「七福芋」地域で守る 生産拡大、商品開発も 愛媛・新居浜市
2020年11月26日

「七福芋」を収獲する七福芋本舗の社員ら(愛媛県新居浜市で)
愛媛県新居浜市の沖合いにある人口約130人の大島で、特産の白いサツマイモ「七福芋」による島おこしの取り組みが広がっている。生産者の高齢化などで衰退する島の特産品を守ろうと、個人や法人が島に通い「七福芋」の生産を支える。地元の食品業界もスイーツ、焼酎など多彩な商品開発で後押しする。今年は15トンの生産を見込む。
「七福芋」は見た目が白く、高糖度で濃厚でねっとりした食感が特徴。市内では大島以外の栽培が難しいとされる。1998年には45人が3・7ヘクタールで栽培、生産量は37トンだったが、生産者の高齢化などで存続の危機を迎えていた。今年は島内外12人の生産者と2法人が1・5ヘクタールで栽培している。
75アールで栽培する七福芋本舗は、地域支援事業と位置付けて、生産、加工、販売まで一貫して取り組む。個人生産者の芋も買い取り、青果販売の他、規格外品をダイスやペーストに1次加工し菓子材料向けなどに販売する。
同社営業部の白石寛樹部長は「さらに生産拡大し、市内全校の学校給食への提供や秋の味覚として市内飲食店で取り扱ってもらえるようにしたい」と意欲を見せる。
市内の菓子店や飲食店は、同社の1次加工品を使ってクッキー、ようかんなどを商品化。大島と「七福芋」のPRに一役買っている。11月には大島担当の地域おこし協力隊員が着任し、「七福芋」と地域活性化を支援する。
市農林水産課は「七福芋は工業都市・新居浜の数少ない特産農産物。生産量を増やして市民の認知度を高め、手軽に食べられるようにしたい」という。
「七福芋」は見た目が白く、高糖度で濃厚でねっとりした食感が特徴。市内では大島以外の栽培が難しいとされる。1998年には45人が3・7ヘクタールで栽培、生産量は37トンだったが、生産者の高齢化などで存続の危機を迎えていた。今年は島内外12人の生産者と2法人が1・5ヘクタールで栽培している。
75アールで栽培する七福芋本舗は、地域支援事業と位置付けて、生産、加工、販売まで一貫して取り組む。個人生産者の芋も買い取り、青果販売の他、規格外品をダイスやペーストに1次加工し菓子材料向けなどに販売する。
同社営業部の白石寛樹部長は「さらに生産拡大し、市内全校の学校給食への提供や秋の味覚として市内飲食店で取り扱ってもらえるようにしたい」と意欲を見せる。
市内の菓子店や飲食店は、同社の1次加工品を使ってクッキー、ようかんなどを商品化。大島と「七福芋」のPRに一役買っている。11月には大島担当の地域おこし協力隊員が着任し、「七福芋」と地域活性化を支援する。
市農林水産課は「七福芋は工業都市・新居浜の数少ない特産農産物。生産量を増やして市民の認知度を高め、手軽に食べられるようにしたい」という。
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ピーマン平年並みに ジャガイモは物流回復
ピーマンの相場が反発している。日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は、平年の3割安だった年末から、平年並みにまで回復。前進出荷の反動と直近の寒さで、入荷が不安定となっている。一方、品薄高だったジャガイモは大雪で停滞していた物流が復旧し、相場は落ち着く見通しだ。
ピーマンは、年内の前進出荷が顕著だった。12月の大手7卸販売量は1364トンと、平年(過去5年平均)比13%増。中旬に限れば同30%増だった。潤沢な出回りを受け、年末は平年の3割安に低迷していた。
年が明け、相場は急上昇した。1月中旬(18日まで)の日農平均価格は1キロ531円と、同7%安。先週末には平年並みにまで戻した。卸売会社は「年内は相場が安いまま終了した。値頃感があり年明けから引き合いがある中、出回りが減って反発した」とみる。
