[菅農政 見直しか継承か](上) 「地方重視」どう反映 規制改革 見えぬ矛先

 「秋田の農家の長男に生まれた。日本の全ての地方を元気にしたい」

 菅義偉首相は就任会見でこう語り、圧勝した自民党総裁選の期間中から示していた地方重視の姿勢を改めて印象付けた。

 安倍政権で官房長官として、インバウンド(訪日外国人)や農林水産物・食品輸出の拡大に力を入れた。首相就任会見では、総務相時代に創設した「ふるさと納税」と合わせ、内閣の地方活性化策の「3本柱」として推進する方針を示した。

 だが、菅政権が直面する農政課題は、これらとはやや別のところにある。例えば、2020年産米の需給緩和。長期的な需要の減少に新型コロナウイルスの影響が加わり、平年作でも供給過剰となる可能性がある。

 和牛枝肉の価格低迷など、米以外にもコロナの影響は長期化する。農水省は飲食店の需要喚起策「GoToイート」を近く始めるが、感染防止策との両立が課題だ。菅首相は安倍政権の「継承」を旗印とするが、その安倍政権では農業の成長産業化を目指した。しかし、農家数や農地面積が減るなど生産基盤の弱体化は止められなかった。

 首相は農相に、安倍政権で官房副長官として自身を3年間補佐した野上浩太郎氏を起用した。53歳での初入閣で「省持ち」の閣僚は「首相の期待の高さ」(政府筋)も見えるが、国政で農林関係の要職の経験はない。

 実力派として政界で定評はあるものの、農政の手腕は未知数。地方重視の首相の期待に応えて、直面する課題に対応できるか。野上農相は就任早々、正念場を迎える。

 内外に課題が山積する中、首相が「政権のど真ん中」に置くのが規制改革だ。発信力の高い河野太郎氏を担当相に再登板させ、司令塔に据えた。

 安倍政権で農協改革や生乳流通改革など、農業分野の規制改革に深く関与してきた“ツートップ”に、農業関係者は警戒感を隠せない。規制改革推進会議では生産現場の意向を反映しない議論も相次ぎ、「地に足が着いているのか。現場をもっと見てほしい」(中国地方の集落営農組織代表)といった声が噴出した。

 一方で、規制改革の矛先はまだ見えない。野上農相によると、首相から農業で具体的な指示はなかった。現時点で首相が強い意欲を示すのは、行政の「縦割り」や前例主義の打破で、どちらかといえば「行政改革」の分野だ。

 「農業改革はかなりの数をこなした。残る分野は少ない」(自民党農林幹部)との見方があるものの、来春には農協法改正5年後の見直しや、JA准組合員の事業利用規制の在り方の検討が始まる。一般企業の農地所有など、長年指摘されてきたテーマもある。

 河野氏は就任会見で、対象分野を示さなかったものの「全方位でやる」と語った。「悠長なことをやるつもりはない、さっさとできるものをやる」と鼻息を荒げる。
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 地方重視と規制改革──。相反するような両面を持つ菅内閣が発足した。7年8カ月続いた安倍農政をどう改め、どう引き継ぐのか。内外の農政課題を探る。

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