論説
コロナ下の茶 消費増へ機能性生かせ
茶に新型コロナウイルスの感染力を失わせる効果があるとの研究成果が報告され、茶の機能性が改めて注目されている。新型コロナの感染拡大による業務需要の減少もあり、リーフ茶の販売は苦戦。一方、食料品の巣ごもり消費は活発だ。機能性のPRの方法を含め官民で知恵を出し、消費拡大につなげたい。
今回の研究は奈良県立医科大学が行った。常温の茶に新型コロナウイルス培養液を混ぜて不活化する効果を調べた。紅茶では1分後、奈良県特産の「大和茶」(緑茶)では10分後に99%が不活化した。ペットボトルの緑茶でも30分後には99%が不活化した。静岡県や京都府でも茶の感染阻害効果を研究中だ。
茶にはカテキンが含まれ、インフルエンザウイルスの増殖を抑える効果が知られる。茶どころでは風邪予防などで「茶うがい」が推奨され、うがい茶も売られている。
ただ今回は試験管内の研究で、茶を飲むことによる感染予防効果は検証していない。ウイルスを不活化させる成分や仕組みも未解明だ。
それでも研究成果が報道され茶の機能性が注目された。茶が健康に良いことは昔から知られていたが、この数十年の研究で科学的に実証されてきた。カテキンには抗酸化、抗動脈硬化、血中コレステロールの抑制、抗菌、抗ウイルス、虫歯予防、血圧上昇抑制などの効果があるとされる。抗ストレス作用があるテアニンも含まれる他、カフェインやビタミン類も豊富だ。
一方、リーフ茶は需要の減少が続き、茶相場が長期に低迷、生産者やリーフ茶専門業者の経営は厳しい。加えて2020年産は新型コロナ禍による需要の減少が大きく、一番茶の平均価格が1990年以降最安値だった産地もある。6日の「かごしま茶」の新春初取引会で本茶価格が前年を下回るなど、今年も厳しいスタートとなった。
総務省の家計調査では1世帯当たりの緑茶・茶飲料の支出額は19年が1万1625円で、うち緑茶(リーフ茶)は3780円。緑茶・茶飲料の支出額は近年増加傾向で、茶離れが進んでいるわけではない。ペットボトル茶など茶飲料の支出が増える半面、リーフ茶は減少傾向だ。年代別では茶飲料への支出は50代が最も多く、次いで40代。健康に不安を感じる世代だ。リーフ茶は入れるのが手間だという人も多いが、ティーバッグタイプなど飲みやすい商品も出てきた。国産紅茶も増えている。
茶の機能性は、茶業団体や農研機構、国がパンフレットや冊子を作成・配布したり、動画を公開したりするなどしてPRしている。販売促進への一層の活用策を巡って、機能性表示食品制度など食品表示制度の利用を含めて検討を進める必要がある。研究の推進も求められる。
消費者も、自宅で過ごす時間が長くなっており、おいしさと健康を両取りできる茶の良さを認識し消費を増やしてほしい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月28日
ワクチン接種 混乱回避へ情報開示を
新型コロナウイルスのワクチンが迅速かつ混乱なく国民に行き届く態勢を早期に整えなければならない。国民への正確な情報提供が鍵を握る。過疎地で接種格差を生まないよう、高齢者への配慮も望まれる。
海外ではワクチン接種が本格化し6600万回を超える。米国が2000万回超、イスラエルのように人口割合で30%超の先行国もある。日本は2月下旬までの接種開始を目指している。まず1万人の医療従事者に先行実施、その後同従事者らに広げ、次いで65歳以上の高齢者、基礎疾患者・高齢者施設などの従事者の順で進める計画だ。
接種の実務を担うのは市区町村だが、重要なのはそこまで迅速、安定的にワクチンを届ける態勢づくりだ。これは国の責務であり菅内閣の力量がまさに問われる。接種までの準備は薬事承認、輸入・輸送・保管、接種拠点の選定、自治体との調整など多岐にわたる。菅義偉首相は接種担当に河野太郎行政改革担当相を起用した。縦割り行政に切り込む手腕を期待したとみられるが、壊し屋的な資質より、関係部局をチームにまとめ上げる調整力を河野氏に求めたい。
過去に例のない接種計画を円滑に実行するにはハードルがいくつもある。その一つはまずワクチンの必要量の早期確保だ。政府は先行する米製薬大手ファイザー社との間で7200万人分・1億4400回分の供給を年内に受ける契約を正式に結んだ。当初の6000万人分・1億2000万回分より増えたが、6月末としていた供給完了時期が半年延びたのが気掛かりだ。確保に万全を期すとともに、混乱を招かないためにもっと情報を出すべきだろう。
二つ目は市区町村の現場で接種に遅れが出ないようにすることだ。海外の事例を見ると、医療関係者や行政の人手不足から遅れが出るケースが見られる。接種券の配布をめぐる事務手続きの遅れも想定される。国、都道府県、市区町村との間の密な連携、要員の融通、事務のデジタル化など、しっかり準備するべきだ。
三つ目はワクチン接種を選ばない人への差別防止である。接種は任意であり、個人の判断に任されている。各種世論調査を見ると、接種を望まない人、当面様子を見たいという人が相当程度いる。使われるワクチンが新しい技術を使って短期間で開発されたことや、日本での試験データが少なく特例的な承認になることを踏まえれば、不安に感じる人が出るのは当然である。政府はワクチンの情報提供、特に副反応の海外事例などの情報提供を丁寧に行うべきだ。
四つ目は接種の格差をつくらないことだ。ここでは過疎地域の高齢者への対応を指摘したい。接種のネット予約ができない、電話で問い合わせても不通、さらに接種会場まで遠い、交通手段がないといった事態が想定される。行政や民間団体のきめ細かな支援がほしい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月27日
アキタフーズ事件 農政不信につなげるな
鶏卵生産大手アキタフーズの前代表を巡る贈収賄事件で吉川貴盛元農相が起訴された。農水省幹部が両者の会食に同席していたことにも厳しい目が向けられている。農政への信頼を揺るがしかねない事態だ。同省は国民目線で疑惑を解明し、説明責任を果たさなければならない。
農相在任中に前代表から賄賂を受け取ったとして元農相は在宅起訴された。前代表は、採卵鶏のアニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)を厳しくする国際基準案に反対することなどを要望したとされる。また両者の会食に、現事務次官の枝元真徹氏ら同省の職員が同席。国家公務員倫理規程では利害関係者の負担で飲食を共にすることを禁止しているが、政治家が負担したと職員は認識しているという。
同省は第三者委員会を設けて養鶏・鶏卵行政の公平性を検証する。また会食での同席については同倫理法の観点から調査し、結果を踏まえ対応する。
国際基準案に対して政府は反対意見を国際機関に提示した。賄賂などによって農政がゆがめられたとの疑念を国民から持たれないか、危惧せざるを得ない。野上浩太郎農相は、国際基準案を巡る政策判断は「妥当」との見解を早くから示してきた。第三者委での検証を表明した後も変わらない。しかし「結論ありき」と国民から疑われかねない。検証結果に理解と納得を得るには、検証の公正さに疑義が生じないよう注意が必要だ。会食の調査も同じである。
