米の転作深掘り 飼料柱に官民で強化を
2021年03月04日
2021年産主食用米はこのままでは過剰作付けになりかねない。相対取引価格(消費税・包装代を除く)が、60キロ平均1万1000円程度となった14年産水準に下落することも懸念されている。農家の経営安定には飼料用などへの転換が求められる。生産の目安の深掘りが必要で、行政の指導力発揮が不可欠だ。
主食用米に過剰感があり、需給均衡には、20年産が作況100だった場合と比べ21年産は生産量で36万トン、作付面積で6・7万ヘクタール、割合でともに5%の減産が必要と農水省は見通す。過去最大規模の転作拡大となる。
しかし、JA全中のまとめでは、各県の生産の目安を合計すると減産は約20万トンにとどまる。また、同省がまとめた作付け意向では28都道府県が前年並みの傾向で、一層の転作推進が必須だ。県によっては目安の削減や、目安よりも生産を減らす深掘りも必要だといえる。
一方、20年産の相対取引価格(同)は19年産を毎月下回り、下げ幅も拡大。1月は60キロ1万3600円強で6%安だった。前回の米価下落が始まった13年産よりも低い価格で推移している。前回は13、14年産の2年間で同約4600円と大幅に下がった。繰り返さないためには、種もみや作付けの準備が始まる中で、非主食用米への転換が現実的であろう。用途別の需給状況を見ると飼料用が柱になる。
主食用米の過剰作付けは農家の経営に二重の損失を与える。生産過剰になれば米価が下落、それに見合うほど需要が増えなければ所得が減る。助成金を含め、作付け転換していれば得られたであろう所得もない。
作付け転換は個別農家の経営判断の問題というだけはない。地域の水田農業全体から得られる所得を増やすには、団地化によるコスト削減など産地ぐるみでの計画的対応が必要だ。課題は、JA以外に出荷する農家や集荷業者への推進である。JAグループの集荷率は4割程度だからだ。2月26日の自民党農業基本政策検討委員会では、行政に対応を求める意見が出た。
野上浩太郎農相は同日の記者会見で「都道府県がイニシアチブを発揮して、産地や農家・生産法人など全ての関係者が一丸となって、(6月末が期限の)営農計画の検討を進めてほしい」と訴えた。「産地の後押しをしていく」との決意も表明した。地方組織を含め同省にも、地方行政と共に、集荷業者・団体や大規模農業法人などへの一層強力な働き掛けを求める。
また転作拡大面積に対し国が県と同額(上限10アール5000円)を助成する支援策に、15県(2月22日現在)が取り組む方針だ。他県も活用してほしい。議会の影響力にも期待したい。
農家の所得減少は地域経済も冷やしかねない。主食用米と、助成金を合わせた転作作物の手取りの見通しなど経営判断に役立つ情報も提供しながら、作付け転換への農家の理解を得る官民挙げた取り組みが重要だ。
主食用米に過剰感があり、需給均衡には、20年産が作況100だった場合と比べ21年産は生産量で36万トン、作付面積で6・7万ヘクタール、割合でともに5%の減産が必要と農水省は見通す。過去最大規模の転作拡大となる。
しかし、JA全中のまとめでは、各県の生産の目安を合計すると減産は約20万トンにとどまる。また、同省がまとめた作付け意向では28都道府県が前年並みの傾向で、一層の転作推進が必須だ。県によっては目安の削減や、目安よりも生産を減らす深掘りも必要だといえる。
一方、20年産の相対取引価格(同)は19年産を毎月下回り、下げ幅も拡大。1月は60キロ1万3600円強で6%安だった。前回の米価下落が始まった13年産よりも低い価格で推移している。前回は13、14年産の2年間で同約4600円と大幅に下がった。繰り返さないためには、種もみや作付けの準備が始まる中で、非主食用米への転換が現実的であろう。用途別の需給状況を見ると飼料用が柱になる。
主食用米の過剰作付けは農家の経営に二重の損失を与える。生産過剰になれば米価が下落、それに見合うほど需要が増えなければ所得が減る。助成金を含め、作付け転換していれば得られたであろう所得もない。
作付け転換は個別農家の経営判断の問題というだけはない。地域の水田農業全体から得られる所得を増やすには、団地化によるコスト削減など産地ぐるみでの計画的対応が必要だ。課題は、JA以外に出荷する農家や集荷業者への推進である。JAグループの集荷率は4割程度だからだ。2月26日の自民党農業基本政策検討委員会では、行政に対応を求める意見が出た。
野上浩太郎農相は同日の記者会見で「都道府県がイニシアチブを発揮して、産地や農家・生産法人など全ての関係者が一丸となって、(6月末が期限の)営農計画の検討を進めてほしい」と訴えた。「産地の後押しをしていく」との決意も表明した。地方組織を含め同省にも、地方行政と共に、集荷業者・団体や大規模農業法人などへの一層強力な働き掛けを求める。
また転作拡大面積に対し国が県と同額(上限10アール5000円)を助成する支援策に、15県(2月22日現在)が取り組む方針だ。他県も活用してほしい。議会の影響力にも期待したい。
農家の所得減少は地域経済も冷やしかねない。主食用米と、助成金を合わせた転作作物の手取りの見通しなど経営判断に役立つ情報も提供しながら、作付け転換への農家の理解を得る官民挙げた取り組みが重要だ。