JA宮崎経済連は「着果負担による花落ちがあり、出荷ペースは減る。ただ、天候は良好で実付きは十分。2月にかけて回復する」と話す。JA高知県も「この時期は元々出荷が減るが、例年よりも1割ほど少ない」という。卸売会社は「短期間で上がりすぎ、小売りの注文控えもみられる。ただ、西南暖地産の出回りが回復する1月末までは、強含みで推移する」と見通す。
ジャガイモは、寒波による大雪で鉄道の運行が止まっていた北海道で、15日以降運行が再開し、入荷が回復してきた。東京都中央卸売市場9市場では、18日の入荷量は635トンと、同じく休市明けの12日から30%増。中旬の日農平均価格は177円と平年比59%高だが、18日は下げに転じた。卸売会社は「凍害も見られず、品質は良好。関西以西の市場はまだ不足感が強いが、高値反動も相まって徐々に相場は落ち着く」とみる。
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2021年01月19日

[未来人材] 26歳。大農家・父の背中追い若手6人で新会社設立 トマトの概念変える 滋賀県甲賀市 今井大智さん
滋賀県甲賀市の今井大智さん(26)は、同じ農業生産法人で働く20代の若者だけで会社を立ち上げ、先端技術を駆使した高糖度トマト栽培に取り組んでいる。“本業”の傍ら、早朝や夜などの勤務時間外を使って、仲間とトマト栽培に明け暮れる日々を送る。若手だけで何か新しいことに挑戦したい――。農業の魅力に取りつかれた若者が新たな一歩を踏み出した。
「これはもう、トマトの形をしたあめ玉だ」。“異次元”の甘さが特徴の自慢のトマトについて、今井さんは笑顔で話す。
実家は県内でも指折りの大農家だ。100ヘクタールを超える広大な農地で米や野菜を生産する他、市内で農産物直売所やレストランも経営する。ただ「元々農業にそれほど関心があるわけではなかった」と振り返る。
転機となったのは大学2年生の時。授業で訪れたインドだった。餓死した人の遺体が街中に横たわる光景が今でも脳裏に焼き付く。「がらりと世界観が変わった」。食のありがたみを実感した。食を供給する農業の大切さにも気付かされた。
大学卒業後は1年間、専門学校で農業の基礎を学んだ。23歳で実家の農業生産法人に就職した。
就職後は、法人の代表でもある父の背中を追うようになった。父は29歳の時には地域の後継者仲間をまとめ上げ、麦や大豆に特化した法人を立ち上げ、新たな事業を手掛けていた。「何か新しいことに挑戦したい」という思いが、常に頭の片隅にあった。
そんなとき、農産物の甘味を最大限引き出す「アイメック農法」に特化した高機能ハウスを、地域の事業者が手放すという話が舞い込んだ。
昨年10月、自身を含め法人で働く20代の若手6人で新会社「ROPPO(ロッポ)」を設立。各メンバーが踏み出す「1歩」を足した「6歩」にかけて名付けた。ハウス1棟で1200本のトマトを栽培。これまで通り法人で働きながら、勤務時間外をフル活用して運営する。
高級果実のようにトマトを箱詰めして贈答用に──。「“異次元”の甘さを武器にトマトの概念を変えたい」。販路開拓や会社運営など慣れないことばかりだが、夢に向かって突き進む。
農のひととき
新会社のインスタグラムアカウントは、ほぼ毎日更新。「消費者は生産者の顔を見て農産物を買う」との考えから、消費者への情報発信を重視する。投稿する写真は週末に撮りだめする。手描きのイラストなども織り交ぜ“映え”を意識する。
現在は、「3秒で友達になれる」といったキャッチコピーと共にメンバーを紹介、ファンづくりに取り組んでいる。
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2021年01月17日
農福連携の米作り ドローン着目 直播で省力、障害者の作業に幅 群馬県沼田市