新型コロナウイルス禍に伴う農業経営の支援や、食料・農業・農村基本計画に基づく生産基盤の強化、消費者に国産を選んでもらう運動など、農業政策の推進には国民の支持が欠かせない。今回の事件で農政不信を招いてはならない。危機感を持って同省は対応すべきである。
心配は、農業をはじめ産業界による政策提案などが、政官業の癒着と国民からみなされることである。政府や政党に、現場の実情や課題を伝え、解決に必要な政策を提案し、実現のために要請活動や世論喚起を行うのは、民主主義社会では当然だ。それは産業界に限らず、主権者である国民の権利である。一方、閣僚や官僚への金品の提供や供応は裏口入学と同じだ。民主主義を破壊する行為である。
政策提案などそれ自体が政官との癒着と誤解されないよう産業界は情報を広く発信し、開かれた活動に努める必要がある。
第三者委の設置表明を受けて加藤勝信官房長官は記者会見で「説明責任を農水省が果たしていくことが必要だ」と述べた。同省が責任を負うのは当然だ。しかしコロナ対応が後手に回ったことなどで菅義偉政権への国民の不信感が高まっている。「政治とカネ」の問題も相次いで発覚。政府・与党がこの問題に真剣に向き合い、真相を究明し、再発防止策を示さなければ政治不信を増幅しかねない。国会での徹底審議も必要だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月26日
コロナとJA総会 議案事前説明に工夫を
JAの総会・総代会のシーズンを間もなく迎える。新型コロナウイルスが再び拡大し、事前の地区別説明会などの開催が難しいケースもありそうだ。組合員への議案説明や、質問・意見聴取を十分に行うことが重要だ。各地の事例も参考に集まらなくてもできる工夫をしたい。
JAの通常総会・総代会は例年3~6月が多い。数百人単位で集う大規模な会議体であり、密閉・密集・密接の「3密」を避ける工夫や対策が必要だ。感染状況の見通しが立たず、開催時期や会場の選定にも苦労するが、終息していないことを前提に準備すべきだろう。
感染リスク低減へ昨年は、来賓あいさつを省くなどで時間を短縮したり、出席者を抑えるため書面での議決権行使を依頼したりするといった対応が目立った。会場ではマスク着用や検温を依頼、消毒液を置き、会場の座席や換気、マイクの使用にも目配りした。組合員や役職員の感染を防ぐためこうした対応が今年も引き続き必要になろう。
感染防止とともに重要なのは議案内容への理解醸成だ。総会・総代会に向け、地域農業やJAの現状、課題を組合員と共有し、議案を説明し、意見を聞き、必要に応じて議案に反映させる取り組みが欠かせない。3密回避のため昨年は、地区別説明会などを中止せざるを得なかったJAが目立った。説明や意見の聴取・交換の場が減り、JAと組合員の距離や情報格差が広がるということがないよう注意しなければならない。
そのための実践例は各地にある。昨年7月に総代会を開いた三重県のJA伊勢は、約50分の議案説明用DVDを作成。事前説明会を中止し、書面議決を推奨したため説明を尽くそうと準備し、総代930人に資料や質問書と一緒に送った。
長崎県のJA壱岐市は同市のケーブルテレビを活用。総代会の議案の要点を収録し、6月の2週間にわたり1日2回放送した。JA兵庫南は、総代会資料を組合員に配布し、質問を募り、全質問を集約して一問一答形式でまとめた資料を再び組合員に配るなどした。
感染の防止と組合員への議案の説明や理解の浸透を両立させる手法として、各地の取り組みは参考になる。また、デジタル化が進み、ウェブ会議や動画配信も活用できるだろう。こうした対応は時間と労力が要る。早めの準備が肝要だ。
総会・総代会はJAの最高意思決定機関であり、事業計画や剰余金処分、役員選任など組織の重要案件を決める機会である。組合員の関心の高い自己改革の報告や支所・支店統廃合計画などの案件もあろう。
新型コロナ下で制約が多い中だが、議案について説明責任を果たし、理解を醸成するための工夫がJAには求められる。一方、JAの主役として組合員は、資料を読み込み、書面などによることも含めて、質問や意見、要望を伝えよう。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月25日
地域づくりと女性 活躍できる環境整えよ
政府の第5次男女共同参画基本計画は、女性に魅力的な地域づくりの重要性を指摘した。大都市への若い女性の流出が加速しているためだ。一方で「田園回帰」の動きが見られる。地域づくりへの女性の声の反映や意思決定への参画が必要だ。移住者や地域おこし協力隊、「関係人口」などとの連携も進めたい。
同計画は2021年度から5年間の政府の方針を示す。地域における男女共同参画の推進を重点に据え、10~20代女性の3大都市圏への転出超過を減らす目標を初めて設定。女性が地方を離れる背景として、育児や介護は女性の仕事といった性別役割分担意識が根強いことなどを挙げる。実際、女性農業者からは「集まりに参加したいが家族の同意が得られない」「農業技術などを学びたいが機会がない」といった声が聞かれる。
農林業センサスでは、基幹的農業従事者が減少する中で女性の減り方が大きく、割合が20年に4割を切った。日本農業新聞の「対論2021」で榊田みどり明治大学客員教授は、女性の高学歴化や仕事の幅の広がりで農業者と結婚しても農業をしない人も増えたことを挙げ、「女性が農業を選ばなくなっていることへの危機感を、男性も持った方がいい」と指摘した。
農業経営への女性の参画は収益性の向上につながり、地産地消や6次産業化、起業、食農教育などの取り組みで地域活性化にも貢献してきた。農業・農村の持続性の確保には、女性が暮らしやすく、働きやすく、活躍できる地域づくりが不可欠だ。
一方、地方と関わりを持つ人は増えている。地域おこし協力隊は増加傾向で、19年度には約5500人になった。政府は24年度までに8000人にする目標を設定。21年度予算案にはインターン制度を新設する経費を盛り込んだ。学生らに活動を知ってもらい人材確保と移住につなげる。20年度から5年間の地方創生施策の方向を示す第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、特定地域と継続的に関わる「関係人口」の創出・拡大に取り組む。地方移住の裾野の拡大といった観点からだ。
女性農業者の活躍の推進策を協議した農水省の検討会は昨年12月、同省や自治体、農業委員会、JAなどに①農村での意識改革②女性農業者の学び合いと女性グループの活動の活性化③地域をリードする女性農業者の育成と地域農業の方針策定への女性参画──などを提言した。
併せて、女性に魅力的な地域づくりの課題の把握や解決策の検討に「外の目」を生かし、移住・定着にもつなげたい。地域おこし協力隊のうち女性は4割を占め、女性農業者と協力した特産品づくりなどが各地で見られる。基盤はできつつある。
JA全中の中家徹会長は坂本哲志地方創生相との会談で地域活性化には女性の活躍が重要と伝え、創生相はJAグループの役割に期待を表明した。官民一体での環境づくりを求めたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月24日
農家のコロナ対策 リスク管理で経営維持
