外国頼み危うい観光 経済構造転換が必要 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 GoToトラベル事業を巡る議論には、経済社会の構造そのものをどう転換するか、という視点が欠如している。GoToトラベルは都市部の3密構造をそのままにして、感染を全国に広げて帰ってくるだけだ。

 GoToトラベルはあくまで観光であり、観光に依存した地域振興はそのままである。つまり、根本的には、都市人口集中という3密構造そのものを改め、地域を豊かにし、地域経済が観光や外需に過度に依存しないで地域の中で回る循環構造を強化する必要がある。

 地域に働く場をつくり、生産したものを消費に結び付けて循環経済をつくるには、農林水産業が核になるはずである。農林水産業が元気で地域の環境や文化が守られなくては、観光も成り立たない。ましてや、輸出5兆円が実現できるわけがない。足元を見ずに、観光だ、インバウンド(訪日外国人)だ、輸出だ、と騒ぐのは本末転倒だ。

 政府が何に力を入れていくべきかは明らかだ。地域の実態は厳しさを増している。集落営農組織ができていても、平均70歳を超え、基幹的作業従事者の年収が200万円程度で後継者がおらず、年齢をプラス10すれば、10年後の崩壊リスクが高い集落が全国的に激増している。また、農家の1時間当たり所得は平均で961円。後継者を確保しろとは酷である。

 飼料の海外依存度を考慮すると、牛肉(豚肉)の自給率は現状でも11%(6%)、このままだと、2035年には2%(1%)、種の海外依存度を考慮すると、野菜の自給率は現状でも8%、35年には3%と、信じ難い低水準に陥る可能性さえある。国産率96%の鶏も飼料とひなの海外依存度を考慮したら自給率はほぼ0%だ。これでは地域コミュニティーを維持できるわけがないし、不測の事態に地域の住民や国民への量的・質的な食料安全保障の確保は到底できない。

 GoTo事業のもう一つの問題は、経済を回して迂回(うかい)的に支援する仕組みにある。経済は回さずに必要な人に直接所得補償をすべきだ。感染抑止になるし、必要な人に支援が届くまでの中間で予算が雲散霧消する構造を打破できる。

 予算の「雲散霧消」は今に始まったことではない。例えば、08年の餌危機には、国は緊急予算を3000億~4000億円手当てした。それを、そのまま緊急的な乳価補填(ほてん)などに使えば、機動的に畜産・酪農所得を支えられたが、乳価補填には100億円程度しか使われなかった。

 大部分はどこへ行ったのか。なぜ、もっと直接的に農家の所得補償ができないのかと、食料・農業・農村審議会の畜産部会や農畜産業振興機構の第三者委員会において疑問を呈したのは消費者側委員だった。生産者と消費者は運命共同体だ。

 今こそ、国の予算もシンプルで現場にダイレクトに届くように構造転換すべきときだ。
 

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