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農業遺産と里山システム 農村は可能性の宝箱 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
地域伝統の持続可能な農業システムを評価する「日本農業遺産」に、今年新しく7地域が加わりました。これは国連食糧農業機関(FAO)による「世界農業遺産」の基準にのっとって国が定めているもので、世界および日本の「農業遺産」は、30地域に上ります。この農業遺産で最も特筆すべきは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)17目標の全てに貢献する点です。
そもそもSDGsが国連で提唱されるに至った背景には、世界的な科学者グループによる「プラネタリーバウンダリー(人間の活動が『地球の限界』を超えつつある)」という概念が元になっているのですが、そうした自然共生社会へ世界一丸となってかじを切る先駆けとしてFAOが提唱したのが「世界農業遺産」なのです。
日本初の世界農業遺産として2011年、石川・能登と新潟・佐渡を申請登録する道筋を作った専門家会議委員長で、公益財団法人地球環境戦略研究機関理事長の武内和彦氏は、先日の認証式で、「自然資本の健全性はSDGs達成の基礎であり、国連では、家族農業の振興や生態系の回復(エコシステム)を掲げている」と講演しました。世界的な環境学者である武内委員長は、10年に開かれた第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で、日本における自然共生型モデルを「SATOYAMA」として国際社会に広めたことでも知られています。
農業を持続可能なものにすることは、いま議論されている「みどりの食料システム戦略」のテーマです。
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ところで、今年認定された7地域のうち、特に時代を表していると感じたのは、兵庫県・南あわじの水稲・タマネギ・畜産システムと、宮崎県・田野清武地域の干し野菜システム(名称略)です。いずれも「耕畜連携」が環境や生産に貢献しているという評価で、これは国の畜産の未来を考える上でも希望となるものです。
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プレーヤーが楽しそうに取り組む地域には、人を呼び込む力があります。まず農村に必要なのは、郷土への愛着や誇りではないでしょうか。循環型の里山ライフスタイルは、SDGsの根底に通じます。本当はどんなむらも、可能性の宝箱なのです。
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2021年04月13日

移住・二地域居住したい 都民4割が関心 首位は鎌倉・三浦(神奈川) リクルート調査
東京都民の4割が地方移住や二地域居住に関心があるとの調査を、民間会社がまとめた。移住や二地域居住に関心のある都民に住みたいエリアを聞き、ランキングもまとめた。1位は、神奈川県の鎌倉・三浦エリアで、「街ににぎわいがある」を理由に挙げた人が多かった。
調査は、(株)リクルートが1、2月、東京都在住の20~69歳の男女を対象にインターネットで行った。東京駅から50キロ圏外を「地方」とし、希望するエリアを三つ選んでもらった。回答数は、事前調査は1万5572人で、本調査は1万572人。
事前調査で移住・二地域居住に関心があるか聞いた。「強い関心がある」が7%、「関心がある」が25%だった。移住・二地域居住が決まっている人や実施に向けて行動している人を含めると、4割が関心を持っていた。
本調査で、関心があると答えた人に理由を聞くと「自然が豊かな環境で生活したい」が56%で最も多かった。「リラックス・リフレッシュできる時間・空間がほしい」が41%、「住居費を下げたい」が31%の順だった。
ライフステージ別では、「自然が豊かな環境で暮らしたい」と答えた人は、子育てを卒業した60歳以上の夫婦世帯と、子どものいる家族世帯で多かった。単身の女性は「東京での生活・仕事に疲れた」が多かった。
移住などに関心があると答えた人に、希望するエリアも聞いた。選んだ理由は、街のにぎわいや医療・子育て環境、地域の自然環境などが多い。観光地として有名なエリアなどが人気を集めた。
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2021年04月17日
協同の未来像 つながる力は変革の力
日本協同組合連携機構(JCA)が、今後の指針となる「2030ビジョン」を策定した。協同組合間の連携や仲間づくりを通じて、地域課題に向き合い持続可能な社会を目指す。目標は「協同をひろげて、日本を変える」。協同組合の未来に向け、学び、つながり、行動しよう。
JCAは3年前に発足。国内の協同組合をつなぐプラットフォーム(基盤)の機能を担う。JAグループ、生協、漁協、森林組合、ワーカーズコープなどを横断的に結び、協同組合間連携の推進、調査・研究、政策提言を行う。