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、改めて農業者に注意を呼び掛けたい。基本的な予防対策に加え、不測の事態に備えた代替要員の手当てなど、経営維持のためのリスク管理を徹底しよう。
恐れていた冬場のコロナ第3波が各地で猛威を振るっている。今月発令された2度目の緊急事態宣言は、首都、近畿、中京圏など11都府県に拡大。茨城、熊本、宮崎、沖縄などは県独自の緊急事態宣言を発令した。そこに静岡県で変異ウイルスの市中感染も確認され、危機感はさらに募っている。感染の波は、大都市部から地方都市へと広がり、今やどこで感染が起きても不思議ではない。
農水省によると、農業者や農業関連施設での大規模な集団感染は報告されていないが、油断は禁物だ。「野外作業が中心の農業は大丈夫」「ハウス内も換気に気を付ければ心配ない」。そんな思い込みや「コロナ慣れ」に陥っていないか。生産現場での感染拡大は経営や農畜産物の供給に影響するだけに、感染防止の基本に立ち返りたい。
緊急事態宣言の再発令を受け、政府は改めて、業界団体が中心になって作成した業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは、各業界の実態に沿った感染防止策と事業継続に関する内容を盛り込む。農業関係者向けは大日本農会、畜産事業者向けは中央畜産会がそれぞれ作成して、周知・活用を働き掛けている。
農業者向けのガイドラインは団体のホームページで随時更新、順守すべきチェックリスト表も載せ、すぐ使えるようになっている。まず予防対策の基本は、日々の検温、「3密対策」、マスク着用、人との2メートルの間隔、適切な換気、作業場や事務所への飛沫(ひまつ)防止用シートの設置などだ。通常の手指消毒に加え、ドアノブや手すり、便座など人が触れる所は水と洗剤で拭き取る。共有するはさみなどの道具類の清掃も同様だ。また作業服は小まめに洗濯し、完全に乾いたものを着る。
ガイドラインは、こうした日常の衛生管理対策に加え、感染者発生時の対応、業務継続に向けた備えを求める。家族経営の場合、1人の感染でも営農の継続は難しくなる。不測の事態に備え、生産部会の仲間やJA職員ら代替要員のリストを作り、作業手順が分かるようにしておく。農業法人の場合も同様だ。あらかじめ組織内に支援体制を整備し、責任者や担当者を決め、事務所や作業場の速やかな消毒、代替要員の手当て、作業工程や動線の変更、関係機関との連携に取り組むよう求める。
特に代替要員は、人手不足の下ですぐに手当てできるとは限らない。国籍や職業を問わず代替要員を受け入れた農家の掛かり増し経費を助成する農水省の「農業労働力確保緊急支援事業」などを活用したい。感染リスクを想定し事前に備えることは、今や経営者の責任である。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月23日
米国新大統領就任 国際協調への転換急げ
民主主義の土台が揺れる米国で、民主党のバイデン氏が第46代大統領に就任した。トランプ前大統領が残した分断と対立は内外に混乱をもたらした。新大統領は国民の団結と民主主義の信頼回復に全力を挙げ、外交・通商政策で協調路線にかじを切る意向だ。手腕に期待する。
米国は民主主義の危機に直面している。トランプ支持派が連邦議会議事堂に突入し死者も出た。国内の対立は根深い。就任演説でバイデン氏は「全ての国民を団結させることに全霊をささげる」と結束を呼び掛けた。その上で、新型コロナウイルスとそれに伴う経済問題、気候変動、人種格差などの重要課題に取り組む考えを示した。
国民の融和は政策推進の基盤であり、米国の安定は国際社会にとって重要である。「最初の100日」で前政権の政策を転換しながらトランプ支持派の反発を抑えられるかが、その後の政権運営を左右する。
新型コロナ対策に、景気対策も加味し総額1兆9000億ドル(約200兆円)を投入する。途上国を含めた世界的な封じ込めが制圧には必要であり、世界保健機関(WHO)を中心に国際協調が不可欠だ。先頭に立ってもらいたい。地球温暖化対策も急務だ。国際的枠組み「パリ協定」への復帰手続きに入ったが、世界第2の二酸化炭素(CO2)排出国として率先して削減に取り組むべきだ。地球を救うのに残された時間は少ない。
バイデン氏は、前政権の米国第一主義から国際協調路線に切り替える考えを強調した。オバマ元大統領は「核兵器なき世界」を掲げたが、副大統領として支えたバイデン氏には、実現へ指導力を発揮してほしい。
新政権は、中国には厳しい姿勢で臨むとみられる。新型コロナ対策など地球規模の課題では協調し、覇権主義や香港での民主派弾圧などでは同盟国・友好国と連携し、国際秩序に沿うよう粘り強い対応が必要だ。
日本の農業に重要なのは、新政権の通商政策である。日米貿易協定の追加交渉や環太平洋連携協定(TPP)への復帰といった選択肢が考えられるが、不透明だ。与党民主党の支持基盤であるカリフォルニア州は米の産地。米を含め、農畜産物の市場開放圧力への警戒が必要だ。
貿易紛争は世界貿易機関(WTO)での解決が国際ルールである。機能不全に陥っているWTOの再構築が必要だ。まず空席になっている事務局長の選任を急ぎ、米国が妨げてきた紛争処理機能の正常化も必要だ。また自由化一辺倒の貿易ルールを、国連の持続可能な開発目標(SDGs)など時代の要請を踏まえた内容に改善すべきだ。
米国に対して日本政府には、地球規模の課題解決に向けて連携したり、けん引したりして国際社会で存在感を発揮するよう求める。一方、農畜産物の一層の市場開放など無理筋な要求は決然と拒否すべきだ。それが対等な同盟関係といえよう。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月22日
内閣支持が急落 コロナ対策で成果必要
日本農業新聞の農政モニター調査で菅義偉内閣の支持率が急落し、政権発足から3カ月余りで不支持率が上回った。新型コロナウイルス感染拡大防止対策と農業政策ともに評価が低いことが反映した。支持の回復には、感染防止と、農家を含む事業者の経営支援を最優先し、成果を上げることが不可欠だ。
農政モニター調査は昨年12月中下旬に行った。内閣支持率は44%で、発足直後の9月の前回調査から18ポイント下落し、不支持率は56%で同20ポイント上昇した。不支持は、首相の指導力のなさや信頼できないことなどが理由だ。新型コロナの感染拡大防止に向けた対応を「評価しない」との割合も高まり、7割になった。経済回復を重視し、感染防止対策が後手に回ったと国民から見られているといえそうだ。
農業政策でも「評価しない」(45%)が「評価する」(26%)を上回る。新型コロナ対策の経営支援も「評価しない」が6割で、評価するの2倍近い。
年が明けても感染拡大に歯止めがかからず、政府は11都府県に緊急事態宣言を再発令するに至った。飲食店の営業時間の短縮などで農畜産物の需要減少が心配され、すでに花きや高級果実は値を下げている。政権への信頼の低下が感染防止対策の不徹底につながり、感染者の増加が政権への不信感を生む。
こうした負の連鎖の中で農業経営も打撃を受けている。調査では、農業生産をしている人のうち、感染拡大の影響が続いているとの回答が5割を超えた。
