したら、きれいな形のものは3分の1くらいしかなくて。

 他の野菜も、市場に出すのはそれくらいだと教えていただきました。私はそれまで、収穫したものは基本的に全部出荷しているものだと思っていました。土をつくり、草むしりをして、大事に育てた野菜です。それなのに3分の2は出荷しないなんて、結構衝撃を受けました。実家でやっている家庭菜園と農家の仕事はまるっきり別のものなのだと実感しました。

 青果店やスーパーで売られているのは、選ばれし野菜たちだったのですね。そのことを知り、食材への愛着が湧きました。

 農業体験を通じて、農業とスポーツは似ていると感じました。アスリートも、コーチやスタッフなどたくさんの人に支えられて成長していく。でも最高の舞台で戦えるのは、選ばれし者だけ。改めて、私のことを支えてくれた皆さんに感謝の気持ちが湧きました。同時に、食材を立派に成長させてくれる農家への感謝の気持ちも。収穫して作った日野菜漬けを食べながら、そう思いました。(聞き手=菊地武顕)

 いとう・みき 1987年滋賀県生まれ。姉のあずさ、妹のさつきと共に、モーグル3姉妹として知られる。2001年に14歳で日本代表に選ばれ、02、03年の全日本選手権で優勝。06年のトリノ五輪で20位、10年のバンクーバー五輪で12位。13年のワールドカップ猪苗代大会では優勝を飾った。19年に引退。
 

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