長期ビジョンは、2030年までの環境変化を見据え、組織協議を重ねてきた。結果、安心して暮らせる地域づくりなど、各協同組合の基本方向が同じであることを改めて確認。新型コロナウイルス禍などで顕在化した格差の拡大や社会的孤立、文化の衰退などの課題も踏まえ、相互扶助を理念とする協同の価値をさらに広げることで一致した。
ビジョンでは、各組合・組織同士で対話を深めることが運動の出発点だとした。その上で、それぞれの強みや特性を生かしながら、各地での実践を通じて緩やかにつながることが重要だ。また、運動の継続には、社会性と事業性の両立、それを支える多様な主体の参画を求めたい。
ビジョンはそのための具体策として、地域課題を話し合う円卓会議の推進、教育・研修に役立てる協同組合白書の刊行、協同組合法制度・税制の研究などを挙げた。
協同組合間連携の鍵を握るのは円卓会議である。既に42都道府県で連携組織はあるが、その取り組みは学習会やイベントが大半で、子ども食堂の運営、買い物弱者や災害支援、環境保全など社会性のある地域密着型の実践はまだ少ない。こうした分野で小回りの利く活動を展開するワーカーズコープやNPO法人などとの連携を強めるべきだ。
また、豊富な事業ノウハウとネットワークを持つJAの参画も促したい。准組合員や住民を巻き込んだ協同活動は地域貢献のモデルとなる。JAにはキープレーヤーとしての自覚と役割を期待する。
混迷の時代にあって協同の価値を見直す動きは、世界的潮流でもある。国際協同組合同盟(ICA)が昨年打ち出した新戦略でも協同組合の「強化と深化」を掲げ、「協同組合間協同」の推進などを重点課題に据えた。
コロナ禍で、暮らしや健康を支える協同組合セクターへの関心は高まっている。長期ビジョンは、広く市民社会とつながることで、初めて変革の力となる。小さな協同から始めよう。地域の課題に真っすぐ向き合い、愚直な取り組みを積み上げることでしか共感と広がりは得られない。
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2021年04月13日

走る、つなぐ 地域の食 [コロナが変えた日常]
新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛や飲食店の営業短縮が長期化する中、東京都三鷹市では、地域密着の宅配サービス「チリンチリン三鷹」が1周年を迎える。
JA東京むさしの直売所「三鷹緑化センター」を拠点とし、農家が生産する野菜などの生鮮食品と、地元の飲食店が作った弁当などを自転車で宅配。コロナ禍で休業を余儀なくされた人らが配達員となり、市内全域に届けている。
この仕組みに、農産物の新たな販路を探していた農家が加わることで、消費者は新鮮で安心な野菜や肉、卵などを在宅のまま買えるようになった。購入者は配達員に1回500円の支援金を支払う。
参加農家は1年で2戸から20戸に広がった。直売所にない物は配達員が協力店に立ち寄って調達。注文を受ける電話の応対は、地元の葬儀社が担当するなど、地域挙げての協力体制だ。多品目の供給ができるようになり、地元産の食材にこだわる飲食店も増えた。
市内在住の発起人、濱絵里子さん(38)は「みんなの『困った』を結び付けたら面白い展開になった。今後は野菜ごみを再び農地に返すなど、地元で活動の輪を広げていきたい」と話す。(仙波理)
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2021年04月17日

桜花ゼリー 長野県松川町
長野県松川町内の農家13戸で運営する農産物加工施設「味の里まつかわ」が桜の花を加工し、飯田市の製菓店が製造するゼリー。
原料は、町内で栽培する八重桜の一種で加工用の「関山桜」の花びら。これを梅酢に1週間ほど漬け、製菓店がゼリーに仕上げる。
同町は「竜峡小梅」発祥の地。果肉の部分が多く、かりっとした食感が特徴だ。この梅を使った白梅酢で桜の花を漬け込む。
1袋約80グラム(2個入り)で300円。町内の農産物直売所「あい菜果」や、飯田市の「およりてふぁーむ」農産物直売所、農産物直売所「あざれあ」で販売する。問い合わせは「味の里まつかわ」、(電)0265(36)7122。
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2021年04月13日
論説の新着記事
小水力発電の振興 農林業経営の下支えに
温室効果ガスの削減が求められる中で、小規模でもクリーンな電力を供給する小水力発電への期待が高まっている。河川や農業用水路を抱える農山村は、再生可能エネルギーの宝庫で、農業や林業などの基盤産業を支える可能性もある。政府は、本格的振興に取り組むべきだ。
小水力発電は、身近な河川や農業用水などを利用する「持続可能な循環型電源」だ。資源エネルギー庁によると、出力1000キロワット未満で固定価格買取制度を利用するのは約680カ所あり、発電容量は約15・5万キロワット。100万キロワット内外の原子力発電1基分にも満たない。しかし安全性は高く、拡大が必要だ。
地形に高低差があり、稲作で用水路が発達している農山村は設置に好条件だ。電力の地域自給率を高めたり、売電収入を得たりすれば地域活性化につながると期待される。
岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)地区では、発電事業を目的にした石徹白農業用水農業協同組合を設立。売電収入(2000万円超)を得て、耕作放棄地の整備や水路維持、集会所や街灯の電気代などの費用に役立てている。学ぶべき点は多い。
地域政策に詳しい埼玉大学大学院の宮崎雅人教授は、「農業や建設業のような産業を維持するための重要な手段の一つになるのではないか」と期待する。農林業者を含め事業者が取り組むことで兼業収入が得られ、経営を下支えする可能性があるためだ。
農水省は、かんがい排水など土地改良施設の操作に必要な電力の3割を小水力発電で賄う計画に取り組んできた。これまで、150近い土地改良施設で発電が行われ、ほぼ目標を達成した。今後5年計画で45施設に導入し、約4割を小水力発電などで賄う計画だ。加工施設など農業施設への電力供給も増やすべきだ。
小水力発電を広げるには、電力の安定供給に欠かせない安価な蓄電池の開発や、通年で水を確保する環境整備が課題になる。また、初期投資の確保や、電気の固定価格買取制度の充実、送配電網の拡大等も必要だ。発電事業を農業や林業など地場産業とつなぐ人材の育成も欠かせない。農山村振興の観点からの支援を急ぐべきだ。
日本の電力供給は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを排出する石炭と石油による発電が4割近くを占め、「石炭中毒」と世界的な批判を浴びている。再生可能エネルギーへの転換は喫緊の課題の一つだ。
菅義偉首相は、2050年までに日本の温室効果ガス排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を表明した。農山村での小水力発電の拡大は、目標達成への政策的要請にもかなう。
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2021年04月18日
農地特区延長法案 目的・効果 参院でただせ
一般企業による農地取得の特例措置を延長する国家戦略特区法改正案が衆院を通過した。特例の必要性や効果を巡る政府の答弁には与党も疑問を呈した。だが3時間の審議で可決。国会の存在意義が問われる。参院では、疑問点について明確な答弁を得た上で可否や修正を判断すべきだ。
同特区の兵庫県養父市では、2021年8月までの5年間、一般企業の農地取得を認めている。改正案はこの特例の2年延長が柱だ。提出に先立つ政府の同特区諮問会議で、民間議員が全国展開を要求。21年度中に特例のニーズや問題点を調査し、全国展開の可否を調整することも決めた。これを受けた法改正だ。
そもそも延長が必要なのか。同市での農地取得の実績は6社で計1・65ヘクタール。経営面積全体の5・5%にすぎず、残りはリースだ。13日の地方創生特別委員会での審議では、与党の自民党議員からも「大部分はリース。取得の必要性があるのか」との指摘が出た。当然の問題意識だろう。
一方、政府の答弁は理解し難い。所管の内閣府は、リースと取得で15・7ヘクタールの遊休農地の解消につながったことや6次産業化を成果と説明。だがリースが大半では、農業参入の成果だとしても、農地取得の成果とは言えない。
与党も指摘した疑問点に、政府は明確には答えていない。にもかかわらず、同委員会は1回、3時間余りで審議を終結。自民、公明、維新の各党の賛成多数で可決した。また、同委員会は採決に際して、一般企業の農地所有の目的と効果を明らかにするよう政府に求める付帯決議を採択した。これには立憲民主、国民民主の両党も賛成した。
与野党ともに理解に苦しむ対応だ。目的や効果は、延長の可否を判断する核となる基準で、審議で明らかにすべきことだ。与野党問わず、参院で政府にただすよう求める。
内閣府は「所有とリースを適切に組み合わせて営農できるようになることに意義がある」とも説明するようになった。法制定当時から疑問視されていた農地取得の効果をいまだに示せない中では、論点のすり替えでしかない。誠実に答弁すべきだ。
生産現場では、企業の撤退や農地の転用・産廃置き場化などへの懸念が強い。また政府の規制改革推進会議は、農地所有適格法人の議決権要件の緩和を議論している。一般企業が経営を支配できるようになれば農地所有を全国で認めることと同じで、なし崩し的解禁への不安がある。
こうした声に応え、徹底した審議が必要だ。国会は憲法が定める国権の最高機関で国の唯一の立法機関であり、国民を代表する国会議員が組織する。その矜持(きょうじ)を持って臨んでもらいたい。
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2021年04月17日
原発処理水の放出 風評防止 地元理解が先
政府は、放射性物質トリチウムを含む東京電力福島第1原子力発電所の処理水を海洋に放出する方針を決めた。2年後をめどに始める考えだ。漁業者らは反対しており、強行すべきではない。風評被害防止対策への地元の納得と、安全・安心への国民の理解を得ることが前提だ。
政府が決めた海洋放出の基本方針によると、トリチウムの濃度を国の規制基準の40分の1に薄めて放出する。