群馬県沼田市で農福連携を進める稲姫ファームと、障害者の就労支援や生活訓練などに取り組む多機能型事業所coco―kara(ココカラ)が、ドローン(小型無人飛行機)を使った米作りを試験的に始める。1ヘクタールほどの水田で「コシヒカリ」の鉄コーティング種子を直播(ちょくは)する他、除草剤の散布などに使う予定だ。……
2021年01月19日

今こそ地域で輝こう 全国女性大会
JA全国女性組織協議会(JA全国女性協)は20日、第66回JA全国女性大会を開いた。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、動画投稿サイト「ユーチューブ」を使って開催。大会宣言では「できることから活動に取り組み、女性組織の仲間を拡大する」ことなどを提案。宣言は27日正午まで意見を募った後に、採択する。
東京都千代田区から全国に向けて配信。……
2021年01月21日

コロナ禍の表裏 恐れず好機見いだせ 日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介
久しぶりに台風が上陸しなかった昨年。洪水や土砂崩れの被害は、8月以降は避けることができた。しかし、3シーズンぶりに雪が多いこの冬、今度は雪害が心配だ。
とはいえ、この降水量の多さこそ日本の緑と実りが世界の中でも特に豊かな理由でもある。例えば、豪州では、日本の20倍の面積に日本の5分の1の人口しか住んでいないが、慢性的に水が不足している。地下水を過剰にくみ上げて行われる同国の農業も、いつまで安価大量生産を続けられるか疑問だ。
過剰反応は禁物
このように、利点と弱点は表裏一体だ。引き続くコロナ禍に関しても、同じことが言える。前提として、このウイルスは根絶できないことを理解したい。
この冬、インフルエンザの感染者はほぼゼロだが、インフルエンザウイルスがこれで根絶されたりはしない。仮に新型コロナの感染が収束しても同じことだ。これまで見事に感染を抑えてきた国・地域、例えば台湾、インドシナ諸国、ニュージーランドなどでは、免疫ができていない分、油断すればいつでも感染爆発が起きかねない。それに対し、感染抑止に失敗した米欧の多くの国で、危機感の高さから副作用を辞さずワクチン接種が進めば、事態が先に好転する可能性もある。
前回(2020年6月)寄稿した「論点」で筆者は、いったん感染が収まっていたことを背景に「コロナ禍はパンデミックではなくインフォデミック(恐怖心の感染)だ」と書いた。その後2度にわたって感染の再拡大が起きているが、「東京の今日の感染者は〇〇人」とあおるテレビを見て、皆さんはどうお感じだろうか。多くの地方、特に農山漁村においては、生活の実態に特に変化はないままなのではないか。
日本における死者数は、前回寄稿時の4倍以上に増えたが、人口当たりの水準では米国の37分の1、欧州連合(EU)諸国の30分の1だ。絶対数でいえば、年間の交通事故死者数と同レベルで、19年のインフルエンザによる死者数(関連死含む)の半分弱、がんによる死亡者の100分の1強である。しかもその3分の2が首都圏と愛知県と京阪神の8都府県の在住者で、農山漁村のほとんどで死者は出ていない。
交通事故は極めて重大な問題で、一件でも減らす努力が必要だが、かといって通勤通学を禁止し経済を止めるべきではない。新型コロナの脅威にも、交通事故と同じレベルで用心し対処すべきだ。具体的にはマスクを外しての他人同士の会話・会食は当面避けるべきだが、怖がって家に閉じこもることもない。
人手不足解消へ
コロナの農業への影響で本当に深刻なのは、外国人技能実習制度の機能不全化だろう。であれば今年は、飲食店などで職を失った都会の若者を試用するチャンスではないだろうか。少子化は中韓台でも急速に進んでおり、農業の人手不足は今後とも深刻化する一方だ。
日本人の人件費を払える事業体に変化しなければ、どのみち生き残れない時代が来る。農協あるいは農業法人の協議体が、集団で取り組んではいかがだろう。
