ウンカで不作 中山間は苦闘 離農加速の懸念 山口

トビイロウンカの被害で枯れた稲が横たわる全面枯れの田んぼ。前田さんは来年の作付けへ前を向く(山口県下関市で)

 山口県は2020年産米の作況指数(10月15日現在)が過去最低の73「不良」を記録した。原因は稲の害虫トビイロウンカ。米は需給の緩和で21年産では大幅な減産が求められている。しかし条件不利地の中山間地では、未曽有の不作で高齢者の離農がさらに進みかねず、食料安全保障の根幹となる生産基盤の弱体化が懸念される。(鈴木薫子)

 「今年はコンバインのエンジンをかけずに終わってしまったよ」。県北西部の下関市豊北町で、約3ヘクタールに「きぬむすめ」を作付けした植山勝利さん(75)は、初めて米の収穫ゼロを経験した。

 県内全域でトビイロウンカが大発生。県は7月16日に注意報、8月3日に警報を出して基幹防除と追加防除を呼び掛けた。しかし台風接近などもあり田が坪枯れや全面枯れの被害に遭った。

 植山さんは7月末にトビイロウンカを初確認。昨年の2倍の4回、株元にいる幼虫への防除を実施した。8月末にはJA山口県の産業用無人ヘリコプターによる防除にも頼った。防除費用に45万円をかけたが、抑えられなかった。

 例年の10アール収量は540キロ。だが19年産もウンカ被害で収量は300キロだった。米作りを始めて43年、2年連続の被害で「自分の家で食べる米がないなんて初めて」という。経験のない不作に多くの生産者が戸惑う。

 同じく下関市豊北町で米を作る前田好和さん(84)は「今年で営農をやめる人もいる」と仲間の離農を残念がる。ウンカの被害は「目に見える速さで枯れていくようだった」。「ひとめぼれ」や「きぬむすめ」を約2ヘクタールで作るが、10枚のうち8枚の田が全面枯れした。実がすかすかで枯れた稲がなぎ倒された無残な状態が今も残る。

 山口県農業共済組合が把握する被害面積は2816ヘクタール。県内の20年産主食用作付面積の2割相当となる。

 全国で主食用米から非主食用米や他品目への転換を促す動きが強まる中、山口県内でも21年産米の作付け意向調査が進む。だが、作付面積は7年連続で減少。自然減から県が示す生産目安にも届かない。

 中山間地が多い上、県内の農業就業人口の平均年齢は71・4歳と、全国平均の67歳を上回る。稲作が盛んな下関市豊北町も高齢化率は54・9%で担い手が集まらない。

 新潟大学の吉川夏樹准教授は多面的機能を持つ農地の今後について「病害虫だけでなく災害や自由貿易、高齢化など農業は厳しい局面にあり特に中山間地は過渡期。国民一人一人が農地存続に危機意識を持たなければならない」と指摘する。

 JAは、農家の生産意欲をつなぎ留めるためトビイロウンカの防除を見直す。箱施用剤の処理量が不十分だった可能性もあるとして農家の注文量を確認したり効果が期待できる薬剤を選んで農家に提案したりする。

 耕作放棄地の増加を目の当たりにする植山さんと前田さんは、今年と同じ面積の作付けを考えている。地域の田を守りたい一心で前を向くが、「もう1年被害に遭ったらやめるかもしれない」。正念場の1年になる。
 

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