風評被害への懸念などから反対を表明していた漁業者の姿勢は、政府の方針決定後も変わらない。全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は抗議の声明を発表した。懸念は農業者も同じだ。JA福島五連の菅野孝志会長は談話で、「福島県の第1次産業に携わる立場として極めて遺憾」とし、「本県農林水産業の衰退が加速するとともに風評被害を拡大することは確実である」と危機感をあらわにした。
風評被害への危機感は政府も認識している。基本方針では、新たな被害が生じれば産業復興への「これまでの努力を水泡に帰せしめ、塗炭の苦しみを与える」と表明。「決して風評影響を生じさせないとの強い決意をもって対策に万全を期す」とした。政府は、被害防止を「決意」にとどめず、「至上命令」と自覚すべきだ。それでも被害が出れば、東電に、被害者に寄り添っての十分な賠償を迅速に実施させなければならない。
10年前の原発事故の風評被害は依然続いている。消費者庁の1月の調査では、放射性物質を理由に食品の購入をためらう産地として福島県を挙げた人は8・1%だった。
実際、福島県の農業では価格が回復しきれていない品目がある。農業産出額も事故前の水準に戻っていない。水産業も同様である。県によると、沿岸漁業の20年の水揚げ数量は事故前の2割に満たない。試験操業だったためだ。ようやく21年度、本格操業に向けた移行期間に入った。
岸全漁連会長の声明は、政府が、関係者の理解なしには処理水のいかなる処分も行わないと県漁連に表明していたことを指摘し、海洋放出の政府決定を厳しく批判した。県漁連に東電も、同様の考えを文書で伝えている。約束を破ってはならない。政府と自治体、県民が連携すべき復旧・復興にも影響しかねない。
風評被害防止のために政府と東電には、安全性を巡って分かりやすい情報提供や対話など国民の理解を得る取り組みを徹底し、成果を上げることが求められる。ただ知識として分かっても、安心感を得られるとは限らない。海洋放出の実施主体となる東電では柏崎刈羽原発のテロ対策の不備など不祥事が相次ぎ、国民の不信感が深まっている。信頼を得ることが不可欠だ。
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2021年04月16日
野菜の需給調整 価格安定へ産地連携を
農水省は、主要野菜の緊急需給調整事業を大幅に見直した。価格低落時の生産者への補填(ほてん)水準を引き上げ、資金の生産者負担割合は軽減した。需給安定には多くの産地の事業参加が不可欠である。全国の産地が協調・連携して取り組むよう、同省は内容を周知徹底すべきだ。
同事業は、天候の影響を受けやすく、作柄・価格の変動も大きく、消費量が多いダイコン、ニンジン、キャベツ、レタス、ハクサイ、タマネギの6品目を対象に実施している。市場価格が、過去の市場平均価格の80%以下に低落した場合、または50%以上に高騰した場合が発動の目安だ。
価格低落時の対策としてこれまでは、出荷の後送りには過去の平均市場価格の3割、加工用への切り替えや土壌還元には4割を補填していた。しかし補填水準が低く生産者のメリットが小さいとして、事業の活用を巡る合意形成が難しいとの指摘があった。実際、過去10年間で最も野菜価格が低迷した2019年(日農平均価格で1キロ130円)も活用はなく、低調だった。
そこで同省は21年度から、価格低落時対策の全メニューの補填水準を平均市場価格の7割に引き上げた。また国と生産者が1対1で造成してきた資金の負担割合を4対1とし、生産者負担を20%に引き下げた。
同事業の実効性が課題となる中で生産者のメリットが高まり、市場価格が大幅に下落する前の事業活用が促されるとみられる。野菜相場の安定につながる見直しとして評価したい。
また、社会的要請が高まる食品ロスの削減に向けて事業のメニューも再編。加工、飼料化、フードバンクへの提供など、有効利用を促す性格が強まった。しかし、有効利用には受け入れ先の手配などの仕組みが必要となるため、産地が取り組みやすい実効性のある体制の充実が重要だ。
同事業とともに生産基盤を支えてきたのが、価格低落時の収入減少を補う野菜価格安定制度だ。しかし、政府内には、青色申告を行う農家が対象の収入保険制度への一本化を検討すべきだとの意見があり、21年度に論議が予定されている。野菜価格安定制度と同事業は、野菜の産地づくりや安定供給に貢献しているとの評価が高い。多くの農家が加入できるセーフティーネット(安全網)は必要である。
食料・農業・農村基本計画では、野菜の生産量を18年度比で、30年度までに15%増やす目標を設定。「豊作時の価格低落や不作時の価格高騰を防止・緩和する具体策を検討する」と明記した。消費者への安定供給が目的だ。今回の見直しを機に同省には、多くの産地が需給安定に取り組む態勢づくりが求められる。
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2021年04月15日
熊本地震5年 経営発展へ支援継続を
熊本地震から5年。多くの犠牲者を出し、農業被害も甚大となった。熊本県ではこの間、営農再開が進んだ。経営が軌道に乗るよう支援の継続が必要だ。復旧工事が未完の地域もある。県は「創造的復興」の旗を掲げ続け、農業振興に力を尽くすべきだ。国の後押しも求められる。