もたに・こうすけ 1964年山口県出身。米国コロンビア大学ビジネススクール留学。2012年から現職。平成大合併前の全市町村や海外90カ国を自費訪問し、地域振興や人口成熟問題を研究。近著に『進化する里山資本主義』など。
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2021年01月18日
地域の新着記事

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(下) 引きこもり生活一変 新たな居場所 たくましく歩む
「自信はまだないけれど、怖いほど迷いがない。きっと僕は農業が好きなんだと思う」。新型コロナウイルス禍の2020年度に日本農業実践学園に入校した18人の中で最年少、28歳の雙田貴晃さんが、ナスを促成栽培する温床を作ろうと土壌を掘り返しながら、白い歯を見せた。
挫折からしばらく引きこもりの生活が続いた。外の世界に連れ出してくれたのが農業だった。
諦めた司法試験
「理系一家」の末っ子だ。……
2021年01月21日

地元産トロロアオイを伝統和紙に 産地復活へ技術磨く 島根県浜田市・農家ら委員会
国の重要無形文化財やユネスコ無形文化遺産に指定された伝統工芸品「石州半紙」の産地、島根県浜田市三隅町は、和紙の粘着剤として使うトロロアオイの産地復活に取り組む。2020年は10戸が約5アールで栽培し、140キロを収穫した。地元の和紙職人が求める品質に向けて栽培技術を高めながら、23年までに生産量を倍増させ、安定供給で特産品と伝統文化の伝承を支える。
トロロアオイは「花オクラ」とも呼ばれるアオイ科の植物で、根から出る粘液が和紙の粘着剤となる。地元では1950年代まで栽培されていたが、近年は主に茨城県産を使っている。
活動の中核を担うのは、同町黒沢地区の住民でつくる黒沢地区まちづくり委員会。2012年に地域振興の一環でトロロアオイの特産化に乗り出した。種を入手して栽培したが、当初は和紙職人が求める根が太く長いものができなかった。
生産者の野上省三さん(81)は「栽培方法が分からず手探りだった」と振り返る。栽培講習会で畝の立て方や病害虫対策、芽かきなどを共有し、栽培技術を高めた。
今は職人からの評価も上々だ。和紙工房4戸でつくる石州和紙共同組合の組合長を務める川平正男さん(79)は「年々レベルが上がっている。高品質な地元産が安定供給されればありがたい」と歓迎する。
国内のトロロアオイ産地は減少している。19年には、主産地の茨城県の生産者が生産終了を検討していることが報道された。また、宅配便や郵便料金の値上げで輸送コストも上がり、和紙職人の地元産への期待は大きい。
同委員会は、地元の需要量を350キロと算定。23年に20戸で生産量300キロを目指す。齋藤正美会長は「地域一丸で、和紙作りとトロロアオイ栽培の双方を次世代につないでいきたい」と意欲を見せる。
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2021年01月21日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(中) 国際協力から転身 「まず農家に」 地に足着け精進
吹き抜ける風が肌寒さを増した2020年11月下旬、水戸市にある日本農業実践学園の講義用あずまやで、多品目の野菜農家を目指す吉田誠也さん(30)が、パソコンに野菜の生育データを打ち込んでいた。背後には自身で種から育てた10品目の畑が広がる。
東京大学大学院で植物のバイオテクノロジーや分子生物学を修め、昨春から海外で農業の国際協力に携わるつもりだった。「半年前まではここにいるとは想像できなかった。でも、本当はこれが本来の順序。急がば回れで、新型コロナウイルス禍で僕は農家への道に踏み出す決断ができた」
入校者数が右肩下がりを続けていた実践学園は、研修生がゼロとなった19年度と打って変わり、20年度は18人が入校した。