負の連鎖を断ち切るには、時短営業を行う飲食店などへの十分な支援を含め感染防止対策に最優先で取り組み、併せて農畜産物の需要減少などで影響を受けた農家を徹底して支え、目に見える成果を出す必要がある。
首相肝いりの農林水産物・食品の輸出額5兆円目標の達成を巡っては「達成できない」と「過大だ」が4割を超え、やや懐疑的といえる。一方で「対策次第」が3分の1だった。輸出に農家が積極的になれるかどうかは、政策にかかっている。
日米貿易協定や環太平洋連携協定(TPP)、日欧経済連携協定(EPA)といった大型貿易協定については、程度に違いがあっても、9割近くが国内農業に「マイナスの影響がある」と予想する。影響の把握・分析をきめ細かく行い、必要に応じて対策を拡充・強化しなければ農政不信につながりかねない。
また、21年産主食用米の需給対策について「評価する」は1割強にとどまり、「課題があり見直しが必要」が4割近かった。米政策の改善では、転作推進のメリット拡充や生産費を補う所得政策の確立、生産資材の価格引き下げと米の消費喚起を求める声が強い。過去最大規模の6・7万ヘクタールの作付け転換を実現するには、米価下落への危機感の共有と対策の丁寧な説明で農家の理解を得ることが重要だ。併せて、農家視点での現行政策の検証も求められる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月21日
JA全国女性大会 「新たな活動」で仲間を
きょう、JA全国女性大会が開かれる。活動の灯(ひ)を消さないように、関係性を絶やさないようにと各地で模索が続く中、「Withコロナ時代の新しいJA女性組織活動」をウェブ上で語り合う。インターネット交流サイト(SNS)や動画配信、ウェブ会議など新たな手法を取り入れて活動を進め、新たな層を巻き込みたい。
「できることからはじめよう」──。JA全国女性組織協議会(JA全国女性協)とJA全中が2020年9月に作成した「Withコロナ時代における新たなJA女性組織の活動指針」では、これを合言葉として、新型コロナウイルス禍からの“再起動”を呼び掛けた。
日本農業新聞くらし面では、今大会を前に「女性部活動withコロナ」を連載。JA長野県女性協議会のSNSを活用した情報発信、愛知県JAあいち海部の自宅で受講できるオンライン教室(動画配信)などを紹介した。これらの手法は今ある関係性を深めつつ、新たな層とつながることにも有効だ。各地の事例がそれを証明している。
JA全国女性協は今年、70周年という節目の年を迎える。前身である全国農協婦人団体連絡協議会の設立が1951年。加藤和奈会長は「先輩たちも困難に打ち勝ってきた」と歴史を振り返りながら、新たな活動手法を指して「コロナ下だからできることがある」と語る。
来年度は、JA全国女性協3カ年計画(19~21年度)の最終年度。計画は、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の考え方を初めて取り入れたのが特徴だ。具体的活動として、①食を守る②農業を支える③地域を担う④仲間をつくる⑤JA運営に参画する──を示した。どれも、各地の女性組織が長い年月をかけて展開してきたものだ。
コロナ下で、とりわけ重要となるのが「仲間をつくる」ことだろう。JA全国女性協の会員は、前年比3万366人減の49万1330人(20年7月時点)と減少が続き、会員拡大が長年の課題となっている。
しかし「withコロナ」の考え方で、会員以外の層に活動の楽しさや重要性を伝えられれば、少しずつでも仲間づくりは進む。仲間づくりはひいては食を守り、農業を支え、地域を担うことにもつながるだろう。
「70年という節目」と「withコロナ」。くしくも、歴史的なタイミングが重なった。今、大会やイベントに集まれずとも、できることはある。まずは少人数からでも取り組みを始めよう。
本日の大会では「できること」から始めた各地の会員がスピーチで取り組みを発表する。参考になる手法は共有して、それぞれの地域で展開してほしい。そして、JAのトップ層は女性組織活動の意義と役割を正当に評価し、支援をしてほしい。食と農を基軸にしたJAの価値を伝える重要な担い手なのだから。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月20日
通常国会と農政 基盤強化へ審議尽くせ
通常国会が始まった。農業経営への支援を含む新型コロナウイルス対策や米の需給対策を盛り込んだ2020年度補正予算案と21年度当初予算案、国家戦略特区での一般企業の農地所有特例を延長する法案など、国会は重要な農政課題に向き合う。生産基盤の維持・強化の観点から、徹底した審議を求める。
施政方針演説で首相は、前政権から継承した農業の成長産業化を地方重視と結び付け、東京一極集中の是正と地方の活性化の柱に据えた。具体的には、農林水産物・食品の輸出額目標5兆円を達成するための産地の支援と、主食用米から高収益作物への転換促進を掲げた。
両者とも、現行の食料・農業・農村基本計画が目指す食料自給率の向上と生産基盤強化の一環といえる。加工・業務用需要の輸入品からの奪還や飼料用米をはじめ戦略作物の推進、中小・家族農家の支援なども重要だ。緊急事態宣言の再発令で農畜産物の需要が減り、生産基盤が弱体化する懸念もある。
こうした課題を踏まえて国会は、補正・当初予算案が生産基盤の維持・強化に効果的か議論すべきである。米の生産調整の実効性を巡っても検証が必要だ。前年産比6・7万ヘクタールの過去最大規模の作付け転換を21年産で達成しないと、米価が大幅に下落する恐れがある。また18年産で始まった現行の米政策の下で作付けは3年続けて過剰となった。課題を洗い出し、あるべき姿について議論が必要だ。
施政方針演説では、地方活性化の手段として規制改革を重視する姿勢も強調した。首相は、行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を政策運営上の壁とみなし、その打破も表明した。これら両面から、農業が標的となることに警戒が必要だ。
国家戦略特区がその例だ。兵庫県養父市で認めている一般企業の農地所有特例の全国展開を巡る議論は、関係閣僚が慎重姿勢だったが、同特区諮問会議の民間議員が強硬に主張、異例の「首相預かり」となった。今回は特例の2年延長で決着し、同特区法改正案を国会に提出する。しかし特例の利用は低調で、延長が必要かどうか国会は熟議すべきだ。官邸主導の政策決定の在り方も議論の俎上(そじょう)に載せる必要がある。
規制改革推進会議には、農地所有適格法人の議決権要件の緩和を求める意見もある。一般企業の農地取得につながり、撤退後の耕作放棄や産廃置き場にされることなどが懸念される。こうした論点も議論すべきだ。
施政方針演説では、環太平洋連携協定(TPP)の今年の議長国として加盟国の拡大に向けた議論を主導する考えを示した。貿易協定の拡大が、なし崩し的に農畜産物の一層の自由化につながらないよう政府の姿勢をたださなければならない。
衆院議員の任期は10月までで、総選挙が必ず行われる。国会論戦の中で各党には農政の選択肢を示すことも求められる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月19日
論説アクセスランキング
1
学給に有機農産物 農業の未来開く端緒に