2016年4月14、16日、最大震度7の揺れが襲った。関連死を含む犠牲者は熊本県などで273人。ピーク時には、5万人近くが仮設住宅に入居した。多くの農業用施設が傷み、水田はひび割れて無残な姿になった。農業被害は熊本県で1353億円に上った。
農家の高齢化や担い手の減少、人手不足などによる生産基盤の弱体化が、震災で加速することが懸念された。対症療法のような復旧事業では、農業の衰退を防げない。再起に向けて県が、被災前よりも力強い農業を築くために「創造的復興」を掲げたのには、そうした背景がある。
農協職員の経験もある蒲島郁夫知事は震災後、日本農業新聞のインタビューで「前よりもいい姿に復興させたい」と意欲を示していた。
5年間で被災した田畑の整備は進んだ。県によると3月末時点で、農業を続けたいと希望した全ての農家(1万5500戸)が、何らかの作物を作付けできるようにまでなった。また、農林業センサスで震災前(15年)と後(20年)を比較すると、経営面積や経営体数で、被災地が突出して衰退した形跡は認められなかった。
一方で、基盤整備で区画を拡大し、効率的な農業が可能になった場所もある。
これらは、県の旗振りと、農家やJAの頑張りの結果だ。県と、JA熊本中央会などJAグループは連携協定を結び、生産基盤や地域再生を進めてきた。
今後は再開後の農業経営が軌道に乗り、さらに発展段階に移行できるかが問われる。作付けは可能になったが、農道や水路の工事が終わらない地域がある。特に中山間地に偏っているのが心配だ。水が引けず、大豆栽培を続ける稲作農家がいる。再生した棚田で昨年、主食用米を育てたが収量が期待を下回り、不安を感じた人もいる。
営農再開は、あくまで復興の通過点である。農業で稼ぎ、農地と地域を守ってきた被災農家が皆、「前よりもいい姿」になるには、まだ時間が必要だ。新型コロナウイルス禍や天候の影響で、主食用米の需要低下や野菜価格の乱高下など、新たな課題にも直面している。
5年という節目を機に、行政には、経営の発展と地域農業の振興に向けた道筋を描き、細やかな支援を続けるよう期待したい。
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2021年04月14日
協同の未来像 つながる力は変革の力
日本協同組合連携機構(JCA)が、今後の指針となる「2030ビジョン」を策定した。協同組合間の連携や仲間づくりを通じて、地域課題に向き合い持続可能な社会を目指す。目標は「協同をひろげて、日本を変える」。協同組合の未来に向け、学び、つながり、行動しよう。
JCAは3年前に発足。国内の協同組合をつなぐプラットフォーム(基盤)の機能を担う。JAグループ、生協、漁協、森林組合、ワーカーズコープなどを横断的に結び、協同組合間連携の推進、調査・研究、政策提言を行う。
長期ビジョンは、2030年までの環境変化を見据え、組織協議を重ねてきた。結果、安心して暮らせる地域づくりなど、各協同組合の基本方向が同じであることを改めて確認。新型コロナウイルス禍などで顕在化した格差の拡大や社会的孤立、文化の衰退などの課題も踏まえ、相互扶助を理念とする協同の価値をさらに広げることで一致した。
ビジョンでは、各組合・組織同士で対話を深めることが運動の出発点だとした。その上で、それぞれの強みや特性を生かしながら、各地での実践を通じて緩やかにつながることが重要だ。また、運動の継続には、社会性と事業性の両立、それを支える多様な主体の参画を求めたい。
ビジョンはそのための具体策として、地域課題を話し合う円卓会議の推進、教育・研修に役立てる協同組合白書の刊行、協同組合法制度・税制の研究などを挙げた。
協同組合間連携の鍵を握るのは円卓会議である。既に42都道府県で連携組織はあるが、その取り組みは学習会やイベントが大半で、子ども食堂の運営、買い物弱者や災害支援、環境保全など社会性のある地域密着型の実践はまだ少ない。こうした分野で小回りの利く活動を展開するワーカーズコープやNPO法人などとの連携を強めるべきだ。
また、豊富な事業ノウハウとネットワークを持つJAの参画も促したい。准組合員や住民を巻き込んだ協同活動は地域貢献のモデルとなる。JAにはキープレーヤーとしての自覚と役割を期待する。
混迷の時代にあって協同の価値を見直す動きは、世界的潮流でもある。国際協同組合同盟(ICA)が昨年打ち出した新戦略でも協同組合の「強化と深化」を掲げ、「協同組合間協同」の推進などを重点課題に据えた。
コロナ禍で、暮らしや健康を支える協同組合セクターへの関心は高まっている。長期ビジョンは、広く市民社会とつながることで、初めて変革の力となる。小さな協同から始めよう。地域の課題に真っすぐ向き合い、愚直な取り組みを積み上げることでしか共感と広がりは得られない。
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2021年04月13日
満蒙開拓と感染症 災禍の中教訓考えよう
国策で農業移民として旧満州(中国東北部)に送られ、多くの犠牲者を出した満蒙(まんもう)開拓団。テレビの取材を通し、ソ連侵攻後の避難先の大都市で18万人が飢えや寒さ、感染症で亡くなった事実に光が当たった。新型コロナウイルス禍の中、今につながる教訓を考えたい。