2021年01月20日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(上) コロナで体感「農業っていい」 多業種から入校生 日本農業実践学園
0度近くまで冷え込んだ晩秋、丘陵地のビニールハウスの中は春のような暖かさで、イチゴの白い花の周りには蜜蜂の羽音が響いていた。「蜂が近くに来ても払わないで。攻撃されるかもしれないから」。水戸市の郊外、新規就農者の専門学校「日本農業実践学園」の研修施設。2カ月前に入校し、1年後にイチゴ農家として独立を目指す小林克彰さん(39)が、実習作業の手伝いに来た妻の瞳さん(37)に語り掛けた。
克彰さんは、芸能人のホームページやコンサート情報を制作していた自営のウェブデザイナーだった。会社員だった30歳の頃、副業として会社が認めていた個人受注が増え、独立を決意した。2年前に工業デザイナーの瞳さんと結婚し、埼玉県三郷市に居を構えた。克彰さんが自宅で仕事、瞳さんが会社勤め、2人の生活は順風だった。
2021年01月19日

[活写] “最辛”の熊対策
青森県中泊町で木炭の生産を手掛けるツリーワークは、インド原産の激辛トウガラシ「ブート・ジョロキア」と木酢液を使った熊の忌避剤を開発した。熊の出没が多い2020年は、全国から問い合わせが相次ぎ、受注が前年の10倍に増えたという。
商品名は「熊にげる」。ジョロキアから抽出した辛味成分と木酢液を混ぜた黒い液体だ。臭いが漏れ出るよう上部に穴を開けたペットボトルに入れ、畑の近くにつるして使う。
炭・木酢液を研究する谷田貝光克東京大学名誉教授の助言を受け16年に開発。青森や秋田、長野県などのトウモロコシ畑やリンゴ園で試験し、熊や猿に対する効果を確認した。
ジョロキアの施設栽培にも取り組み、製品のコストダウンに成功した。現在はハウス2棟で、製品2トン分の原料を収穫する。価格は1リットル入りで1万円。1ヘクタールの畑で約1年間使える量という。
同社代表の佐々木嘉幸さん(82)は「注文が増えている。原料が足りないので、栽培に協力してくれるよう農家に呼び掛けたい」と話す。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=1MJ-IJGQgDc
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2021年01月17日

あす阪神・淡路大震災26年 記憶風化させない
未曽有の被害をもたらした阪神・淡路大震災の発生から、17日で26年を迎える。月日の経過に伴い震災の記憶が風化する中、本紙が当時報じた現場を改めて訪れた。関係者は「当時の様子を知る人はもうほとんどいない」と口をそろえる。震災の記憶をいかに次代へ継承するか。改めて問われている。(北坂公紀)
助かった命「奇跡」 兵庫県西宮市・卸売市場
地震発生から3日後の1995年1月20日付の1面。激しく倒壊した木造建築物を捉えた写真が、地震の規模の大きさを物語る。撮影されたのは兵庫県西宮市の西宮地方卸売市場だ。
「スーパーのバイヤーと取引していたら、不意に強い衝撃が走り、天井が落っこちてきた」。当時、同市場で青果卸・中善を営んでいた前田裕司さん(65)は振り返る。
震災当日は午前4時ごろから市場で働いていた。地震発生時は、地面から突き上げられるような縦揺れの衝撃が大きく「店にトラックでも突っ込んだのかと思った。はじめは何が起こったのか分からなかった」。
木造瓦屋根で2階建てだった建物は倒壊。ただ、山積みだった荷物の上に屋根がかぶさる形で、地面との間にわずかな空間が生まれた。「命が助かったのは本当に偶然だった」。奇跡的に犠牲者は出なかったという。
当初は再建を目指したものの、膨大な建設費などを前に話はまとまらず、2001年に閉場となった。
跡地にはスーパーなどが立ち並び、当時の面影はほとんど残っていない。前田さんは「当時の様子を知る人はもうほとんどいないと思う」と指摘する。
神戸市・農林中金事務所
