犠牲者悼み1週間… でも前を向くリンゴ産地 立ち直る、必ず 台風禍の長野市長沼地区

泥をかぶったリンゴやブドウを片付ける農家の徳永虎千代さん(長野市長沼地区で=富永健太郎写す)

 台風19号の記録的な大雨から19日で1週間がたち、東北や関東甲信を中心に深刻な被害が浮き彫りになってきた。被害の全容把握はまだ分かっておらず、生活や農業の復興には遠く険しい道のりが続く。若い農家らは、犠牲者のためにも、産地の再建に向け、少しずつ前を向こうとしている。(尾原浩子)

 千曲川が決壊し、一帯が冠水した長野市長沼地区。果樹園や直売所が並ぶことから、国道18号は通称「アップルライン」と呼ばれるリンゴ産地だ。だが、その面影は台風で消えた。大規模浸水から1週間が過ぎても、泥で灰色になった果実や流木、災害ごみが山積みされたままだ。

 リンゴを4ヘクタール栽培する徳永虎千代さん(27)はこの日行われた葬儀で、伯母の徳永初美さん=当時(69)=を悼んだ。軽トラックや作業所を掃除してくれる初美さんとは、毎日顔を合わせる間柄。1週間がたち、やっと見送れた。葬儀中、懐かしい笑顔が思い浮かんだ。

 虎千代さんは、120年続くリンゴ農家を継ぎ5年前に就農。高密植栽培や規模拡大を進め昨年、(株)フルプロ農園を立ち上げた。初美さんは挑戦を続ける虎千代さんを「とらちゃん」と呼び、見守ってくれていた。

 4ヘクタールのほぼ全てが冠水した園地では、枝折れや倒木など被害は大きく、今シーズンだけでなく中長期的に深刻な影響が及ぶ見通しだ。虎千代さんは「台風が地域の日常の全てを奪った。次を考えられる状況じゃないけれど、立ち直りたい。地域が一つになる、その姿を伯母も願っているはずだ」と誓う。

 同地区では、初美さんを含め2人が亡くなった。2・7ヘクタールでリンゴを作り、消防団員も務める中村太士さん(37)は、救えなかった命に自責の念を感じている。自宅や園地、機械が被害に遭い、心痛で被災した初日は一歩も動けなかった。1週間がたち、産地を応援してくれる人の優しさに触れ気持ちが変わりつつある。中村さんは「若者が力を合わせないと、リンゴで成り立つ地域は持たない」と、自らに言い聞かせるように話す。

 地域ではここ10年、若手農家が毎年のように就農。20、30代と高齢の農家が団結し、にぎわいが生まれていたという。

 2ヘクタールでリンゴを栽培する、就農6年目の小滝和宏さん(36)は、昨年導入したばかりの大型の冷蔵庫が水に漬かり、梱包(こんぽう)が済んだリンゴも、全て出荷できなくなった。まだ水に漬かっている樹体もあるため、木を抜くことも考えている。「先輩に教わりながら、みんなで頑張ってきた。地域はどうなるのか不安だが、泣くことはできない。再び仲間と笑って酒を飲める日まで頑張る」と小滝さん。農家の堀口美一さん(37)も「離農は考えていない。少しずつ進めていくしかない」と語る。

 長沼地区では295戸がリンゴ137ヘクタールを栽培する。JAながのながの営農センターによると、地区一帯が冠水し、今シーズンはほぼ出荷できないという。黒澤智成センター長は「地域の共同利用施設も甚大な被害があった。農家がやり直そうと思える、地域に寄り添った支援をしてほしい」と願う。

 JA長野県グループや県は、冠水など被災したリンゴはブランド確保のため加工用でも出荷しないとする。一方、被災した産地は県内の一部で、県全体が壊滅状態にあるわけではないため、品質を確保したリンゴは出荷を進めていく考えだ。
 

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