18万人は、満州最大の都市・奉天(現瀋陽)などの大都市で亡くなった。ソ連侵攻による満州での日本人死者は6万人で、その3倍に当たる。
日本農業新聞は、3月27日掲載の「都市で死者18万人なぜ 満蒙開拓団『見過ごされた事実』から迫る」で、番組を企画したディレクター矢島良彰さんの取材の内容や視点を紹介した。日本社会の今の問題につながると考えたからだ。番組は翌日、NHK―BS1「満州 難民感染都市」のタイトルで放送された。
記事掲載と番組放送の後に読者から声が寄せられた。その中から、今の問題との類似性への指摘に着目したい。
番組では、国に見放され命からがら避難した開拓団員が「避難先の奉天でぜいたくをしている」とデマを流された事実を紹介した。東日本大震災の被災地支援を続ける人は「真っ先に思い出したのは、東京電力福島第1原子力発電所の事故で避難した人が『賠償金でぜいたくをしている』と誹謗(ひぼう)中傷された事実。お互い犠牲者なのに差別が起きてしまう構図がまったく同じだ」とみる。
難民収容所で発疹チフス、ペスト、コレラといった感染症が拡大、都市居留民は避難民を差別し、避難民には不信が募った。それが助け合いを阻む「見えない壁」となり、結果、居留民も感染者になった。新型コロナの感染者や医療従事者への差別と重なる。
こうした事実を矢島さんが知ったきっかけは、奉天で日本人居留民会が発行した難民救済事業要覧。大量死の直接の要因を「資金難による3カ月の救済遅れ」と記す。
「国民の命を守る」という責務を国が放棄した後、取り残され、苦難を強いられた人々。今に目を移せば、コロナ禍の中での解雇・雇い止めの拡大、貧困の深刻化、自殺者の増加……。国は責務を十分果たしていると言えるのか。国民は注視し、問題があれば声を上げなければならない。
矢島さんは日中両国の20人ほどから証言を得た。そこから、厳しい暮らしの中で現地の人が、日本人が帰国できるよう寄付を集めたり、孤児を育てたりするなど国を超えた助け合いの事実も分かった。
「さまざまな立場の人の話を突き合わせ、悲劇性だけに目を奪われないように」と矢島さん。今起こっていることを一人一人が冷静に、多角的に見る目を養おう。それが、助け合える社会につながる。
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2021年04月11日
100歳プロジェクト 支え合う地域づくりを
JA全中は、健康寿命100歳プロジェクトの一層の推進に向けて報告書をまとめた。健康を軸に、組合員・地域住民・JAのつながりを深める。誰もが住み慣れた場所で、できるだけ長く、生き生きと暮らせる地域づくりに生かしたい。JAの組織基盤強化にも結び付けよう。
プロジェクトは、2020年度で開始から10年。健康寿命を伸ばすため「健診・介護」「運動」「食事」を3本柱に、JA介護予防運動やウオーキング、乳和食などさまざまなメニューを提供してきた。今回、内容を改善し、地域活性化に貢献する具体策を検討、報告書をまとめた。
健康の概念を身体中心から精神的なものにまで広げ、3本柱を「からだ」「こころ」「つながり」に再編。体と心の健康と、社会とつながる活動に取り組む。対象も高齢者というイメージが先行していたため、改めて「全世代」を提示した。プロジェクトによって、世代を超えた組合員・住民の仲間意識を醸成する。JAとの接点も増やし、信頼感を高めることで、アクティブメンバーシップを拡大、組織基盤の強化にもつなげる。
10年間を振り返ると、①取り組みにJA間、県間の格差がある②活動が助けあい組織や女性組織、担当部署にとどまっている③行政との連携が不足している――といった課題も見えてきた。健康を軸に地域づくりを進めるには、事業や部署の枠を超え、JAが一丸となる必要がある。
報告書では、農を軸とした健康に結び付く取り組み(アグリ・サイズ)を新たなメニューとして開発、農作業の準備運動、整理運動やフレイル(虚弱)対策となる料理レシピ紹介などを提案する。いずれも共済連や厚生連などの事業連との連携が期待できる。
団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢化が加速する「2040年問題」も見据える。国の推計では、40年時点で65歳の人のうち、男性は4割が90歳まで、女性は2割が100歳まで生きるとされ、“人生100年時代”が視野に入る。一方で、少子化などで現役世代は急減する。
プロジェクトが掲げる「つながり」が、同問題への対策の鍵の一つだ。JAが起点となり、健康を軸に、組合員・住民同士のつながりをつくる。例えば体の健康には健診や運動を、心の健康には社会参加など生きがいを得られる活動をJAが働き掛け、それぞれの取り組みの場所や場面でつながりを生み出す。それを網の目のように張り巡らせ、老若男女問わず支え合う地域づくりにつなげる。
組合員・住民の健康を守り、誰もが安心して長く暮らせる地域づくりはJAの役割である。行政などと連携し、推進しよう。
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2021年04月10日
国土の将来像 食料の安定生産を柱に