農水省は、有機農産物を学校給食に導入するための支援を始めた。販路の確保が狙い。自治体とJAは率先して取り組み、有機農業を核に地域農業の展望を開く端緒にしてほしい。
有機農業を推進する国の予算は今年度が1億5000万円で、前年度を5割上回る規模となった。有機農業による産地づくりと、販売先を確保する市町村と生産者らの取り組みに助成。新たな販路として、学校給食を位置付けた。
国内の有機農業の取り組み面積はわずか2万3000ヘクタール。耕地面積の0・5%にすぎない。栽培の基本技術が生産者に伝わっていない、労力がかかる割に収量や品質が不安定、期待する販売価格水準となっていない――ことなどが、原因に挙げられる。作っても販路がなく、生産を諦める農家も少なくない。
一方で有機農産物を扱う流通業者は増えている。新規の専門スーパーや有機宅配業者が参入。流通加工業者の4割が需要は拡大すると答えた調査もある。ただし、扱う条件の第一は「1年を通し一定量が安定的に供給されること」。この条件を乗り越えなければ国産有機農産物の需要は高まらない。
まず、まとまった量を確保できる産地だと地元で認められ、信頼を得た上で、外部で販路を開拓するのが堅実だ。学校給食を糸口とすれば社会的な評価も高まり、消費拡大につながるのは間違いない。そのモデルが千葉県いすみ市である。
市内の小中学校の給食に使う米の全量42トンは、農薬、化学肥料を使わない地元産の有機米「コシヒカリ」だ。8年前まで有機米の栽培は皆無だった。それが現在は100トン近くを生産。JAいすみは県外の有機専門店に販路を広げ、一層の生産拡大を目指している。買い取り価格は有機JASが60キロ2万3000円、有機に転換中は同2万円。収量の減少分をカバーし、再生産可能な価格とした。生産者は安心して栽培が続けられ、産地が形成された。
給食で子どもに食べてもらう意義は大きい。小学生は田んぼの生き物を調べ、学校田で有機稲作を体験する。教育効果は大きく、生産者には米作りへの自信や張り合いが生まれている。
地域農業は高齢化、担い手不足、耕作放棄地の拡大といった課題に直面している。新規就農希望者には有機農業を志す若者が多い。いすみ市ではこうした移住者が増え、有機野菜を栽培して学校給食への供給を担い始めた。稲作主体の大規模経営と、野菜中心の小規模家族経営が共に有機栽培に取り組んでいる。多様な農業経営が共存する地域農業の姿の一つだろう。
農水省の支援事業を活用するには、市町村とJA、農業者が協議会を立ち上げる必要がある。有機農業は特殊な農業でない。環境と経済を両立させる今日的価値のある農業だ。農業への国民理解も深まる。少量でもいい、一歩を踏み出そう。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年09月22日
2
野菜の相場低迷 経営安定対策の拡充を
野菜相場が低迷している。天候不順で近年は乱高下しやすくなっており、今年は新型コロナウイルスの影響が重なった。安定供給には農家の経営安定が重要だ。豊作時の暴落と不作時の暴騰を防止・緩和する施策と経営安定対策を拡充すべきだ。
主要野菜14品目の12月上旬の1キロ価格は99円(各地区大手7卸のデータを集計した日農平均価格)だった。過去5年間では、旬別で2番目の安値だ。
野菜相場は10月まで堅調に推移していたが、11月に展開が変わった。全国的な好天で各品目とも生育が進み、潤沢な出回りとなった。一方、外食を中心としたコロナ禍での業務需要の減少や、スーパーでの試食宣伝の制限などで厳しい販売を強いられている。顕著なのが重量野菜で、ダイコンやハクサイは平年の4、5割安となっている。
野菜の価格低迷時の対策で代表的なのが、収入保険と野菜価格安定制度だ。収入保険は全ての農産物が対象で、青色申告をしていることが要件。1年間の収入額が基準の9割を下回ると、下回った額の9割を上限に補填(ほてん)する。
野菜価格安定制度は、キャベツなど指定野菜14品目を対象に平均販売額が補償基準価格を下回った場合、差額の9割を上限に補填する。同省は、収入保険に初めて加入する場合、同制度との同時利用を21年1月から特例で1年間できるようにした。
収入保険は、コロナ禍による農業経営の損害に対応でき、関心が高い。また野菜価格安定制度は、産地育成や計画的な生産を促すなどの効果が見込める。
JAグループは、21年度の青果対策で国に①野菜価格安定制度の維持と安定的運営のための十分な予算の確保②緊急需給調整事業を含め需給安定化に取り組む産地への支援の拡充③野菜価格安定制度と収入保険の同時加入の特例措置の拡充・恒久化──をはじめ、経営安定のためのセーフティーネット(安全網)の拡充などを求めている。
野菜を巡る環境は不安定要素が多い。近年は台風が相次ぐなど天候不順の影響を受けやすい。また、大型の貿易協定の発効が相次ぎ、加工品を含め関税が削減・撤廃される。11月には地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名した。冷凍などを含め野菜の対日輸出が多い中国、韓国との初の協定だ。対韓国では基本的に野菜は除外し、対中国でも重要な品目の多くを除外した。しかし段階的に関税を削減・撤廃する品目もある。影響を注視する必要がある。
コロナ禍により家庭で食事をする機会が増え、国産野菜を安定供給することの重要性が改めて確認された。また食料・農業・農村基本計画に政府は、米の生産調整で野菜など高収益作物への転換を図る方針を明記。野菜の生産量を30年度までに、18年度比で15%増やす目標も掲げた。安定生産には生産基盤の強化とともに、安心して生産を続けられる体制の整備が必要だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年12月15日
3
[コロナ以後を考える] 食料自給率の向上 草の根の行動広げよう
わずか、38%。1965年に73%だった食料自給率は55年間で半減してしまった。自給率の向上がなぜ必要か。どうすれば高まるか。農家は当事者意識を一層高め、国産回帰の大切さを改めて認識し、行動しよう。
新型コロナウイルスの感染拡大で外食や土産物需要が落ち込み、小豆や酒米、乳製品などさまざまな農産物の在庫が膨らんだ。保管が可能な穀類などは過剰在庫を早急に解消しなければ、需給緩和と価格低迷は長期化する。しかし特効薬はない。
食料・農業・農村基本計画は、2030年までに自給率を45%に高める目標を掲げる。一方で生産しても需要の減少で過剰在庫を抱え、一部作物では保管する倉庫すら逼迫(ひっぱく)。生産現場からは、自給率目標は「絵空事のように映る」(北海道十勝地方の農家)との声が上がる。自給率目標45%を政府は2000年に初めて設定したが、高まるどころか低下してしまった。自給率向上の糸口を今年こそ見いだしたい。
異常気象や災害の世界中での頻発や、人口増加、途上国の経済発展、そしてコロナ禍で見られたような輸出規制などを踏まえれば、いつでも安定的に日本が食料を輸入できるわけではないことは明白だ。国内農業の衰退は国土保全や農村維持など多面的機能の低下も招く。
自給率の低迷は、食料安全保障の観点からも国民全体の問題だ。一方、その向上には需要の掘り起こしと、それに見合った生産の増加が不可欠で、農家が一翼を担う。
