農作業安全ルール 命を守る経営 最優先に

 農水省が、農と食を支える人たちに向けた作業安全のルールづくりを進めている。死傷事故の多発が背景にある。命を守る経営は全てに優先する。農家も経営者も“自分事”として事故の根絶に全力を挙げるべきだ。

 安全・安心な食べ物を作る現場は、日々危険と隣り合わせにある。とりわけ農業は、この半世紀、毎年約300人が命を落とし続けている。

 同省の調査によると、2018年の死亡事故者は274人。農家の減少に伴い、実数は調査開始以来最少となったが、就業人口10万人当たりの死亡率は、全産業の10倍に上る。死亡者は高齢者に集中し、65歳以上の割合が87%を占める。林業の死傷事故発生率も高く、建設業の5倍に達している。

 いわば農林業は「構造危険業種」なのだ。同省が、農林水産業と食品産業を対象に、作業安全のための初の共通規範づくりに乗り出した背景には、強い危機感がある。遅きに失したとはいえ、経営の存続に関わる非常事態を乗り切るために喫緊の取り組みだ。最近は外国人材や非正規雇用の増加もあり、雇い主の安全管理責任も一段と厳しく問われている。

 共通規範とは、全ての従事者、管理者が守るべき理念と基本対策をまとめたものだ。個別経営と事業者団体向けを策定する。有識者会議を経て同省が先にまとめた案では、個別経営向けは①作業安全と人命は全てに優先する②作業安全の確保は経営が継続発展する要である③ルールや手順の順守など必要な対策を講じる④労災保険の加入など事故発生時に備える──の4本柱。団体向けはこれを基に、積極的に安全対策を講じるよう定めた。今後、国民から意見を募り、秋に成案を得て広く現場に周知する。

 農業、林業、食品産業など業種ごとの個別規範は、具体策を深掘りして年内にまとめる。安全点検チェックシートとして現場での活用を促す。同省は、これらの安全対策の実施を来年度からの各種補助事業の要件とすることで、実効性を持たせる。

 ただ規範には法的拘束力がないだけに、それぞれの業種の特殊性や現場実態に沿った内容にし、使い勝手のいいものに仕上げてほしい。特に高齢者に分かりやすくする工夫が必要だ。併せ安全講習の徹底。優良事例の表彰制度なども有効だろう。そのための十分な予算措置や支援態勢の強化を国には求めたい。

 実効性を担保するには、農と食の仕事に関わる全ての関係者が危機感を共有し、当事者意識を持つことだ。規範を土台に、それぞれの経営、作業実態に合わせて独自の安全管理ルールを作ることを勧めたい。安全管理を徹底することが結果として生産性の向上にもつながる。

 農業者1人の死は、経営の死、地域農業の死につながりかねない。家族の幸せ、経営の持続性のために、安全を全てに優先してほしい。
 

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