2050年までの国土の将来像を検討する国土交通省の専門委員会が最終取りまとめの骨子案を示し、「真の豊かさを実感できる国土」を目標に掲げた。食料を安定供給できなければ豊かな国民生活は成り立たない。政府は地域の維持・振興を後押しし、食料の生産基盤を強化すべきだ。
骨子案は、同省の国土の長期展望専門委員会が提示。「真の豊かさ」の一つに「水・食料などの確保」を挙げた。委員から「カロリーベース食料自給率の問題の具体的なプロジェクトの積み上げ」(寺島実郎日本総合研究所会長)を求める意見もあり、食料安全保障の確立が国土形成の観点からも提起された。
カロリーベースの食料自給率は19年度が38%で、6割を海外に依存する。人口増加などで将来、世界的な食料需給の逼迫(ひっぱく)が懸念され、気候変動による自然災害のリスクも国内外で高まる。食料を国内で安定的に生産・供給し、自給率を引き上げ、国民の命と健康を支えることが「真の豊かさを実感できる国土」の基礎になる。
同委の最終取りまとめは、政府の国土政策の根幹となる国土形成計画の検討に反映される。国土の一部でもある農地を十分に活用し食料生産を維持・拡大することを、国民の共通課題として、農政だけでなく国土政策でも前面に打ち出すよう求める。農地を使う農業者はもちろん、保全に協力する地域住民がいなければ食料生産の継続は難しい。地域のコミュニティーの維持が食料安全保障に直結する。
農地を含む国土の管理に向け骨子案は「地域管理構想」という考え方を示した。人口減がさらに進んで農地や道路などの管理が行き届かず、地域や国全体に悪影響が出る事態を避けなければならない。そのため、まず地域住民自らが管理方法などを検討・策定し、その取り組みを支援する方向だ。地域に人がいてこそ成り立つ構想だ。農村の人口減を食い止め、新たに人を呼び込むことが欠かせない。
地域に住み続けられる環境を整え、移住の動きを生み出すために骨子案は「地域生活圏」の形成を提示した。10万人前後を目安とした圏域で、生活の利便性や経済環境の向上、人材確保を推進する。
しかし中山間地域などが外れる可能性がある。「小さな拠点」を通じて生活サービスを維持する方向を示したが、地域条件で政策支援に格差があってはならない。同地域の農家数、農地面積、農業産出額はいずれも全国の約4割を占め、食料生産にとって重要だ。集落機能が弱っている地域にこそ、てこ入れが求められる。住民や移住者にとって魅力ある環境をつくり、農山漁村の維持と食料生産の継続・拡大につなげる必要がある。
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2021年04月09日
JA相談機能強化 経営支援へ人材育成を
大規模化が進む地域農業の担い手に対して、経営戦略や営農計画などの策定、実践を支援する総合的な相談機能の強化が、JAには求められている。経営環境の変化に対応した提案で目標達成や経営改善に貢献し、JA事業への満足度の向上につなげたい。
効率的な農業経営に向けて担い手の大規模化が進む。担い手への農地の集積率は徐々に高まり、2009年度の48%から19年度には57%になった。複数の市町村で農地を利用する農地所有適格法人は19年が2243に上る。
一方、JA全中の調査によると、生産販売データに基づく経営コンサルティングを実施しているJAは20年度で、個人対象が16%、法人対象が9%だった。
JAグループは、第28回JA全国大会で農業所得の増大に向けてコンサルティングの強化を決議した。JA全中は組合員の経営支援ができるJA職員を育成するため、営農指導員にとって上位資格の一つとなる「JA農業経営コンサルタント」の資格を新設。21年度から本格実施する。
JAの担当職員には、どのような能力が求められるのか。先行するJA滋賀中央会の取り組みを参考にしたい。
農家組合員の経営課題の解決策を提案する能力を備えた職員の育成を20年度、県域で開始。コンサルティングを行う職員に求められることとして農業、農政、経営戦略、マーケティング、財務の知識などに加え、経営課題を聞き取り、整理・分析し、改善提案ができることを挙げる。経営課題を聞き取る傾聴、承認、質問をする能力と、農業者の経営を良くしたいという強い意識が必要だとした。
これらの知識と能力は、座学だけでは難しい。そこで研修には、営農指導員らが、農業法人の経営者から課題を聞き取り、整理・分析した上で具体的な経営改善策を提案する実習を取り入れた。JAグループの県域で、こうした実習を取り入れたのは全国初だという。同中央会は、滋賀県のJAでは、販売額の大きい農業法人との関係構築が今後、求められているとみている。
JAの営農指導員は、他のコンサルタントよりも生産現場をよく知っていることが最大の強みだ。コンサルティング能力を身に付けた職員が担い手の多様な悩みを解決し、JAとの関係強化につなげたい。JAが相談機能強化に注力するのは農業経営だけではない。神奈川県のJA相模原市は、メガバンクなどに対抗するため総合事業を生かした資産相談に取り組む。
JAに求められるコンサルティングの分野と能力はさらに多様化するだろう。営農や暮らしなど各分野の環境変化に対応した提案ができる人材を育成しよう。
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2021年04月08日