自給率向上のヒントとなるのが北海道の取り組みだ。道内の米消費量に占める道産は、90年台は37%だったが、19年度は86%まで高まった。道目標の85%を8年連続で上回る。生産振興とともに、地道な消費拡大の活動を長年続けてきたことが成果に表れた。小麦も外国産から道産に切り替える運動を展開。道民の小麦需要に対する、道内で製粉した道産割合は5割前後となった。地元産だけを使ったパン店などが人気で、原料供給地帯でも地産地消の流れを育む。
コロナ禍でも地元消費の動きが目立つ。例えばJA浜中町女性部。脱脂粉乳の在庫問題を契機に牛乳消費拡大からバター、スキムミルクなど乳製品の需要喚起に活動の軸足を移し、乳製品レシピを町民に配布。地域内での需要拡大を目指す一歩だ。
他にも施設などに道産の花を飾ったり、インターネットなどでJA組合長が牛乳や野菜の簡単調理を紹介したりといった取り組みを道の各地が進めた。地産地消を広げようと農家が知恵を絞り、消費の輪を広げる活動だ。JAグループ北海道がけん引役を担い、農家や農業のファンを増やす運動も昨年始めた。
自給率向上は政府の責務であり、十分な支援が必要なことは言うまでもない。ただ、農家の草の根の行動が大きな力になる。自分や仲間でできることを実践することが一歩になる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月04日
4
中山間農業の支援 畦畔管理に焦点当てよ
高齢化と人手不足で、中山間地域では畦畔(けいはん)管理の困難さが増している。ロボット農機など技術革新は進む。しかし、小規模で未整備の水田をはじめ同地域の農業の課題は、科学の力だけでは解決できない。洪水防止を含む農業の多面的機能を正しく評価し、受委託の体制づくりなど畦畔管理に焦点を当てた施策が必要だ。
農水省によると、耕地面積に占める畦畔率は2019年が全国平均で4%。大規模化が進む茨城県は1・4%、北海道は1・6%と低い一方、中山間地域が多い中国地方は5県平均が8・9%で、岡山、広島、山口の3県は9%を超える。
畦畔率が高いほど作物を育てる面積は減る。10ヘクタール規模の経営なら農地に占める畦畔は北海道では16アールだが、広島県は94アールだ。規模は同じでも耕作面積に大きな差が出る。畦畔率が高いほど1区画当たりの圃場(ほじょう)も小さい。管理する圃場が多ければ、農機の出し入れなど作業の連続性が妨げられる。
除草など管理にも多くの労力が必要だ。中山間地域の畦畔は急傾斜が多く、農作業事故のリスクも高い。非効率で労力、時間、コストがかかる畦畔。企業なら一番に切り捨てられる不採算部門だが、自分の経営だけでなく地域社会にも影響し、管理は手抜きができない。雑草繁茂は病害虫の発生源になるばかりか、鹿やイノシシの隠れ場所として鳥獣害を助長する。畦畔がもろくなり、保水力の低下や土砂災害などの危険性も生じる。
中山間地域等直接支払いをはじめ日本型直接支払いの加算措置の拡充や、棚田地域振興法の制定など、中山間地農業の支援政策は進んできた。しかし畦畔管理にかける労力が不足している。特に地権者に管理を頼っていた集落営農組織では深刻だ。
日本版衛星利用測位システム(GPS)の整備などにより、農機が自動で高精度な作業を行うスマート農業が国の主導で実用化され、日本の農業は大変革期を迎えた。農業者が高齢化、減少する中、正しい選択の一つと言える。ただ、農業の課題の全てを解決するのは難しい。
また、利益追求型の企業的農業を志す農業者もいれば、伝統や文化、先祖から受け継いできた土地を守り、家族と過ごすことを大切したいと考える農業者もいる。求められるのは、どこでも農業が続けられる環境だ。
農地は、食料生産の他、国土の保全、水源の涵養(かんよう)、環境保全、良好な景観の形成、文化の伝承など多面的機能を持つ。局地的な豪雨や台風の大型化など自然災害が常態化している中、貯水をはじめ水田の機能は、水害の緩和など防災の観点からも注目されている。
中山間地域の畦畔管理は、もうかる農業の追求だけでは難しく、地域住民の努力だけでは限界がある。災害が多い今こそ、事業として請け負う人材や組織・会社の育成・支援など、踏み込んだ施策を求めたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年09月23日
5
米不作と転作拡大 営農継続できる政策を
2020年産水稲の作柄(9月15日現在)が、西日本では平年並みを下回る県が多い。トビイロウンカの発生や台風が影響した。過剰の見通しから21年産で国は、大幅減産が必要になる適正生産量を示した。水田は農業だけではなく、暮らしを支える基盤だ。営農継続に希望が持てる米政策を求めたい。
西日本の20年産米は、過去10年で最悪といわれるトビイロウンカの大発生や、九州を中心に9月に接近した二つの台風などの被害を受けた。特に山口県は作況指数83の不良となった。九州北部も作況が落ち込んだ。
茎から養分を吸い、稲を枯らすトビイロウンカは13、14、19年にも大発生し、13年の被害見込み金額を農水省は105億円と試算する。20年は11府県が警報を出し、過去10年で最多。注意報を含め24府県が防除の徹底を呼び掛けたが、田の一部が枯死する「坪枯れ」だけではなく、全面が枯れた田が多発した。
トビイロウンカはベトナム北部で周年で発生し、春に中国に移動して増殖、南西風に乗って日本に飛来する。今年は、中国での発生が多い上に、長梅雨で飛来数も多かったことが、日本での大発生の原因とされる。
米作りはウンカとの闘いでもある。享保17(1732)年の大飢饉(ききん)は有名で、江戸時代から国を挙げて対策をとる。防除の歴史は長いが、気候によって飛来数が変わるため、トビイロウンカは発生量の予測が難しい。近年は中国やベトナムで防除薬剤が普及し、薬剤耐性を考えた防除が求められる。
国は、21年産の主食用米の適正生産量を679万トンに設定した。20年産の生産量よりも56万トン、面積換算で10万ヘクタール程度の減産が必要になる。病害虫や気象災害と闘い、それでも不作となったことで農業者は心をすり減らしている。大幅な転作拡大だけが迫られると、営農意欲の減退を招きかねない。
農業者の高齢化や労働力不足に加え、病害虫や気象災害の頻発などで米作りの環境は厳しい。中国地方では、作り手の不足で米の作付けが減る地域も出ている。耕作が放棄されれば地方の基幹産業である農業が衰退し、地域経済も冷え込む。
水田は地域社会にとっても重要だ。豪雨被害が増え、治水対策の一つに「田んぼダム」が注目される。一時的に大雨を水田に蓄え、下流への急激な水の流れを遮断する。貯水機能を高める取り組みだ。水田の多面的機能の低下は暮らしを脅かす。
国が推進してきた飼料用米や飼料用稲の生産が、トビイロウンカ発生の一因との指摘もある。コストを抑えるため、見回りや防除が不十分になるという。
米価の安定には転作拡大は避けられない。しかし地域の経済・社会を維持するためにも、水田を荒廃させてはならない。米政策を巡る政府・与党の論議が本格化する。主食用米と転作を通じて、安心して水田農業ができる支援策が必要だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年10月25日
6
種苗法改正案 保護と権利 バランスを
