菅首相 農業の所信 コロナ以降展望見えず

 菅義偉首相が臨時国会で初の所信表明演説を行った。農産物の輸出拡大を強調、これまでの農業改革の推進も掲げた。新たな食料・農業・農村基本計画には触れず、“菅農政”のグランドデザイン(全体構想)も示さなかった。新型コロナウイルス禍を踏まえた農業・農村の展望を国会論戦で明らかにすべきだ。

 所信表明では、活力ある地方を創る方策に観光と農業改革を挙げ、輸出戦略を年末までに策定、実行するとした。改革の内容には踏み込まなかった。基本計画に基づき政府は、食料自給率の向上へ生産基盤強化の取り組みを本格化させた。しかし新型コロナの流行で業務用などの需要が激減。生産基盤の弱体化が懸念される中で輸出を規制する国が相次ぎ、安定供給が重要との国民の認識が高まった。

 国産の需要確保に輸出振興は必要だ。同時に業務用・加工用などの需要を輸入品から奪還しなければならない。また所信表明では、都市から地方への人の流れをつくりだす方針を示したが、農村振興には言及しなかった。基本計画は産業政策と地域政策を車の両輪として推進するとした。コロナ禍を踏まえてどう実践するか示すよう求める。

 「国民のために働く内閣」を掲げ、行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を打破し、規制改革を進める決意も表明。内閣が国民のために働くのは当然だ。相反する利害をどう調整するかが問われる。安倍前政権下での農業改革は、企業の農業参入規制の緩和や農協改革、主要農作物種子法廃止などで改革派の意見を重視。既存の制度・規制の必要性を十分には吟味せず、反対論を押し切ってきた。

 規制改革推進会議などを軸に官邸主導で進め、生産現場の声が届きにくい構造が背景にあるといえる。アベノミクスを継承し「さらなる改革を進める」としたが、その功罪を検証し、何を継承し、何を継承せず、何を是正するのか示すべきだ。

 「ウィズコロナ」「ポストコロナ」の社会として所信表明が描いたのは、行政や働き方などのデジタル化だ。それも重要だが、農畜産物の応援消費や貧困家庭への食材の提供など助け合いが広がったことを想起したい。社会の基調を、競争から協調、協力、協働に転換するときではないか。新たな社会のグランドデザインも示してほしい。

 その観点からも、「グリーン社会」を提唱し、温室効果ガスの排出を2050年までに全体としてゼロとする目標を掲げることを評価する。再生可能エネルギーの導入を地域活性化に生かせるよう環境整備が必要だ。

 日本学術会議会員の任命拒否問題を取り上げなかったのは残念だ。前政権は説明責任を果たすことに消極的だった。それをも継承するのではないかと心配だからだ。核兵器禁止条約が来年1月に発効することにも触れなかった。日本は世界で唯一の戦争被爆国である。核廃絶へのビジョンと決意を語るべきだ。
 

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