「農林中央金庫神戸事務所も無残な姿に」。発生1週間となる1995年1月24日付の近畿・北陸面。3階部分が押しつぶされ、大きな被害を受けたビルの写真が説明文と共に掲載された。
神戸市内にある神栄(株)の本社ビルで、当時は1、2階に農林中金の事務所が入っていた。入社7年目だった同社執行役員の中西徹さん(56)は「当時、3階が職場だったが、出勤前だった。地震が3時間後だったら、おそらくつぶされていた」と話す。ビルは掲載4日後の28日から解体が始まり、1998年には跡地に新たにビルが建てられた。
農林中金の事務所は、95年2月からは仮設店舗で、同年7月からは仮店舗に移転して営業を再開。建て替え後のビルにも戻ったが、2002年に大阪支店に統合された。農林中金は「大阪支店でも当時を知る人は少なくなり、現在では3人しかいない」と話す。
近年、大規模な災害が頻発し、過去の災害の「記憶」と「教訓」から学ぶことは多い。今後起こる災害で被害を少しでも抑えるために、薄れつつある震災をどう次代に継承するかが問われている。
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2021年01月16日

市来農芸(鹿児島)が連覇 和牛甲子園オンラインで最多33校
和牛生産に情熱を注ぐ全国の農業高校生“高校牛児”が集い、日頃の飼養管理の成果や肉質を競う「和牛甲子園」が15日、オンラインで開かれた。新型コロナウイルス禍による休校や活動制限を乗り越え、全国19県から過去最多の33校が出場した。頂点となる総合優勝には、昨年に続き、鹿児島県立市来農芸高校が輝き、2連覇を達成した。
JA全農の主催で、今回が4回目。……
2021年01月16日

農業施設被害5000棟超 大雪で東北・北陸など
記録的な大雪で東北3県と新潟、北陸3県では13日までに、合わせて5000棟を超えるパイプハウスなど農業施設の損傷、損壊の被害が報告された。除雪が追い付かず全体を把握し切れていないため、被害はさらに拡大する恐れがある。
各県が12日時点で把握した被害状況によると、岩手県では県南部を中心にパイプハウス2346棟に被害が出た。秋田県ではパイプハウスなどの農業施設1019棟が被害を受け、農作物を含めた被害額は3億円を超えた。山形県はサクランボや西洋梨など約65ヘクタールで枝折れなどの樹体被害や、パイプハウス474棟の被害が報告された。
新潟県は13日、大雪・暴風雪による農業の被害状況を発表。昨年12月14日から今年1月12日までの被害を取りまとめ、22市町村でパイプハウス785棟が損傷・損壊した他、6市でライスセンターや育苗ハウスなどの共同利用施設35棟が被害を受けた。ハウスの被害は強風によるビニールの破損などが多い。
北陸3県でも13日正午現在の各県のまとめによると、富山県ではパイプハウスや畜舎、農作業場は、全壊244棟を含む336棟が被害を受けた。石川県は累計で農業用ハウス307棟などの被害を確認した。福井県では農業用ハウスの損壊が130棟に上った。
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2021年01月14日
「災害強い地域」切望 島根・江の川氾濫から半年 移転決定も課題山積
広島県と島根県を流れる1級河川・江の川が豪雨で氾濫してから14日で半年がたち、流域では災害に強い地域づくりを望む声が高まっている。平成以降でも8回の大きな水害に見舞われるなど、危険と隣り合わせの江の川流域。常態化する災害を乗り越えようと、集団移転や堤防建設が進みつつあるが、費用がかさむなど課題は山積みだ。(鈴木薫子)
美郷町
「腹を決めた。もうここには住めん」。江の川と支流の君谷川が流れる島根県美郷町港地区。自治会長を務める屋野忠弘さん(78)ら5戸は、地区内の高台にある安全な場所への集団移転を決断した。