今国会で審議中の種苗法改正案は、優良品種の海外流出を防ぎ、開発者の権利を保護することが目的である。一方で、登録品種の自家増殖に許諾制を導入することには、疑問や異論もある。知的財産の保護と農家の「種の権利」のバランスをどう取り、農業振興につなげるか、徹底審議を求める。
同改正案は先の通常国会に提出されたが、新型コロナウイルス対応などで審議時間が取れず、今国会に持ち越していた。衆院で本格審議が始まったが、改めて論点も見えてきた。
改正の背景には、日本が長年にわたって開発してきたブランド品種の海外流出問題がある。現行法では、正規に販売された種苗の海外への持ち出しは禁じられていない。改正案は、品種の開発者が、輸出先や栽培地域を指定できるようにし、違反した場合に育成者権の侵害を認定し刑事罰を問いやすくする。
こうした市中流通ルートに加え、農家の自家増殖にも許諾制の規制をかける。現在は登録品種であっても農家は原則自家増殖ができる。種や苗を次期作に使うことは国際的にも認められた「種の権利」である。現行法でも自家増殖した種苗の海外への持ち出しは違法だが、なぜ登録品種全般に許諾制の網をかけるのか。農水省は、品種開発者が増殖の実態を把握することで、流出時に適切な対応ができると説明。違法流出の立証が容易になり、刑事罰や損害賠償請求をしやすくなるとも指摘する。あくまでも流出防止のための規制で「種の権利」に対する侵害ではないとの立場だ。
だが、許諾制による管理強化がどれほど流出防止に実効性があるのか、国会審議を通じてさらなる説明が必要だ。欧米では、登録品種であっても主要作物の一部に自家増殖を認めるなど例外規定がある。日本でも柔軟な対応を求めたい。
流出防止の核心は、同省も認めているように輸出国での品種登録だ。海外での品種登録はコストや申請手続きなどハードルが高い。同省は登録経費の支援などを行っているが、海外での育成者権の行使に向け包括的な支援の充実こそ急務だろう。
農家が不安を抱く自家増殖の許諾料について同省は、営農の支障になる高額な設定にはならないと説明する。民間種苗会社も農研機構や都道府県の許諾料水準を参考にすると指摘。品種の太宗はこれまで通り自家増殖ができる一般品種であり、経営判断で選択できるとして不安を打ち消す。
だが企業による種苗の寡占化が進めば、将来負担増にならないと言い切れるのか。許諾料の上昇に対する歯止め規定も検討すべきだ。許諾手続きの事務負担が増えないよう簡素化や団体代行も進めたい。
改正案は「食料主権」に関わる内容を含むだけに、幅広い利害関係者の意見もくみ取りながら、将来に禍根を残さない慎重かつ徹底した審議を求める。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年11月16日
7
SDGsと農業 多様な連携で理解増進
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、企業や組織、団体などの間で連携が進む。農業分野では早くから、農業者やJAがSDGsに即した営農や事業を展開。地域ぐるみを含めて連携を拡大し、取り組みを広げよう。
SDGsでは「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」など、国連が2030年までに達成すべき17の目標を掲げ、16年から推進。目標の17が「パートナーシップで目標を達成しよう」。国や自治体、企業・事業者、団体、個人などさまざまな段階での連携の必要性を強調している。
政府はジャパンSDGsアワードを設け、先進的で優れた活動をする企業や団体を表彰している。昨年、内閣総理大臣賞を受賞した福岡県の魚町商店街振興組合は、商店街として「SDGs宣言」を行い、ホームレスや障害者の自立支援に取り組む。また飲食店などと協力、「残しま宣言」のステッカーを掲示し客に食べられるだけ注文するように求めたり、規格外野菜を販売したりして、食品ロスの削減や地産地消を推進する。
SDGsパートナーシップ賞を受賞した日本リユースシステムは、古着を回収し開発途上国に安価で提供する仕組みを構築した。回収用容器の利用者への発送は福祉作業所に委託する。途上国では選別・販売のための雇用を創出。事業として行うことで継続的支援につなげる。
同アワードの受賞者に限らず連携は進み、農業者と企業の間でも見られる。横浜市で肉牛と乳牛を飼養する小野ファームは、外食チェーンの東和フードサービスから、生パスタの製造で生じる端材の提供を受け、飼料として利用する。同社はコストをかけて端材を処分していたが、この食品リサイクルでSDGsの達成を目指しており、同ファームが一翼を担う。
企業などがSDGsを事業に取り込む背景には「エシカル(倫理的)消費」への意識の高まりがある。社会や環境などに配慮した商品などを購入する消費行動を指し、SDGsと重なる。消費者庁の19年度の調査では、同消費につながる商品などについて「購入経験があり今後も購入したい」「購入したことはないが今後は購入したい」が計81%で、前回16年度調査より19ポイント増えた。そうした商品の提供は企業イメージの向上につながるとの回答も80%で、企業価値を高めることも期待される。
農業分野は以前から、直売所による地産地消などを推進している。企業や団体との連携も進展。JAは、地場産を販売するインショップをスーパーや生協店舗に設置してきた。障害者らが農作業に携わる農福連携や、食品残さを原料にした飼料「エコフィード」の利用も進む。
SDGsの観点で営農や事業を捉え直し、目標達成を目指し拡大、深化させることが重要だ。農業の価値を高め、国民理解の醸成につなげよう。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年12月13日
8
来年分の収入保険 農業経営守る選択肢に
農業収入の減少に備える収入保険が、加入申請の時期を迎えた。同保険は、新型コロナウイルス感染の影響による農業経営への損害にも対応できることから、関心が高まっている。経営と生活を守るセーフティーネット(安全網)の一つとして検討する価値がある。
農家経営の公的安全網の代表例としては農業共済制度が知られる。風水害や病虫害などによる収量減・品質低下に備えた農作物共済や果樹共済、台風などによるハウス損壊などに備えた園芸施設共済、家畜の死傷病に備えた家畜共済などだ。
だが、コロナ禍による被害の救済は難しい。外食の休業や学校休校、イベント自粛で農産物が販路を失ったり、売り上げが減少したりする被害は想定していない。こうした事態にも対応できるのが収入保険だ。
同保険は農業経営の安定へ農水省が2019年に創設した。全ての農産物が対象で、青色申告をする農家が加入できる。保険料や積立金を払い、1年間の収入額が基準の9割を下回った時に、下回った額の9割を上限に補填(ほてん)。災害時に加え、コロナ禍や盗難、けがや病気などによる収入減を幅広くカバーする。1年目は2万2812経営体が加入し、保険金は3049件、72億円が支払われた。
4月時点の加入者は3万4723件で、青色申告農家46万人の1割に満たないが、コロナ禍を契機に関心が高まり、状況は変わりつつある。収入保険への加入促進・支援の動きが活発化し始めている。
静岡市と地元2JA、静岡県中部農業共済組合は7月、来年度までに300経営体の加入目標を掲げ協定を結んだ。農家負担の軽減へ保険料に市とJAが最高6万円補助する。群馬県館林市は保険料に5万円補助する。今年度は継続加入を含め50人の加入を目指す。「コロナにも対応する保険だ。農家負担を抑えることで加入を増やし経営を守ってもらいたいと考えた」と市の担当者は強調する。
埼玉県や山形県では県や農業共済組合、JAが収入保険の推進組織を設立。農業共済組合やJAが協定を結ぶ例もある。
また同省は、JAなどの要望を受け、21年1月から収入保険に初加入する場合、野菜価格安定制度との同時利用を特例で1年間できるようにするなど、加入促進の機運が高まっている。
収入保険の保険期間は個人の場合1~12月(法人は各事業年度)で、来年1年間に備えたい人の申請は新規加入の場合、12月に締め切られる(継続加入は11月まで)。希望者は、過去の収入データを用意するなど準備を始める必要がある。
リスクの時代である。コロナ禍も長期化が懸念される。作物や販路の見直し、衛生管理の徹底、さらに経営の安全網も準備すれば安心だ。自分が感染し収入が減ることもあり得る。「まさか」ではなく「もしも」の時を考え、備えることが肝要だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年09月26日
9
次期作支援の変更 前向き投資の芽摘むな
園芸農家らの次期作を支援する国の事業の運用変更は、交付金の減額などで生産現場に大きな影響を与えそうだ。経営が圧迫されないよう農水省は対処すべきである。前向きな取り組みを促すのが事業の目的であり、意欲をそがない手だても必要だ。同省は農家らの声を聞き、誠実に応えなければならない。
問題の事業は高収益作物次期作支援交付金。新型コロナウイルスの流行で売り上げが減るなどの影響を受けた野菜、花き、果樹、茶について、次期作に前向きに取り組む農家を支援するのが狙いだ。2~4月に出荷実績があるか、廃棄などで出荷できなかった──ことを対象農家の要件に設定。生産コストの削減や品質向上などに必要な掛かり増し経費の2分の1相当を、定額で交付するとしていた。
ところが同省は今月、前年からの売り上げの減少などを要件に追加。また減収額を交付額の事実上の上限とした。コロナ禍の影響を受けていなくても交付金を支払ったり、減収分を超えて支払ったりすれば、批判を受けかねないというのが理由だ。
しかし、農家によっては次期作の取り組みを始めており、交付金を前提に、機械・施設や生産資材の購入など投資を行っている。交付金が減額や不交付となれば、想定外の負担を抱えることになる。同省の制度設計の甘さが原因であり、経営と営農に支障を来してはならない。
また同省の当初の説明からは、減収農家だけの支援策とは受け取りにくい。業務用をはじめ従来の需要が全国的に減少する中でも、販路の転換や新たな需要の確保などを通じ、国産農産物の消費の維持・拡大を図る積極策と評価できる。農家には運用を元に戻すべきだとの要望は根強い。コロナ禍という危機の克服には、「攻めの経営」が必要との意識が高まったといえる。この機運を生かす施策を講じるのは、同省の役割である。
今回の問題では、責任の所在の明確化を含め同省が農家に直接説明することが重要だ。国の制度設計に基づきJAなどが推進してきた。そのことで苦しい立場に置かれてしまうと、地域農業振興の妨げにもなりかねない。農家らの声を直接聞くことは、善後策の必要性の認識と具体策の検討にも役立つ。同省は説明会を始めているが、スピード感を持って進めてほしい。
事業の実施では対象農家全てに支援が届くよう、必要な予算を確保することも同省に求めたい。減額・打ち切りへの不安があると、取り組みをためらうことにもなる。財源不足にはしないと表明することが大切だ。
菅義偉内閣は発足したばかりだ。農政手腕が問われるのはこれからであり、この問題で農政不信を招いてはならない。来年度と今年度第3次補正の予算案を巡る政府・与党の調整が年末に向けて本格化する。これらも視野に善後策をどうするか。生産現場の実情や農家の意向をよく知る国会議員の出番である。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年10月23日
10
命のインフラ 地域食料システム築け
新型コロナウイルス禍は、安定的な食料生産・流通システムの重要性を改めて国民に突き付けた。災害や感染症などに備え、農業生産や物流が途絶えることがないよう地域の食料システムの構築を急ぐべきだ。
食料システムとは、生産、加工、流通、消費が、相互に関連し合う経済活動を指す。産地と消費地の距離が遠ざかる今、川下から川上をつなぐシステムが機能することが、重要な社会基盤となっている。食料システムは命のインフラと言っていい。
近年、東日本大震災をはじめ甚大な災害が相次ぐたびに、食料、電気、水道などのライフラインが寸断され、生活や産業を直撃してきた。中でも食料のサプライチェーン(供給網)が途絶えることは、命に直結する。
そこにコロナ禍である。感染リスクの高まりと人の移動制限は、人手不足にあえぐ農業生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにし、流通も苦境に陥れた。生産・流通現場の人々は、こうした危機にあっても、懸命にわが国の食と農を支えている。だが、「食料パニック」を防ぐには、現場の努力だけでは限界がある。
今回の事態を踏まえ、ナチュラルアートの鈴木誠代表は、日本農業新聞への寄稿で「1次産業から流通・物流・加工などまでサプライチェーンを一体化し、縦割りを超えた構造改革が不可欠だ」と指摘する。
大事な視点は、災害などのリスクを前提に、いかにレジリエンス(回復力)を強めるかだ。そこで参考になるのが、新山陽子立命館大学食マネジメント学部教授が提唱する「地域圏食料システム」構想である。新山氏は、本紙で「地域の状況にあった食料政策の立案、農業政策との結合」を提起。農業サイドだけでなく、食品製造、流通、給食事業者、自治体、生活者など食料システムに関わる全ての関係者が知恵を出し、解決策を探るよう促す。
災害時を想定し、生産から消費に至る流れがどこかで目詰まりしても地域内でバックアップできる仕組みづくりや、多様な応援態勢を、平時から準備しておくことが市民生活の維持には欠かせない。こうした「地域圏食料システム」の構築が、災害からの早期復旧にもつながる。
農水省は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などの観点から「みどりの食料システム戦略」の検討に着手。野上浩太郎農相は「今後、SDGsや環境への対応が重要となる中、農林水産業や加工流通を含めた、持続可能な食料供給システムの構築が急務」と述べ、来年5月ごろまでの策定を指示した。サプライチェーンの各段階で、技術開発や生産体系の見直しを進める考えだ。食料供給の危機管理としても有効な政策である。
気候変動や感染症などのリスクに備えた食料システムは、今や各国共通の課題である。日本からその先進モデルを発信していくべきだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2020年11月12日