江の川の直近の氾濫は2020年7月14日。同県だけでも8市町で全半壊42戸、床下浸水43戸、水田は213ヘクタールが冠水した。農林水産関係被害額は約20億円に上る。
同地区は川沿いに13戸が点在するが、地形が低い上に堤防がなく、農地冠水などの水害が毎年起きる。7月の豪雨では本流が増水して支流の水をせき止める「バックウオーター現象」が起き、家屋も浸水した。
住み慣れた土地を離れたくないという思いを抱えながらも、次世代を優先させた屋野さん。集団移転は、国の防災集団移転促進事業を利用。同年9月の町議会で請願書が採決され、移転先として地区中心部の集会所近くを希望した。
だが事業は思うように進まなかった。移転先は山を切り崩して造成する必要があるが、費用が想像以上に膨らんだ。造成費用の国の助成上限は1戸約1000万円だが、試算した費用は4倍近い。高齢の移転希望者が多く、高額の持ち出しは厳しい。屋野さんは「中山間地で条件に合う所を探すのは難しい。地形に見合った助成をしてほしい」と切実だ。
同町建設課の担当者は「住民の負担を減らしたいが、町の持ち出しが膨らむ」と頭を抱え、町は費用見直しや別の移転先の選定を進める。屋野さんらは「年寄りが今から新しい場所に溶け込むのは難しい」と考え、地区内での移転を希望している。
堤防建設急ぐ 江津市
2020年7月の豪雨による江の川氾濫で浸水した島根県江津市桜江町(中国地方整備局提供)
長さ194キロ、流域面積3900平方キロの江の川。堤防が必要な区間は154キロに上るが、20年3月末現在で27%に当たる41キロ分の堤防がない。水害が常態化している地域が多いが「堤防規模が大きく建設に時間がかかる」(国土交通省中国地方整備局河川計画課)ため、整備が遅れていた。
20年7月の大規模な氾濫を受け、江津市桜江町では建設が急ピッチで進むことになった。水田やカボチャ畑が冠水した同町小田地区では、今年6月に念願の堤防が完成予定だ。支流の田津谷川流域でも用地・建物調査が進む。
田津谷川が流れる同町川越地区の渡田自治会では、18年の西日本豪雨で被災した若い世帯2組が地区外へ転居するという苦い過去がある。自治会長の小松隆司さん(64)は「(これ以上の災害は)地区が衰退しかねない」と懸念。堤防の早期建設を望む。
<メモ> 防災集団移転促進事業
災害危険区域などの住居を安全な場所へ集団移転させるもので、事業主体は市町村。20年4月に住宅団地の規模要件が「10戸以上」から「5戸以上」に緩和された。移転先の用地取得や造成、住宅建設などの費用は、国が実質94%、市町村が6%を負担する。東日本大震災を除く同事業の実施状況は、35市町村で移転戸数1854。
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2021年01月14日
鹿児島で鳥インフル 今季初、3・3万羽処分
農水省と鹿児島県は13日、同県さつま町の肉用鶏農場で鳥インフルエンザの疑似患畜を確認したと発表した。県は同日から約3万3000羽の殺処分などの防疫措置を始めた。同県は肉用鶏と採卵鶏を合わせた飼養羽数が全国で最も多い。高病原性と確定すれば同県での発生は今季初、国内で15県36例目。
県によると、12日に農場から死亡鶏が増えたと連絡があり、同日に簡易検査で陽性を確認。13日に高病原性の疑いがあるH5亜型と判明した。
農場から3キロ圏内の移動制限区域には8戸が約31万7600羽を飼育。半径3~10キロ圏内の搬出制限区域では33戸が163万7300羽ほどを飼う。発生農場周辺には消毒ポイントを設置した。
同日は、農水省の葉梨康弘副大臣が鹿児島県知事とウェブ会談を実施。会談後に開いた鳥インフルエンザ防疫対策本部で野上浩太郎農相は「野外に多量のウイルスが存在するものと強く意識をしてもらい、農場に持ち込まぬように飼養衛生管理を徹底いただきたい」と強調した。
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2021年01月14日